「同人誌と表現を考えるシンポジウム」見学記 つづき

 第1部の続きです。
 長いので一記事に入りきりませんでしたので、第2部以降は別記事として以下に述べます。

〇第2部 どうすべきなのか ~有識者討論~
 第2部のパネラーは以下の通り。(順不同・敬称略)
 坂田文彦 (ガタケット事務局・第2部司会)、斎藤環 (精神科医)、望月克也 (弁護士・松文館裁判弁護人)、伊藤剛 (マンガ評論家/武蔵野美術大学芸術文化学科講師)、藤本由香里 (編集者/評論家)、三崎尚人 (ライター/同人誌生活文化総合研究所主宰)、永山薫 (マンガ評論家)

 斎藤氏は本業の都合で少し遅刻。
 司会の坂田氏のネタ振りによって進む。

・坂田氏:コミケはその長い歴史にもかかわらず未だにアングラ視されているのか。
 第1部で説明されたように自主規制を同人界は行っているが、このことを一歩離れたところからどう見るか。
・永山氏:何重にもフィルターをかけ頑張っている、というのが率直な印象。それが外部に伝わっていないのが問題ではないか。成年コミックややおいも外部からはほとんど見えていない世界。
 同人誌関係者は、自分たちが文化を担っているということを意識して発信すべきではないか。コミケは決して野放しの場ではない、ということを伝える。徒に規制側に対し対決姿勢を強めることは意味がない。

・伊藤氏:印刷所などの細かい対応について、同人やっている知り合いからコミケの基準が厳しいという程度のことは聞いていたが、具体的に知ったのは今回が初めて。永山氏の意見に同じく、この場(マスコミ取材も来ている)で議論する意味は、一つは外部に自分たちの意味を発信すること。もう一つは内部に対して、同人に対し物陰でこっそりやっている的な意識や幻想を抱いていることがあるが、しかし我々もまた世間や社会の一部である。だから徒に規制したがる側を罵倒するのではなく、彼らもまた社会の一部として説得すべき相手である。
 今回のシンポの大枠は、規制当局の報告書の中に同人誌が登場したということ。これが前提。規制が行われる裏には、自分たちが見たくないものを社会から排除したいという意識があるのでは(これは規制に対する糾弾ではない)。
 第1部で示されたように、同人界には自主規制するだけのマナーや意識もある。となれば、規制をする側にもそれはあるだろう。この研究会も、結局は法規制には入らなかった。

・坂田氏:「児童」の定義について。児童ポルノ法は18歳以下、一般のイメージにそぐわないし、学校教育法では「児童」は6~12歳。このあたりについて専門家のご意見を。
・望月氏:初手から話は逸れるが、先程の永山氏の意見に賛成で、松文館事件に関係するまでは同人にアングラなイメージを持っていたが、実際関ってみると皆いろいろと考えており、細かく対応している。外部に分かってもらう活動は大事。
 法律に関して。一度は法律に目を通して欲しい。一度読んだだけでは分からないかもしれないが、そこから疑問を発展させることは大事。
 刑法175条にいう「わいせつ」の基準については、具体的にはチャタレイ事件の判例など。

・坂田氏:表現の自由に関して。
・藤本氏:その前にまず、事の起こりについて。91年の有害コミック問題から表現の問題を考えている。この時書店員が同人誌を売っていて逮捕されたのが、表現の自由について議論が盛り上がったきっかけであったが、それがどの程度浸透したかは未知数。現在ではむしろ後退している懸念もある。今回法規制まで行かなかったことにはホッとしているが、今後は分からない。同人誌はこれまで商業でないから何をやってもいいと見られていたが、書店流通の普及やネット頒布によって状況は変化している。
 表現の自由とは、公権力からの自由。しかしそれは何を表現してもいいということではなく、表現者の責任がある。
 第1部で、BLが女性が考えがちという指摘があったが、刑法175条は男女の性交に限ると明文化されているわけではなく、慣例でそうなっているだけ。また青少年保護条例には引っ掛かる。
 漫画や同人誌にネガティヴなイメージを持っている人が多い。こういう人に対し我々に出来ることは責任感を示すこと。何でも勝手にやっているのではない、という責任感を示すことでイメージを守り、長期的には表現の自由を守ることに繋がる。
・望月氏:175条について。チャタレイ事件の判例(いたずらに性欲を興奮等させ正常な性的羞恥心を害し善良な性的道義観念に反するもの)が生きている。性交場面の量は決定ファクターになっているが、それだけが基準ではない。将来基準が変化してやおいも対象となる可能性はある。
・三崎氏:91年の件について補足。当時は有害コミック運動が盛んだった。しかし同人界は規模が今よりずっと小さかったので、性的描写に無頓着で無修正のものがあった。それが書店に委託されていた(書店も同人に無頓着だった)ために店員が逮捕され、作家や印刷所などの関係者が書類送検された。当時コミケは幕張メッセで開かれていたが、「善意の一市民」が千葉県警に無修正の同人誌を送りつけ、警察がメッセに事情を聞きに来る事態となり、コミケは幕張メッセを追われた。
 コミケットアピールはこれをきっかけとして作られた。会場を借りる上で必要な措置。即売会のかける規制は、なるべくサークルが表現をしやすくするため。

