百合アンソロジー『つぼみ vol.7』略感~百合のつぼみを召し上がれ

 しばらく間が空いておりましたが、その事情説明や言い訳はとりあえず後回しにして、旬の話題で更新しておきます。

 というわけで、以前当ブログでも vol.6 の感想を書いた、百合アンソロジー『つぼみ』の最新刊の感想を簡単に。同誌はこれまで季刊だったのが、これからは隔月刊化するそうです。前回書いた予想が当たりましたね。
 なお、小生のマンガ読みに際しての師匠の一人であるたんび氏が、小生のお貸し申し上げた『つぼみ』の vol.3 と vol.5 の感想を書かれておりますので、同誌にご関心のある方は是非ご一読を。貸した当人は感想を書くことがあるのかというと、まあその・・・。


 で、初手から話が逸れますが、今回の記事の表題に何か気色悪い副題が付いているのは、先日(といっても結構前のことですが)「百合のつぼみ」を食べる機会に遭遇したからであります。
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 その時カメラを持っておらず、携帯電話附属のカメラでの撮影なので、画質が悪いのはご寛恕ください。
 これは渋谷の台湾料理の有名店・麗郷で某日食事をしておりましたところ、メニューに「百合の花炒め 鮮炒金針花」とあった料理です。メニューには百合の花とありましたが、これは見ての通りつぼみですね。味はアスパラガスの穂先に似ていますがより上品で、歯触りはアスパラの穂先よりもシャキシャキと心地よく、花のつぼみだけあって爽やかな香りも微かにする、なかなかの品でした。お値段も結構でしたが(1500円)。
 ところで「金針花」という文字に何か見覚えがあった気がしたので、いつぞやも猫を食う話でネタ本にした石毛直道『鉄の胃袋中国漫遊』のページを繰ってみたところ、この食材が出ていました。四川省の重慶で屋台の火鍋屋の具材として登場していましたが、四半世紀前と比べて日本でも火鍋はメジャーになったなあという感慨はさておき、そこでは「金針菜」とありましたが、写真で見る限りは同じもののようです。何でもこれは、ユリ科のカンゾウ(萱草)という花のつぼみなんだそうで、なるほど「百合の花」ではあります。カンゾウは和名を「忘れ草」ともいい、これを食すと憂いを忘れるとの言い伝えがあるそうです。
 『つぼみ』編集部が作家さんを招いて「隔月刊化記念パーティー」とかやる場合は、是非中華料理店で開催し、このメニューをメインに据えていただきたいものです。

 余談はさておき、今回から隔月刊という発展を遂げた本誌、公式サイトも出来たそうです。11日発売となっておりますが、今日の内に手に入れて読んでしまいました。隔月刊化でも「お値段・ページ数はそのまま」らしいですが、その割には高いな・・・と思ったら、今回は何やらイラスト集の小冊子が付いてきたためのようです。
 それでは、以下に収録作品の一覧を上げておきます(小冊子を除く)。
西E田 カバーイラスト
ヤスダスズヒト カラーイラスト

吉富昭仁「しまいずむ」その11・その12
水谷フーカ「ロンリーウルフ・ロンリーシープ」第1話
かずといずみ「めとらば」前編
コダマナオコ「レンアイマンガ」第2話
カサハラテツロー「タンデムLOVER」#3
かがみふみを「なかよしにっき」
大朋めがね「Green.」episode:2
三谷知子「ニックネーム・アパート」
杉浦次郎「わんらぶ」わんこ2
きぎたつみ「ロンサム・エコー」中編
藤が丘ユミチ「エンドレスルーム」vol.2
磯本つよし「ガールズライド」#3
縞野やえ「ダーリン・ダーリン」後編
由多ちゆ「わたしの花」
ナヲコ「プライベートレッスン」#4
玄鉄絢「星川銀座四丁目」(話数表記なし)
玄鉄絢「caterpillar & butterfly」
 これまで「読み切りいっぱい」を標榜していた同誌でしたが、前号から既にそのきらいはあったとはいえ、隔月刊化によって収録作品の三分の二あまりが続き物になってますね。これには賛否両論ありそうで、一つの作品世界がじっくり掘り下げて読めるのは有り難いことですが、これまでの『つぼみ』の良いところだったと個人的に考えている、「百合」の中での多様さのようなものが損なわれないで欲しいところです。小生としては、ナヲコ先生の作品がより高頻度に読めるということで勿論大歓迎です(笑)。

