白酒(中国焼酎)の話つづき・「低度化」と「健康志向」と白酒の将来 

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外箱も立派な高級白酒・高級白酒・国窖1573
千代田区小川町の四川料理店・川菜館にて

 先日の記事、「池袋など東京の中華料理店での白酒(中国焼酎)の種類とお値段」の続きというか補足のような話です。
 前回の記事では、白酒には同じブランドであっても度数の高いものと低いものがあることを述べましたが、どうしてそんなことになったのか、それについてなど若干の補足をしたいと思います。



 で、先に結論を言ってしまえば、その要因は1990年代以降中国政府が「健康のため」と称して白酒の低度化を進めていること、消費者も経済成長の成果によって選択肢が多様化したせいかより度数の低い酒を選好する割合が増えたから、のようです。
 実はこのことについて、以前小生はネット上で詳細に複数回に亘ってブログに記されていた方の記事を見つけ、ブックマークしておいたのですが、今回引用しようと思って久々にクリックしたら、なんと消滅しておりました・・・。「有山随筆(中国あれこれ) http://blog.zaq.ne.jp/yuzan/というサイトで、現在も「新有山随筆」「有山随筆2」という同じ名前のブログがあり、内容や文体から同じ方の手になるものと推測されますが、残念ながら過去の記事の復活はしていないようです。このブログを書かれた方は、日中友好協会の方のようで、もしかすると旧ブログが消えたであろう時期からして、尖閣問題の余波でネトウヨどもの荒らしを受けたのではないか、と勘ぐってしまいます。思い過ごしであればよいのですが。
 「有山随筆」の一部が Internet Archives に残っておりますので、その中から白酒について述べている箇所の一部を抜粋しておきます。
 白 酒

 大概の日本人が中国の酒といえば紹興酒といい、白酒の名を挙げない。それは白酒のことをあまり知らないということもあるだろうが、知ってはいても白酒があまりにも個性的で、日本人の味覚の予想をはるかに越えているので避けているためではないだろうか。

 白酒は香りが強い。有名な山西省の「汾酒」や、陝西省の地酒である「西鳳酒」のように「清香」という香りのやさしいものもあるが、それでも日本酒などとは比べ物にならないほど香りは強い。ほとんどの日本人はまずこの香りにびっくりし、躊躇する。確かに慣れないうちはつんと鼻に来る。しかし慣れてくるとこの香りがたまらない。ワインは香りを大切にするようだが、白酒もワインと同じで香りが大切だし、魅力の一要素である。

 白酒が日本人に敬遠されるもう一つの理由はアルコール度数の高さである。私がいつも飲んでいるのはおおむね55度前後のものである。もっと度数の高いものもある。秦嶺山脈の山の中に商洛という町があって、そこが在所だという同僚があるとき「故郷に帰って来ました。地酒です」と言って白酒をくれた。名前は忘れたが度数はよく覚えている。65度であった。 
 
 天津の友人がお土産に持って来てくれた琅琊台という酒は70度だった。どちらも恐る恐る飲んでみたが香りも味もさわやかで、実においしかった。

 滄 桑

 中国では最近、ビールやワインが非常によく飲まれている。とりわけビールは人気が高く、その筋の統計によると昨年中国人が飲み干したビールの量は3931万キロリットルで6年連続の世界一だという。因みに日本の消費量は631万キロリットルとのことである。

 一方、白酒はと言えばその生産量は年間300万キロリットル前後、減少傾向である。2000年代初めには400万キロリットル以上も造られていた。白酒が大きな顔をしていた北の地方もビールに主役を奪われている。それで造酒屋さんは度数の低いものを作ったり、瓶の意匠に心を砕いたり、広告に力をいれたりと苦心惨憺しているようだ。

 度数で言えば最近は40度以下が主流で、私が愛飲している55度クラスのものはお店でも片隅に追いやられている。長年の白酒党としては少々寂しい。そこまでして消費者に媚びるな、という思いもあるが、商売をしている人はそんな感傷的なことは言っておれないのだろう。

 中国の本を読んでいると「滄桑」ということばがよく出て来る。「滄海桑田」(滄海変じて桑田となる)という言葉を縮めた語で、世の移り変わりの激しさをいう言葉である。西安の街はいままさに「滄桑」であるが、酒の世界もまたその様相である。
(2008年12月15日付)
 最盛期の中国ではざっと800万キロリットルもの白酒が生産されていたそうですが、今では半分以下のようです。
 この他に同ブログには、中国政府による白酒低度化政策を詳しく書いた記事もあったのですが、残念ながらそれは残っていないようです。代わりに、今さっき「白酒 低度化」でぐぐって見つけたサイトの中で、多少とも参考になりそうなものを挙げておきます。

