駅弁大会で思い出す鉄道とメディアの話~わたらせ渓谷鐵道とか

 起きたい時には眠く、寝たい時には眠れない上に、全身あっちこっちが痛い感じですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
 繰り言ばかりでもしょうがないので、時には珍しく時事的なお話でも一つ。

 先週から、京王百貨店で有名な駅弁大会が開かれており、メディアにもいろいろと取り上げられているようです。駅弁には余り関心のない小生ですが(切符代に有り金注ぎ込んで旅行中は粗食に耐える鉄道趣味者なんてのは良くいます。小生がそうだというわけでもないですが)、ふと思い出したことがあったので思い出すままに書いてみます。
 で、駅弁なんですから、基本的には各駅付近に店を構える業者さんが駅弁を携えて乗り込んできているのですが、小生が知る限り一つだけ、鉄道会社直営(子会社じゃなくて)の駅弁なるものが存在しているのです。
 それは北関東の第3セクター、わたらせ渓谷鐵道(旧足尾線)と、その駅弁・やまと豚弁当です。リンク先のように、駅弁大会公式サイトでも取り上げられており、それなりに話題になっているようです。ちなみに今買うと、わ鐵オリジナルデザインの手ぬぐいと、片道の切符がおまけについているそうです。
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わたらせ渓谷鐵道「やまと豚弁当」の
包み紙(裏が観光案内になっている)とおまけの手ぬぐい

 というわけで、駅弁大会に行く筈もない(仮に時間とお金と気力体力があっても行かないでしょう)小生が、どういうわけかそんなグッズを持っているのですが、それは昨年都内某所で「観光と鉄道」なるお題の学会がありまして、そこで手に入れたものです。特別講演で、わ鐵の社長さんが講演をされ、折角だからとその学会の昼食の弁当が「やまと豚弁当」で、おまけに手ぬぐいまでついていたというわけ。ところが、学会の申し込みハガキに「弁当要りますか?」という項目があったのですが、それが駅弁なんて一言も書いてなかったので、小生はどうせ普通の仕出し屋の弁当だろう、と思ってスルーしていたところ、当日臍を噛む羽目になりました。・・・が、世の中よくしたもので、撤収時に余分があったのを頂戴してきた次第でした。

 さて、本題ですが、その社長さんの特別講演が大変面白かったので、いつか当ブログでまとめを掲載しようと考えていたものの、昨今の不調から思うに任せず、そうこうしているうちにメモが行方不明になってしまいました。然しこのまま何も書かないのも何ですし、駅弁大会を報じるテレビのニュースを見て思い出したことを、つらつら書いてみたいと思います。記憶に頼っているのであやふやなところだらけですが。




 さて、講演をなさった樺澤豊社長は、群馬県庁で土木畑を歩きのち観光に関わったという経歴だったかと思います。わたらせ渓谷鐵道は終点の一駅だけ栃木県を走り、残りは群馬県を走るので、群馬県の関係者が社長に就任するわけですね。ちなみに一駅だけとはいえ栃木県を走っているので、栃木県も少しは株を持っていたりするはずですが、そういった県をまたいでいることによる経営・事務上の不便は特にない、と仰っていたように思います。
 で、わたらせ渓谷鐵道もご多分に漏れず乗客は沿線人口共々減少傾向にあり、経営は困難を極め、廃線の噂も囁かれたりしてます。樺澤社長は、やはり鉄道があるということは地域に取ってかけがえのない財産で地域の核になる、と経営再建に取り組まれているそうです(この辺うろ覚え)。地域の支援をとりつけ、トロッコ列車で観光客の掘り起こしを図るなど、様々な施策の一環として駅弁もあるわけで、駅弁大会に出店するのみならず、学会で講演なんかも引き受けられた(ついでに駅弁も売り込んだ)わけですね。

