『リュウ』特集(1)続き 「螺子の囁き」『速水螺旋人の馬車馬大作戦』

 少し気温が上がると覿面に調子が悪くなります。先月はいろいろあって比較的活動が活発だった(そうせざるを得なかった)のですが、ここ数日はその反動かだいぶくたばっておりました。この分ではこの先が思いやられます。せめて部屋の冷房を稼動させてみようかと思いましたが、冷房機休業中の9ヶ月間に溜まったゴミを片付けないことには稼動もままならず・・・
 このように不調で引きこもっておりますと、新型絶滅収容所の構想とか、大体において考えれば考えるほど当人の精神状況に芳しくないことしか思いつきません。ので、気を取り直して無理にでも明るいことを書くようにします。

 で、途中まで書いてしばらく放って置いた速水螺旋人先生の作品についての感想などひとつ。
 『月刊COMICリュウ』のメカコラム「螺子の囁き」の話をするといいつつ、『速水螺旋人の馬車馬大作戦』の話も一緒にした方がいいのでそっちから、と書いたところで止まっておりました。

  で、『速水螺旋人の馬車馬大作戦』なんですが、本書の面白さと信じがたいお値ごろ感はすでにネット上随所で喋々されているところで、その点について小生も何も異論はありません。該博な知識を背景に、独自のセンスで組み上げた奇想世界は大変楽しいものです。
 また本書の後半を占めるゲーム関係の話にしても、多分やったことのあまりない人でも関心を持てるようになっているのではないかと思います。ゲームの背景世界を速水氏がうまく捉えられているので、ゲームをやって無くても読んで面白いのだろうと思うのです。そして、多少の非電源系ゲームへの素養のある人ならば、プレイ意欲を掻き立てられることでしょう。小生も『バグ・アイド・モンスター』は是非機会があれば、ってこれは読者の9割がやりたいと思っただろうなあ(笑)。もちろん残りの1割はプレイ経験者です。
 小生は『コマンドマガジン日本版』(国際通信社のウォーゲーム雑誌)を以前は結構読んでましたもので、以前同誌上で見かけたものもいくつもあって、懐かしく嬉しかったのですが、そういえば本書によると速水氏の商業初出は96年同誌のようです。それは収録されていないのですが、ひょっとすると多分これじゃないか、という号が現在整理中の書架から発掘されましたので、機会があればまたこれについても。

 この調子でやっていくと長くなるばっかりなので、ここらで話を戻しまして。
 メカにせよゲームにせよ速水氏の描くものが面白いのは、画力を別としても、速水氏がその背景世界に深い知識と愛着とを持っているからなのは間違いないところでしょう。
 で、その点で「螺子の囁き」というコラムは、速水氏のそういった愛着を生かした作品を生み出せるという点で、『馬車馬大作戦』の発表媒体と比べるとひとついい点があるのではないかと思うのです。というのも、軍事、兵器という縛りが解けるからで、例えば『馬車馬大作戦』では「要塞は時速4キロ」の中でちょこっと出てきただけの腕木信号だけで、「螺子の囁き」では1ページ使ったりしてますからね(笑)。そもそも蒸気自動車からして『馬車馬大作戦』では大砲の土台扱いのところ、「螺子」では主役になってますね。
 戦争や軍事というシチュエーションは、トンデモなメカを登場させてすったもんだの状況を描き出すには極めて便利です。でも、その便利さに寄りかかってしまって、そうではない分野のメカとそれをめぐる人間模様なんかがなかなか表に出ないのは残念だと思うのです。それだって充分面白いんだよと。
 速水氏は「官僚主義」というのがお好きで、『馬車馬大作戦』の中でもそれを題材にした面白い話を描かれていますが(本書収録「ユートピア・カフェはあなたの友」は、世にウェイトレス登場漫画数あれど、類例のない傑作)、非軍用の機械でもお役所の頓馬な規制との間でドタバタを起こしたという例は結構あります。きっと面白い話がいろいろ造れると思うんですよね。