 ・旭リサーチセンター・遼寧中旭智業有限公司「日本酒の中国市場進出の可能性に関する調査報告」
 ・中国酒専門ショップ酒中旨仙「中国出張記」
 ・永昌源の中国酒「中国最新お酒事情」
 ・料飲専門家団体連合会「山本祥一郎の酒情報 中国酒の概況」
 ・中国、食うぞ、飲むぞ「伝統を守り続ける太白酒の姿勢に拍手」

 で、本題の白酒の低度化について、以前「有山随筆」に書かれていたことの記憶や上掲リンクによって書くと、1990年代以降、中国政府が度数の高い白酒は健康に悪いとして、白酒メーカーにより度数の低い酒を造るよう指導?したのだそうです(形式が行政指導なのか法令による命令なのか懇談会的な場における談話なのか、よく分かりませんが)。それによって、50度を超えているのが普通だった白酒に、38度程度のものが作られるようになったといいます。
 しかし、長年の習慣というものは一党独裁国家でも容易に変えられなかったのか、白酒の低度化は政府の臨んだほどには進まず、繰り返し同様の指導がなされているようです。また、白酒は蒸留して作った原酒は60度以上あるのが普通で、もともといくらか加水し、熟成して調整し出荷していたものなので、じゃあ度数下げますと言って単に水増しすれば良いのかというと、それでは味や香りが悪くなってしまい、かえって技術的に難しいとメーカー側の不満もあったようです(政府には弱小メーカー淘汰の意図もあるのかもしれません)。消費者にしても、水増しした酒(おまけに中国の水道水の品質は・・・)を買わされて嬉しいわけがありません。
 でも、やはり繰り返しの指導が効いてきたのか、そしておそらくそれ以上に、豊かになってきた中国人の間に「健康志向」なるものが浸透してきたのか、最近は白酒の低度化がじわじわ進行し、またビールなどのもっと軽い酒に市場を蚕食されているのは、上に引用した記事にも見える通りです。

 上掲「有山随筆」では、白酒の低度化傾向に寂しさを表明しておられます。小生も前回の記事などで触れましたように、39度の孔府家酒はどうも・・・なように感じましたし、その工場で試飲した方のご感想でも同様のようです。按ずるに、白酒の命は香りなので、アルコール度数が低いとその香りの立ち上り方が弱くなってしまうのではないかと。
 そうなると、わざわざ白酒を不味い方向へ「改良」させ、その結果消費者が離れてしまう、という望ましくない方向に向かうことが懸念されます。

 日本語による中国食物史の古典というべき、青木正児『華国風味』(岩波文庫)を繙きますと、中国文人の中でも史上屈指の食通と讃えられる、清代の袁枚の著書『随園食単』の白酒(同書では「焼酒」としているそうです)に関する記述を、読み下して引用してあります(115~116ページ)。それを孫引き(同書には青木による訳書もありますが小生は未見)すると難しい漢字が多くて面倒なので(苦笑)、大雑把に現代日本語にしてみると、
「白酒を呑むのならば強いものがよい。私が思うには、白酒とは人間で言えばゴロツキとか矢鱈と厳しい警察のようなものだ。しかし、力仕事だとか強盗の捕縛だとかには、そういった連中でなければ務まらない。寒さを克服し、疲れを飛ばすには白酒に限る。豚の頭や羊のしっぽ、豚の丸煮などを食べるときは、白酒でなければならない」

のだそうです(あんまり正確さは保証しません)。なかなか袁枚先生、面白い言い方をしますね(笑)。
 とまあ袁枚も、白酒は強いのがよい、としています。なるほど、あまり上品な感じの飲み物では確かになさそうですが、しかし文人で食通の袁枚はそれを退けるのではなく、白酒の良さとそれを引き出す肴を指摘してくれています。 

 で、そこで少々考えてみるに、同じような強い蒸留酒でも、ウイスキーとかは水割りにしたり最近流行のハイボールにしてみたりしますし、ラム酒や焼酎もいろいろと混ぜてカクテルにしたり酎ハイにしたり、ホッピーとかいろいろ便利なものもあります。そうすればそれほど酒に強くない人でも蒸留酒を楽しめるわけですが、こと白酒についてはそうも行かないようです。再度、「有山随筆」から引用させていただきますと、
 会社の帰りにともだちを三人誘って行きつけのレストランに食事に行った。
 まず涼菜を肴に白酒を飲みはじめたところに、会社から電話がかかって来た。
「先生の日本のお友だちが西安にいらっしゃっていて、先生にお会いしたいということです」と言い、宿泊先を教えてくれた。すぐ電話したところその親友が電話口に出て来た。

 「おととい来た。明日朝、上海経由で帰る。ひと目君に会いたい」という。会いたいと言っても私は皆さんを招待していま食事の真っ最中だ、失礼しますというわけにはいかん、もっと早く連絡せんかなどとやり取りしていると、隣の席の友人が何があったのだというので、かいつまんで説明したところ、「ここに来ていただいたらどうだ。一緒に飲もう」という。それで急いでタクシーを拾ってホテルまで迎えに行って来た。

