富岡製糸場見学記(4)

 昨日の続き、これで富岡シリーズも最終回です。

 まずはブリューナ館の続きです。
 この建物には、お雇い外国人のフランス人滞在時代に葡萄酒の貯蔵などに使われていたという、レンガ造りの地下室が残されています。建物の方は昨日書いたとおり教育施設に転用されており、その際講堂に改造された場所が入り口です。講堂の床板が一部外れるようになっており、そこから降りていくことが出来ます。
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 階段を下りるとまず割りと大き目の部屋があり、奥にもう一部屋、さらに鍵の手に曲がって最も奥の部屋と、三つの部屋があります。手前と奥の部屋は天井まで煉瓦で固められていますが、真ん中の部屋は角材が天井に渡されていました。
 手前の部屋の写真を示します。奥から出口に向けて撮ったものです。
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 これもフランス積みで、天井や出入り口の上部は綺麗なアーチを描いています。明治初期の陸軍の要塞は、幕府以来のフランス陸軍の影響下にあったのでフランス積みの要塞などが今でもいくつか残っていますが、そういった施設を彷彿とさせます。
 地下室の中はひんやりとしていて肌寒いくらいでした。これなら倉庫としてはなかなか有効ではないかと思いましたが、一説には一番奥の部屋は避難所? という噂があり、というのも一番奥の部屋の天井には換気口らしきものが空いているのです。その写真を以下に示します。
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 ブリューナ館を出て、今度はコの字に並んだ繭倉庫と繰糸場に囲まれた、元々ボイラー室などがあった区域に向かいます。ここはやや危険な箇所もあるので、ロープが張られて立ち入り禁止になっていますが、今回の見学会は特に見せていただくことが出来たので、一同ロープを外して中へ入ります。すると、たまたまその場にいた普通の見学者たちが、事情を解さずについてきてしまいました。といって追い返すのもなんなので、そのまま見学会は続行、あの人たちは普段見られない箇所を見られて得したと思ったのか、それともえらくマニアックな説明でワケワカだったのか、どうだったのでしょうね。
 なお、ボイラーや煙突などは、その後新しいものにすっかり取り替えられている(現在の煙突は三代目くらいだとか)そうです。
 その囲まれた区域から、東繭倉庫を見渡した写真を以下に示します。工場の中にこれだけ広々としたスペースがあるんですね。
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 この写真を撮った場所附近に、小さな煉瓦の倉庫があります。これは後になってに建て増しされた油倉庫だそうで、実は富岡製糸場の煉瓦の建物の中で、明治5年の創業時に建てられた物以外では唯一の現存例なのだそうです。その写真を以下に示します。
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 煉瓦の積み方にご注目ください。これは他の富岡の建物と違って、イギリス積みになっています。フランス人の指導下でなく、日本人で煉瓦積みの建物を作るとなると、やはりイギリス積みを採用するようです。

 富岡製糸場には動力として蒸気機関が設置されましたし、殊に製糸では繭を煮るために水を必要とします。そのために設けられた水タンクが現存しています。これは鉄板をリベットで接いだもので、現在のIHI、石川島播磨の発祥に当たる工場がまだ石川島でなく横浜にあった明治のごく初期に作られた(鉄板は輸入でしょうが、どこの国からかは不詳)ものだそうで、これも珍しいものです。
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 石積みの上にタンクが載っかっていますが、これは最初もっと低い位置にタンクがあったのを、水圧が足りないからと石を積み替えて高くしたとめこうなっているそうです。この水タンクなどのあたりを一般公開していないのは、この石積みが危なっかしく、下に潜り込めてしまうので子供などが入り込んだら危ない、という懸念があるからだそうです。

 水を使ったら排水するわけですが、繭を煮た後の水は悪臭がするそうで、そこで富岡製糸場では下水道を掘って排水していました。上が開け放しの開渠では臭いが周辺に撒き散らされるので暗渠になっています。まあ最後は、昔のことなので結局川に垂れ流していたのですが。
 この下水も産業遺産として調査され、どこからどこまで走っているか確かめられたそうですが、今回は蓋を開けて下水道の一部も覗かせていただきました。
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 下水が流れているところの壁は煉瓦で組まれていましたが、その上からモルタルを塗っているのがお分かりいただけるでしょうか。モルタルとは要するにセメントに砂を混ぜたものですから、富岡製糸場ではセメントが使われていたそうです。煉瓦の接合も漆喰ではなくモルタルだったとか。

