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「没後5年 宮脇俊三と鉄道紀行展」&小池滋トーク@世田谷文学館
 所用の合間を縫って、世田谷文学館で今週末(連休明け)まで行われている展示没後5年 宮脇俊三と鉄道紀行展」に先日行って来ました。で、この日行われていた、ヴィクトリア朝文学研究の日本の第一人者にして稀代の鉄道趣味者である小池滋先生のギャラリートークも聞いてきた次第。
 実のところ、ひねくれ鉄道趣味者の小生はあまり熱心な宮脇読者ではない(鉄道は乗るものだと思っていない)のですが、多少の興味は惹かれましたし、小池先生のトークもあるというので、時間をやりくりして出かけた次第。

 世田谷文学館に行ったのは初めてでした。なかなか立派な建物です。
 入場券を購入して企画展を見ますが、入場券がマルス発行の切符を模していて、なかなか愉快な工夫。凝っています。でも折角なら、国鉄時代の常備券風にした方が趣旨としては・・・? そういえばこの展示会のポスターも、交通公社の時刻表の表紙を意識したデザインでした。関係者に趣味の方がおられるのでしょうか。
 展示は、宮脇氏の編集者時代の業績から、鉄道紀行を執筆した際の諸々の資料・ノート類などがありまして、なかなか面白いものでした。初めての作品であった『時刻表2万キロ』で使われた(作品中でも記されている)、乗り潰した区間を赤でなぞった白地図があったのですが、これが驚いたことに、全線完乗後もずっと使われていたようでした。新線が開業するたびに書き足されて、累計の乗車済キロ数も増えていったのですが、国鉄末期の改革でローカル線廃止が始まってからは累計キロの計算をやめて、新線開通時にプラスの距離だけ書くようになっていました。時代の変化がわかりますね。
 で、この白地図、新線はJR東西線あたりまで書き込まれているのが驚きでした。物持ちがいいというか、最後まで原点を大事にしていたというべきなのか。

 総じて、緻密に物事を整理していくこと自体、宮脇氏は結構好きだったのかもしれません。時刻表を読み解くことを楽しみとしたり、編集者として活躍したりしたのも、その性向の表れ方の異なった側面だったのかもしれませんね。
 もっとも、鉄道趣味者が皆緻密で整理な人ばかりではありませんけど(自省)

 ギャラリートークにはおよそ100人もの来場者がありました。平均年齢は結構高く(国鉄黄金期に青春だったような・・・?)、女性は10人いたかどうか。
 小池滋先生のお話の内容をかいつまんで以下に述べますと、

・宮脇作品についてもっともよく言われることは、「一般の鉄道文学とどう違うのか」ということであるが、自分(小池先生)の答えとしては、紀行文学が空間移動の記録であるのに対し、宮脇文学は時間をも移動する、時間が主人公であるということ。

・自分がもっとも好きなのは『時刻表昭和史』。同書は「時刻表自分史」でもあるが、これは歴史の本である。しかし、それだけではなく、紀行文においても時間的移動がある。
 『時刻表2万キロ』でも、終戦の時の今泉駅の画出てきて、エピソードが出てきて、時間への「垂直の旅」へとのめり込んでいく。同書で全線乗り終えた足尾線の章でも、乗り終えてからタクシーで鉱山へ行き、坑夫の無縁仏の墓のことが出てくる。他の本でも、海外紀行でも同じ。
 過去へと遡る、時間の逆行が起きている。

・なぜ宮脇作品がそうなのか、直接聞いたことはない。宮脇は西洋史学科の出身だが、それは過去への関心の理由ではなく結果であろう。彼の中に、記憶の奥へと「垂直の旅」をしたいという欲求があったのではないか。
 ここから先は自分の勝手な想像であるが、宮脇は大正15(1926)年生まれで、数え年と昭和の年数が一致している。これがどこかに引っかかっているのではないか。昭和とともにある、自分の過去は同時に日本の過去である、という。

・20世紀の世界の文学の特徴は、主人公が人間から時間へと変わったこと。有名な例としてはプルーストの『失われた時を求めて』。(ここで立って、ホワイトボードに temps perdu と書く)
 これが20世紀文学の特徴。イギリス文学では、ウルフ『ダロウェイ夫人』を例にすれば、これは夫人が買い物に出かけながら次々と過去の追憶にふけるのだが、同時にビッグベンの鐘が鳴ることで現実の時間を表している。今動いている時間(現実、日常)と失われた時(過去、頭の中)とをどう接合するのか、それが20世紀の文学である。
 宮脇はこれを意識的に行っていた。時刻表が現実の時間を表す、『ダロウェイ夫人』の鐘の役割を担っていたのである。