驚 き

 白酒は普通小さなグラスで飲む。しかし面倒くさいので気心の知れた人たちと飲むときはビール用のグラスを使う。遠来のお客様だがお許しをいただいて我々流で行こうと日本の親友にも大きなグラスを用意し、三分の一ほど酒を入れた。親友が水がほしいというので服務員に持って来させたところ、彼はその水をいきなり酒の入ったグラスに注ぎ込んだ。

 「ニイハオ、ニイハオ」「フアンイン、フアンイン」と盛り上がっていた席が一瞬、凍りついたように静かになった。白酒を水で薄めて飲む人がいるという現実を目の当たりにして、ご列席の中国人の皆さんは言葉を失ったようである。

水割り

 「何をするんだ」と聞くと、「水割りだよ」と澄ましている。

「白酒はそのまま飲むものだよ」と教えたところ、彼は「そやけどこんなきつい酒そのまま飲めるか」とすずしい顔をしていた。

 いつもならひと瓶はあけてしまう中国の友人たちも、この夜は毒気を抜かれたのか瓶の中には白酒がたくさん残った。

ストレートで飲む

 外国のことは知らないけれど、日本ではウィスキー、ブランデー、焼酎など蒸留酒はよく水で割って飲む。私の故郷、日本の関西では焼酎は必ずお湯か水で割る。まずストレートでは飲まない。それで日本から来た親友は迷うことなくその習慣を西安でも適用して白酒の水割りを作ったのだろう。

 私はウィスキーやブランデーは飲まないが、焼酎は飲む。日本で飲むときは周りの人と調子を合せてお湯割りや水割りで飲んでいるが、本当はそのままで飲みたい。水割りは薄めているのでなくてカクテルなんだという人もいる。焼酎を美味しく飲む方法の一つだという。それはそうかもしれないが、私はやはりそのまま飲んだ方がおいしいと思う。

 少なくとも中国の白酒はそういう飲み方はしない。しない方がおいしい。

来るか? 白酒水割りの時代

しかし、と思う。最近の中国は外国の酒や料理をどんどん受け入れている。白酒もアルコール度数が低くなって来ている。そうしたことを考えるとそのうち白酒をお湯割りで飲むようになってくるかも知れない、という気がしだした。
(2009年1月11日付)
 というわけで、白酒は割って呑むようにはできていませんが、かといって慣れない人がお試しで呑んでみるにはきつい、というハードルがあるといえそうです。以前、当ブログの白酒飲み比べ企画の際の高級酒・瀘州老窖酒は、さるバーから譲り受けたものでしたが、いくら高級白酒でもその香りの強さゆえに、カクテルなどでは使いようがないのでしょう。研究すれば何か道が開けるのかも知れませんが、少なくともこれまでそういった試みが、ジンやラムやウオトカのような成果を上げたとは、寡聞にして聞いたことがありません。
 とは結局、白酒は合う料理が中華料理の一部に限られるためにビールに比べ販路が狭く、また酎ハイやカクテルのような新型の消費形態の可能性も低く、健康志向を別にしても、あまり明るい将来展望が開けているとは言えないかも知れません。高級酒については、中国が豊かになったために需要が増えていることは、日本での値上がりからも確かだろうと思われますが、聞くところでは偽物問題なんかも起こっているそうですし(白酒の箱や瓶は、高いものになるとすごく凝った構造なのですが、これは外装を再利用したり詰め替えたりという不正を防ぐためだそうです)、あんまり便乗値上げをしても欧米なんかの輸入酒(日本も輸出を狙っているのは如上のレポートの通り)に負けてしまったりするかも知れません。せめて「健康」で不利な点を潰しておきたいという白酒業界の考えもあるのでしょうか。

 小生も白酒を呑みすぎて不祥事を引き起こしたことがありますので、なんとも言い難いですが、しかし「低度化」によってその本来の良いところを枉げてしまっては、ただでさえ不利な白酒の将来は、ますます暗くなってしまわないか心配です。
 多分、政府が音頭を取るにしても、度数の問題よりも、矢鱈と乾杯(カンペー)をする中国式宴会のやり方を「近代化」した方が、よりマシな気もしますけれど、中国人にとってはそっちの方がもっと抵抗が多いのでしょうか。日本では「アルハラ」という言葉が定着して、一気飲み強制のような事態は減少しましたから、そういった方策の方が長期的にはいいようにも思われますが・・・。
 下司の勘繰りでは、中国の共産党を始め各機関では、乾杯の応報による宴会なくして政治もビジネスもあり得ず、白酒文化を潰しても宴会文化は潰したくない、なんてことでもあるのかと思いたくもなりますが、どうなのでしょう。

 小ネタ一つのつもりが例によって大長篇になってしまいました。しかもまだ白酒話は残っていますが、さすがにこの記事が長くなりましたし、おまけに書き始めてから日数も経ってしまいましたので、さらに続篇に回すこととします。
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by bokukoui | 2012-12-08 23:59 | 食物