・坂田氏:当時に比しゾーニングは強化されているが、青少年への影響とはどのようなものなのか、精神医学的な知見を伺いたい。
・斎藤氏:精神医学の中でこの問題に関する知見の蓄積はない。メディア論の影響の研究も思想についてはあっても、性的なものはない。クラッパーの限定効果論を当てはめて考えている(注:限定効果論とは、メディアの影響は元々その要素がある者の引き金を引くだけの効果に限定されるというもの)。それによって、表現によって人格に影響がある、という説はほぼ否定されている。
 性的な表現のゾーニングはインターネットによって大きく変わったが、性犯罪の件数は減っている。松文館の高裁判決で裁判官は判決においてこのことを指摘したにもかかわらず、アクロバティックな論理を作り上げて有罪にした。しかしこれを見ても、青少年に対する影響は限られていると考えられる。
 「萌え」カルチャーについて自分の珍説を展開すれば、性的な問題はその世界の中で完結していることが多い。臨床で若者を見た経験ではむしろ、性的な欲望が「萌え」の空間のエコノミーの中で完結しており、現実に出てこなくなる。本田透のように二次元で充分と。(会場笑)これが「バーチャル~研究会」のナイーヴな所。ヴァーチャルなものは現実に直接の影響はないのではないか(元々持っているものを延長することはあり得る)。むしろ現実と乖離する方向では。ラカンの弟子のジジェクが言うには、性交は不純なマスターベーションであり、純度が低いという。
 規制に倫理や価値判断を持ち込むべきではないと考える。
・坂田氏:内的な世界を表現することは創作行為として認められるべきではないかと思う。

・永山氏:仮にヴァーチャルなものに規制をどんどんかけ続けていってしまうと、どうなるんですかね。
・斎藤氏:「健全な性犯罪」が増えるのではないかと思う。
・永山氏:だとすると、少子高齢化の対策にはその方がいいのかも。
※この辺のやり取りはロフトプラスワン的なノリ(笑)で、今日のシンポジウムの中では異色。こういったある種の余裕が大事なのかもしれないとも思う。
・望月氏:なぜ表現の自由が憲法で定められたかというと、一旦表現に制約がはじまるときりがなくなり、規制が強化されることで表現者を萎縮させ、強い表現を使えば表現を殺すことになる。規制が進むと、引っ掛かることを恐れて自主規制するように、表現者個人が萎縮してしまう。
・伊藤氏:永山氏と同じ問いは、自分も新聞記者に取材された時に受けたことがある。その時にどう答えたかというと、「表現が痩せる」。表現が痩せてしまうことは結局のところ誰の得にもならない。表現の制約ははじめるときりがなくなる。
 漫画のような表現については、直接の被害者がいない。なので(被害者がいるから規制すべきだ、という話ではなく)、利害の調整をすることが大事。
 良い/悪い文化と区別はつけられない。ゾーニングは広い意味としては利害の調整
 (良い/悪い文化の区別が出来ない以上は)同人の側にも悪ぶる者がいるのは問題。同人について「こんなのは知らない方がいい」なんて言ったりするような。この言葉は実際、コミケで CUT A DUSH!! の列に並んでいたら隣の人に言われた。(会場笑)いや、友人に頼まれて。
※悪ぶるのは良くない、と言いながら Cut A Dush に並んだ理由を友人に頼まれてと言い訳するところが微笑ましくも面白い。

・藤本氏:児ポ法の改訂について、対象に絵を入れることについて、今回の改訂ではあまりそのような動きはない。しかしこのような動きには強く反対すべきである。絵を入れるという改訂の噂で、『ベルセルク』が書店の店頭から引っ込められたことがあったように、文脈を判断しないこのような規制では、例えば悲惨さを訴えるために児童虐待を描写することもできない。

・三崎氏:これだけ多くの人が漫画の表現を行っている、コミケのような場は世界的にも他にない。そのために海外からも注目されている。(具体的な話はメモし損ねました)
 現在、国が日本の国際競争力強化の一環として、漫画のようなコンテンツ産業について検討しているが、同人のような裾野の広さがあってこそ高みもあり、競争力をもたらしているのだということを、経産省の中堅のような現場の人は理解しているようである。

・坂田氏:まとめに入りたい。児ポ法のような「大人」「児童」「子供」の定義について問題がある。猥褻の基準も春画のように時代によって変わるものである。漫画の創作は実際の児童虐待とは全く違うものであるということを認識すべきである。