 それでは例によって個別作品の感想を、思いつくままいくつか簡潔に。簡潔にとスローガンを掲げて簡潔になった試しがあんまないのですが・・・努力します。



・コダマナオコ「レンアイマンガ」
 お洒落なマンガを書くけど本人は真逆な黒井先生と、そのお洒落なマンガにあこがれている編集者ハルカの物語の第2話。人生プランは孤独死(!?)とネガティヴ思考な黒井先生を、ハルカは取材を兼ねて気分転換に引っ張り出しますが、そこは黒井先生超アウェー戦な六本木ヒルズでした。てなわけで遺憾なくアウェーぶりを発揮する黒井先生でしたが、最後はハルカとの心の距離がぐっと縮まったようで、期待通りおかしくも心楽しく読めました。
 今回はハルカが、よりよい作品を描いて貰うためにと、黒井先生の旧作のネームを探そうとするシーンがあり、今後も話が膨らみそうです。続きがますます楽しみ。

・かずといずみ「めとらば」
 vol.6 の感想では、今回は音楽関係のマンガが多いなあと音楽繋がりで三本の感想を書きましたが、その伝で云えば vol.7 は「作家」ものが多いといえそうです。
 で、上掲「レンアイマンガ」に続き、本作も作家が中心キャラクター。恋愛小説が大当たりした藤沙々先生、忙しいので「お嫁さん」を派遣するという女性向け家事代行サービスを頼み、やってきた小桃ちゃんは和服にエプロンの家事優秀な日本美人(美少女)でした・・・ん、これは「女中もの」の新パターンでしょうか。作家と女中といえば当ブログでも縷々取り上げた(こことかこことか)『木造迷宮』が思い起こされます。しかし藤先生は『木造~』のダンナさんと違って超売れっ子で、多忙のあまり小桃ちゃん(実は文学少女)に小説プロットの編集なんかまで投げてしまうようになって・・・といろいろあって後編へ続く。
 率直な感想としては、話の進展がちょっと急すぎる感じがします。登場した時は黙々と家事をこなしていた「お嫁さん」だった小桃が、あっという間に秘書どころかゴーストライターになってしまう感じで、前後編構成ならそのあたりの変化をもうちょっと丁寧に描いて欲しかったと思います。とはいえ、これも後半を待ってその構成の意味を考えるべきだとは思います。

・三谷知子「ニックネーム・アパート」
 これが「作家」ものの3本目。作家志望の女の子が、自分が引っ越してきたアパートの住民に、姿は見えねどその行動からニックネームをつけていたところ、隣人の女性が訪ねてきて、さて彼女はどのニックネームの人なんだろう? という、人情長屋もの? で、絵もお話もすっきり楽しめます。然し、登場人物が女性同士である方が、長屋的人情が色恋沙汰でないものとして受け取れる分、作品としてのまとまりが良いかもしれません、というのは果たして「百合」というジャンルを軽んじていると取られるのでしょうか。

・水谷フーカ「ロンリーウルフ・ロンリーシープ」
 毎度楽しみな水谷フーカ氏の作品ですが、いよいよ水谷氏も続き物を始めました。病院の外来で偶然、同姓同名で怪我の内容も部位も一緒で、おまけに生年月日も一日違い、という偶然から出会った、ガテン系バイク乗りのお姉さんと、髪がふわふわ可愛いタイプとの二人。お互いに友達になろうとして、でもそのきっかけを掴めなくて、どちらも携帯サイトの星占いを見て行動を決意するのですが、誕生日一日違いだから実は同じご託宣を受けているわけで(笑)、そこのすれ違いが微笑ましいです。
 今回は、女の子の友達がいないせいでこの出会いに大喜びのガテン系お姉さんが主に描かれていましたが、次回はもう一人の方がどう描かれるのか楽しみです。

