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筆不精者の雑彙

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笹田昌宏『あの電車を救え! 親友・岸 由一郎とともに』紹介

 昨年の岩手・宮城内陸地震で亡くなられた、交通博物館学芸員の岸由一郎さんについては当ブログでも過去に何度か触れ、先日も岸さんが地震に巻き込まれる遠因となったくりはら田園鉄道の廃止後の現況と保存について紹介しましたが、その岸さんの活動をまとめた本が出版されました。
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 アマゾンによれば発売日は明日23日だそうで、そのためか現在のところ出版元のJTBパブリッシングのサイトにはまだ案内がありません(奥付では8月1日発行となっています)。しかし近日中には店頭に並ぶものと思います。小生はちょっとしたご縁がありまして、発売前に本書を一冊戴き、その帰途に読み切ってしまいました。それだけ引き込まれる内容で、ご関心のある方には是非お手元に置いていただきたい一冊と思い、ご紹介する次第です。

 本書の著者の笹田昌宏さんは、岸さんの長年のご友人で、『全国トロッコ列車』を岸さんと共著で、本書と同じ版元から出されています。
 本書では、岸さんの関わったさまざまな鉄道の保存活動、具体的には都電や京福電鉄、蒲原鉄道、新潟交通などのエピソードを中心に、交通博物館や鉄道博物館のことも触れられています。日本の各地の保存活動に、いわばそのハブ的役割を果たしていた岸さんの存在の大きさが、改めて痛感されます。
 鉄道の歴史に興味のある方に是非読んでいただきたいのはもちろんですが、扱われている保存活動の対象が全て鉄道であるとはいえ、単にその世界にとどまらない価値があると思います。それは、歴史と現在の人間とをどうつなぐかという大きく普遍的な課題に対し、ものを残すという活動を通じて、一つの偉大な活動の先例を示していると小生は思います。
 あとはこの先例そのものを、歴史的な事項にしてしまわないのが、肝要なことです。

 個人的に知っている方々やエピソードなども出て来るので、あんまり客観的な感想をうまく記すことが出来ませんが、多分小生のそのような感情を抜きにしてもなお、鉄道や近代史や博物館に興味を持たれる方にとっては、手許に置く価値のあろう一冊と思います。
Commented by pointscale at 2009-08-20 23:56 x
今日買ってきて、一気に読み切りました。自らの思いだけではなく、岸さんの足跡をたどり、所縁の人に話を聞いていく笹田氏の誠実な仕事ぶりにも感銘を受けましたが、なにより府中の都電を再生していくエピソードに胸を突かれました。荒廃して邪魔者扱いされていた都電に黙々と手を入れることで、公園の管理者や地域の人たちの見方が変わってくるのですね。復元活動がまさに「歴史と現在の人間をつなぐ」営みだったのですね。都会でも過疎地域でもコミュニティが大きく変わっている最中ですが、岸さんの身をもっての活動を振り返って、「古いコミュニティの復活」だけではないなにかを模索しなければならないのかなと考えさせられました。
Commented by bokukoui at 2009-08-21 23:39
本記事がこの本を手に取られるきっかけとなりましたら、これに勝る喜びはありません。

ご指摘の通り、岸さんの活動はコミュニティ、人々の繋がりを作り出す力がありました。その最大の特徴は、本書の中でも「ものがあれば何とかなる」という言葉があったかと思いますが、中心に「もの」があったということです。歴史を背負ったものを中核に据えることで、空疎な思想やお題目ではない、血の通ったコミュニティの再生が可能だったのだと、小生はそう考えています。
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by bokukoui | 2009-07-22 23:39 | 鉄道(その他) | Comments(2)