ドイツ軍「暗黒の日」90周年に寄せて速水螺旋人氏の話など

このいくさ 負けだとエーリヒが言ったから 8月8日は暗黒の日
ウィリー

 時は今から90年前の1918年8月8日。折りしも4年目に突入した第1次世界大戦の西部戦線はアミアン南方で、連合軍(協商軍)はドイツ軍に対し戦車を押し立てて攻撃を開始しました。ドイツ軍は大損害を被って退却しましたが、連合軍側も当時の戦車の信頼性がすこぶる低かったために攻勢はすぐ鈍り、ドイツ軍は戦線を再建します。しかし、ドイツを事実上仕切っていた参謀次長のエーリヒ・ルーデンドルフの精神が参ってしまい、以後ドイツ軍は連合軍に主導権を奪われて押される一方となり、そのまま11月の休戦に至ります。
 第1次大戦に詳しいT.S.レイサー氏の記すところによると、
 戦後、ルーデンドルフは書いている。「八月八日はドイツ軍にとって暗黒の日であった」。この日、ドイツ軍は大損害を被ったが、回復可能な程度の損害だった。しかしルーデンドルフは回復しなかった。逆境にあって性格の最悪の部分が出、ヒステリー性の麻痺に襲われた。部分的勝利に満足できなかったルーデンドルフだが、部分的敗北を補う行動を、何一つ考えることはできなかった。以後終戦までドイツ軍は行動指針を失い、単に起こったことに対応するしかできなくなった。
(訳:桂令夫・斎藤通彦)
 「ドイツ軍暗黒の日」というのは、戦後ルーデンドルフらが主張した「ドイツ軍は戦場では敗れなかったが、国内の自由主義者とユダヤ人による、背後からの匕首に刺された」という神話の一環をなすものではあるようですが、これ以後ドイツ軍の前線でも厭戦気分が広く蔓延した、ということは何かの本で読んだ覚えがあります(レン・デイトンだっけかな?)。

 さて、上記のT.S.レイサーの記事は、『コマンドマガジン日本版』というボードゲーム雑誌の1996年4月発行の通巻8号から引用したものです。第1次大戦の本なら拙宅にリデル・ハートもA.J.P.テイラーもありますが、敢えてこんな趣味的雑誌から引用したのは、部屋がカオスでハートとテイラーが行方不明・・・ということもないではないですが、この雑誌は、今年出した初単行本『速水螺旋人の馬車馬大作戦』が大好評な(当ブログでも記事書きましたが)速水螺旋人先生の、多分商業誌初出誌じゃないかと思うんですよね。
 『速水螺旋人の馬車馬大作戦』173ページの年表によると、1996年の項に「速水青年、ウォーゲーム誌『コマンドマガジン(日本語版)』(国債通信社)においてコラムの執筆を開始。同誌付録ウォーゲーム『1918 Storm in the West』に出会い、本作は最も愛するウォーゲームの一つとなる」とあり、それまでは投稿しかしていないようなので、この号で始まったイラストコラム「弾丸通信」が、おそらくそうなんじゃないかと。
 ちなみに描かれているのは、ドイツ軍戦車・A7Vと、当時の軍服姿の女の子と、隅っこにイギリス軍鉄兜姿の自画像? と、そして余白を埋め尽くす薀蓄と趣味の文字。基本形は変わってないですね。ただ絵の感じについては、概して線の細い気がします。
 この「弾丸通信」は『速水螺旋人の馬車馬大作戦』には収録されていないので、一つスキャンして・・・とも思いましたが、まあ速水氏が載せたくなかったのにはそれなりの理由もあろうし、著作権の問題も考え、速水氏の自画像部分だけちょこっと引用。
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 「NHKの映像の世紀が面白かったぞ」というあたりに時代を感じます。この番組では、第2次大戦の回より、1次大戦の回の方が衝撃的で面白かったのを覚えています。シェル・ショックで飛び跳ねる人、そしてラストシーンが見渡す限りの兵士の墓標で、戦争のむなしさを痛感させられました(ことに『機関銃の社会史』を読んでいたので)。

 さて、この雑誌の付録で速水螺旋人氏も愛するというゲーム『1918』の話は、ずいぶん前にこのブログで取り上げました。プレイした者は誰もが認める傑作でありながら、お題が1次大戦というだけで売れ残り、噂では編集者が追われたという曰くつき。
 で、この噂の真偽については小生それ以上の根拠を持ちませんが(編集者が変わっているのは事実)、その元編集者氏の出したウォーゲームの同人誌を、小生持っております。何でそれを持っているのかというと、これは今から十年近く前のコミケで、当時問題になっていた、いわゆる「児童ポルノ法」の制定と表現の規制を巡って、積極的に活動しておられたカマヤン先生のブースにそれに関する同人誌を買いに行ったら、一緒に並んでいたので買った次第。つまり、元編集者氏とカマヤン先生は、当時ともに児ポ法反対運動に関わっておられたのです。今は知りませんが。

 そして十年近い時が過ぎ、カマヤン先生は漫画界から距離を置かれ、速水螺旋人氏の活躍は広がり、『1918』は再評価され、そして児ポ法改正の季節がまたやってきました。「改正」にかこつけて表現規制をするという政治勢力が蠢動していることは、このブログでも既に報じました。今も無体な表現規制に反対する運動は続けられており、この夏ではコミケはじめいくつもの即売会で、また専門書店などでも、反対署名の用紙配布が行われます(即売会では受付も)。
 詳細はこちらのサイトをご参照ください。

 創作物の規制/単純所持規制に反対する請願署名市民有志

 カマヤン先生は今も尚このような運動に関わっておられる由ですが、十年以上前からずっと運動している人は有体に言って少ないようです。それはこの運動が労多くして益少ないものであること、しばしば誤解や中傷があり、更には運動の内紛を招いてきたこと、また同じことが繰り返されるのでうんざりしてしまうこと(知識人の発言が今回少ないのはそのためもあるようです)、そういった困難があるようです。
 しかし、そもそも性格からいって困難の多いこのような運動で大事なことは、それこそルーデンドルフのように全面的勝利が得られないからといって精神的に挫折するのではなく、あきらめずに起こった出来事に対処し、イニシアティヴを失わないことであろうと思います。

 話が例によってとっ散らかりましたが、何とか元に戻ってきたということで。
 末筆ながら、署名へのご協力をお願い申し上げます。
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by bokukoui | 2008-08-08 23:59 | 思い付き