 これも実に面白い視角と感じました。宮脇文学を評するのに、「鉄道紀行の代表」扱いして、内田百間・阿川弘之と並べておけばよし、というのが一般的な傾向で、この展示会の内容もその線に沿ったものでした(ちなみに展示によれば、阿川氏の鉄道エッセイ本が、宮脇氏の編集者としての最初の仕事だったとか)。しかるに小池先生は、宮脇文学を「20世紀の世界の文学」の中に位置づけて見せたわけで、その広い視角は、これまでに聞いた覚えのないものでした。世界の鉄道を乗っていた宮脇氏の作品を評するにも、そして「鉄道」という近代の重要な装置の意味を考える上でも、有意義な指摘と思います。

 その後、常設展も見ておきました。北杜夫作品に子供の頃なじんでいた(ので、宮脇氏のことを最初に読んだのは、『どくとるマンボウ途中下車』で、北氏を新幹線に乗せる編集者M氏として、ということになりますね)、そのあたりに特に注目して。
 一つ驚いたのは、大藪春彦が本名だと知ったことでした(パスポートが展示されていた)。何となく、特に「藪」の旧字のあたりに勝手にハードボイルドを感じていたもので。

※補足記事があります。こちらへ

by bokukoui | 2008-09-08 15:49 | 鉄道(その他) | Trackback | Comments(6)
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Commented by 鈴木光太郎 at 2008-09-08 17:13 x
私は鉄道趣味ですが宮脇氏の著書はまるっきり読んでないです。
1つだけ宮脇氏の文章で、出典も全く記憶が無いのですが、以下です。
鉄道趣味者になる為に有利な条件として2つ挙げ、
1、「幼少時鉄道の近くに住みこれをしょっちゅう見て育った人」
があります。しかしこれはそこそこの鉄道趣味者なら簡単に口に出せる事です。
2、「その鉄道は幹線が条件であって、ローカル線では意味をなさない(氏は渋谷出身で山手線という重要線を見て育った)」
で、2、に感心しました。つまり鉄道趣味はローカル線趣味とは一線を画す、と言う発言じゃないかと思ってます。基本的に賛成です。
Commented by 憑かれた大学隠棲 at 2008-09-08 20:51 x
北大阪急行→近鉄奈良線→京王線→阪急神戸線と渡り歩いてきた漏れにはよく分かる話
Commented by 北越北線 at 2008-09-09 15:39 x
ローカルだけの予定だったけど、ちゃっかりスーパー特急までフィニッシュwwww
だって北陸新幹線の計画がぐだぐだだったんだから作るしかないっしょヽ(゜∀゜)ノ
上越新幹線&上越線→信越本線→北陸本線→七尾線
の黄金パターンでガッツリ楽しんできますたぁぁあぁヽ(´ー`)ノ
Commented by 某(ry at 2008-09-11 00:01 x
くびき通過^^
Commented by bokukoui at 2008-09-11 14:41
>鈴木光太郎さま
ローカル線趣味と一線を画す、というのは、ことに昨今の風潮からすると大事なことですね。割と安直にそう解釈されることが多いですから。
そういえばギャラリートークをされた小池先生は、東海道線・山手線・品鶴線が交錯する地域のご出身だとか。

>憑かれた大学隠棲氏
あれ、西宮の前にも京王沿線に住んでたんですか?

小生の勝手な説では、昭和戦前期生まれの大物鉄道趣味者の方々は、どうも帝都電鉄→京王井の頭線沿線ゆかりの方が多いのではないか、井の頭線は相当なマニア養成路線だったのでは、と思っています。戦前当時は最新鋭の電鉄でしたので(山手線から放射状に伸びる路線としては戦前最後の開通)。

>北越北線氏、某(ry 氏
スパム書き込みにネタ返しどうも。
Commented by 憑かれた大学隠棲 at 2008-09-11 21:36 x
そうなんですお。親の仕事の都合で幼稚園と昭一の時だけ住んでて、京王沿線でした。まあ毎日乗ることはなかったのですが、たまに入り込む都営車や5000系の変則編成なんぞに興奮しておりました。
ていうか10分おきで緩急接続があって不動産とデパートとタクシーとバスと斎場やってないのは鉄道じゃねーw
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