照る月や 冷戦遠くなりにけり ~アポロ月着陸懐疑論者との一幕~

 秋の気配が夕暮れ時に感じられるようになって参りましたが、まだまだ暑さも残る今日この頃、皆様ご無事でしょうか。小生は完全に参ってしまって身動きがとれないままに数日を無為にし、ついでにコンピュータも参ってしまったのかネットにつながる確率は25%程度に落ち込み、ノートパソコンはどんな無線LANスポットにも頑としてつながる気配を見せません。ので、メールの返信も当ブログの更新も遅れる・・・のは大した問題ではありませんが、論文も仕事も効率が低下しているのには、夏休みの宿題に追われる小学生並みに焦燥しております。
 そんな個人的な事情はどうでもいいのですが、かかる低調な日々を精神的にさらに低調にしてしまった一件を以下に記し、読者の皆様に一服の清涼剤・・・というか怪談代わりの寒気をご提供し、旁々小生自身の厄落としと致します。

 先日、アルバイトで中高生に個別指導などしておりました時のこと。中学生に地理を教える際、単元がたまたま世界の宗教分布に及びました。で、その時ものの弾みで大要以下の如き余談を中学生相手に喋りました。
「中世ヨーロッパのキリスト教徒は、地球が平らだと信じていました。その理由の一つは、最後の審判の日にキリストが再臨する際、地球が平らでなければ天から降りてくるキリストを全人類が見ることができないから、ということでした。そういえば今でも、アメリカあたりでは聖書を文字通りに信じて、地球が平らと主張している人もいるそうですが、『人類は月に行っていない』なんてトンデモ話が出てくるのも、このような宗教的背景がある国だからかもしれませんね。日本でもこのトンデモ話を真に受けている人がいるみたいですが」
 授業を終えて教員用スペースに戻ってきた時、小生の隣で個別指導をされていた某先生が、小生に、

「さっき、人類の月着陸がなかったということはない、というお話をされていたようですが」
「はい」
「私は、月着陸に疑念を抱いている者なのですが」

 さすがに一瞬、返答に詰まりました。

 別段小生はこのお題に関心があるわけではなく、通り一遍の知識しかありませんでしたが、当初相手の持ち出した話題は、キューブリックが特撮で云々、とか、宇宙飛行士が着陸船から降りる画像がどうして撮れるのだ、などというどこかで聞いたことのあるような話でしたので、適当にこちらも返事をしておりました。あと、NASAが回収したと称する月の石に地球に存在しない成分(元素?)は存在しないとか仰っていたかと思いますが、宇宙は皆同じ元素で構成されているというだけの話ではないかと思います。
 また、「物理学界で偉大な」大槻教授が否定論者である、ということも論拠に挙げたので、小生は、自分は大槻教授が斯界でどれだけ偉大かは寡聞にして存じ上げないが、と前置きして、ある分野で偉大であった人が他の分野で頓珍漢なことを発言することは決して珍しいことではないと思う、と指摘しておきました(例:哲学者の西尾幹二先生が歴史学についてトンデモな発言をしている件)。この指摘には、某先生が月着陸の話題に関しトンデモでも、受験指導の手腕はそんなことはないです、という含みを持たせたつもりでした(某先生の担当は英語)。

 てなうちに、小生はふと思いついて、「冷戦時代の背景を考えれば、アメリカにインチキがあればソ連がそれを暴こうとするはずですが」と発言したところ、某先生は「それはソ連もスプートニクからインチキがあって、それをお互いに黙っていたんです」と驚くべき説を展開されていました(「アポロ月着陸はなかった」業界では定説なのかもしれませんが)。米ソ合作とは。ではルナ16号もルノホートもインチキなのか知らん?
 で、そこからロケット話を多少試みたところ、どうも某先生は、米ソ間での核ミサイル開発合戦が宇宙開発の技術の背景になっているということを、全く想定されていないのではないか、という感触が得られました。ミサイル・ギャップとか、どうもご存じないんじゃないかと。そこで「ソ連のミサイルに対抗するため、爆撃機大好きだったアメリカ軍もXB-70ヴァルキリーを放棄してミサイルに走ったんですよ」とか適当に混ぜっ返しつつ、つい小生の頭に浮かんだのが、表題の駄句でありました。

 「アポロ月着陸はなかった」説が生まれるにはいろいろな要因があって、小生が中学生に述べたキリスト教原理主義の影響というのはかなりマイナーなものだろうなとは思います。確か「と学会」の山本弘会長は、環境問題が喧しくなって科学技術の発展というものが疑問視されるようになった風潮を挙げておられたかと思いますが、その方が影響としては大きいでしょうね。また日本での懐疑論者の要因には、反米感情の存在もあると思います。副島隆彦氏なんかはその影響が濃いんじゃないでしょうか(さすがに某先生もソエジーの攻撃性の強さには困惑しておられるようで、それだけ某先生は「まとも」だと思います)。アメリカ本国でも、伝統的にある連邦政府への不信感(ミリシア的なもの)が背景にあるでしょうね。
 しかしまた、これらと同時に、現在の我々がほんの数十年前の、「冷戦」という世界の枠組みを結構忘れてしまっていることも要因ではないかと思います。その時代を回想する時、世界を規定していたはずのこのファクターを、あっさり捨象してしまってるんじゃないかと。『三丁目の夕日』には、あんまりソ連の話とか出てこないですからね。その当時の核の恐怖からしてみれば北朝鮮なんて屁みたいなものですが。

 小生は、当ブログに折々コメントを下さる某後輩氏のような冷戦の専門家ではなく、ただ辛うじてソ連のあった時代を覚えている最後の世代に過ぎませんが、それにしても思い返して些かの感慨を覚えます。時代の感覚というものはなかなか掴みづらいですね。
 あ、もちろん某先生は、小生よりずっと年上なんですけど・・・
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by bokukoui | 2009-08-21 23:59 | 身辺些事 | Trackback | Comments(6)

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Commented by ゆん at 2009-08-22 10:07 x
JAXAのサイトに関連情報があります。ご参考まで。
ttp://moon.jaxa.jp/ja/popular/story03/index.html
Commented by 憑かれた大学隠棲 at 2009-08-22 16:41 x
ああ、時間作って設定しにいきます(´・ω・`)

否定論者は古い情報に基づいて批判しますからね。情報のアップデートが遅いだけなのかもしれません。暇でしたら上のURLを
Commented by 無名 at 2009-08-23 19:33 x
自衛隊ですら宇宙開発と軍事技術との関連性に無知ですから・・・。
Commented by bokukoui at 2009-08-25 23:34
>ゆん様
情報ありがとうございます。
しかしJAXAもこんなページを作るなんて・・・いろいろ大変なご時世ですね。

>憑かれた大学隠棲氏
どうも毎度お騒がせして済みません。室温を下げれば機能するので当面は大丈夫です(冷房で体がバテますが)。
ご紹介の動画、面白そうなんですが時間が・・・

>無名さま
自衛隊もですか。日本のロケット技術者はミサイルと一緒にされるのをひどく嫌うそうですが、日本はその両者の断絶が世界的に見て珍しく深いんだろうと思います。
Commented by 憑かれた大学隠棲 at 2009-08-26 00:41 x
マシンパワーに余裕があればTubePlayerで流しっぱなしにして作業する、という方法もございます
Commented by bokukoui at 2009-09-04 23:43
>憑かれた大学隠棲氏
マシンよりも人間の処理能力の方に問題がありそうです(苦笑)
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