『青空にとおく酒浸り』単行本化記念で『COMICリュウ』近号雑感

 諸事に追われた反動からか一日のうち20時間を床の中で過ごしたりして、すっかり連休(とその後の数日)を無駄にしてしまった小生ですが、皆様はいかがお過ごしだったでしょうか。毎度の繰り言ばかりも能がないので、いい加減体調も回復してきたようですし、そろそろ一筆。
 で、ここんとこ、速水螺旋人先生のイラストコラム「螺子の囁き」に鉄道ネタが出た号だけ更新していた感のあるこの企画ですが、今回ばかりは様相を異にしまして、本誌の看板連載マンガ? が遂に単行本化されたことを祝して一筆。この記事も本当は先月中には執筆掲載しておく筈だったんですが(苦笑)


 てなわけで、創刊一周年の号から『COMICリュウ』を読み出した小生が、同誌を今に至るまで購入し続けている原動力として、ナヲコ先生は別格としても、速水螺旋人先生と並ぶくらいは重要な作品が、遂に単行本化されました。今ざっと検索してみても、ベテラン安永氏(そういえば小生も昔、誰かの家で『超感覚ANALマン』を読んだ記憶が・・・)の9年ぶりの単行本だとかで、地味なリュウコミックスにしては(偏見)話題になっているようです。雑誌に連載しても単行本にならないことで定評ある(?)安永氏の作品らしく、本作も『リュウ』創刊以来一度も休むことなく連載し続けること既に4年に近いというに、ちっとも単行本化されておりませんでした。で、創刊一周年とはすなわち13号から、とは「青空にとおく酒浸り」も13話から読み出した小生ですが、その素晴らしい下らなさ、細部まで行き届いた阿呆らしさにすっかり魅せられました。



 ああ、お話ですが、これは一応SFで、マイクロマシン(MM)なるものがあって、それを体内に注入すると特殊能力が発揮できる、みたいな設定が一応あり、それを体内に所有している女子高生・石野篠と女子中学生・判崎小朝の二人を中心に、それを取り巻く(変な / ダメな / ヤバい)人々のドタバタを描いたもの、ということになろうかと思いますが、特に変でダメでヤバい上に最強で性獣なのが小朝の親父で、これが表紙のおっさんです。いい加減な説明ですが、13話から読み出した人間でもすんなり馴染めたくらいですからこんなもんで大丈夫。単行本1巻後書きで安永氏も、
こーゆーマンガは理屈っぽくなると
元気がなくなって面白くなくなるので
前後のつながりとか全然気にせず
あえてなりゆきまかせに描いております。
したがいまして、ところどころ
辻褄が合わないとか考証が変だとか
そういう向きもございますが
真面目に気にするだけ損です。
 と書かれているくらいで。
 とはいっても、12話までのお話や設定などが多少は気にはなっておりましたので、今回発売日に単行本を買い込んで即日読了(その割に記事を書いてるのが3週間後であることは突っ込まないで下さい)。

 ・・・あー、やっぱ、別段詳細に、MMの成り立ちだのなんだのを説明しているわけでもない、テキトーな、しかしだから途中参入読者に優しい作品だったんですね(笑)。話の筋と全く関係なく1話使って鮨屋一軒潰してるし。
 今まで単行本化されなかったのはやはり、「安永航一郎の作品は単行本にならないかもしれない」と読者に思わせて、『リュウ』本誌を買わせ続けるという編集部の陰謀だったのでしょうか。今回の単行本も上に挙げたとおり、表紙がむさいことこの上ない小朝の親父を、しかも灰色で描くという、およそ読者へキャッチーにアピールする要素皆無なのも、編集部のやる気のなさのあらわれでしょうか。そうそう、これまで必ず(と思う)リュウコミックスの新刊には帯がついていたのに、本書は帯もないんですよね。
 しかし思うに、その感動的なまでにダメな内容に着いてこれるか、マンガの方で読者を選ぶ手法とすれば、これで良いのかも知れません(笑)。

 ところで雑誌連載の方は、ここ数号は肉体と精神に分離されてしまった篠さん同士のバトルものとなって、やや新規読者へのハードルが上がっておりましたが、それも先月発売の号で一区切りついたところに小朝の親父が登場し、1巻では
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『青空にとおく酒浸り 1巻』139頁
(左:石野篠、右:判崎小朝)

てな調子だった篠さん(の精神)が、すっかりMMに馴染んで発想が変わったのか、
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『月刊COMICリュウ』2010年6月号 166頁
(左:石野篠、中:小朝の親父、右:判崎小朝)

と「判崎しの」に前向き(?)になってしまったようでこれはこれで一大事、というあたりで次回に続いています。で、『青空にとおく酒浸り』の単行本は3ヶ月連続発売だそうですが、1巻には全部で9話が収められており、一方去る4月発売号で連載は44話に達しておりますので、今月の『リュウ』に45話が掲載されれば、単純計算で5巻まで出せることになりますが・・・さてどうなりますやら。

