マスコミに批判され抗議を受けて回収・絶版になったゲームの話

 昨日の記事に記したような、性的な表現やオタク文化と表現規制の問題が最近盛り上がっているのは、もちろん直接には「児童ポルノ法」の改正について国会で審議が行われるからですが、その少し前に日本の18禁のゲームが何故かイギリスの議会で糾弾されるという事件があり、それを日本の新聞が報道して、話題になったというのがありました。この件について小生は、ちょうど籠もっていた時期でしたので碌々知らないので、それについてどうこう評論することは出来ませんし今さら意味もありません。
 ですので、真剣な議論よりも混ぜっ返しの雑談ですが、今日の日付を見て思い出したことがあったので、ちょいと一筆。基本的に聞いた話を記憶に頼って書いているので、正確さはあまり保証できません。その程度のものとお考え下さい。



 今から四半世紀ほど前、まだコンピュータの類があまり個人に普及していなかった頃で、今でいう「非電源系」のゲームが幅を利かせていた頃のお話です。
 ゲームの一ジャンルにウォーシミュレーションというのがありまして、地図上で部隊のコマを動かして戦争をシミュレーションするゲームです。コンピュータでもありますが、あんまり人気ジャンルではありません。四半世紀前のその頃は、ボードゲームのウォーゲームが一部マニア筋で結構流行っておりまして、紙の地図とコマを使い、サイコロを振ってゲームをしておりました。
 この手のゲームはアメリカで生まれて日本に入ってきたのですが、日本でもそこそこ人気が出たので国産化されるようになり、エポック社がシリーズで出しておりました。その一つに『朝鮮戦争』というのがありました。著名なゲームデザイナー・鈴木銀一郎氏の作品でした。

 で、このゲームが、隣国の戦争を題材にしていたことがきっかけとなって、新聞で取り上げられ、韓国の団体からの抗議(内容についてではなく「朝鮮戦争」というワードを商標として使うことへの抗議という形を取って)によって、メーカーが自主的に回収・絶版したということがありました。
 ゲームが問題となるのは昔にもあったわけですが、考えてみれば個人的犯罪行為よりも戦争の方が、題材としてはより剣呑であるとも考えられます。ドイツでは実際、ナチス時代を扱ったウォーシミュレーションゲームを作ることは出来ないそうで。アメリカでは、そして日本でも、WW2のドイツ装甲部隊が出てくるウォーゲームは人気があるのですが。

 『朝鮮戦争』は、シミュレーションとしてはケレン味がちょっと強いところがあります。部隊編成なんかは適当です。その代わり、「朝鮮戦争っぽい」ギミックが色々とあり、北朝鮮軍のT-34/85戦車に韓国軍が対抗できないとか、米軍と韓国軍との共同戦闘が難しいとかはまだいいんですが、多分抗議という事態にまで至ったのは、北朝鮮軍が韓国の都市を占領したら、自軍の損害を補充できる・・・つまり、韓国人を北朝鮮軍に強制編入する(実際あったことですが)ルールのせいかも知れません。
 さらに「マンセー突撃」なるルールがあり、これを北朝鮮軍が宣言すると、その戦闘に参加した北朝鮮軍の戦闘力が倍になります。その代わり、戦闘後は戦力が半分になるだけの損害を必ず蒙ります。これも史実に基づいてますが・・・

 『朝鮮戦争』は、ゲームとしては結構面白い作品です。プレーヤーがゲームに慣れないうちは、たいがい偉大なる首領様が半島を解放して終わりますが、システムを飲み込んでくると、国連軍側が慎重に撤退して最終防衛線(ここを北朝鮮軍が突破したら、その瞬間北の勝利。史実のダビッドソンライン)守り抜けることが多くなる傾向にあります。そこで最終防衛線まで迫った北朝鮮軍プレーヤーは、いちかばちかの突破に賭けて「マンセー突撃」を宣言します。そして乾坤一擲の戦闘解決のためサイコロを振る時、北朝鮮軍プレーヤーは誰しもこう叫ぶのです。

「マンセー!!!!!」

 小生の属する某サークルでは、数年前ごろこの『朝鮮戦争』が流行って、学生会館ロビーで叫びながらよくこのゲームをやってました。それでも抗議とか来なかったのは、寛容な大学で良かったと思います。
 ちなみにこのゲームは、仁川上陸とソウル奪回までを扱うので、北プレーヤーとしては上陸反攻してきた国連軍に対しソウルを死守すればゲーム上は勝てますが、たいがいこの最終防衛線突破に失敗すると戦意を喪失して投了します。このゲームに関して聞いた一番信じられない伝説は、某サークルでは過去に、38度線を突破してきた北朝鮮軍に対し韓国軍が敢然と北進、勝利したという李承晩が聞いたら感涙に噎びそうな事件があったとか。

 とまあ、「不謹慎」という批判を浴びせるとすれば、シミュレーションゲームの世界こそそのような題材はいくらでも転がっているように思います。薮蛇になっても何ですから具体的には書きませんが、マスコミまで巻き込んだ騒ぎになったケースはこの『朝鮮戦争』ぐらいしかなさそうというのが反って不思議なくらいです。
 その辺の論理構造はよく分かりませんが、シミュレーションゲーム(ことにボードの)は、相応に抽象化されていて具体的な描写が乏しい分、害があると認識されにくいのでしょうか。
 今回いわゆる「陵辱ゲーム」が非難された理由は、描写そのものの不道徳性というより、そのような描写によって女性差別的な価値観が浸透することに重きを置いていたように仄聞しております。であるならば、考えようによっては、具体的事象を一度抽象化のフィルターにかけて提供し、プレーヤーがそれを理解した上で使いこなす、この手のシミュレーションゲームの方がより「価値観の浸透」という点では洗練されているようにも思われるのです。
 その割に批判を浴びてこなかったとすれば、市場の小ささではどっこいどっこいでしょうから、これは抽象化されているがために、題材の事象に対し一定以上の理解のないものには、事象を抽象化した価値観がどのようなものかよく分からなかったということなのかも知れません。『朝鮮戦争』の場合、抽象化(シミュレーション)したシステムにおまけとして付加された、「マンセー突撃」のようなギミックが目に付きやすかったため、問題となったのかも。

 さて、この話のオチは、回収・絶版されたゲーム『朝鮮戦争』は、20年近い雌伏の末、題名だけ変えて復刻再版を果たした、ということです。忘れられてはいなかったのです。

 以上の話を書いた理由は、ふとカレンダーを見て、6月25日が朝鮮戦争開戦の日だということを思い出したからで(記事の完成は翌日になりましたが)、特にそれ以上の意味はありません。
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by bokukoui | 2009-06-25 23:59 | 思い付き | Trackback | Comments(2)

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Commented by 労働収容所組合 at 2009-07-02 19:42 x
抗議した団体に取材に行きたいですね
Commented by bokukoui at 2009-07-04 00:08
ひさびさにお言葉をいただけ欣喜雀躍しております。
問題の団体は、何でも弁理士の団体だそうで。
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