 小生が何でまたそれにこだわるかというと、やはり自分が鉄道趣味者だからなんでしょうね(苦笑)。鉄道というのはメカの体系として極めて魅力的なことでは決して他のどの機械分野にも、兵器にもひけを取るものではないんですが、「戦争という劇的シチュエーションに登場しづらい」と「個人所有していじりにくい」という二つの要因が大きいと思うんですが、どうも他のジャンルと距離のある感がありまして。あ、距離のある理由のもうひとつは、「模型業界で鉄道模型だけ規格もメーカーも雑誌も違ってる」かも知れませんね。個人で兼業してる人自体は決して少なくないんですが(兼業者の大御所としては、『シーパワーの世界史』を書くと同時に『鉄道忌避伝説の謎』を書いた青木栄一先生のお名前を挙げておきます)。
 で、『馬車馬大作戦』では、書き下ろしで装甲モノレールに装甲路面電車という悶絶もののネタが巻頭を飾っており、車掌さんのマズルカさんの制服姿がとっても可愛くて、でもやっぱ個人的には車掌さんの鞄は肩掛けよりも腰のベルトから吊って欲しいと思ったりもするのですが、いやメカの話じゃないですね。ともかく、モノレールと路面電車をこんな風に登場させるのってとっても面白いのですが、反面「装甲」じゃないと登場できないのは残念だなあ、とも思っちゃうんですよね。ことに今回、装甲化前のモノレールの丸っこいスタイルが、いかにも大戦間にありそうないい雰囲気だっただけに。
 どうでもいいですが、速水氏はモノレールがお好きとのことですが、そういえばオタキングもモノレールが好きとか書いてたような気が。昔の「未来都市」にはモノレールがバンバン登場していたから、SF好きの少年たちのハートを掴んでいたのかもしれませんね。『馬車馬大作戦』のモノレールは、あれはどう見ても上野公園のモノレールですね。
 鉄道マニア以外の人も関心を持ちそうな鉄道のメカというと・・・シェイ・ギヤード・ロコなんかどうでしょう。縦置きしたシリンダーから歯車と自在継手で動力を伝達するという、まるで自動車みたいな構造の蒸気機関車なのですが、クランクも歯車も継手も全部思いっきり露出しているという豪快な機関車です(だから整備はとてもしやすい)。台湾の阿里山森林鉄道にいたのが有名です。

 というわけで、兵器でないメカにも愛を。

 東武動物公園の駅の近くにある日本工業大学には、工業技術博物館という素晴らしい博物館がありまして、工作機械を数多く収蔵しております。一度ゼミでここを見学に行ったことがあるのですが、これが途轍もなく面白いのです。ここの展示のすごいところは、機械の多くが動くのです。感心することしきり。金属切削をする工作機械ほど「メカっぽい」「メカメカしい」機械はそうざらにありません。興味のある人は是非。工作機械に加えて、蒸気機関車もありますよ。これも動くんですからたまりません。
 工作機械の話を思い出したのは、先日L.T.C. ロルト (磯田浩訳)『工作機械の歴史 職人の技からオートメーションへという本を買い込んで読んだからですが、この本は主として19世紀、産業革命の時期を中心とした工作機械の歴史を扱っています(原書が古い本なので、第2次大戦後まもなくまでで終わっています)。産業革命が実現したのは、蒸気機関を作ることが出来る工作機械が出来たからだというのは言われてみれば当たり前ですが、本書でも述べられている通り、工作機械(とそれを作った人々)の偉大さは専門家以外にはほとんど知られていないのです。確かに、文系の小生にとって、本書を読み解くのはなかなか難しいことだったのは事実で、門外漢には分かりにくいことは確かです。 もう少し親切に図解してくれれば(決して図面の少ない本ではないのですが)、と思うことしきりで、この本を抱えてこの博物館に行けば・・・と思い出したのでした。
 そう、『工作機械の歴史』を速水螺旋人氏に漫画化してもらって子供たちに読ませれば、きっと将来技術者を志す人が大勢・・・?

