たまには『COMICリュウ』1月号雑感 「螺子の囁き」蒸機ネタなど

 ふとここ一年の当ブログの記事を振り返り、鉄道・歴史ネタに偏っている傾向をはしなくも感じ、そこでちょっと傾向の違う話題を・・・と思ったけど、結局鉄道になりそうな。

 というわけで、以前は毎月書いていたのが、今年に入って諸事多忙などの理由により中断気味のこのコーナーですが、久々に一筆してみようかと。
 今号は、いつも本誌を小生が買っている書店に何故か置いておらず入手が遅れ、その後も諸事に追われて読んだのは最近のことでした。以前にも売り切れていたらしきことがあり、今回も同様と思いたいのですが・・・。 

 ところで以前、単行本化希望と当ブログで書いた吉川良太郎 / 黒釜ナオ「解剖医ハンター」ですが、先月無事単行本が出ていました。これは早速購入して読みましたが、単行本になった方がより多くの読者に受け入れられやすい作品と思います。『ジキルとハイド』『ドリトル先生』のモデルとなったという、18世紀英国に実在した医師・・・というか生命の秘密の探求者・ハンターを主人公にしたストーリーですが、同時に時代柄「七年戦争」「キャプテン・クック」なんてあたりに惹かれるような方も是非にどうぞ。



 話を『リュウ』本誌に戻します。



 内容は相変わらずで安心しましたが、それにしても今号はハダカが多めのような気がします(笑)。梶尾真治 / 鶴田謙二「さすらいエマノン」でエマノンが裸なのは通例のことですし、天蓬元帥「ちょいあ!」はここ数回温泉入浴シーンが続いていたと思うので(4コマ漫画14本中13本が全キャラ全裸というのはここまでの回に比しても率が高い気がしますが)どうということもないし、たまきひさお「トランス・ヴィーナス」がいよいよ大詰めを迎えて(個人的にはこれで終わってしまうのは残念ですが)盛り上がりついでに"黄色い楕円"一歩前くらいまで(?)に達しているのもそれはそれで納得できますが、アサミ・マート「木造迷宮」も今回はサエコさんが女中のヤイさんを「慰安旅行」と称して温泉旅行に行くというお話で、温泉ということは当然そういうシーンもあるわけで(但しテレビ東京のアニメ並に湯気が発達しておりますが)、それもまあそういうこともあるかと思っても、黄島点心「くままごと」までおっぱい丸出し(熊のじゃないですよ。熊のもあるけど・笑)に至ってはどうなっているかと思います。補足しておくと、『木造迷宮』のお話自体は、温泉地に行ったヤイさんが思いがけず自分の過去との繋がりを見いだし、一方ヤイさんがいなくなった旦那様がその後を追って、てなところで「次回に続く」となっており、続篇が首を長くして待たれます。
 また今号では、大野ツトム「ネム×ダン」が久々に復活しているのも嬉しいところです。で、これもまた、冬に出た雑誌に掲載だというのに、水着が溶けかかる話・・・着てるの男ですけど。ところで本作もいよいよ単行本が出るそうで、これは買いたいですね・・・って、12日にもう出てるのか。確認せねば。

 とまあ、ハダカ方面に傾斜している観もあった今号ですが、実はいちばん「やばい」のは、去る10月号で『リュウ』誌の新人賞・銅龍賞を受賞して受賞作が掲載され、今号で第2作を発表した、西村ツチカ氏の作品かも知れません。主人公の青年がバーで出会った女性は、見た目がどう見ても小学生なのに実は38歳。主人公はふとしたことでその女性と遊園地でデートすることになりますが、その最中も自分はロリコンに間違われるのではないかと戸惑って・・・てな話です。それ自体は結構面白いのですが、問題は主人公の青年の名前が「清岡」で、見た目小学生の38歳女性の名前が「しおり」で、そもそもこの短編の題名が「君はヒラリ」だってことです。嗚呼、さすがは吾妻ひでお師匠のお眼鏡に適った方、なのか。なおこの文章の意味が分からない方は、世の中には分からない方が良いこともありますので、スルーして下さいませ。
 何だか偏った紹介になってしまいました。当ブログでは以前、『リュウ』はエロ方面への進出の野望があるのではないかと半ば冗談に報じ、これは全くの冗談で「年に一回『裏・COMICリュウ』とでも題して、今の連載陣でエロマンガ雑誌を出したらどうか」と書きましたが、案外外れてなかったのでしょうか(笑)。