 排水に対し、水を汲むのには井戸がありましたが、現在その井戸の覆いに使われているのが初代の煙突の基部だそうです。
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 鋳鉄製で、円筒形のパーツをいくつも繋ぎ合わせて煙突にしていたようです。この根っこ部分以外がどうなったかは不明ですが、近所の鍛冶屋などがスクラップとして再利用したのでしょうか。

 以上のように、大変充実した見学でした。明治初年の意気込みが今でもこうして形をとどめ、さらにその後一世紀以上に渡って現役で稼動し続け、人々の活動が積み重ねられてきたということは大変素晴らしいことですね。現在、日本で製糸をやっている工場はもう2件しかなく、それも赤字で補助金などにより事業を継続しているそうで、この一世紀の推移に感慨を覚えずにはおられません。製糸業自体が産業遺産状態になりかかっているわけです。
 そのため片倉工業も段々と製糸事業から手を引き、各地にあった工場を閉めていったのですが、それら工場にあったもので捨てなかった物は、この富岡の煉瓦造りの繭倉庫(これは今回中を見学していません)に放り込んであるそうで、そこにしまってあるものでも製糸資料館くらいはつくれそうだということです。現在富岡製糸場の建物は富岡市が引き取って管理しているそうですが、富岡市側としては繭倉庫の収蔵物も引き渡してもらえないかと交渉中だそうです。それがうまくいって、富岡製糸場が建物だけではなく総合的な製糸業博物館になれば何よりと思います。
 しかし、ということは、未だにこの煉瓦造りの繭倉庫は、倉庫として現役で使われているということなんですよね・・・それが何よりすごいこと、かもしれません。
 もっとも、この製糸場が「世界」遺産としての価値があるのか(無論、日本史上の価値は疑うべくもありません)、それを説明できるかが世界遺産になれるかのポイントのように個人的には思います。「非西欧の途上国が工業化に成功した記念碑」であると説得できれば、他の国も世界遺産にすることに納得してくれるでしょう。富岡の関係者の努力が功を奏することを祈ります。(もっとも市当局については、塩山氏の記事を読むとなんか不安になりますが・・・)

 製糸場の見学を終え、見学会の一堂は解散し、一部有志が工女の墓の墓参に行き(既に述べたように小生は見学前に参詣しましたが、結局もう一度行きました)、そして駅へと向かいます。その道中で、富岡製糸場の世界遺産子弟を訴えるこんな看板を見つけました。
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 ・・・隣の辻に、例の「世界人類が平和でありますように」の看板が立っていたので、なんだかそれとそっくりだなあという印象を受けてしまいました。

 駅に着くと、折りよく間なしに電車が来るようでした。切符を買ってホームに向かい、ふとホームの屋根を支える柱を見ると、古レールを再利用して柱にしています。レールには規格や製造メーカー、製造年などが刻まれているものですので、列車が到着するまでの僅かな時間に急いで探してみたところ、二つ発見しました。以下にその写真を示します。
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 上の写真のレールには「E.T. 84 ||||||||・・・」とあり、下の写真のレールには「・・・PSCo84・・・」とあるようです。
 「古レールのページ」というサイトを参照してみるに、上の写真のレールはエドガー・トムソン製鋼社によって1884年の9~11月ごろ製造された、との意でしょうか(縦棒の本数は製造月を表しますが、正確な本数が写真からではよく分かりません)。下のはペンシルヴェニア製鋼会社の産と思われ、「84」が製造年とすれば、上の写真のそれと同時に、同じくアメリカで作られたものだと言うことになりますが、確証は持てません。今後の研究課題ですね。上信電鉄にもまだ産業遺産がありそうです。

 そうそう、最後に、以前電話をかけたのに運行状況が分からなかった富岡製糸場の世界遺産指定キャンペーン電車ですが、最後の最後にすれ違ったので窓越しに写真を撮っておきました。
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 と、いろいろと充実した見学会の一日でした。
 また機会があれば再訪し、撮り損ねた写真を撮りなおしたいところです。皆さんも何か機会があれば探訪されては如何でしょうか。

※2014.5.1. 追記:富岡製糸場の世界遺産登録がめでたく内定しましたので、それを記念した記事を書きました。この一連の旅行記では紹介しなかった写真も、お蔵出しで掲示してます。
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by bokukoui | 2006-06-30 23:53 | 歴史雑談 | Trackback | Comments(0)

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