百合アンソロジー『つぼみ vol.6』 略感

 所謂「百合」のマンガの季刊誌『つぼみ vol.6』(芳文社)が本日発売になりました。まあ実は昨日、大学近傍の書店で売っていたので既に買い、帰途に読んでしまっていたのですが。
 で、『つぼみ』シリーズは小生も今までに何冊か読んでおり、そのたび当ブログに感想を書こう書こうと思いながら、結局書くことがないまま今日に至ってしまいました(苦笑)。今回くらいは簡単に一筆しておきたいと思います。
 収録作品は以下の通り。

カトウハルアキ カバーイラスト
かずといずみ カラーイラスト

大朋めがね「Green.」1話
玄鉄絢「星川銀座四丁目」5話
鈴木有布子「キャンディ」2話
きぎたつみ「ロンサム・エコー」上編
天野シロ「あこがレディをもみタイム」
水谷フーカ「はみだし音楽隊」
関谷あさみ「無限遠点」3話
犬上すくね「はさみとゆび」
カサハラテツロー「タンデムLOVER」2話
コダマナオコ「レンアイマンガ」1話
藤が丘ユミチ「エンドレスルーム」
縞野やえ「ダーリン・ダーリン」前編
矢直ちなみ「一緒にかえろう」
青木俊直「SWEET LIPS」
磯本つよし「ガールズライド」2話
森永みるく「ひみつのレシピ」5話
ナヲコ「プライベートレッスン」3話
吉富昭仁「しまいずむ」10話
 で、本書は帯に「読み切りいっぱい」と書かれてはいますが、収録作品一覧を見れば明らかなように、むしろ続き物(連作短編・他誌連載作品の出張を含む)がざっと三分の二を占め、これは今までと比率が逆転している位だと思います。特に今回第1話だとか前編とか上編とかになっているのが4篇もあり、続き物重視の雑誌へと方向転換を図るのでしょうか? となると、やはり次まで3ヶ月というのは長いので、季刊からより短期間への刊行をめざしているのでしょうか? vol.5と同じページ数なのに収録本数は増えているのも、そんなことを感じさせます。

 有り体に言えば、小生は本誌をナヲコ先生の作品目当てで買いだしたので(『月刊COMICリュウ』の場合と同じですね)、特に「百合」に対するこだわりは無いのですが(小生の「百合」ジャンル観についてはいつか機会を見て一筆出来ればと思います)、そのような「百合」に対し縁の薄い読者にも取っつきやすい話が多い雑誌と思います。それは本誌の諸「百合」作品が、単純に女の子同士のいちゃいちゃ度を競うのではなく、いわゆる恋愛にとどまらない多様な関係にも広がっているものがそれなりにあるからではないかと、勝手に思っています。もしかすると、そのように様々な関係を丁寧に描くには、続き物の方がより適している、ということかもしれません。

 それでは個別作品の感想を、思いつくままいくつか簡潔に。



・ナヲコ「プライベートレッスン」
 女子高生のたまこちゃんと、その年上(10歳くらい上か)の従姉でピアノの先生でもあるとりこ姉さんと、二人の関係をピアノを織り交ぜつつ描いた作品も3話目。
 たまこちゃんは高校生の設定らしいですが、中学生のように見えてならず、しかも1話目(『つぼみ vol.2』)の扉絵でたまこちゃんは下着姿を披露していたりしたものですから、小生の友人でマンガやラノベに通暁し辛辣な評を下す某氏は、「プライベートレッスン」1話を読んで「これ『なずなのねいろ』ベータ版じゃん」と発言しておりました。なるほどナヲコ先生の近作は、『voiceful』『なずなのねいろ』と本作と、「音楽マンガ」で一括りに出来ますけど、しかし読み比べてみるに、各作品の中での音楽の役割は少しづつ(大いに?)異なっているのであります。
 ところで今回は、とり姉がピアノの演奏会に行くと知ったたまこちゃん、「お願い」光線を全力で発して演奏会についていきますが、なんだかとり姉は気が進まなさそう。それはとり姉の大学の先輩の演奏会で・・・と、たまこちゃんのとり姉を独占したいような、「恋愛」とはちょっと違いそうな、そんな想いが新キャラ登場で揺さぶられて次回に続く。たまこちゃんの可愛さは毎度としても今回は、すっぴん(多分)とり姉と、おめかし仕様のとり姉の描き分けぶりが面白うございます。ところで演奏会に行く際、とり姉はたまこに自分の服を貸すシーンがあり、これがまた後で意味を持ってくるのですが、しかし二人の身長差からいってサイズは大丈夫なのかしらん(笑)

