『英国メイドの世界』関連の蛇足 附:近況

 今月も例によって沈滞しており、上旬はブログ更新をする気力もなかった有様で、その後もしばらく間が開いております。所用に追われても進まず、『COMICリュウ』の先月発売号を読む気力もないまま次号の発売日が来てしまいました。
 そんなここ一月の症状には、尾籠な話ですが下血が続いておりまして、そんな中でも気力を奮い立たせて某学会の大会に行った(ここで聞いた話は非常に興味深いものが幾つもありましたので、当ブログでも紹介できれば・・・と思うのですが)ところ、小生が大変お世話になっている某大学のT先生に久しぶりにお会いしました。T先生に近況を申し上げたところ、先生はにこにこしながら「昭和63年の流行語大賞ってやっぱ『下血』だよねぇ~」と仰いました。
 斯様に、余人を以て代え難いセンスを持った師や朋友に恵まれた自分は、幸せ者だと痛感しました。

 それはともかく、先日の「久我真樹『英国メイドの世界』発売を祝し11月11日付けで一筆」の蛇足記事というか備忘を書いておきます。まあ下血並みに、小生の心の中のわだかまりを放出したに過ぎないものです。



 本記事は、アクセス解析を見て気がついた、先日の「久我真樹『英国メイドの世界』発売を祝し11月11日付けで一筆」に関するツイッター上のやりとりを備忘として記録しておくことが主な趣旨です。ツイッターという奴は、その人物の発言がかなり直接的に表現されるという点では、一次史料に準じる性格を持つにもかかわらず、少なくとも現時点では、その過去ログを追跡・閲覧することが極めて困難という、まったくもって怪しからん特徴を有しています。おまけに他人のツイッターまで混じると訳が分からなくなってきて・・・。将来の歴史家は延々と研究対象人物のツイッターの過去ログを追っかけ続けるのでしょうか。その結果は労力に成果が見合うのか疑問です。まだブログとかの方が調査にはよさそうですね。
 話が逸れてきました。とりあえず時系列で並べておきます。

 まず久我さんのツイート。
『英国メイドの世界』の刊行に際して、墨東さんのメイドブーム全体の考察(http://bokukoui.exblog.jp/14964245/)は、ブームを長年見続けてきた方だけに深く、この界隈の考察では学ぶものが多いです。
11:24 PM Nov 13th
 こちらについては、拙稿をご紹介いただき、まこと過褒にあずかり光栄です。
 で、それに、やん(skd7)氏より、斯様なリツイート(ていうの?)が寄せられました。
人文系ブログは定性で語ることになり見える範囲、すなわち主観になりがち。これをどう定量的に明確に見せることができるかが、メイド喫茶を語る上の課題と思っている。 QT @kuga_spqr: メイドブーム全体の考察http://bokukoui.exblog.jp/14964245/
12:49 AM Nov 14th
考察と分析の違い。マーケティングからのアプローチなど、まだまだやれることはある。外部も内部も分析はまだ。ブームの終焉は帝國メイド倶楽部のようなイベントであり、メイド喫茶業界では同人レベルからビジネスレベルへ。これはディアステも含まれるし、りーみんですら取り入れて考える必要がある。
12:53 AM Nov 14th
 小生はこのやん氏のお名前は今回初めて伺いましたが、「秋葉原・全国メイド喫茶(メイドカフェ・コスプレ)情報」を扱う「外神田7丁目のキセキ」というサイトを運営しておられ、そこでは「web媒体として秋葉原、オタク向けカフェの情報を配信」しておられる由です。
 で、このツイートに久我さんはこう応えておられます。
@skd7 定量、おっしゃるとおりです。後日、私なりに喫茶ではないところは定量化しようと思っていますが、やり方はなんとなく見えているとはいえ、できていないのは手間が大きすぎ、個人では難しいのかもと。
6:41 AM Nov 14th
今のところ、喫茶含めて全体のメイドブームを定量的に語れる人は、既にいるのか私には分からず、また語るには何が必要なのか、その作業量を行う人が今の環境下ででてくるのか、というところで興味があります。
6:44 AM Nov 14th
 これに対し、やん氏はこう返します。
.@kuga_spqr 定量だと社会学や史学よりも経営学的なアプローチの仕方の違いで、個人でもできるかと思います。現に自分が秋葉原情報のモバイルサイトを作るのにキャリアに提案した時はメイド業界含め相当の資料を用意しましたが、個人で集めたデータで作っています。
9:15 AM Nov 14th
マーケ的なアプローチは、メイド喫茶が何をしてきたのか追うのではなく、メイド喫茶の業界の「どうして」の理由を外部環境と内部環境に分け、論理的に解明していくもの。なぜブームがきた?まだ新しい店舗?客引きするのは?どうしても内部環境重視したくなるのを外部環境から見ていく必要がある。
9:23 AM Nov 14th
 これに対し、久我さんが以下のように返信します。
@skd7 レス、ありがとうございます。経営学的なアプローチがイメージできないので、私はその方向の素養が無いようです。私は私の得意なことをするのがよいようです。とはいえ、いつか、やんさんの作られた資料を拝見して学べる機会があれば、と思います。
8:21 AM Nov 15th
 だいたいやりとりはこれで終わりのようです。