 あんまり偏った紹介も何なので、他の作品も瞥見しましょう。まずは何より小生としては外せないナヲコ「なずなのねいろ」、ちゃんと連載が続いているようで何よりです。先月発売の百合アンソロジー『つぼみ vol.4』にもナヲコ先生ご登場予定との話がありましたが、来年まで延期になったらしいだけに。そういうわけで、10月にぶち上げたもののその後多忙に紛れて有耶無耶になっていた「ナヲコ作品販促月間」企画は、『つぼみ vol.5』発売を目処に延長とします(苦笑)。お話の方は、いよいよ動き出す・・・というところでずっと苦闘している状況が続いていて、読む方も力が入りまして、あまつさえ柱に編集が入れた惹句が「すべてはこれから始まる!!」だったりするもので、「始まる」までに20話も使ってしまってこの先大丈夫かと余計な心配もしてしまいます。『voiceful』はまさに「始まる」ということそのものがテーマだったわけですけど。こうなったら全10巻くらいをめざして息長く続いて欲しいものです(『リュウ』本誌がそこまで続くか・・・)。
 あと、神楽坂淳/伊藤伸平「大正野球娘。」が今回はまともに野球の練習をしていることに新鮮さを感じました。・・・これまでに比べ「まとも」ってことで。また安彦良和『麗島夢譚』では西欧列強の角逐の醜さにキリスト教へ絶望した天草四郎の横で、いよいよ宮本武蔵が剣を抜き、スペイン台湾守備隊司令官(勇猛心にはあふれているけど何かが足りないというまさに史実のスペイン帝国みたいなカピタン)と決闘をするといういいところで「次回に続く」・・・次回はいつなのでしょうか。一方安永航一郎「青空遠く酒浸り」も今回は緊迫の対決シーンで次回に引っ張る・・・いや、前回もそうだったな(笑)こっちは来月号できっと続きが載るでしょうが、単行本はいつなのかと。

 さてさて、まだまだ個別作品に関し書きたいことがない訳じゃないのですが、しかし以上はあくまで枕であって、今回の本題は表題の通り速水螺旋人「螺子の囁き」、毎回速水氏好みのメカ(なのでロシア系多し)が描かれるイラストコラムです。なるほどメカ好きの漫画家さんは結構いるものの、好まれるメカは兵器系や航空機、自動車の類が多く、鉄道の登場が稀であることを嘆いていた小生、以前速水氏がこのコラムでロシアの蒸気機関車E型(世界最多生産数で有名)を取り上げたことを大いに嬉しく思って当ブログでも紹介し、その後も無火機関車なんて渋いのが登場してましたが、今回も鉄道ネタでしたもので、喜んで紹介申し上げる次第です。

