アサミ・マート『木造迷宮』4巻・別館 略感


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 1巻(正確には巻数表記がありませんが)そして2巻と当ブログで過去に感想を書いて(おそらくは他の誰もが考えないような茶々を入れつつ)参りました、一軒家で「三文作家」の独り者のおっさん(ダンナさん)と割烹着姿の女中さん(ヤイさん)とが暮らす日常を描いた、アサミ・マート『木造迷宮』シリーズですが、順調に読者を増やしていったのか、4巻に加えて別巻ならぬ「別館」まで発売になりました。・・・ん、そういえば3巻は今年の3月に出ていたんですね。小生も買ってはいたけれど、秋葉原で統一協会に出くわした一件とかにブログの内容が取られていたりして、感想を書くのを逸したと思われます。
 もっとも感想を書かなかったのは、3巻はヤイさんの過去篇という大きな山はありましたが、シリーズとしては順調に前からのコースを進んでいる感でした(決してマンネリって意味ではなく、読んでほっと出来るということです)ので、新たに何か書こうと強く思わなかったからかもしれません。その点、今回は2冊出ているし、傾向としてもイレギュラーなところがあるので、簡単に一筆しておきたいと思います。

 今回2冊同時発売になったうち、4巻の大部分は『月刊COMICリュウ』連載分ですが、4巻には『木造迷宮』のプロトタイプになったという掌編「ネコとコロッケ」が収録されています。2000年の作品だそうで、絵のタッチが今と結構違っていますが、ダンナさんとヤイさんの基本的な設定は本編と共通しているようです。で、プロトタイプとしてもっとも大きな本編との違いは、ヤイさんの大きな「訳あり」設定です。
 それが何かは本書をお読みいただくとして、僅か8ページの短編ですからその「訳あり」については何も説明はなく、しかしそれがじっくり余韻をもたらす、なかなかの一篇です。でもアサミ・マート氏は、この「訳あり」設定を当初本編に盛り込もうとされていたそうで・・・結果的にはそうでなくて良かったといえそうですが、当初アサミ・マート氏が考えていたことと、『リュウ』で『木造迷宮』を読んだ読者の求めていた世界との間に、微妙な差があったところが面白くもあります。

 『別館』ですが、こっちはアサミ・マート氏が同人誌で発表していた方の『木造迷宮』です。同人まで手を出すことが滅多にない小生も、アサミ・マート氏の同人誌は数点入手していましたが、さすがに全部集めるのはいろいろ大変なので、このような形でまとめられたことは大変嬉しく思います。
 で、こっちの主人公の女中さん・百目さんは、表紙の絵の通りヤイさんとはいろいろ対照的です。家事の手腕に独り者のダンナさん(こっちはロボット研究所の所長らしい)こそ共通していても、見た目の違いに加えて、ダンナさんをダンナさんとも思わぬ尻への敷っぷり(そして嬉々として敷かれまくっているダンナさん)、一升瓶を抱え込む酒豪(ダンナさんは飲めません)、街の流通の七割を支配する闇の勢力?も震え上がる戦闘力などなど。でもいつも無愛想なようでいて、時折見せる異なった表情が可愛らしいのです。あ、でも、激怒した時の表情は怖いですね、歯がサメみたいになってます(笑)。
 日常のほんわかした情景を描く「ヤイさん」の方と比べると、こっちは結構ドタバタコメディ色もあって、本編とはまた違った楽しさがあります。そして『リュウ』に掲載された、百目さんとヤイさんの夢の(二重の意味で)共演の一話も『別館』に収録されています。両者の対照的なところと共通したところとが同時に味わえる一篇ですが、今後もこういうお話は描かれるのかな?

 まとめて考えると、「訳あり」ヤイさんとか百目さんのような割と変化球なキャラクターではなく、ど直球というべき(本編の)ヤイさんで『木造迷宮』が『リュウ』誌上に掲載されはじめたことは、読者を広げる上でやはり良かったのではないかと思います。ま、女中はともかく「メイド」方面じゃあらゆる意味で「変化球」が「本流」ということになっておりますが(笑)、女中さんの世界は本作のお陰でそうならなかったことは慶賀の至り・・・といっていいのか、まあ個人的感興ではそう思います。
 で、今回4巻では、ページのざっと三分の一が、ヤイさんが学校に迷い込んで(?)セーラー服姿で大活躍(ブルマもあるよ! ちょうちんだけど)、という、ダンナさんがろくすっぽ登場しない、いわば「色物」に割かれていますが、今まで直球で積み重ねてきたものがあるからこそ、ありがちな「萌え」でない味わいがあるのだと思います。そうなると、むしろここで百目さんが登場したりプロトタイプが公開されることは、作品の世界をより豊かにしても、しっちゃかめっちゃかにする心配はないわけですね。
 4巻と別館の巻末を見ると、気の早いことに5巻が「来春発売」などと告知されてますが、この調子で本道を着々、でも時々道草しながら、今後もお話が続くことを期待します。アニメ化もあるかも?

 と、ここまでアサミ・マート氏と『リュウ』編集部が展開してきた作品群を賞賛して参りましたが、それだけで終わる当ブログではありません。スッポンのように執念深く、例の疑問点をも追求し続けます。
 その疑問点とは何か。
 それは当ブログの1巻(当時は巻数表記はなかったんですが)の感想記事「アサミ・マート『木造迷宮』~建築学的にこれってあるの???」の中で述べた、ダンナさんとヤイさんが暮らす家の間取り図の矛盾です。1階と2階で通し柱が立てられそうにもない謎の構造、あり得ないほど広い廊下や階段。大体漫画本編とも矛盾してるんじゃないかと。
 そのことを小生、当ブログ上で1巻発売時に指摘しましたが、2巻になってもなお改善は見られませんでした。ところがそれが、多少の変化が見られたのです。
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『木造迷宮』4巻目次ページの間取り図

 1巻の間取り図とご比較下さい。共にスキャナを使っていないのでお見苦しい点はご容赦を。
 で、どこが変わったかといいますと、図に赤で示した箇所ですが、まず2階の無駄な廊下が廃止され、その分部屋が広くなりました(この廊下については該記事コメント欄でも「やたら不自然に見える」との声がありましたが、さすがに編集部も同様に思ったようです)。ヤイさんが日曜大工で広げたのか(百目さんならやりそう)、不動産屋のサエコさんが業者を入れたのか?
 もう一つは1階の玄関周りで、「ゲタ箱」だった箇所が多少仕切り幅を変化させて「納戸」になっています。確かにあんな奥行きの深い(畳の大きさから見て1.5mはある)下駄箱はなさそうですね。

 しかし、しかし。肝腎の1階と2階の柱の位置がずれているとか、縁側が家の中にあるとか、廊下・階段の幅などの点は今なお変わっておりません。これは5巻発売までに、あるべき間取り図を作成して編集部に送りつけるしかないのか。
 なお一つ補足しておくと、この2点の変化は、実は3巻の時に既に起こっています。3巻の間取り図と4巻の間取り図は基本的に同じですが、4巻の間取り図では階段の途中に小さな字で(上の図では潰れて読めません。すみません)「家事百景」とありますが、意味はよく分かりません。おまけイラストの「家事百景」とも特に関係なさそうだし・・・?
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by bokukoui | 2010-10-14 23:59 | 漫画