・水谷フーカ「はみだし音楽隊」
 水谷氏の作品はこれまで折々『つぼみ』に載っていましたが、どの作品も小生にとっては面白くて(特にvol.2のエレベーターガールの話)印象に残っていました。そして今回も、出色の作品と思います。
 これも音楽ネタで、登場するは吹奏楽部で補欠の4人組。補欠の彼らを見守ってくれる副顧問の先生が寿退職することになってしまい、そこで4人は先生に結婚プレゼントとして演奏を届けよう! と猛特訓をはじめて・・・てお話。メインカップル(?)は、腕は良いのに協調性ゼロで補欠になったクールビューティ・根来真紀と、彼女の演奏姿に一目惚れして突如吹奏楽部に入った(だから補欠)の乾春子ですが、これが単純な二人の話にとどまらないのがいいところです。
 で、本作最大の問題が、補欠4人の一人が「自称男の娘」のハーフ・有賀ロバートってとこです(上で「彼ら」と書いて「彼女ら」と書かなかったのはこのためです)。「性もハーフです」って・・・しかしこれは昨今の「男の娘」ブームへの安直な便乗ではなく、有賀君(さん?)は同性への「好き」の感情に戸惑う女の子達のよきフォロー役となっており、本作の味わいを深めている最大功労者と思います。まさに「ハーフ」な越境者の面目躍如。

・きぎたつみ「ロンサム・エコー」
 更に音楽の登場する話を。新任の女性教師が「とりあえず使っといて」と物置状態の準備室を宛がわれ、そこにあったピアノを弾いていると、何故かその準備室に潜り込んでいた女の子が登場。その正体は本篇ではまだ明かされず、でも教師のピアノと一緒にバイオリンを奏でたりしてますが、本書の続き物の中でも一番先が気になる一本です。きぎたつみ氏のこれまでの作品も良かっただけに、続きが楽しみ。

・藤が丘ユミチ「エンドレスルーム」
 最初に断っておくと、率直に言って絵は小生の好みではありません。また、ボートを漕ぐシーンで、漕ぎ手の座る向きとボートの航行方向が逆になっています(笑)。しかしそんな難点(小生から見て)を有してもなお、読後忘れがたい印象を残しました。
 何故か地下にある、さるホテルのスイートルーム。そこに「絶対外に出さないで、日焼けさせないで」と執事(老婆)に押し込められたお嬢様と、その世話役になった女性のお話。あり得そうもないシチュエーションでありながらもしかし、そこで生まれる複雑な感情を描いて読者を引き込む(少なくとも小生は)のは、なかなか見事でした。
 まったく本篇と関係ありませんが、小生はこの作者の方を今回初めて知りましたけど、ペンネーム(の名字)の由来が何なのか気になります。

・コダマナオコ「レンアイマンガ」
 新連載第1回的なマンガの一つです。
 編集者の羽田ハルカは、中学生まで地味ないじめられっ子でしたが、あるマンガ――それは自分と同名の地味な主人公が、綺麗に変身して成功を掴むサクセスストーリーだったのですが――に出会って生き方を変えようと決意し、がんばっていじめられっ子を脱却しました。そのきっかけを与えてくれたマンガの作者・黒井律の担当に、念願叶ってなったハルカでしたが、きっとあのマンガのように綺麗でオシャレな人だろうと期待に胸ときめかせて会いに行ってみたら、実は黒井先生は、眼鏡でジャージで暗くてオドオドした、お洒落なスイーツより「よっちゃんイカ」と「キャベツ太郎」(作中では菓子の名前変えてるけど)が好きな人でした!
 そのギャップに動揺するハルカが可笑しくて、しかし次第に黒井への接し方を探っていく様子はなかなか良い感じです。今回はハルカ→黒井先生の思いがほとんどでしたが、次回は逆方向の想いも描かれそうな示唆がされてますので、今後が楽しみです。

