昨日の続き(磔愚談)

 木曜日は帰宅が遅いので、なかなか更新が面倒です。

 で、昨日の続きです。

 昨日の記事で磔写真を皆様にもご覧いただけたかと思いますが(もちろん苦手な方は以下も読まなくて結構です、というか読まない方がいいです)、それを元に磔の絵を描かれる方・映画を撮られる方などに小生が要望したい内容を以下に述べます。



 「磔」でウェブ検索するとよくSM趣味系のサイトに行き当たったりして、そしてその手の画像を見つけられるのですが(ここの第2談話室とか)、そういう画像の相当部分が、この実際の写真と比べると問題があるように小生には思われます。
 というのも、多くのその手の画像では、横木と腕がちゃんと重なっておらず、横木と縦の柱と腕とが直角三角形になっていたり、肘が曲がっていたりして、全体としての緊密さが欠けてしまっているように思われるのです。時代劇の磔シーンとか、SMもののAVとか、漫画とかの絵とか、皆そうなっているものが多いように思われます。
 しかし昨日の写真を見れば、横木は案外細くて腕と大差ない太さに過ぎず、その横木と腕は付け根まで沿っていることが分かります。手首だけではなく、肘と胸周りと、そこにも厳重に縄がかけられていることも読み取れます。

 江戸時代の日本は地域によって法に違いがあり、現在巷間に伝えられている情報の多くが幕府の天領、それももっぱら江戸方面のそればかりということをまず断っておきますが、昨日もネタに使った名和弓雄『拷問刑罰史』によれば、磔の柱は五寸(約15cm)角で長さ十二尺(約3.6m)、横木は幅三寸厚さ二寸(約9cm×約6cm)で長さが六尺(約1.8m)、柱の上から一尺(約30cm)とおよそ四尺(約1.2m、説明の文章や資料の図を見ても細かい数字が良く分からない)のところに通すそうです。柱は三尺くらい地面に埋めるそうなので、下の横木は地面から五尺(1.5m、江戸時代の体格なら男の身長くらいか)程度の高さになります。上の横木から二尺下がったところに腰掛の台が前方に突き出しています(ので、足首を括りつけている下の横木には、囚人の体重を支える役割はありません)。
 つまり横木は柱に比べてかなり細いのですね。しかも、昨日紹介の磔写真を仔細に見るに、柱を五寸角だとすると横木の太さはその半分以下、つまり二寸程度に見えます。腕の太さから考えてもそれが妥当ではないかと思います。つまり「厚さ二寸」が正面から見える横木の幅で、「幅三寸」は磔を正面から見た場合奥行き方向のことではないかという気もします。『拷問刑罰史』192ページの、『徳隣厳秘録』という当時の資料の絵の写真を見ても、そのように見えます(江戸時代の絵師が、近代的遠近法にどれだけ馴染んでいたか小生は知りませんが)。
 ところが、世間一般でありがちな「磔」モノの場合、縦の柱と横木とを同じ太さにしてしまい、その場合五寸角の柱に合わせた太さに横木をするため、緊密さを欠いたものになってしまうのではないかと思います。以下、極めてお粗末なものですが、図を描いてみました。
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 赤が人間の腕(小生の手首を大雑把に計測し、長径6cm短径4cm程度とした)で、茶が横木、青が縄のつもりです。
 で、腕に比して五寸角というように横木が太すぎると、かえって縄をかけた場合の隙間が大きくなり、受刑者の固定に差し障りがあるのではないかと小生は考えるのです。腕の太さと相応しい太さの横木を用いることが、固定にも便利であり、木材資源の節約にも繋がる(?)のではないかと思います。
 もっとも金具を用いる場合もあったと聞きますので、その場合はこの限りではありませんが。

 更に考えるに、磔の場合下から上へ向かって脇腹から槍で突き上げることで処刑しますので(『日本残酷写真史』で下川氏は「のど元が見事に槍で貫かれている」(p.17)と書かれていますが、一般には磔の槍は横腹から突くもので、咽元を最後に「止めの槍」として突くといいますが、それは実際の処刑というよりも儀礼的な――或いは呪術的な意味があったのかもしれませんが――ものでした)、囚人を括りつける場合は下の方から上へ、斜めに衝撃がかかることを想定する必要があるでしょう。これが腕を各二箇所、左右合わせて四箇所を縛っているのに、脚が足首だけである理由ではないかと思います。
 つまり最も衝撃を受ける横腹から肩先までの場所を動かないように固定するには、胸の辺りとそこに直接繋がる腕とをしっかり固定しておく必要があるのではないか、ということです。これが腕が垂れて磔柱と直角三角形を作るような形になったり、肘が曲がっているような状態であったならば、体の特に衝撃を受ける胸部附近が動かないよう固定するためには殆ど効果がないということになるように思われます。つまり肘の上、高腕を固定する方が手首より重要なはずなのです。そして一番大事なのは、胸の附近を十字に括りつけている縄ということになるでしょう。槍が最初に刺さるであろう、腰の縄も重要です。

 しかし実際には、多くの磔(っぽい)画像では、手首を固定していないものはありませんが、胸部の縄や肘の上、腰の固定を閑却しているものが少なからず見受けられます。そのようなものを下から槍で突くと、受刑者の体が動揺して処刑が困難になるのではないかと考えます。
 ではなぜ多くの画像がそのような描き方をしているのか、という理由の考察はまた明日
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by bokukoui | 2006-12-07 23:59 | 歴史雑談