 話が滅茶苦茶逸れまくりましたね。ここまで読んでくださった方、済みません。
 こう長々と書いてしまったのは、いろいろ思うところがあったからなのですが、それについては流石にもう別記事にします。

※追記:「螺子の囁き」で鉄道ネタがその後登場。こちら参照

※更に追記:「螺子の囁き」が単行本に収録されました。めでたい。
  →「速水螺旋人『靴ずれ戦線 1』略感~「螺子の囁き」完全収録を祝して「火箭図」も」
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by bokukoui | 2008-07-04 23:56 | 書物 | Trackback | Comments(15)

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Commented by 坂東α at 2008-07-06 22:47 x
BSの番組で見て以来、ならい旋盤に萌え萌えです。
しかし、モータが高かった時代のプーリで天井から動力分配される工具とか良いですねえ。現役で使ってないのかな?
Commented by 檸檬児 at 2008-07-07 02:40 x
 『ねじとねじ回し』(ヴィトルト・リプトンスキ著 早川書房)なんて本を秋葉原ラジオデパート2階の書店で見つけて即購入した工具大好きな私にとって、ご紹介の『工作機械の歴史』は随分と魅力的に見えました。
 さっそくAMAZON に注文したところ、11日には届くとのことでした。
 面白そうな本のご紹介、ありがとうございました。楽しみです。

 なお、『ねじとねじ回し』は、「この千年で最高の発明をめぐる物語」としてねじの起源とその精密化とを追求した本で、十九世紀英国のモズレーによる精密旋盤のかなめとなる「基準ねじ」を語る箇所は静かな感動をすら呼び起こすところではありますが、最後に背中を押したのは、扉の「シャーリーへ」との著者の妻への謝辞であったことは、ここ以外では内緒です。
Commented by bokukoui at 2008-07-07 20:03
速水螺旋人ではなく『工作機械の歴史』へのコメントがつくという、素晴らしい読者に恵まれたことを光栄に思います(笑)

>坂東α氏
今度みんなでここの博物館に行きましょう。タレット旋盤なんか、どんな人型ロボよかかっこいいと思います。
天井の軸からベルトで、って工場は・・・途上国で植民地時代のまま、なんてのがあるかも? 案外日本であったりして。いい機械は長持ちしますので。

>檸檬児さま
『ねじとねじ回し』、表題に聞き覚えがあります。よしこれをアマゾンで、と行きたいのですが資金繰りが・・・

『工作機械の歴史』でも、ねじを作るねじ切り旋盤の話はよく出てきました。精度の高いねじが作れれば、それをガイドに更に精度の高い工作機械が・・・と技術が発展してきたというわけで。
それはそれとして、工作機械の歴史は軽工業と比してもまこと女性の影が薄いのは否めませんね。
Commented by 無名 at 2008-07-08 15:13 x
>>坂東αさん
それに代わるものとして、今では空圧を分配しているので恐らく消滅しているでしょう。
Commented by 坂東α at 2008-07-10 10:23 x
>無名さん
 空圧機器ですか.なるほど.
職場の工作機械も大概古いですが,流石に昭和40年代が限度でそれ以前は捨ててますねえ.
Commented by 鈴木光太郎 at 2008-07-10 12:08 x
2週間前から、のにわか読者です。
古い工場のは、刃物材質が弱体なので、工作機械も脆弱で良かった
イマの工場は、刃物材質が剛体なので、工作機械もガチガチなのでは?
旋盤工氏自身が暇な時に火をおこして刃物を焼いて作るという牧歌は、
博物館の三丁目的な薄暗い展示に頼るよりも、
趣味者が道楽で研究することで大きい成果が出ると思います。
例えばの話です、↓
http://www.workshopman.co.uk/uphill_and_son/pages/engineering/machinery/my_machines.htm
英国ではこの方面の探索が良いカンジです。
Commented by bokukoui at 2008-07-10 19:23
>鈴木光太郎さま
コメントありがとうございます。鈴木様のブログも、まだほんの一部ですが読ませていただきました。海外鉄道史に関心を持っておりますので、読んで勉強したいと思います。今後とも宜しくお願い致します。