 そんなお話の中で記憶に残っているのが、「メディアの活用」でした。
 これは、メディアに取り上げて貰うことがこのような鉄道にとっては何より大事であり、そのためには社長の自分も手間をいとわず、取材に際しては自分が陣頭に出て最大限の便宜を図り、繰り返し利用して貰えるように努力しているそうです。その成果あって、昨年はアサヒビールのコマーシャルに登場したそうですが、CM出演というのはこれがなかなか効果があるようです。何でも樺澤社長曰く、最近は経費節減なのか海外ロケするCMが減り、国内ロケでも北海道だの沖縄だのと遠隔地に行くのも大変と、わたらせ渓谷鐵道あたりがちょうど狙い目らしいそうで。
 で、ここからは小生の勝手な推測ですが、メディアに登場するというのは、観光客呼び込みにも効果があるでしょうが、まず何より存在を埋没されないということで、地域の支援にもやる気をプラスするのではないかと。地域のシンボルのような存在になれれば、その維持に公的な支援をする理解も得やすくなると思われます。
 実際、わてつのサイトには、「テレビ・雑誌掲載情報」というコーナーが設けられています。講演の時は、確か昨年1月から10月くらいで、400回(数字はあやふやですが、「へえ」と思うほど多かったことは確か)くらいもメディアに登場したと語っておられたかと思います。

 ここで話が変わりますが、鉄道とメディアの関係について、さる機会に(この集まりの話もそのうちアップしようと思っていたのですが、これまたメモが・・・)電通の方のお話をちょっと伺ったことがありました。
 で、そこで聞いたのが京王電鉄の話でした。最近はどこの鉄道会社も概してテレビや映画の撮影に協力的なようですが、一昔前まではそうではありませんでした。そんな時代でも例外的に強力だったのが京王で、そのため同社の電車はしばしばテレビのドラマやCMに登場することになりました。
 すると、それが思いがけない効果を生みました。それは、東京以外の地域に住む人々に、「東京の電車=京王」というイメージを、少なからず植え付けたことでした。それにより認知度が上がり、沿線の価値も高まったといいます。
 有り体に言って、京王は大手私鉄の中で、比較的地味で知名度の低い会社でした。ある意味京王は世界一の会社ですが、「1372ミリゲージの鉄道中世界最大の輸送人員を有する」といっても、凄いのか変なのか普通の人には分からないでしょう。鉄道マニアにも分かりません(苦笑) まあここでの比較対象は、有料特急のある小田急・東武や、グループの展開が広い東急・西武なんかと比べて、ということです。

 その話を伺ってなるほど、と感心した小生、電通の方にこう聞いてみました。「電通のような広告代理店にとって、鉄道会社というのは顧客としてどれくらいの重みがありますか?」つまり、大企業の中では鉄道会社は、メディアに登場する(CMを打つ)頻度が、企業の規模の割にはあまり高くない感があるということにふと思い至ったのです。
 その回答はこうでした。

 「鉄道会社って、顧客というより、広告して貰う方だから」

 この答えには意表を突かれましたが、考えてみればなるほどです。つまり、鉄道自体が、中吊り広告や駅の看板なんかによって、一つのメディアとしての役割を果たしていたわけですね。ので、広告会社にとっては、お金を貰って広告を作る相手というより、お金を払って広告を載せて貰う相手と位置づけられていたようです。
 しかもその効果はなかなか大したもので、東京地下鉄の中吊りなんかはテレビのスポットCMに次ぐ重要なものと広告業界で評価されているそうです。考えてみれば東急エージェンシーはじめ、鉄道会社が広告会社を子会社に持っている例って、結構ありますね。そも歴史を遡れば、その昔の東京発の夜行列車の荷物車は東京版の新聞を満載して地方に届ける役割を持っていて(だから大ニュースがあると発車が遅れたりしたそうな)、メディアとしての役割を物理的に鉄道が担っていた時代も長かったわけですね。

