夏コミ落選 ついでに雑学に関する雑談

 来る夏のコミケに申し込んだMaIDERiA出版局ですが、表題の如く、残念ながら抽選漏れとなりました。ジャンルを「創作(少年)」から「評論」に移したのが良くなかったのかな。
 ここ長いこと新作も出していなかったし、色々と整理すべき時期なのかもしれません。

 以上の本題と何の関係もなく「へぇ~」と思ったニュースについて。
 雑学マニアの唐沢俊一氏が、ネット上の記事を盗作した疑惑が。

漫棚通信ブログ版「これは盗作とちゃうんかいっ」
ネット上の文章の盗用問題:『新・UFO入門 日本人は、なぜUFOを見なくなったのか』(唐沢俊一著)を巡って

 小生もその昔は雑学王などと呼ばれていたものでしたが(苦笑)、実は芸能とスポーツの知識が皆無なのでテレビのクイズ番組に出るわけにも行かない役立たずでした。
 でもまあ、「人が知らないことを知っている」ことに快感を覚え、その知識を利用したコミュニケーションの力技(これは恐らく効率の悪いコミュニケーション方法だとは思いますが)を色々とやってきた者の端くれからすると、これは唐沢氏があまりにも脇が甘かったといわざるを得ません。唐沢氏の書物を読む読者層の中には、なるほど『トリビアの泉』を見て感心しているような人の方が人数的には多いのかもしれませんが、しかし雑学に詳しいマニア・オタクの類の人々も少なからず含まれているはずです。そういった人々の知識の範囲を考えれば、「漫棚通信」位に有名なサイトから情報を抜き出したら、発覚は免れないでしょうから。
 雑学を活用するには、会話の場合は相手の知識の体系・読んでいそうな書物の傾向を推測し、その範疇外であると思われる出典からの情報を投入するのが最も効果的だと思います。逆に相手の知識体系に繋がりそうなボーダーの情報を投げて、相手に詳しい話を聞かせてもらうという方法もあります。まあ書物の場合はそのような判断を下すのは難しいでしょうが、読者層を想定することである程度は方向性を定めることができると思います。唐沢氏ほどの多作家がそれを分かっていないとは思われないのですが、或いは文名が挙がったことで油断が生じたのか。
 もっとも唐沢氏は、必ずしも充分な資料調査を行っているとはいえず、著述や発言の信憑性には批判も多い。これに対し、唐沢自身は「雑学は怪しげさも魅力」と唱え『ごきげんよう』に出演の際、「意図的にウソのネタも混ぜている」と発言しているそうで、これは小生はどうかなあと思います(昔氏の文章が結構好きだったのに、その後読まなくなったのはこのことに気づいたからでもあります)。もっともそれは小生が鉄道趣味者で、とことん事実を追求するマニア気質の強い世界に馴染んでいたからかもしれません。SFや特撮、漫画やアニメのようなフィクショナルな世界に馴染んでいると、また違った価値観があるのかもしれません。

 ところで本件の被害者である「漫棚通信ブログ版」さんの記事を読んでいると、平野威馬雄『空飛ぶ円盤のすべて』なんて本が登場してきました。はて、平野威馬雄って聞いたことある名前だけど、UFOの本なんか読んだこともないなと思ったのですが、ああ南方熊楠の伝記を書いてた人だと思い至りました。以前拙ブログでも、「最近読んでいる本から何となく引用」と題して、平野威馬雄『大博物学者 南方熊楠の生涯』 を紹介しましたな。この人は仏文学者で、熊楠の伝記から超常現象モノまで本を書き、平野レミのお父さんという、なかなか面白い人のようです。

 で、上でリンクした以前南方熊楠の伝記について感想を書いた拙ブログの記事で、熊楠が反対運動を起した神社合祀問題について地方改良運動とくっつけて、「最近聞いた話では、かの有名な阪急(の前身の箕面有馬電気軌道)が沿線に大量の土地を取得できた一因に、地方改良運動が関っていたということがあるようで、鉄道史研究上も無視するわけにもいかなさそうです。神社を中心としたムラ共同体が地方改良運動と神社合祀で解体され、近代的で地縁・血縁関係を伴わない近郊住宅地が形成されていく――うむ、話の辻褄は合いそうですね」などと適当に思い付きを記しましたが、最近その箕面有馬電気軌道が最初にどうやって沿線に土地を取得できたのかという経緯を述べた論文をたまたま手に入れることができました。

 中村尚史「電鉄経営と不動産業 ――箕面有馬電気軌道を中心として――」
        (東京大学社会科学研究所紀要
               『社会科学研究』第58巻第3・4合併号 2007.3)

 短いものですが実に興味深い内容で、これまで私鉄沿線の住宅地開発というと、原武史氏に代表されるような「小林一三バンザイ」史観ばかりであったところに対し、土地を買われた側の動向をきちんと把握して実証的に解明した価値は大きいと思います。やはり、地方改良運動の影響で、行政村の財産基盤強化を名目に部落所有地の処分が進められており、箕有はうまいことそれを押さえたのだそうです。神社の財政基盤強化を名目に、統合して財産を処分するのと類似した構図が伺えそうですね。