・きぎたつみ「ロンサム・エコー」
 新任女性音楽教師の律姉さんが、宛がわれた準備室に行ってみたら謎のバイオリン弾き少女が既に居候していた、というお話の第2回。今回はバイオリン少女の正体がある程度明かされましたが、それ以上に律姉の大きな謎が浮かび上がり、ますます謎が膨らんで次回に続く。「前編」「中編」と来たからには次回で一区切りの筈ですが、それで終わってしまうのが惜しいような、ここまで膨らんだお話が次回で決着するのか心配な、そんな感じです。隔月刊になってよかった。vol.5 の話で登場した双子ちゃんも冒頭で登場したりして、それも個人的には嬉しいところです。もっといろいろ一連のお話が構想されているのかも。

 ・・・うーん、例によって長くなる一方ですね。書く方も読む方も面倒でしょうから、なるべく短く書きたいんだけど・・・

・杉浦次郎「わんらぶ」
 まさか続くとは思いませんでした。

・藤が丘ユミチ「エンドレスルーム」
 これも「まさか続くとは」でした。窓のない地下室のスイートルームのあるホテルのお話。今回は、人を殺して追われているという人物が登場しますが、率直な印象では前作の方が良かったかな。今回、お世話係の女性は自分でいろいろ追われている人の心を救おうと努力するのですが、前回のように訳の分からない相手に戸惑いつつも惹かれていきしかも惹かれていること自体にまた自ら戸惑う、という話に比べると、真っ直ぐであっさりの印象になってしまったのかなと思います。

・カサハラテツロー「タンデムLOVER」
 これも個人的には「まさか続いているとは」なんですが、ネットで『つぼみ』の感想を検索すると人気のようです。うーん・・・突っ込むようなところじゃないと思ってはいても、一応二人乗り「戦闘」ロボットであるところのタンデマインの乗員養成学校を舞台にしているからには、もそっと「戦闘」に適してないと。vol.5 で、せっかちとのんびりの二人の乗員が進むか停まるかで口論してた話があったりして、今回の話もそういうところがありますが、軍隊ならどっちかが上官とか先任とかで指揮決定権を持ってないとおかしいですね。愛で行動を決定する軍隊・・・『カタロニア賛歌』か?
 他にもいいたいことは山程ありますが、「百合」読者の嗜好とずれていることは自覚してますので今回は自粛。

・かがみふみを「なかよしにっき」
 かがみふみを氏は『つぼみ』初登場ではなかったかと思います。かがみ作品の感想は当ブログでも前に書いたことがありましたが、小生は、どっちかというと「加賀美ふみを」のペンネームの方が馴染みがあります(笑)。そういえば「加賀美ふみを」時代の成年コミックの中に、女性の女性への想いを描いたまさに「百合」な話があって、かなり印象に残っています。確か「手に入らない愛ならば」とか、そんなタイトルだったと思うのですが、現在の部屋の状況ではどこに埋まっているやら・・・。とっても可愛い女の子に、そうでもない(確かそうだったと思う、だから印象に残ってるんだと思う)親友の女性が、友人以上の想いを伝えようと悶々とするお話でした。
 で、『つぼみ』掲載作に戻りますけど、これはそんなドロドロしたフィジカルなところはなくて、人見知りで引っ込み思案の女の子が、友達の「押しの強い」タイプの女の子の下の名前を呼んだことがなくて、でも友達だったら呼んであげたくて、そんなところで悩んで・・・てお話。かがみ氏の作品らしく爽やかですが、爽やかすぎて印象がちょっと弱いかも知れません。それは上に挙げたように、かがみ氏の「百合」な読み応えのある作品を以前に読んでいたために、もっと歯ごたえのあるものを無意識に期待したからなのかなあ、と自省します。

