表題通り、雑多な思い付きを適当にかき集める(筈だが筆不精なのでそうなるかは不明)という趣旨です。
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[資料メモ]その悪名は海を越えて~尾崎行雄と泥棒貴族
 別に史料を見ている時に、昨日書いたようなどうでもいいことばかり考えているわけではないのだ、という言い訳を今日はしてみる次第です。

 日本史の教科書にも載っている、尾崎行雄の「共和演説」事件というのがあります。日本初の政党内閣として1898年に成立した第1次大隈内閣(隈板内閣)の文部大臣だった尾崎行雄の演説が、その言葉尻を捉えられて批判され、辞任した尾崎の後任を巡って憲政党が分裂して内閣が崩壊してしまうことになるというお話です。
 一番ポピュラーな日本史の教科書、山川出版社の『詳説日本史B』から引用すると、「尾崎文相は、絶対にあり得ない仮定とことわったうえで、「仮に日本に共和政治が行われるとしたら、三井・三菱が大統領の有力候補となろう」と金権政治を批判した。これに対し、宮中や枢密院・貴族院、それに与党内の旧自由党系から、批判が集中した」(p.269)という事件でした。教科書に出ているくらい有名な話ですが、ではその演説の原文をもうちょっと前の箇所から見てみると、一体尾崎はどんなことを話していたのでしょうか。

 この演説は帝国教育会懇話会というところで行われたもので、内容は多岐に渡っていますが、尾崎はその中で最近の(つまり、19世紀末当時の)日本が拝金主義に染まっていると批判します。そして、それを欧米の影響という連中もいるが、むしろ日本の拝金主義はアメリカよりも酷い、そして拝金主義が酷くなると金銭による買収と腐敗で民主政治は専制政治に退化してしまう、などと述べます。そして、こう続けます。
・・・金銭の勢力が強いと君主制の立憲政体は別にして、君主のない立憲政体即ち共和政体は金銭の勢力が増加すると同時に倒るるべきものである、然るに亜米利加や仏蘭西に於て厳然存して居るのは何故であるか。バンダービルトは大統領の候補者になることは出来ない、ゼーグールドは大統領の候補者になることは出来ない。日本に於ては共和政治を行う気遣はない、例え千万年を経るも共和政治を行うと云うことはないが、説明の便利の為に日本に仮に共和政治ありと云う夢を見たと仮定せられよ、恐らく三井三菱は大統領の候補者になるであろう、亜米利加に於ては決して左様なことは出来ませぬ、・・・
(新字体・新仮名遣いに直し、句読点を補っています。この演説は憲政党党報(復刻版)から引用しました。pp.225-226)

 さて、ここで検討したいのは、教科書で紹介されている箇所の直前に出てくる固有名詞、三井三菱と対比されていると思しい「バンダービルト」「ゼーグールド」、こいつらが何者かということです。

 彼らは、現在は「ヴァンダービルト」「ジェイ・グールド」とカタカナ表記されますが、共に19世紀アメリカを代表する鉄道王であり、やり口を選ばぬ辣腕で巨万の富を築き上げたことから「泥棒貴族 robber baron」と呼ばれた連中です。
 ヴァンダービルト Cornelius Vanderbilt (1794-1870)は海運業で巨万の富を得ますが、60歳を過ぎてから鉄道業に転じ、様々な方法を駆使して鉄道会社を掌中に収め、ニューヨークとシカゴを結ぶニューヨーク・セントラル鉄道システムを築き上げ、今日の価値で1兆ドルとも言われる資産を築き上げたといいます。多くの豪邸を築き、現在もその栄華を伝えています(ニューヨークの日本大使館がその一つを買ったらしい)。
 ジェイ・グールド Jay Gould (1836-1892)は名うての投機師で、ヴァンダービルトがエリー鉄道に触手を伸ばしたときにうまくだまくらかして数百万ドルの利益を上げ(ヴァンダービルトは大損しました)、その後もあくどく投機をしまくってアメリカの株式市場を恐慌に追い込んだりしました。1870年代には大陸横断鉄道のユニオンパシフィック鉄道を初め西部の鉄道を次々と乗っ取り、株式操作をして巨万の富を築きました。彼はアメリカ一の大金持ちだったかもしれませんが、あまりのあくどさに友人は一人もなく、豪邸で本と庭の花だけを相手に過ごしていたと伝えられます。 

 で、何が面白いといって、尾崎行雄が三井三菱の比喩(この場合は、金権政治を行う悪しき資本家、というイメージなのでしょう)として、アメリカの彼ら泥棒貴族たちを引き合いに出しているということです。それだけ彼らの名は日本でも知れ渡っていたということなのか、はたまたこの演説を聴いていた帝国教育会の人々は何がなんだか実はよく分かっておらず、そのせいでこの演説を「不敬」だと勘違いしちゃったのか、そこんところがよく分からないのですが、少なくとも尾崎行雄が泥棒貴族についての知識を一定持っていた、ということは間違いないでしょう。
 実は尾崎がこの演説をしていた1898年8月22日ごろ、日本では鉄道国有化問題が急速にクローズアップされ、経済界で国有化を求める声が上がったり、陸軍ではドイツで兵站と鉄道の研究をしていた参謀本部の大沢界雄が帰国して自らの意見を公にしたり、そんな動きが起きています。実際にはこのときの運動は奏功せず、鉄道国有化の実現は1906年になりますが、尾崎がこんな演説をしているところからすると、鉄道の私営というものに不信の目を向けるような思潮が世界的に一定程度あったのかもしれない、なんて思ったりもします。
 そういや後に尾崎は東京市長になって、東京の路面電車を公営化したりしてますね。名古屋・横浜・京都なんかも市営化しているし、今とは逆に、百年前は公共的事業を国営・公営化することがトレンディだったといえそうです。

 村上ファンドの買占めをきっかけに阪急と阪神が経営統合したり、郵政はじめ官の事業を民に移すことが自明視されたりする昨今ですが、ちょっと歴史を紐解けば、「最近起きたとんでもない出来事」に見えたことが昔からあったことだったり、逆に昔と今とで価値観が逆転していたり、そんなことがよくあったりするもので、まあ周りの人たちが「当たり前だ」と言ってるからといって、それを信じることはない、それが今日の記事のテーマ、なのかな?
by bokukoui | 2006-06-21 23:59 | 鉄道(歴史方面) | Trackback | Comments(0)
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