 ただ、もしかすると、そのように「宣伝する側」だったから、鉄道会社はメディアによって自身を広告することにあまり頓着していなかったのかもしれません。今まではそれで別に問題なかったわけですが、地方のローカル鉄道でなくても、これからはそのあたりにもっとセンシティヴになる必要があるのではないかと思います。
 鉄道のような交通インフラの整備・維持には多大な費用を要しますが、日本ではどうも独立採算を強く求め、公的な資金の投入を不要以上に嫌悪する傾向があるのではないかと思います。小生の持論では、日本の鉄道、特に大手私鉄が経営的に世界に稀に見る成功を収め、また戦前から高度成長に至る都市の発展と乗用車の普及がずれたために都市がより強く鉄道に依存したなどの条件により、結果的に独立採算出来てしまったことが、そのような思い込みをもたらしたのではないかと考えています。
 然し、近年はその風潮も一部変わってきているように思われますが、であればこそ、自己宣伝もこれからはより重要になって来るであろうと思われます。そういえば昨年だったかに、電車による新聞輸送も終了したそうですし、鉄道もメディア「として」の役割以上に、メディア「への」働きかけを、様々な形で行っていくことが求められるのであろうと思います。それは地方でも、都市でも、重点の差はあっても傾向としてはおそらく同じだろうと思われます。そしてメディアへの働きかけによって、結局鉄道のメディアとしての役割も保たれることになるでしょう。

 思い出しついでに、やはりその席で聞いた、鉄道のメディアへの働きかけの重要性を分かっていないと思われる悲しむべき例を挙げて、この雑多な文章の締めくくりとします。
 それはJR東海関係者の発言だそうです。JR東海の人々は何でも、書店の子供向け絵本・図鑑などの様子を眺めて、こう首を捻るのだそうです。

「なんで子供向けの『でんしゃ』『しんかんせん』の本は、
表紙が我が社のN700系ではなくて、
JR西日本の500系なんだろう?」

 それが分からない限りは、或いは分かっていてもなんとかしようとしない限りは、海外売り込みもうまくいかないかも知れませんよ・・・もちろんそれは500系が圧倒的に「格好いい」上に登場時は「世界一速い」電車だったからです。かつて2階建ての「グランドひかり」を追放し、近年は500系を追放して、ひたすら「ビジネス」客向け画一化に走ってばかりでは、その辺のアピールの重要性が見失われてしまうのではないかと思います。

 最後に、わたらせ渓谷鐵道の話をおまけに少し。以下の写真は小生が2年半前に友人に誘われて同鉄道を訪れた際のものです。
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わたらせ渓谷鐵道間藤駅にて(2008年8月撮影)

 わてつの社長さんの挙げた様々な活性化イベントの中に、線路の落ち葉掃除イベント、なんてのがあったように記憶しているのですが、小生が2年あまり前に訪れた印象では、もっと綺麗にすべきところがあるのではないかと思い出しました。上の車輌の拡大写真を以下に掲げます。
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 外板が大変に痛んでいます。これなら渋谷駅頭に転がされているデハ5001号の方がまだマシかも知れません。それだけ懐が苦しいのでしょうが、これも対外イメージ改善の一環ということで、今では改善されているものと思いたいです。
 もっとも、あのアイデアマンの社長さんなら、「わてつの車輌ペンキ塗りイベント」くらいやるかも知れませんね。それならハケ持参でやってくるマニアも結構いるかも。

 そんな車輌のペンキ代の一助になるよう、懐とお腹に余裕のある方は、駅弁大会に行って「やまと豚駅弁」を是非お求め下さい。今なら手ぬぐいと切符もついてます・・・って、わてつの出店は駅弁大会最終日までじゃないんですね。19日までですのでお急ぎ下さい、というところですが、読者の方のお役には立ちそうもないですね。すみません。
 当ブログ事態のメディアとしての役割が疑われそうな事態ですが、やはり駅弁は現地に足を運んでこそのもの、マスコミの宣伝に踊らされてイベントに行列するもんじゃない、とちゃぶ台をひっくり返して終わりにしておきます(苦笑)
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by bokukoui | 2011-01-18 23:59 | 鉄道(時事関係)