・ナヲコ「プライベートレッスン」
 もう4話目ですね。女子高生のたまこちゃんが年上の従姉のとりこ姉さんのことを「好き」になってるお話、前回とり姉の先輩(羽田=はね先輩)の演奏会に無理くり着いていって、自分の知らないとり姉と先輩との関係を知ったたまこちゃん、今回はネット検索ではね先輩の連絡先を知って、メールを送ってはね先輩と直接対面、大学時代のとり・はね関係を聞きます。そのエピソードそのものは本誌をお読みいただくとして、大学時代の太っていたはね先輩は、それはそれで太ましさがとてもかわいらしいですね。それはともかく、人を「好き」になるということのややこしさ、「好き」という特別な存在でありたいから、他の特別な絆を持っていそうな人が気になるという心の揺れ、などと文章化するとややこしいことこの上ないことが、マンガという形でダイレクトに伝わってくるのは嬉しいことです。
 かがみ作品で「相手の下の名前を呼ぶ」ということが人間関係のステップとして大きく扱われていた訳ですが、この「プライベートレッスン」4話でも、大学時代とり姉ははね先輩のことを最初「羽田先輩」と呼び、はね先輩はとり姉を「鳥子ちゃん」と呼んでいたのが、演奏を共にして距離が縮まると、それぞれ「はね先輩」「とりちゃん」に変わってますね。呼び方って大事ですね。ちなみに、この二人を引き合わせた今井先輩(男)は、それぞれこの二人を「羽ちゃん」「鳥ちゃん」と呼んでいますが、微妙に表記を変えているところが男女の差なのかどうなのか。

 ところで、ナヲコ先生のツィッターを見ていたら、本作に関してちょっと気になるコメントがありました。
10:37 PM Aug 9th
なんか届いてた http://twitpic.com/2d435g
10:39 PM Aug 9th
写植間違いがあるんだお(´・ω・`)←誤植とも少し違う
10:40 PM Aug 9th
完全に打ち合わせミス…。こんなことあるんだな。「わかってるようっせーしつこいっ」ってお互い思うくらい確認し合ってもいいってことだな
 何だろう、気になるなあ・・・何度も読み返してみましたが、確かに「誤植」はなさそうです。さっき書いた名前に関する微妙な表記の差なのか、そういえば名前といえば、はね先輩がたまごちゃんを呼ぶ時、「たまご」とカギ括弧がついているコマとついてないコマがあるのですが、それの不一致のことかな? とまれ、気になってしょうがありません。

※追記:写植間違いの件について、ナヲコ先生のブログで説明がありました。カギ括弧の有無のことだったそうです。多分、大部分の読者は気にしないと思いますが・・・。

 さて、全体を通していえば、今回は今までと比べちょっと物足りない感があったのが正直なところです。そう思ってしまう理由を二三考えると、隔月刊化に伴ってか続き物が増え、途中で切られている話が多くなったのが一因かと(勿論続き物の途中でも、その回自体でしっかり纏まっている作品もありますが)。新たに読む人にとって取っつきにくくなるかも知れないし、読み切りと続き物とのバランスは一考の余地があるかも知れません。『百合姫』なんかと比べれば、いろいろなテーマや切り口の作品がある、という良さはなおあると思うので、新規の人に親切であって欲しいと思います。
 あと、個人的な物足りない感の原因としては、関谷あさみ氏の作品が載っていなかったこともあるかも。そういえば、第1話・第2話と来てこれもてっきり続くんだと思っていた鈴木有布子氏の作品も載ってませんでしたね。更に玄鉄絢「星川銀座四丁目」が、お色気(?)ネタ一発の3ページしかなかったのも一因かも。単行本でお忙しかったのでしょうが・・・そういえば単行本『星川銀座四丁目』の宣伝が今号の314ページに載っていますが、そこの表紙イラスト(多分)の左端部(おそらく単行本では表カバー折り返しあたりになるんじゃないかと思う)に描かれている、高架橋上を行く電車の絵が非常に残念な出来で(vol.2 の相鉄10000系は綺麗だったのですが・・・)、高架橋・軌道・車輌のバランスが全く崩れており、複線鉄道ではなくモノレールの複々線みたいに見えてしまうのは遺憾です。これもまた、女の子を可愛く描く技法はこれまで膨大な試行錯誤と積み重ねがあるのに比し、鉄道はそうじゃないんだということでしょうか。磯本つよし作品のバイクと比べても一入そう思われます。

 うーむ、結局長くなりすぎた・・・無駄に細かい話が多いし。とまれ、いろいろ文句は書きましたが、「百合のつぼみ」らしく読んでいるひとときはこの世の「憂いを忘れる」ことのできるシリーズではあります。次号が2ヶ月後に読めるのは楽しみです。

※追記:続巻の感想はこちら→vol.8 / vol.10 / vol.11 / vol.12

※更に追記:友人のたんび氏が本書の感想をものされましたので、是非ご一読下さい。
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by bokukoui | 2010-08-10 23:59 | 漫画