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よりぬき「筆不精者の雑彙」
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サントリー学芸賞受賞の書物に関して思うこと 序章
何でも、最近サントリー学芸賞を受けた竹内一郎『手塚治虫=ストーリーマンガの起源』という本に関し、批判が集まっているとか。
・サントリー学芸賞事件+九州大学論文博士審査にまつわる疑惑 で、ふと自分の書架にある同賞受賞の書物の背表紙など見て思いついたことを。 リンク先の財団のサイトとか、あるいはウィキペディアなんかにも、受賞した書物の一覧が載っています。小生も今読み返して見ましたが、自分が持っている本(『近代家族の成立と終焉』とか『単一民族神話の起源』とか)、調べものの際などに一読した本(『陸軍将校の教育社会史』とか『伊藤博文と明治国家形成』とか)、その本自体は読んでいないけれども同じ著者の本を読んで面白かったもの(いっぱい)など、流石に人文系院生などやっているとお馴染みの名前が多く、サントリー学芸賞というのはなかなかしっかり選考されているのであろうと思います。 でもこれだけやっていれば、玉石混交、例外もあるわけで。 本件に関し、紙屋研究所さんの書評を読んだ覚えがあった小生がふっと連想したのが、同じくサントリー学芸賞を受賞して話題になった一冊の本のことです。その本は鉄道を題材に扱い、一読すると確かに結構面白い本ですが、しかし学術的にはどうなのか、どこまで独創的なのか、とかちょいと考え出すと色々と妙な点が見えてくる、そんな本でした。ネットを今検索したところ、この本については、それなりに批判的な意見をネット上で公にしている方もおられました。しかし本件のような話題にはなりませんでした。鉄道趣味者のネット上言論力がまだまだ低いのか、単に受賞した頃はまだネットが普及していなかっただけなのか。 ここまで書けば読者の方の中には何の本の話をしているのか想像のつく方もおられると思います。 原武史 『「民都」大阪対「帝都」東京 思想としての関西私鉄』 講談社選書メチエから出て、1998年にサントリー学芸賞を受賞しています。 この本の成功により、原氏はその後講談社のPR誌に鉄道話を書き、『鉄道ひとつばなし』と題して新書としたり、『ユリイカ』の鉄道特集(2004年6月号)で関川夏央と対談したり、宮脇俊三氏亡き後の鉄道文化人? といった一面での活躍をしておられます。 しかし、『「民都」大阪対「帝都」東京』には、読み返すと色々とサントリー学芸賞受賞作として不備な点があるように思われます。それは、竹内一郎『手塚治虫=ストーリーマンガの起源』に関して紙屋研究所さんが指摘しておられることと奇妙に被るのですが、実は先行研究に対し大して新しいことを言っているわけでもないという事です。要するに、小林一三を「関西」の代表者として取り上げることはこれまでの私鉄に関する諸々の語りと同様のことを言っているのに過ぎないのです。従って、ある程度先行研究に触れると、本書の魅力は色あせてくるのです(本書では、小林ではなく、大阪電気軌道=現近鉄の金森又一郎について触れた箇所の方が面白いと思う)。 その他、技術的・経営的側面を完全に無視しているという致命的欠陥がありますが、そこら辺を含めて詳細を論じる時間的余裕が現在の小生にはありません。何故時間がないかといえば、今度の日曜日に学会報告を控えているためで、何を報告するかといえば戦前の電鉄業の歴史です(笑)。小林一三と五島慶太の影で無視されている太田光熈に光を当て、京浜電鉄をダシにした白木屋の野望を語る予定。 のですが、時間を見て続きを書きたいと思います。以前原氏は国立公文書館の鉄道関連文書展示企画の際、鉄道に関する講演を行っています。その内容をメモしたものが手許にあったはずなのですが、例によって整理不行き届きで行方不明。それを発掘しつつ、同書について検討を加えようと思います。ということで今回は「序章」。 ※追記:講演録の記事はこちら。 最後に、竹内一郎『手塚治虫=ストーリーマンガの起源』と、原武史『「民都」大阪対「帝都」東京 思想としての関西私鉄』に関し、極めて明白で、それだけに気になる共通点を指摘したいと思います。 それは、どちらも講談社選書メチエだということです。あのシリーズ、面白い本も多いけど、期待しすぎるのもどうかというところなのでしょう。少なくとも爾後、選書メチエでサントリー学芸賞を受けた本には注意した方がいい、ということでしょうか。
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