 『リュウ』本誌に話が戻ってきましたので、ついでといっては何ですが、ここ3ヶ月の同誌について簡単に感想を。 『リュウ』本誌に話が戻ってきましたので、ついでといっては何ですが、ここ3ヶ月の同誌について簡単に感想を。

 まず、例の如くナヲコ「なずなのねいろ」。女子高生が軽音楽の部活をやるマンガがアニメ化されてそのCDがオリコンで1位になるご時世、このマンガでは、高校の軽音部を乗っ取って(?)着々と三味線部は組織されていきます。しかも、バンドにスカウトされたから高校の軽音部は辞めたはずだった沢田先輩、ハルコさんの調略(?)によりいつの間にか三味線部に登場、バンドのデビューで頭がいっぱいで「ガリガリ」していた先輩も三味線に触れて「寄り道も/結構楽しいんじゃねーの」。幅を広げた方が見えてくることってありますよね。ここ数号では4月号が節目で、というのも最後の頁が一頁大の大ゴマで如何にも「第一部・完」という感じでしたが、その後も順調に続いているのは何よりです。ただ毎回12頁は少し寂しいので、せめて16頁くらいになれば・・・
 話は変わりますが、そして何だかこういうことを書くと、マンガに対して大した教養もないのに偉そうではありますが、最近の「なずなのねいろ」は、扉絵や大ゴマを中心とした丁寧に描かれたところと、わざと崩して(よりマンガチックに)描かれたところとの、話の筋に応じためりはりが良い感じで、読んでいて楽しく嬉しい次第です。

 速水螺旋人「螺子の囁き」のここ3ヶ月を振り返ると、4月号(2月発売)が19世紀に登場した後装銃の名品であるエンフィールド・スナイダー銃、5月号(3月発売)がソ連のVTOL機・Yak-38、6月号がソ連のカメラFED-1と、ややロシア方面に傾斜しつつも(笑)、相変わらずの間口の広さとメカの絵の可愛さに感服します。ジェルジンスキーの略歴なんかにも触れていて勉強にもなります。

 神楽坂淳/伊藤伸平「大正野球娘。」が最近大変面白くて、単行本化を待ちきれず繰り返し読んでいます。以前、伊藤先生にいささか失礼な感想を書いたことを自己批判します。
 いよいよユニフォームも完成し(カラーでないのが残念)、中学校の男子と練習試合(3回まで)に臨む野球娘。新兵器の金属バット(打球が早い)を導入し、巧みに打撃妨害を誘って進塁、変化球を手首の動きで見抜き、乃枝さんの指揮のもと見事な役割分担で、たかが女子と思い込んでいる今も昔も脳味噌筋肉な野球少年ども(但し柳一馬だけは参謀の存在に気づいている)を翻弄します。考えてみれば、彼女たちは「強い」チームを作る必要はなく、「お嬢の婚約者(のチーム)に一泡吹かせる」のが目標ですから、ただ一回の勝負に有利になることだけ考えてチームを編成し作戦を練ればいいわけで(真珠湾だけで終わる太平洋戦争みたいなのだから)、荒唐無稽のようでいて実は合理的な話であります。
 最近じゃ、高校野球の女子マネージャーがドラッカーの経営学の本を読んで甲子園をめざす、とかいう本が売れているそうですが、やはり乃枝さんもドラッカーとか読んでたんでしょうか。って大正時代にドラッカーはないですね。ということは・・・


 やはりマルクスかっ!
   マルクスしかないのか!!



 もし大正野球娘。の乃枝さんがマルクスの『資本論』を読んだら・・・特高警察に逮捕されるのでしょうか。「名門女学校に赤露の魔手」とか新聞に書かれそうですね。とはいえ真面目な話、道徳や精神論ではない、政策の参考になりそうな社会思想体系というものをこの時代に考えると、やはりマルクスとなるでしょう。もちろんそれは多くの場合階級闘争の理論ではなく、分析ツールとしてであって、大学でマルクスに触れた官僚が戦時統制経済を作って「天皇ファシズム」の「帝国主義戦争」を可能にしてしまったりするわけで、いちいち「コミンテルンの陰謀!」とか吹き上がらないで下さい(用語にカギ括弧を付けている意図を読み取って下さいね)。まあこんなことを考えるのも、小生がここんとこ革新官僚の話を漁っているせいですが。

 なお、いよいよ練習試合に臨む前の4月号では、月の下で巴が小梅に「わたし将来職業婦人になる/それも新聞記者になるわ」と夢を語る場面があります。それに続く場面が以下。
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『月刊COMICリュウ』2010年4月号 294頁

