石見銀山といえば鼠とり(砒素は世界遺産に含まれません)

 時代劇の捕物系のお話で毒殺事件発生!って時にはお馴染みの毒薬「石見銀山鼠とり」と申しまして、まあ要するに砒素の類なんですが、やや旧聞ではありますがその石見銀山が世界遺産に認定された件につきまして、ちょっと小耳に挟んだ話など。

 今回、一旦は諮問機関に「登録延期」とかなり厳しい評価を受けたものの、本番の認定会議で大逆転して見事石見銀山は世界遺産になりました。まずは事実関係について解説したマスコミの記事を幾つかご紹介。

 特集・石見銀山(山陰中央新報)
 「逆転」石見にあやかれ 世界遺産、登録はゴール?(朝日)
 石見銀山 世界遺産登録の舞台裏 欧州主導、アジア不利(産経)

 一番上の山陰中央新報の記事は続き物で、「登録延期」評価の時の第1部と世界遺産認定の第2部とがあり、充実しています。 
 で、イコモスに事実上登録見送りを勧告されたにもかかわらず「奇跡の大逆転」が起きたわけですが、なぜこんなことが起きたのか、ということに関して消息筋から聞いた情報を以下にご紹介させていただきます。

 マスコミ報道にもあるとおり、日本当局者が大変熱心に巻き返し工作を行ったことが直接の「逆転」理由でしょう。産経の報道の一節を引用すれば、
 イコモス勧告を受け、文化庁は英文110ページの反論書を作成。ユネスコの近藤誠一大使をはじめ政府関係者も、世界遺産の審査委員を務める全20カ国の大使らに直接面会して説得に努めた。「土壇場でこれほど熱心な説得工作を行ったのは日本が初めてではないか」と関係者は振り返る。
 強調は引用者がしたものです。
 しかしではここで更に突っ込んで考えてみますと、なぜこれまで他国がそんな説得工作をしなかったのに、今回の日本がなぜそんなことをやったのでしょうか? 朝日の報道にあるような、観光振興の願い(勿論地元にとってはとても重要ですが)だけでこんなことをするでしょうか?

 これはやはり、文化庁が役所の威信と命運をかけていたから、ということのようです。
 最近お役所の不手際といえば社会保険庁がダントツなもので、ややその陰にかすんでしまっていますが、それでも時折、年金報道に比べるとひっそりとでも、新聞に記事が載っているはずです。古墳の壁画を剥がしている話が。時にはご丁寧に写真つきで。
 古墳の壁画にカビ生やしちゃった件は、文化庁の能力に少なからぬ疑問を提示させる結果となり、社保庁の如く解体とまでは行かずとも、内部の改革を余儀なくさせているそうです。

 山陰中央新報の記事にあるが如く、日本の世界遺産候補がこれまでユネスコで登録されなかったことはなく「パーフェクト」の成績を収めてきたことは、世界遺産認定に関して文化庁の威信を高めていたそうです。つまり世界遺産になりたければ文化庁のいうことを聞け、そうして順番を待っていればいつか世界遺産になれる、だって候補に上げれば必ず登録されるんだから、というわけです。
 ですから古墳の件でみそをつけた文化庁にしてみれば、「世界遺産」というのは実は、その名前からして思われるような"世界"に向けたアッピールというよりも、国内に向けたアッピールの面が実はかなり大きくて、だからこそ威信を保つためにこれ以上の失点は許されず、文化庁は総力を挙げた巻き返しに出たと思われます。
 何でも石見銀山が登録会議を最終的に通った時、日本の当局者は「・・・今後途上国の遺跡保存にも積極的に協力し・・・云々」と演説したそうで、これまた山陰中央新報の記事を引用すれば委員会の審議では、中南米やアフリカ、アジアの各国代表ら5、6人が環境面を踏まえて『素晴らしい遺跡』と一気に審議の流れをつくり上げたというように、猛烈な説得工作でヨーロッパ以外の支持を取り付けて逆転したことが推察されます。もしかすると環境云々はそれほど本質的ではないのかもしれません。

 勿論、報道にある通り、イコモスの態度にも相当の問題があったとは言えます。小生の乏しい知識でも、大航海時代の結果起こった価格革命に、メキシコ銀と共に日本銀も大きな役割を果たしており、その日本で最大級の銀山が石見銀山なのですから、メキシコの銀山が世界遺産なら石見にもそれだけの価値はあるはずです。
 また、イコモスはモノ偏重の見方をしており、文化的背景には相対的に無頓着であるようです。法隆寺や厳島神社について「オリジナルのパーツはどれくらい残っているのか」とか、率直に言って頓珍漢なことを指摘していたそうで、朝日の報道には「伊勢神宮をなぜ世界遺産に申請しないのか」とユネスコに指摘されたとありますが、うっかりすると式年遷宮しているから「古くないじゃん」とか言われかねません(苦笑)。だからそれを千年やってるところが大事なんだってば。
 そういった点を再認識させることが出来たのであれば、今回のお役所の面子という全人類の文化的遺産より重いものをかけた戦いの成果もあったということになります。

 ただ、短期的には、いわば文化庁の巻き返しで「面子を潰された」ともいえるイコモスが、今後の日本関係の世界遺産にどう対応するのか、イコモスとの関係はきちんと保たれているのか、ということが問題になるかもしれません。うまく行けば来年は平泉あたりが登録の番と言われていたそうですが、その運命や如何に。
 その際の政治的解決としてありそうなのが、今回の件で威信を保てた文化庁が「やはり最近は厳しいから計画を練り直すべし、一年再検討を」と国内を押さえ、その間にイコモスとの関係修復を図るということですが・・・さてどうなるのか、今回の認定に浮かれず今後の動向を見定めることが大事であろうと思われます。

 文化遺産というものの評価は難しいですね。世界遺産というプロジェクト自体は大変結構なことと思いますが、しかしまた「世界遺産」のようなお墨付きに頼るのではなく、自分で価値を高める/見極めるということが大事なのだろうとも思います。
 えー、ですからそのためにも、全国の大学に文理問わず歴史を必修として、ポストの増設を・・・(苦笑)。

※追記:と思ったら文化庁の近業について東浩紀先生が激怒してます。
やはり「海外からのお墨付き」が威信の源泉として何より大事なお役所のようで。
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by bokukoui | 2007-07-04 23:59 | 歴史雑談