 というわけで、先の拙稿に「人文系ブログは定性で語ることになり見える範囲、すなわち主観になりがち。これをどう定量的に明確に見せることができるかが、メイド喫茶を語る上の課題と思っている」というご批判をいただきました。で、小生のここんとこの不調のせいでひがみっぽくなっているのか、ご批判をありがたくお受けします、ではちょっと済まない違和感を感じたので、蛇足を承知で一筆記しておきます。
 これは個人的偏見といえばそれまでですが、この一連のやりとりのやん氏のコメントは、ツイッターというメディアの問題点が目立つというか、言葉の定義が曖昧なまま話が進んで、しかも字数制限のためか文章の意味も分かりづらいものとなっているように思われます。それ故の誤読かも知れませんが。

 あんまりくだくだしく書くのも何なので、以下箇条書きで感じた疑問点を列挙します。

・そもそも拙稿は「メイド」を巡る近年の日本の状況について、歴史上のメイドとの関係を軸に考えたもので、その中で例として(極めて重要な例ではあるが)「メイド喫茶」を取り上げたもので、「メイド喫茶」そのものについての議論ではない。

・文化的なトピックとしての「メイド」はそもそもコンテンツの一類型であって、そのようなトピックの波及や変遷を追うには定量的把握は困難、定性的なアプローチがどうしても必要。「メイド喫茶」マーケティングという特定の分野においては定量が重要であっても、それは「メイド」という文化的トピックのあくまで一部。

・やん氏はご自身のサイト「二次元コンテンツを中心としたオタク文化をベースにしたコスプレ系飲食店を取り扱います。外神田7丁目のキセキ全体にいえることですがオタク文化がベースというのが肝となります」と述べられているが、上掲二点と照らし合わせても、「二次元コンテンツ」や「オタク文化」との関連性を説くには定性的なものが重要ではないか。

・久我さんとやん氏のやりとりもこの辺齟齬があるのでは。久我さんは「経営学的なアプローチがイメージできないので、私はその方向の素養が無いようです」というものの、最近のブログで「英国貴族の屋敷の分業・専門化した業務フローを可視化する、という伝え方」といったアプローチを述べておられる久我さんが、経営(学)的なアプローチに疎いとは考えられない。これはむしろ、やん氏のアプローチがマーケティングに特化しており、広い意味で経営的な久我さんのそれが、特化した範囲と重なりが少なかったというだけのことではないか。

「定量だと社会学や史学よりも経営学的なアプローチの仕方の違いで、個人でもできるかと思います」この文章の意味が不明確。社会学や史学より経営学が個人的作業に向いているということか? それは全く同意できない。それを措いても、調査対象と個人の能力とを考え合わせ、もっともアプローチしやすい視角を考えればよいのである(それ自体マネジメントではある)。

「外部環境と内部環境」がこの場合何を指すか不明確であるが、いかなる環境について検討するにせよ、その環境がどのように形成されてきたのかという視点は必須ではないか。

 だんだん重箱の隅突きになってきたのでこの辺でやめておきますが、結論として、小生がもにょっているのは「人文系なんて定性的で主観的でダメ。定量的なマーケティングでこそできるのだ」といわんばかりのやん氏の主張に、人文系の院生としてむかっ腹を立てているということでしょう(苦笑)。一方やん氏がそんなことをお書きになったのは、「メイド喫茶」の行き着いた先が「今田なお」などと書いたあたりが、氏の逆鱗に触れてしまったのかも知れません。
 以前当ブログで、青木栄一先生の議論を引用して、「定量化できる=『科学的』ではない」ということを記しておきましたが、小生が今までそのような分析手法で成果を上げてこられた方の影響を強く受けているということも、一因だろうとは思います。もっとも皮肉にも小生のやってること自体は、今までもっぱら定性的に語られてきた(例:原武史)ことを、定量的な視角を入れてみようということではありますが。

 最後に、ほとんどちゃぶ台返しみたいなことですが、有り体に言ってしまえば「メイド喫茶」という業態自体が、経営学的な分析やマーケティングで全てをフォローし得ない、文学や社会学や精神医学!? なんかの方が得意そうな、そんな性格を持っているのではないかという気がします。ニッチもニッチなこの業態ですが、秋葉原で数多くの「メイド喫茶」がひしめき合っている割に案外潰れていないのは、「メイド喫茶」内部でもかなり細かい棲み分けがあるからでしょう。そんなニッチの、更に細分化された微妙な業界自体、秋葉原のような特異な空間でこそ成立し得ているわけで、そこには不合理なこだわりや狂気に近い信念などによって左右される要因が、相当にあるのではないでしょうか。
 もうちょっと平たく書けば、何か資金を「儲かる」事業に投資しようと考えた時、「メイド喫茶」と言い出すこと自体が、経済的合理性で説明しきれないんじゃないか、ってことです。まだフーターズの株でも買った方が良さそうな。でも、経済的合理性で説明しきれないからこそ、人の世は生きるに値する何かがあるのだと、小生は経済的合理性抜きに信じております。
 ちなみに本記事冒頭に書いた、下血=昭和63年度流行語大賞説を唱えたT先生は、実は日本近代経済史がご専門の先生なのですが、そのT先生が以前、一杯飲んだ勢いで「経済学は個人が経済的に合理的な行動を取る、という根本自体に問題がある」と仰ってました。

 良かった、近況ネタとちゃんと繋がった(笑)。
 メイド関係については、「今田なお」関係はもうちょっと追求してみたいと思っていますが、当分は・・・。まあ最近は、「それでも町は廻っている」のアニメの出来映えが結構良かったもので、こんな感じに「メイド」も定着していけば一番良いなあ、と思う次第です。

※コメント欄に重要な補足があるので、そちらもご参照下さい。
コメント中で挙げている過去の記事へのリンクはこちら→

[PR]

by bokukoui | 2010-11-19 23:57 | 制服・メイド