 話が唐沢俊一氏に興味のある人とは読者が被らなさそうな方向に流れていきましたが、ここで話を無理やり繋げてみます。
 ウィキペディアの記事にもありますが、あるいはこれとか、唐沢氏は東浩紀氏のことを嫌っているようで、その批判の調子を見ているとどうも「学者」的なものが嫌いなようです。その理由は想像できなくもありません。しかし小生思うに、「学問」ほど雑学のネタとして有用なものはない、というか、雑学ネタを引っ張ってきて人をあっといわせたいのならば、「知的生〇方文庫」みたいなのにありがちな安手の所謂雑学本ではなくて、学術書を読む方がネタの質もよく効果が大きいと思います。
 一般に学術書(要するにハードカバーで高い本)の方が、そもそも手間暇かけて作られていますから、当然ネタの質は高いですし、よく吟味されていることが多いわけです(まあ例外もないとはいわないけどさ)。さらにここから先が重要なのですが、ハードカバーで高くて小難しい本なんて、どうせ読む人間も少なければ印刷部数も少ないので、その本に載っているネタは知っている人が少なく、従ってその本から引っ張ってきた雑学ネタはより強力な効果を発揮できる可能性が高いわけです(笑)。まあ、小難しい本の場合は、そこから抽出したネタを口当たりよく加工するのにひと手間かかりますが、その手間を惜しまなければ、雑学としての効果を最大化することができるでしょう。
 というわけで、原武史氏の本だけ読んで「阪急とは・・・」と言い出すような輩に一杯食わせたい向きは、東大の社研に行って紀要を貰ってくるべし。

 今日の結論は、雑学もまた学問、というものでした。一応。
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by bokukoui | 2007-06-05 23:58 | 出来事 | Trackback(1) | Comments(7)

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Tracked from いま話題の男性芸能人とは? at 2007-06-12 18:37
タイトル : 唐沢俊一
唐沢俊一 プロフィール検索 動画検索 画像検索... more
Commented by ぶどううり・くすこ at 2007-06-06 06:47 x
お久しぶりです。
本題にはあえて深く突っ込みませんが、
雑「学」という以上、提唱したものに対し
どこかからツッコミが来るものと想定して
おかないと見事に竹箆返しを食らうものかと。
ネタ本として纏められたものから更に一歩
突っ込んで行くのが真の薀蓄者ではある
まいか、と昨今しみじみと思います。
Commented by 労働収容所組合 at 2007-06-06 12:53 x
東氏の著作(編纂)一覧を見ていたら『美少女ゲームの臨界点』なる本が目にとまりました。題名が気になりますが、何なんでしょう。
ちなみに数学で臨界点(critical point)とは正則(regular)でない点のことで、例えば交わったり尖ったりしていて尋常には扱えない点のことです。未だに非正則(singular)点との区別がよくつかないのですが……

それで美少女ゲームの臨界点における近傍や極限を個別に調べるということなのでしょうか。
テキストから画像への写像を調べてknotを分類したり、この作品はこの作品のembeddingだなとか言ったりするんでしょうか……?
Commented by 通りがかり at 2007-06-06 17:34 x
むしろ核分裂の臨界のほうじゃないかな?
Commented by bokukoui at 2007-06-07 19:15
>ぶどううり・くすこ様
ご無沙汰しております。
先日の「同人誌と表現を考えるシンポジウム」の際、ぶどううり・くすこ様が壇上におられないことがまことに残念に思われました。やおい(の識者)の重要性が未だ充分認識されていないのではないかと感じざるを得ませんで。

本件に関しては、しっぺ返しの危険性を当事者が認識していなかったとは思えないのですが、やはりそれは「学」を軽視したからなのかもしれません。
「真の薀蓄者」たるには、ネタの吟味もさることながら、ネタ同士の繫がりから一つの世界を形成して行くことが大事なのではないかとも思っております。

>ラーゲリ氏、通りがかり氏
多分、文系の学問の人がこの言葉を使う時は、「状態が変化する」というぐらいの意味ではないかと思います。
もっともそれなら「時代区分」なんかでも別に良いような気がしてしまうのですが・・・
Commented by 檸檬児 at 2007-06-08 00:22 x
>さらにここから先が重要なのですが、ハードカバーで高くて小難しい本なんて、

 経営の話をしていても「ドラッカーは」とは話が出ていても、実際にドラッカーの書籍を読んだビジネスマンは多くないですね。
 問題は需要量が少なそうな厚い本は此頃は絶版になりやすいということでしょうか。
 こちらで教えていただいた『倒錯の偶像』を読んでみようかと探し始めたところ、どこの書店にも無く、アマゾンで探したら古書扱いで¥12,700からでした。
 こりゃ、神田に通った方が良さそうです。
Commented by 憑かれた大学隠棲 at 2007-06-08 11:14 x
唐沢俊一は薬屋の裏話みたいなのがよかったですね。話半分に聞く能力が問われるところです。

ソーカル事件みたいな話ですなあ<臨界点
Commented by bokukoui at 2007-06-13 19:15
>檸檬児さま

>実際にドラッカーの書籍を読んだビジネスマンは多くない
どこの世界でもありがちなことで(コラ)

『倒錯の偶像』ですが、「日本の古本屋」で検索したら、町田の高原書店が6900円だそうです(状態はBですが)。手早く入手されるのでしたらご一考されても宜しいかと存じます。

>憑かれた大学隠棲氏
話半分にもちと興醒めかと。
平易な言葉で書くことは重要でしかも大変、ということですかね。自戒を込めて。
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