 これにて第2部は終わり、以後質疑応答に移ります。

〇質疑応答
 第1部・第2部のパネラーが全員集合。
 質問の内容は、最初の入場時に資料と一緒に配られた質問用紙を第1部終了時に回収し、第2部の間に市川氏らが目を通したとのこと。全部で160通程度が寄せられ、全部にはとても答えられないので、大きく3つに分類して答えるとのことでした。

 質問1:現在の修正はこのままで良いのか、修正に地域差などはあるのか

・市川氏:91年以降自分はコミケの修正を見ているが、近年は薄くなっている。それは様々な要素が関った、世の中の流れというものがあるため。明確な基準はなく、商業誌などを参考にして、今までやってきたことを本にして決めている。
・望月氏:松文館事件の時は、40%網掛けとカラーは白抜きという修正をしていたが、範囲が少ないなどの理由によりアウトとなった。
・市川氏:その基準で行くと今の商業誌はすべてアウトになってしまう。
・鮎澤氏と川島氏、苦笑。規制については同人誌の方が厳しいと指摘。

・市川氏:即売会というのは後がない。商業誌は休刊して別雑誌にするなど方法がある(やりすぎると取次ぎに怒られるが)が、即売会は当日一発勝負。(注:この辺、複数の方が以上の趣旨を補足されていましたが詳細失念)コミケの修正に関して、故米澤氏は自分より厳しかったが、その理由はこの後がないということであった。修正としては、専門書店で売られているものとコンビニ売りのものとの中間ぐらいを狙わざるを得ない。
 修正の基準は社会の流れに従うので、事件が起きれば厳しくなる。例えば夏コミの前、8月前半ごろに、今回の会津若松のような事件があったりすれば。
 ただしこれはコミケ基準。個々の即売会は自分の基準で判断して欲しい。
・坂田氏:刑法175条の基準は時代によって変わるものなのか。
・望月氏:そうですね。・・・その一言だけで済ますのもなんなので付け加えれば、時代の変化というものをよく見ておく必要がある。

 質問2:ゾーニングに関して、もっと厳しくするべきではないのか、即売会ではどうするのか

・鮎澤氏:ゾーニングについては商業・同人区別なしに、条例に従って判断している。必要に応じて身分証の提示を求めたり、ポップなどで18禁であることを案内している。
・川島氏:基本的に虎の穴と同じ。18禁については商業のにはシュリンクをかけ、同人誌は袋に入れて立ち読みできなくしている。専門的な書店として、普通の店より厳しくしているつもりである。
※シンポジウムの帰途、豊島公会堂すぐそばの「とらのあな」池袋店へ確認に立ち寄ったが、同店はフロアを分けて18禁モノを置いているというゾーニングをしているものの、その中では試し読み用の見本を大量に置いていた。メロンブックスの発言は皮肉? 但しとらでも、氏賀Y太氏の作品については「上級者向けにつき試し読みお断り」と見本がなかった。これもゾーニングか。
・中村氏:コミティアでは、島別ではなく列沿いで分けている。ある列では両側に18禁が並ぶようにしているわけで、そこに入らなければ18禁は目に触れない。

 質問3:自主規制のアピールが足りないのではないか、どうするのか

三崎氏:このイベントの報告は、参加者の方もネット上にブログなどで上げてくれるであろうが(ここにも実例が一人)、夏コミのカタログで行う予定で調整中。
坂田氏:主催側でもサイトでアップするなどの対応を考えている。

 最後に、時間の都合上1名だけでしたが、会場に挙手による質問を求めました。筆問したのは毎日新聞の記者の方でした。他にもマスコミは来ていた模様です。

・質問:国や自治体の規制対象に同人誌が入ってきたことの危機感について、即売会の関係者の方からお伺いしたい。
・市川氏:91年の時から対策を考えている。手を緩めればまたそのようなことは起き得る。ただ、そういった自主規制をしていることのアピールは、足りなかったかもしれないと反省している。
・坂田氏:自主的な努力は行ってきたので、自分たちの努力を周知させることが大事だと改めて感じた。今回のことを改めて考える契機としたい。
 最後に、曖昧であることの良さ、ということを故米澤氏が指摘しており、日本文化の特徴は曖昧さにあるといえるが(※ちょっと単純すぎる見方のような気も・・・)、これが失われつつあるのではないかと懸念している。条例や児ポ法が出来ていくことで、曖昧であった(ために時代によって移り変わる可能性があった)刑法175条に、輪郭を与えてしまっているのではないか。

 以上でイベントは終了しました。
 で、例によって随分長くなってしまったので、細かい(どうでもいい)ツッコミは多少本文中に書きはしましたが、全般的な感想はまた稿を改めて。
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by bokukoui | 2007-05-19 23:58 | 漫画