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よりぬき「筆不精者の雑彙」
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この本を誰が読むのか
交通博物館閉館記念、ということで鉄道関連の話題。
先日大学生協書籍部で、ふっと目に付いたので深く考えずにこんな本を買いました。 野田隆『テツはこう乗る 鉄ちゃん気分の鉄道旅』 積んでおいたのですが、少し積読本を片付けようと思って読みやすそうな本書に手をつけました。読みやすそうという期待は少なくとも決して裏切らない本であったことは確証します。 本書は鉄道趣味者――この本では一貫して「テツ」と呼称していますが――がどのような鉄道との接し方をしているかを軽妙に綴ったものです。この著者は似たような本をこれまでに出しているそうですが、小生は寡聞にして存じませんでした。 感想ですが、まあ広く鉄道趣味の各方面について一通り触れてみましたという感じです。それなりに既に浸っている人間が読んでもさほど面白いわけではないようです。よく見たら巻頭に書いてありました。 「この本を、日本全国に点在するテツ未満の鉄道好きたちに捧ぐ」 小生はお呼びでなかったようです。 誰がこの本を読むんだろうなあと思い検索してみました。なるほど、と納得したのは、息子さんが鉄道趣味らしいお母さんが買われたという事例。これなら分かる。 そして、この著者が想定しているような読者、つまり鉄道趣味を自覚的にしているわけではないけれど興味を持った人々、もいるようです。割と好意的な書評が見られ、へへえと感心しました。ただ、それが鉄道趣味の裾野の広がりに繋がるかどうかは良く分かりませんけど。この著者の書き方は軽妙ですが、それだけに珍獣の生態記録みたいに読まれるのがオチじゃないかという気もします。 いや、この本を読んで「鉄っちゃんになりたくて」とか書いている人もいるからいいのかな・・・いやどんなもんなんだろ。 というわけで、あっさり読み終わった割りにはなかなか評価しづらい本で、海外へも目を向けることを提言しているあたりはいいなと思ったりもするのですが、読後になんともいろいろもやもやが残ってしまったのが率直な感想です。何か鉄道趣味をするといいことがある、みたいな現世利益宗教みたいな勧誘もどうかなあと思うし(それは本書の性格上必要なことなのかもしれませんが)、「実は、鉄ちゃんに憧れている――。/そういう話をよく聞くようになった。」とか書かれてもどこで聞いたんだとか思うし(最近の「オタク」ブームと関連しているのでしょうか)、「テツはJRを好む」とか書かれてしまうと民営電鉄史愛好者(和久田康雄派とも言う)は苦笑するより他にないし。 しかし以上のツッコミは、揚げ足取りのような些事に過ぎません。最大の問題は、この著者がこの著者は、大きく鉄道趣味者を「乗り鉄」「撮り鉄」「収集鉄」「模型鉄」に分類していますが、それだけでは分類しきれない趣味のアプローチがあるのではないかということです。 以下小生が本書につける苦情については、以前山名沢湖『レモネードBOOKS』について評した時と同じような視点になるのですが、表題からも読み取れるように、この著者は「乗り鉄」中心主義であるということ(「一般人」を勧誘する上では有効な作戦であるのかもしれませんが)、そこが鉄道趣味=旅、みたいに捉えてしまって、鉄道趣味の可能性をかえってスポイルしてしまっている面もあるのではないか、そのように思うのです。 鉄道趣味者には、いわゆる理系の人も多く、技術的な事柄に関心のある人も多いのです。そもそも鉄道が産業革命を代表する技術の塊であるということを考えれば当然なのですが。鉄道趣味はこういった技術的な分野への関心という側面も持ち合わせている――というかむしろ、歴史的経緯からいけばそっちが発祥だった、という視点が欠落しているのです(難しすぎて初心者の勧誘に使えそうにないと考えたから排除したのでしょうか。だとすれば人をバカにした話だと思います。さらに言えば、難しい話を易しく面白く書いてこそ入門書です)。 さらに、「乗り鉄」中心主義の状況を所与のものとして受け止め(異なっている海外の事例を紹介しているにも拘らず)ているため、鉄道趣味がどう広がってきたか、そしてそこからどのようにこれから向かっていくか、という経時的変化の視点が抜け落ち、静態的な観察に留まってしまっているという問題も生じているように思います。 という次第で、交通博物館閉館記念企画と称して、この話題、しばし続けます。 Tags:書籍・漫画等感想
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