鍋焼うどんの探求(12) 本むら庵@上荻 支店もあるよ!?

 (11)の「まつや」に引き続き、名の通ったお店で今シーズンの「鍋焼うどん探求」カテゴリを締めくくりたいと思います。といっても「真夏の鍋焼うどん」という企画が突発するかも知れませんが(笑)
 というわけで、今回はシーズン終了記念としまして、上荻の本むら庵で豪勢に「鍋焼きうどん」(1890円)をいただきます。お値段は本企画の最高価格を更新しました。
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 さて、小生は食うことに人並み以上の関心はありますが、その関心が、石毛直道先生の本を古本屋で買いあさる、というように人とずれた方向に発揮されますので、所謂「美食家」「グルメ」のような、「有名店」をちゃんと知っている、というようなことはありません。高い店に入る勇気のない貧乏院生ですし。
 ですので、藪や更科、前回のまつやなどの名前くらいは知っていても、その筋では有名らしい本むら庵の名も、割と最近まで知りませんでした。しかも知った理由が馬鹿馬鹿しくて、以前当ブログでも紹介した、菅野彰・立花実枝子『あなたの町の生きてるか死んでるかわからない店探訪します』(新書館)に登場するヤバい(死亡認定)蕎麦屋・「村村庵支店(仮)」の元ネタとして、でした(笑)。

 つまり荻窪には、名店として名高い本むら庵があるのですが、割と近所に同名の「支店」を名乗る店があり、その店が実に「アレなお店」だったというわけ。どうアレだったかは同書をお読みいただきたいのですが、同書の表紙に掲載されている4コママンガは「村村庵支店(仮)」のことですので、アマゾンで表紙の画像でも眺めてみて下さい。
 で、「村村庵支店(仮)」に打ちのめされた菅野・立花コンビはそれから本家の本むら庵に向かい、店の清潔さや中庭の綺麗さに「関係・・・・・・ある訳ないだろうこの店とあの店が」(同書54頁)と呟き、蕎麦を食べて
「これが・・・・・・蕎麦だよね」
「こんなおいしい鴨せいろ食べたことない・・・・・・」
 私たちを泣かせた。
(同書54頁)
 と感涙に咽ぶのでした。
 そして菅野・立花コンビは、本むら庵で「村村庵支店(仮)」との関係を聞き出します。
「駅の方に同じ名前の支店ってありますよね。ここの支店なんですか?」
 その問に、どーにもならないやり切れない答えが返る・・・・・・。
「はー、あのー」
 店主の顔も暗く、苦い。
「先々代が・・・・・・なんだかここで修行した方に暖簾分けしてしまったらしくて。今ではご縁もないし、出しているものも全く違うらしいんですけどね・・・・・・」
(同書55頁)
 かくて本むら庵を後にした菅野・立花コンビは「無闇に暖簾を分けてはいけない・・・・・・」(同書56頁)と教訓を得るのでした。
 なお、この『あなたの街の~』企画はその後、連載誌『ウンポコ』にもう一度掲載されたそうですが、その後両者の多忙故か後が続かず、そうこうしているうちに『ウンポコ』が休刊してしまったのでした。残念。ネット上では、ぐるなびに「野瀬泰申のチャブニチュード判定委員会」なんて類似の企画があるように、まだまだやれたと思うのですが。

 余談が長くなりました。本むら庵に向かいましょう。
 で、小生は一人でこんな立派なお店に行く勇気がないのですが、幸いこの時は同店にしばしば家族で訪れるというハイソな(?)近隣にお住まいの方がお誘い下さいましたので、有り難くご案内いただくことにしました。駅からちょっと離れた住宅街の中にあるお店なので、そもそも道案内がいた方が安心です。
 というわけで4月某日、学会の用事で中央線沿線某所に赴いた帰り、荻窪で下車して案内者の方と合流して本むら庵に向かいます。土曜の夜でしたので結構混んでいました。店は大きく明るく、大変綺麗なのは菅野氏が記したとおりです。
 同道者の方は呑める方で、いつもここに来ると一杯やるとの由。まずつまみものを注文してビールを二人で飲み、同道者は日本酒に切り替えて枡で呑んでました。小生はどうも体質と合わないのか、日本酒が飲めないのです。おつまみには、海苔で巻いたえびのしんじょや、油揚げに鴨肉を詰めた「おきつね焼」など、同道者お勧めのものをいただきましたが、まこと素晴らしい品ばかりでした。日本酒が飲めればもっと旨いんでしょうけど・・・。

