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筆不精者の雑彙

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百合アンソロジー『dolce due』略感

 多少復調の感もあるので、勢いに乗って今日は軽めの話題で更新を・・・と思ったら、何の前触れもなくエキサイトブログがメンテナンスをしていて腰を折られましたが、せっかくなので発売日の日付けで更新しておきます。

 というわけで、本日付で発売の、


 の感想です。公式サイトはこちら、コミックナタリーの記事(帯付きの書影があります)はこちらです。
 『dolce』といえば、同じタイトルの百合アンソロジーが昨年5月に出ていまして、また同じレーベルからは昨年10月にもアンソロジーが出、どちらもナヲコ先生が作品を寄せていたため、当ブログでもそれぞれ感想を書きました(「百合アンソロジー『dolce』雑感 附:百合における「革新派」論」「禁忌アンソロジー『feroce』雑感」)。そして、このたび百合アンソロジーの第二弾がめでたく発行されまして、更にめでたいことにみたびナヲコ先生の作品も掲載されましたので、以下にちょっと感想を述べておこうと思います。




 まず例によって、掲載作品の概要を以下に挙げておきます。
カバーイラスト  ひびき玲音、小梅けいと
カラーイラスト  茉崎ミユキ、ぷれあ、らぐほ、柿月イナ

真西まり「ノイズカットフォン」
ぴかち「My Graduation」
ナヲコ「花の散るまで」
百合原明「夢見るシザンシス」
水瀬るるう「酔っぱらいにはご注意!」
飴沢狛「キスしちゃって!」
みずのもと「Anfang」
やまもとまも「ハートビート」
水本正「にんじんとコスモス」
ひげなむち「こたつねこ」
渡まかな「図書室のカンパニュラ」
すいみゃ「さよならの桜と小さな春」
Peg「フレルマインド」
黒井みめい・稀周悠希「LisBlanc #2」
うた「彼女はアンドロイド」
ベンジャミン「放課後トイレ妖奇譚」
 前回、『dolce』が発行された時点では、特段続きの予定などはなさそうでしたから、今回このような企画が実現したというのは、前作が好調だったということでしょうか。まずはめでたいことと思います。
 当ブログでも、ナヲコ先生の作品関係で「百合」なアンソロジーの感想は以前、『つぼみ』のを何冊か書き(vol.6 / vol.7 / vol.8 / vol.10 / vol.11 / vol.12)、えばんふみ『ブルーフレンド』の感想なんかも書きました。かくして「百合」はすっかりマンガ業界の一大ジャンルとなり・・・と思ったら、途中から隔月刊になって順調に単行本も出ていると思っていた『つぼみ』が、昨年12月で休刊してしまっていました。これには正直驚きましたが、考えてみれば小生も『プライベートレッスン』連載終了後は買っていなかったわけで(苦笑)、単行本化が確実だと思われたので安心して買わなくなったことは否定できません。好きな作品もいくつもあり、作家買いするような方も何人か見いだしたので、残念なことではありました。

 で、今回の『dolce due』の全体的な印象としては、前巻について「百合のテンプレートに忠実な作品が多い」と評しましたが、基本的にはその路線を踏襲しつつも、作品の題材とか、ハッピーエンドばかりではないように、幅が広がってきたように思います。以前当ブログでは『つぼみ』と『ひらり、』の百合アンソロ比較論をちょっとやりましたが、その際の着眼点を応用すれば、『dolce』は今回、学園物でないのも増えたように思います。学生時代を含んでも、学校の中にとどまらないというようなのもあって、いわば『ひらり、』から『つぼみ』の方へ少し動いた、前巻の表現に準えていえば、やや革新寄りになったのではないかと。
 というわけで、ことによると『dolce』が『つぼみ』休刊後の後釜のような地位になれるのか・・・というのは分かりません。作家さんは前回と過半が重なっていますが、「放課後トイレ妖奇譚」を別にすれば続き物になっているのは「LisBlanc #2」だけのようで、今後の展開は編集部も決めていないのでしょう。
 小生としてはこの方向で今後も続いていってくれればと思いますが、ただ結構話題になっていたように思われた『つぼみ』が休刊してしまったところからすると、「百合」の場合はやはり、あまりテンプレートを離れた方向に展開していくのはリスクが高いのでしょうか。

 さて、「百合」についての大雑把な話はこれまでだいぶやってきましたので、正直もう新しい思いつきもないし(苦笑)、個別作品で目に付いたものについて、いくつか簡単な感想を述べておきます。

