聖夜の雑話~教育を巡る2題

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 吾妻ひでお『失踪日記』イーストプレス(p.164)より。
 12月25日、という日付でまず思い浮かんだこと。

 今日の小生は、女子高生とふたりっきりで・・・









 世界史の授業をしてました。
 他の生徒は諸事情により休み。お題が第1次大戦なので(冬期講習は20世紀を重点的に扱う予定)、調子に乗って巡洋戦艦ゲーベンやシュリーフェンプランについて一席ぶちました。女子高生にこういう話をして喜んでいるところ、生半可な風俗より変態プレイかもしれません。

 そういう変態が多いから、ということとはまったく関係ないでしょうが、ノーベル賞を受賞した野依良治博士が「教育再生会議」座長として「塾の廃止」を唱えていたことが最近報じられ、話題となりました。
 本件に関しコメントしておられる方は多く、その非現実性であるとか、優れた科学の研究者が社会政策において同等の見識を発するわけではない(この二つは決して相反するものではなく、むしろ相関しうると小生は思うのですが・・・)、自分の体験の絶対視等々の問題点は指摘しておられる方もおられるようです(畏友の「憑かれた大学隠棲」氏も書かれていますね)。
 ここに小生が一点付け足すとすれば、野依博士のお説のごとく「公立小学校で放課後に児童を指導し、「祭り」「演劇」「ダンス学芸会」などを体験させる「放課後子どもプラン」」について「塾をやめさせて、放課後子どもプランをやらせないといけない」とすることには、おそらく現今のもうひとつの重要な教育現場の問題であるいじめの対策と相反する可能性があるのではないか、ということです。
 子供の生活する世界に学校の占める位置付けがあまりにも大きいと、いじめに代表されるトラブルに遭遇した場合、学校に対する絶望を世界全体への絶望と取り違えて最悪の選択をしてしまう危険性が高まるのではないでしょうか。その際に、塾のような学校と別個の生活の一角をなす拠り所があると、そこまで思いつめることもなくなるのではないかと思います。
 ああ、もちろん地域でサッカーするとかでもいいんですけど、地域活動は学区制の学校の場合学校の縁が持ち込まれやすい気がするので、それも切り離せるという点、塾は肯定的に評価すべき性格を持っていると思います。
 ・・・まあこれも、中学受験経験者の個人的経験に基づくもので、到底一般化できないという面では野依博士と大同小異なのかもしれませんが。あと小生は、小学校で特に辛い目にあった記憶はあまりなく、殊に5・6年の担任の先生は、中学受験が多く2月1日は学級閉鎖状態の学級を良くまとめておられたと思います。

 ここで「部活」の文字を見て突然思い出したけど、今日の授業中女子高生に
「スポーツマンシップとは三つの差別から成り立っている。
 貴族・ブルジョワジーの労働者に対する階級差別。
 白人の黄色人種・黒人に対する人種差別。
 そして男の女に対する性差別である!」

 と、一席ぶちましたな。『機関銃の社会史』に影響されすぎだと我ながら思いますけど(苦笑)。
 でもまあ、19世紀の歴史を振り返ればそんなもんでしょ。
 で、もうちょっと真面目に言えば、学校教育現場における「部活」、運動系のそれは、色々と再検討すべき余地が大きいと思います。
 「放課後子どもプラン」も、こういった視点を持っている小生からすると・・・放課後の選択肢は学校と別に整備した方が・・・。

 話を戻します。
 塾を廃止するといえば、もう随分昔に筒井康隆が「廃塾令」という諷刺小説を書いていました。野依先生はじめ「教育再生会議」の面々はそれを知った上でネタをしておられたのでしょうか。マスコミ関係者で筒井先生に取材した者がいないらしいのは残念です。
 それにしても。
 筒井康隆のネタを政府の会議で真面目に発言するとは、筒井康隆の目の鋭さも勿論あるにしても、現実とフィクションの壁なんて実はごく薄いということなのかもしれません。

 現実とフィクション、という論点が急に出てきたのは、こんなニュースも今日入ってきたからです。
 有害ゲーム、コミックは業界自主規制を 研究会
 児童ポルノ対策強化を=コミック自主規制、業界に要請へ-警察庁研究会
 後者の記事を引用しておきましょう。
 警察庁の「バーチャル社会のもたらす弊害から子どもを守る研究会」(座長・前田雅英首都大学東京教授)は25日、子供を性行為の対象とする内容のコミックやゲーム、アニメについて、誤った認識を助長し、犯罪を誘発する可能性があるとして、関係業界の自主審査や販売規制などの対策強化を求める最終報告書をまとめた。

 特に幼い子供を描くポルノコミックが、同人誌の即売会やインターネット上で多数販売されている現状に懸念を示した。同庁は報告を受け、業界に取り組みを求める。
 研究会のサイトはこちら、報告書はこちら(pdf)。
 補足しておくと、座長「前田雅英」のウィキペディアの項目が編集合戦のような状態になっています。
 別に先日書評したから言う訳ではありませんが、この研究会の方々、「研究」と題されるからには、永山薫『エロマンガ・スタディーズ』もお読みになられたのでしょうね? 最後の研究会にはぎりぎり間に合ったはず。「前田雅英」のウィキペディアの項目に引用されている内閣府の議事録(これこれ)の中で、前田氏とやりあっている瀬地山角氏は、その昔研究のためにエロマンガを読み比べたそうです(『お笑いジェンダー論』勁草書房 男がフェミニズムを研究することの意味を述べている点が初学者むけかと)。

 それにしても。
 結局のところ、何かを悪者にしてそれに責任を押し付けようという点では、教育再生会議もバーチャル~研究会も同じことなのでしょうね。人は自分の信じたいことを信じるわけで、そのメディアが小説であろうがテレビであろうがゲームであろうが携帯電話であろうが、そして教科書であろうが、その差をあまり大袈裟に言い立てるのは、あまり事態の解決に貢献するとも思えません。結局それは「おまじない」でしかないわけですから。教育基本法「改正」もまたお題目的側面が限りなく強かったことからすればある意味なるべくしてなった事態であるといえますが。
 小生が思うに、教育の価値とは、何かを悪者にしてそれでことは済んだと思わないような思考力を身につけることではないかと。地味地味と、日々その実践に励むことと致しましょう。(←シュリーフェンとどう関係あるのかね?)

※追記。
塾講師にしてエロマンガ作者であったという、今日の記事で扱ったような問題に関するもっとも適切な論者であろうと思われるカマヤン氏が、後者の問題について発言しておられます。参考になる資料もあるのでリンク。氏が塾の仕事で多忙な中、記事を書かれたことには頭が下がります。小生如きのコマ数で音を上げていては駄目ですね。
 ・・・野依博士、塾関係者がテンパってる冬休みの前にこんな発言をするとは、狙ってたんでしょうか?
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by bokukoui | 2006-12-25 23:59 | 時事漫言