 さて、ビールも空けたところで、本題の鍋焼うどんに参りましょう。
 まずは例によって、具を確認します。

 ・えび天
 ・ゆで卵
 ・かまぼこ(2枚)
 ・麩
 ・椎茸
 ・筍
 ・人参(飾り切り)
 ・湯葉
 ・三つ葉
 ・長ネギ
 ・薬味の白ネギと大根おろし(別添)

 品数が多く豪華版です。えび天は写真でもお分かりのように結構大きめですが、「蕎麦屋の天ぷらなんだから衣が大きいんだろう」と予断を持ってかぶりついたところ、中身も大きく立派な海老で、さすが名店でありました。三つ葉を入れているところに風格を感じますが、湯葉が入っているのは今まで出会わなかった特徴です。とはいえ湯葉は昔からおかめそばの定番の具でしたし、本むら庵には「生湯葉そば」もあるので、湯葉は蕎麦の具として相性が良いのかも知れません。うどんにも結構です。
 卵がゆで卵というのも初めてでした。煮てあったり、卵焼きだったり、生で別に添えられてきたり、そもそも入ってなかったり、いろいろなパターンがありましたが、ここに新たなパターンが登場しました。ラーメンにゆで卵は普通ですが、蕎麦やうどんでは珍しいと思います。
 具で特筆すべきは、かまぼこです。かまぼこ自体は鍋焼うどんの定番中の定番の具ですが、本むら庵のかまぼこはこれまでにない旨いものでした。上面に焼いた焦げ目の付いているかまぼこで、ありきたりのかまぼことは別な食べ物ではと思わせるほどの旨さです。これで板わさ+日本酒、なんてのは、呑める人にはたまらないでしょう。
 薬味として大根おろしが添えられているのも初見です。蕎麦の薬味としてはありますが、鍋焼うどんにはどうでしょうか? 量もちょっとでした。もっとも今記事を書いていて思いついたのですが、これは天ぷらに添えて食べるものだったのでしょうね。

 ところで、価格設定についてまつや・本むら庵は、それまでのお店と比べ特徴があることに小生は気づきました。街の普通のそば屋さんの価格設定は、概して「鍋焼うどん≧天ぷらそば」で、鍋焼うどんは最高級クラスの価格なのですが、まつやと本むら庵は「鍋焼うどん<天ぷらそば」と、お品書きに王として君臨しているのが天ぷらなのです(本むら庵の天ぷらそばは2257円。もりは735円とやはりお高め)。やはり「蕎麦の名店」を誇る店で、最高額をうどんに取らせてはならん、というこだわりなのでしょうか?

 鍋焼うどんの麺は細めで、そんなところもまつやに似ていました。しかし食べてみると麺のテクスチャは対照的で、本むら庵のうどんは細いながらもコシが強くしっかりした、大変けっこうなうどんでした。うどんも手打ちにこだわっているようです。
 だしは関東風ながらも色は薄い目で、上品な感じです。卵がゆで卵で麺もしっかりしているので、鍋焼うどん全体の一体感には乏しい感じですが、だしの上品さがそれらをまとめているともいえそうです。