・渡まかな「図書室のカンパニュラ」
 高校時代、「男前」で学園のアイドルだった矢島先輩(注:もちろん女性)に憧れていた柏木。矢島先輩も柏木を可愛がってくれていたのですが、そんな矢島先輩に彼氏がいると聞いた柏木は、動揺して突如先輩に告白してしまうのですが・・・それから時流れ、二人が再会した時を描きます。
 個人的には本アンソロジー中でももっとも素晴らしい作品と思います。「百合」であってもなくても、「告白」というのは恋愛物でクライマックスに持ってこられることが多いのですが、むしろそれは一つの始まりであるのです。そして本作は、女性が女性に告白するということの重さ、難しさを描き、かつその「告白」の思いが文字通りには通らなくても、それが始まりとなって人の一生の中に何かをもたらすさまを描いていて、24ページとは思わせないほどの読み応えがあります。
 以前に当ブログで書いたような「百合のテンプレ」とは違います(「彼氏」の存在がキーだし)が、社会的に受容されがたいような誰かへの想いが、登場人物を変えて成長させていくという形はむしろ、王道の「恋愛物」と言える作品と思います。

・水本正「にんじんとコスモス」
 高校でたった一人園芸部をやっている先輩と、ひょんなことで出会った佐山さん。にんじんの葉っぱが綺麗でいちばん好き、という先輩に何かを感じて園芸部に入った佐山さんは、先輩への想いを自分でも認められないまま、卒業して大学に行って彼氏ができた先輩のもとを訪れますが・・・。
 本作は比較的「百合のテンプレ」に則った作品と思いますが、出会いから告白までの時間の積み重ねを、タイトルのとおりにんじんとコスモスを織り交ぜつつ優しく描いており、ほんわかな気持ちになれる、これも本書中屈指の好篇でした。
 あと細かい話ですが、にんじん畑の上をアゲハチョウが飛んでいるのは納得の演出です(キアゲハの食草はにんじんなどセリ科)。
 
・ひげなむち「こたつねこ」
 幼なじみのひふみのことが好きな秋保。でも秋保はその想いを、無邪気で天然なひふみに悟られないようにしているのですが・・・
 ひふみのぷにぷにぶりがとても可愛いですね。ぷにぷには正義。なんて思って読んでいると、最後でおっ、となるなかなかの一篇。やはり名前が「ひふみ」というのは、天然かつ策士になるのか・・・!?

・やまもとまも「ハートビート」
 学園祭のライブでバンドを組むことになった軽音部の森野と坂下先輩。先輩のことが苦手だった森野ですが、一緒に練習していくうちに、先輩への気持ちが変わってきて・・・スカートの裾もいいですが、女性が髪をたくしあげてまとめているところというのは、格好良くもあり、色っぽくもあっていいですね(読めば分かる)。
 で本作は、恋愛の、相手を想い想われる感情と、そういう色気の面との双方を絡めて描き、微笑ましくもうまくまとまっていると思います。

・真西まり「ノイズカットフォン」
 勉強に集中したいからといつもヘッドホンを付けている芹と、芹のことが好きな陽菜。でも陽菜は、好きだからこそ芹のことは邪魔しないようにと、思いを秘めていましたが・・・。 相手を思いやれば思いやるだけ、自分が告白なりなんなりすることで相手の世界を壊してしまうのではないかという恐れと、それをどう乗り越えるかは、「百合」に限らず普遍的なテーマですね。それを、ヘッドホンという小道具で分かりやすく描いた、なかなかの一篇です。
 もっとも小生の友人で、やはり受験勉強で芹のようにヘッドホンで勉強していた(ノートを読み上げて録音していたそうな)人がいましたが、その勉強法はまあその、必ずしも妥当でない場合が少なくないんじゃないかと懸念します。

・ナヲコ「花の散るまで」
 ひとことでいえば、「三角関係百合」でしょうか。友人のサキさんに想いを抱くももかと、サキの妹のさくらちゃん、この三人の間の「特別な」想いが交錯するさまを描いた、いつもながらのナヲコ先生らしい佳篇でした。ナヲコ先生は昨秋以来、ブログもツイッターも音なしで、同人誌即売会で会った証言も見出せていませんが、作品は着実に発表されてるようで何よりです。
 誰かに特別な想いを抱くことは、同時に独占したいという思いに往々なってしまうのですけれど、その思い自体が相手の想いと相反することになってしまうかもしれない――とかく人の世は住みにくく、それでも想いを抱かずには生きていけないものなのですね。

 雑駁ですがひとまずこんなところで。他にも触れたい作品もあるのですが、いろいろ調子も思わしくなく、気が向いたら補足しておきます。→追記:感想を一つ追加し、参考に他の感想を載せているサイトへのリンクを張りました。
 昨年は『つぼみ』休刊という事態に、「百合」も縮小かと思われましたが、それをはねのけるような存在に、今後なっていければいいなと思います。


 追記:『dolce due』のネット上の感想
・ゆれびゅー「「百合アンソロジー dolce due」の百合的感想まとめ」
・読書メーター「百合アンソロジー dolce due (マジキューコミックス)」
・百合式「百合アンソロジー dolce due」
・百合な日々「「百合アンソロジー dolce due」」※記事タイトルが長いので略しました
・GirlsLove Blog 「百合アンソロジー dolce due」
・俺の百合妄想を聞け!「百合アンソロジー「dolce due」を読んだ」
・おかるとのヲタク日記「百合アンソロジー dolce due」
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by bokukoui | 2013-01-25 23:59 | 漫画 | Comments(0)