 そして、上の場面に続いて小梅は「みんな仕合わせになっていて/そしてみんなで集まってお茶会をする」と想像し、巴に「なんかそれいいね」と言います。
 蛇足を承知で書けば、『大正野球娘。』は大正14(1925)年の設定ですから、「20年後」は昭和20(1945)年です。
 小梅がお茶会を想像している頁の一番見えにくい欄外に、伊藤氏は「BGM:「パリは燃えているか」compoed by 加古隆」と小さく書かれています。当然、以前当ブログでも書いたような読者の心配はお見通しだったのです。

 歴史ものと言えば安彦良和「麗島夢譚」が毎月掲載になったのも嬉しいところです。台湾を舞台に角逐するスペインとオランダの間で天草四郎と海賊松浦党の伊織達が・・・と思いきや日本に帰るのか、今後の展開に注目。
 ところで前にも書いた気がしますが、本作品中では武者修行で台湾にまでやってきていた宮本武蔵、見事スペインの司令官との一騎打ちに勝利したのは良いけれど、勝手に一人で悟ったつもりになって、さっさとボートを漕いで日本に帰ってしまいます。自分の書く予定の本(『五輪書』)の構想を伊織に滔々と喋ったり、養子の加増を期待したり、宮本武蔵の俗物的な側面を描いているところがなかなか面白く、しかし結構実態に即しているかな、とも思います。

 ありゃ、例によってどんどん長くなる一方ですね。この調子で書いていたらいつまで経っても終わらない。4月号の星月もちる「ちゃんと描いてますからっ!」は悲惨な児童労働を告発する社会派マンガの力作(一応嘘ではない・笑)で、さすが唐沢なをき氏にトヨタのカリーナ(中古だけど)をプレゼントしちゃう大物先生の作品と感服しました。そのカリーナの話の出典であるとり・みき&唐沢なをき「とりから往復書簡」も相変わらず好調ですね。
 星月作品の他に、連載以外の掲載作品では、島本和彦「MC3(無謀キャプテン)が何だか落語みたいな(オチが・・・)作品で、島本作品にほとんど触れたことのない小生にも愉快な一品でした。石黒正数「ネムルバカ番外篇2」では『ネムルバカ』と『響子と父さん』の世界が繋がって大団円(か?)。そういえば『それでも町は廻っている』アニメ化だそうで。時々載る作品では蒼崎直「官能小説家烏賊川遥のかなしみ」が5月号に載っていてまことに楽しく、これも一冊に纏まればなあと思います。それはそれとして作中に登場するB級カルトエロ映画「キラータンポン」(元ネタ)は誰か作っても良いんじゃないでしょうか(笑)
 当ブログではお馴染みアサミ・マート「木造迷宮」、最近は3巻も出てアサミ・マート先生も勢いに乗っているのか、なんと6月号ではヤイさんにセーラー服を着せてしまいました(笑)。3巻の詳細は稿を改めて述べたいと思います(いつになるやら・・・)。
 6月号では休載でしたが、大塚英志/菅野博之「大塚教授の漫画講座」は興味深く読んでいます。大学での漫画講座をベースにしているそうで、受講した学生の課題なんかも載っていて面白いのですが、ただ付図や参考画像の画質が低くて見づらいのが残念です。雑誌の形態上致し方ないことではありますが。
 一方で終わってしまうものもいくつかあり、コラムが二つ終わる他、夢枕獏/伊藤勢「闇狩り師」が終わってしまって、黄島点心「くままごと」も次回で終わりだそうです。「闇狩り師」はまだまだ続いていきそうな世界を感じさせただけに残念ですが、

 以上長々書いてきましたが、とまれこんな風に毎号楽しく3年半も読んできていて、小生は今後もこの雑誌がこの調子で長く続くように願っています。
 しかし、しかしですね、毎回こう楽しんでいる本誌なのですが、先月発売の6月号の読者投稿コーナーの編集子の文言に小生は多大なる疑問を感じ、未だに喉に刺さった小骨の如く『リュウ』の読後感をちくちくと苛んでいます。
 それは何か、小生がどうそれに引っかかっているか、それは一旦切り離して別記事で述べることにしましょう。
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by bokukoui | 2010-05-08 23:59 | 漫画 | Trackback | Comments(2)

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Commented by 無名 at 2010-05-13 09:41 x
小生のバイト先の「赤いコンビニ」のOBがようやくルソーと福沢の比較を始めました。
彼らに、学問を「教導」する困難さを実感しております(笑)。
個人的な妄想としては、現代ギリシアでブーム(?)の「アナーキスト」に転向した人物が出ると面白いのですが。
ちなみに「二輪娘」は絶賛妄想中です。
Commented by bokukoui at 2010-05-15 00:25
「大正赤色娘。」なら史実でもネタが拾えるかも知れませんね。
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