 そんなわけで、酒とつまみ、鍋焼うどん、ついでにもりそばも一枚堪能して、本むら庵をあとにしました。
 割と早い目に店を訪れましたので、これだけ堪能してもまだ時間はさほど遅くありませんでした。そこで、呑み足りない様子の同道者の方が、地元住民だけに自分がちょくちょく行くショットバーがあるから行こうと言い出します。
 先にも書いたとおり、小生は貧乏院生で、高級でお洒落そうなお店には怖じ気づいて入れません。とは即ち、ちゃんとバーテンダーがいるようなバーに行ったことはありません。万年学生なので、先輩や上司に連れて行って貰うという経験もありません(ハイソな私大なら教授が奢ってくれることがあるのかも知れませんが、小生はずっと国立大在籍です)。
 てなわけで、同道者に強引に引っ張られて、人生初のショットバー経験をすることとなりました。本むら庵から荻窪駅に戻って更にちょっと行ったところでした。
 しかし同道者がいたとはいえ、小生はこれまた先に述べたように食への関心が偏っているので、「ポルトガルのワイン産業に英国の貿易が及ぼした影響」だとか「近代日本財政に酒税の占める地位について」といったお題なら一席弁ずることもできますが(日本政府の税収の半分近くが酒税の時期があったって、意外とみんな知らないんだよなー)、酒のブランドのことだとか、カクテルのレシピのことなんかは、ぜーんぜん全くといって良い程知りません。小生は伊達に「革非同」の追っかけをしているのではなく、人の知らないことをそれなりに多く知ってはいるけれど、モテそうな知識はまるで関心が湧かないのです。ですから小生の話は概して一部の男性にのみ受け、女の子には受けません。つまり、ショットバーで「お好みのお酒は?」と聞かれても何も挙げられないのです。
 こうなっては正直に本当のことを言うしかありません。

「最近は中国の焼酎をもっぱら呑んでます」

 小生が白酒(中国焼酎)を呑み始めたきっかけは別記事で近日中に書くつもりですが(追記:こちらの記事「池袋の「中華街」で白酒(中国焼酎)を呑み犬を食う話など」をご参照下さい)、ショットバーでこんな暴言を吐いたものはそう多くはなかろうと思います。ところがバーテンダーは、「お客さんに貰ったものでよく分からないんですが」と言いつつ白酒を取り出し、供してくれました。ちゃんとブランドを見なかったのが悔やまれますが、香りがほどよく呑みやすい、なかなかのものでした。小生が池袋で呑んだくれる二鍋頭よりは、だいぶ上等の品と思われます。ただ白酒に限らず中国酒は料理と合わせてこそなので、ショットバーでは真価を発揮しきれないのが残念でした。
 とまれ、この一杯で怖じ気づいていた気分もいささかほぐれ、数杯呑んで時間も経ち、程よく酔った加減でバーを出ました。と、来店した時は夜に初めての土地なので気がつかなかった、コイン駐車場を挟んでバーの隣の店が小生の眼に飛び込んできました。
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バーを出た小生の目に映った情景
(『あなたの町の生きてるか死んでるかわからない店探訪します』48頁)
※この画像はクリックすると文字が読めるくらいに拡大表示します

 こともあろうに、本むら庵の二次会に同道者が小生を誘ったバーは、「村村庵支店(仮)」の隣だったのです。有り体に書いてしまえば「本庵支店」と微妙に表記が違うんですが・・・小生と同道者は、菅野・立花コンビの逆の順序で、しかし同じコースを歩いたもののようでした。
 小生は思わず「本村庵支店」の写真を撮りましたが、流石にアップは控えておきます(店名公開もやめろというご意見もあるかも知れませんが、『あなたの街の~』の情報からこの名前に辿り着くのはネット環境にあれば極めて容易ですから、隠す意味もないと判断します)。どっちにせよ、上に挙げた立花氏の絵が極めて写実的で、街路樹の枝振りに至るまで正確でしたから・・・

 そして小生を驚愕させたのは、流石に午後十時過ぎで暖簾こそ片付けられていたものの、「村村庵支店(仮)」の店内には明かりが煌々と灯っていたことです。『あなたの街の~』が連載されていた雑誌『ウンポコ』がとうに休刊になったというのに、「村村庵支店(仮)」は現在も営業しているもののようです。・・・探訪計画とかありませんからね、念のため。
 地元住民の同道者の方は事情を聞いて、こう感想を漏らしました。
「『村村庵支店(仮)』の向かい、保健所なのにねえ・・・」

 以上のように、鍋焼うどん探訪の今シーズンを、名店のおつまみとお洒落なバーのお酒で締めくくろうとした試みは、まことにアレげなオチがついて終わりました。人間、分相応というものがあるようです。
 あ、最後に本むら庵の地図を添えておきます。店の写真は撮り忘れたので、サイトにリンクしておきます。

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by bokukoui | 2010-06-19 23:59 | [特設]鍋焼うどん探求