刃物材質の話は上掲『工作機械の歴史』にもありましたが、工作機械は刃物材質に関わらず、機械全体の剛性を上げることが重要、という話だったかと思います。
英国はこういった産業遺産の実地保存活動が盛んで、日本もそれに倣うべき点は多いと思いますが、なかなか前途は長そうです。もっともその活動を行う際、特に日本の状況では(金持ちで場所持ちの道楽者が成立しにくい)、趣味者と博物館などの連携こそが今後重要になるのではないかと思います。
Commented by 無名 at 2008-07-11 09:13 x
工作機械自体の剛性および、床への取り付け剛性、精度は極めて重要です。
鉄道、プラントに必要な重切削のみならず、CDやDVD等のような軽薄短小製品の品質も雛型製造機の剛性により品質が左右されます。
Commented by 鈴木光太郎 at 2008-07-11 12:52 x
「他のスペックが同等なら、より重たい機械の方が上等である」
という今時の社会風潮と逆な考えも工作機械には生きてるようです。
卓上旋盤のベッド内空間に死重の鉛を流し込んでビビリを防止する、という記事を1980年前後の米国趣味雑誌で読んだことがあります。
Commented by 憑かれた大学隠棲 at 2008-07-11 21:24 x
http://www.city.mitaka.tokyo.jp/suisya/jyousetu/index.html
水車から天井にシャフトが伸びて脱穀機とか各種機械にベルトでつながっていますが、晩年は一部機器はモーターに置き換わったようです。木製の歯車とかはスチームパンク的な雰囲気が漂っていますお。あと案内の人の話もすばらしいです。

日本だとやはり企業博物館に期待するしかないんでしょうけどね。ただ社内研修のための施設という位置づけが強いのか、要予約ならいいほうで、京王みたいに数年に一回の一般公開だけだったりするところもおおいのです。工場併設のものは交通の便が不便だし(´・ω・`)
Commented by 鈴木光太郎 at 2008-07-11 23:23 x
天井の水平軸からベルトで動かす工場の外国写真を3枚ばかり拾って見ました。
http://www.localhistory.scit.wlv.ac.uk/Museum/Transport/Cars/Sunbeam/STD.htm
http://www.flickr.com/photos/fciron/194473676/in/set-72157594209313077/
http://www.ukautotalk.com/monotypesite3.htm
どの工場もそれなりに明るいのは、
暗いとゲージを読みにくい、金属の表面の色で温度を見極められない等の理由があったかと思います。
あと労働安全法規の徹底もあったのかも知れません。
Commented by 憑かれた大学隠棲 at 2008-07-12 00:50 x
某軽自動車屋の会長曰く、「太陽と重力はタダ」
Commented by bokukoui at 2008-07-12 17:44
>無名さま
剛性の確保はやはり、技術の進歩によってまったく置き換えられる方法というのがなさそうですね。これからも重要性は変わらないのでしょうね。

>鈴木光太郎さま
度々ありがとうございます。
工作機械の剛性もそうですが、機関車も牽引力を上げるためにはやはりある程度重いほうがいいはずだと思います。軽薄短小の世とはいえ、重厚長大を以ってよしとするものはまだいろいろあるのでしょう。

(長いので下に続く)
Commented by bokukoui at 2008-07-12 17:45
(上の続き、>鈴木さま)

興味深い写真のご紹介、ありがとうございます。
工場はやはり可能な限り明るい方が、どんな工場でも望ましいのだろうと思います。このブログの過去の記事に写真がありますが、富岡製糸場の建物もなにより明るさに驚きました。電灯普及以前の工場はいろいろ採光が手間だったでしょうし、普及後も天井にシャフトのある工場となるとやはり大変そうですね。

>憑かれた大学隠棲氏
これはいいですね。その気になればすぐ見に行けるかな。
木製の歯車は、歯が欠けたときに取り替えられるのが便利だとか(まあそれだけすぐ欠けちゃうんでしょうけど)。

公開がきちんとされていない博物館や資料館は存在意義が無い、とはいっても、日本の現状では捨ててないだけマシといわざるを得ないのかもしれません。
Commented by 憑かれた大学隠棲 at 2008-07-12 19:16 x
調布飛行場の近所なので、調布飛行場か隣のJAXAの施設の開放の日に一緒に行くといいかと
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