 で、そのお題ですが、1930年代の鉄道黄金時代を飾った、アメリカはニューヨーク・セントラル鉄道の「20世紀特急」の流線形牽引機・J3型です。1930年代に流線型が(実際の空力的効果とは別に)大流行したのは有名な話ですし、鉄道でもその例は枚挙に暇がありません。鉄道の流線形についてはそのものずばり小島英俊『流線形列車の時代―世界鉄道外史―』という本がありまして、当ブログでも以前紹介しましたが、J3型はニューヨークとシカゴを結ぶ看板列車の牽引機として、その中でも著名な存在でした。速水先生が「未来は時速100キロでやってくる」と書かれているとおり、ニューヨーク~シカゴ間約1600キロを16時間、平均時速ほぼ100キロで結びました。ちなみに当時のアメリカの客車はもちろん全金属製で、おまけにエアコンまで装備していたもので重く、「20世紀特急」は総重量940トンあったとか。当時の日本なら最大級の重量貨物列車ですな。それをJ3は単機で引っ張り、瞬間最高速度は時速150キロを超えたとか。
 もっともJ3は、流線形蒸機としては結構アクの強いデザインで(「中世の騎士の兜」などと呼ばれたそうな)、ボイラー部分だけ覆って足回りはむき出しです。速水先生は「動輪の動きを見せた方がダイナミックでかっこいいというデザイン上の判断だった」という説を紹介されてますが、小生手元の本の中には、整備上の都合から足回りはカバーしなかったとしているものもあります。大戦中、人手が足りなくなると整備の都合から流線形蒸機の足回りのカバーを外した、という例は結構あるようなので、本音はそっちだったのではないかと個人的には思います。
 それはともかく、そんなアクの強いJ3も、速水先生の筆にかかるとなんだかちょっと愛嬌があるように描かれ、写真で見るようなかっこよさだけではない味わいがうまれて、楽しい絵になっています。前に『鉄道むすめ』の書評を書いた時に触れましたが、漫画の世界では女の子を可愛く描く技法と比べて、鉄道車輌を可愛くかつそれらしく描く技法は発達してこなかったんじゃないかと思うのですが、今回の速水先生の絵では、主役のJ3と、脇の30年代的モダンガールとが、一枚の絵としてしっくりきてまして、ああこれは余人を以て代え難い画業だなあと感じ入った次第です。

 一方、鉄道趣味の側から見ても、鉄道だけやってるとそればっかりになってしまいがち(ミリオタとの兼業率は昔から結構高かったりはしますが)なので、「メカ」への愛一般の中に鉄道も並列に扱われるというのは、その見方がなにがしか刺激になるとも思います。特に鉄道の場合、他の「メカ」と孤立しがちのように思われまして。メカの形態を観察し愛でるといえば、やはり模型を作る人たちがもっとも熱心だろうと思うのですが、鉄道模型って規格(縮尺)もメーカーも雑誌も、他の模型と分離してまして、ユーザーもかなりの程度そうじゃないかと思います。鉄道模型は「軌道上を走る」という要素があるためなんでしょうが、模型化するメカそのものへの眼差しの違いもあるんじゃないかと考えます。
 ちょっと大げさに言えば、機械文明の中での個々の分野の機械(鉄道とか、飛行機とか、自動車とか)を、国際色豊かに(ロシア色濃いめ?)に紹介してくれる「螺子の囁き」は、個々の分野にはまりがちな傾向から読者を解き放ってくれるものと思います。それだけに、どっかで単行本に載りませんかね。

 ところで速水先生のブログによると、
メカコラム「螺子の囁き」、今回は「20世紀特急」を描いてみました。20世紀前半にアメリカで運行されていた列車ですが、なんともステキな名前じゃないですか。流線型SLについては他にもいろいろ描きたいのですが、とりあえずそのさわりということで見てね見てね。
 というわけで、今後も登場するそうです。今回も小さくペンシルヴェニア鉄道の悲劇のモンスターマシーン・T1と、あともう一つミルウォーキー?あたりのが小カットで登場していましたが(正直、ペンシー好きとしてはT1を主役にして欲しかった・・・)、今後もどんなのが登場するか楽しみです。イギリスか、ドイツか、フランスか、誇大評価気味の満鉄のパシは他のコラムならともかく「螺子の囁き」としてはありきたり過ぎる観があるので、ここはパシなら、と思いましたが、考えてみれば同機は『リュウ』誌上で東冬「嵐ノ花 叢ノ歌」に既に登場してましたね(何という雑誌だ)。
 もちろん、どんなメカが出てくるのか、ということ自体が一番楽しみなのですが。

※追記:「螺子の囁き」が単行本に収録されました。めでたい。
  →「速水螺旋人『靴ずれ戦線 1』略感~「螺子の囁き」完全収録を祝して「火箭図」も」
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by bokukoui | 2009-12-16 18:32 | 漫画