 以下余談ですが、小生はハルカと全く逆の経験をしたことがあります。小生は駕籠真太郎先生のファンで、その著作はほとんど持ってます。・・・駕籠先生の読者と『つぼみ』読者がどれだけ重なっているか不安ですが(笑)、つまりその、グロでスカで大笑いの奇想世界を描かれる駕籠先生は、きっと一目で分かるような怪しい狂気のオーラを漂わせており、街で警官に出会えば職質され、公園でベンチに座れば乳飲み子を抱いた母親が逃げていく、そんな人じゃないかと期待していたのです(笑)。
 そんな某日、駕籠作品の展示会が某所で開かれると聞きつけて行ってみれば、会場は渋谷のオシャレな雑貨屋さんで小生は入るのにかなりの勇気を要しまして、勇を鼓して入り鑑賞して何点か駕籠作品の買い物をしたら、レジの店員が「あの方が駕籠先生ですよ」と教えてくれました。見れば・・・渋谷のオシャレな雑貨店に違和感ない程度にスマートな装いの、もっと有り体に言えば、彼女がいても全然違和感がない、眼鏡姿も知的に見える、そんな男性が立っておりました。
 小生は「あんなイカれた(賞賛の言葉)マンガを書く人が、あんなに格好いいなんて・・・」と言葉を失い、買った本にサインをお願いする勇気も失せましたが(笑)、まあ冷静に考えてみれば、「サブカル文化人」とカテゴライズすれば不思議ではないですね。

 ・・・例によって例の如く話があらぬ方向にずれましたので、あとは駆け足で瞥見するにとどめますが、まず小学校の先生と児童の関係を描いた玄鉄絢「星川銀座四丁目」は、めでたく乙女ちゃん(児童)が中学に進学しましたが、話は新展開で続くようで、人気があるのでしょうか。小生も毎回楽しみでしたので、続くのは嬉しいことです。森永みるく「ひみつのレシピ」は、絵も話も割と落ち着いたものが多いように思われる『つぼみ』の中では、もっともドタバタ劇のようでいて、一筋縄ではいかない心をしっかり描いていて、さすが斯界のベテランと思います。関谷あさみ氏の作品は、以前成年コミックで読んだ時はさほどの印象をとどめなかったのが正直なところですが、一連の『つぼみ』掲載作を読んで、その認識をいささか改めました。矢直ちなみ氏の作品は最初に見た時、「ほしのふうた氏も『百合』に進出したのか」と真面目に思いました(笑)。
 そして吉富昭仁「しまいずむ」は10話に達しましたが・・・いやあフリーダムですね。「百合」のふりをしてますが、あれはきっと何か別次元へ進みつつあるような。

 後半駆け足になりましたが、あまり時間をかけるのも何なので、こんなところで。

※追記:下にトラックバックしていただいたように、小生の長年の友人のたんび氏が同書の感想をアップされております。やおい読者としてのキャリアから、百合とやおい(作家は結構重なったりしている)とを同性の関係を描くという視点から比較分析しているあたり、注目です。是非ご一読下さい。
 また氏は、引き続き遡って『つぼみ』旧刊の感想もアップされる予定だとか。期待大。


※更に追記:『つぼみ vol.7』の感想を書きました。ほんとに隔月刊になってびっくり。また、たんび氏が旧刊の感想を書かれましたので、是非どうぞ。

※更に更に追記:めでたく隔月化された以降の感想はこちら→vol.8 / vol.10 / vol.11 / vol.12
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by bokukoui | 2010-05-12 23:59 | 漫画