北原遼三郎『東急・五島慶太の生涯―わが鐡路、長大なり』雑感

 しばらく前に大学に行った際、生協書籍部の新刊コーナーで見つけて、中身をよく見ぬまま買った本について。

北原遼三郎
  『東急・五島慶太の生涯
 東急の事実上の創業者として名高い、五島慶太の伝記です。五島の伝記や東急の歴史の読み物はたくさんありますが、今年7月発行の、ごく新しい本です。
 で、350ページあまりあるハードカバーのかなり厚い本なのですが、小生は今日一日の電車の行き帰り+αで読んでしまいました。それは面白かったからというよりも、知っている話が大変多かったので、読むのに手間が取れなかったという方が正確な気がします。

 本書は巻末に「※本作品は、独自の取材、調査をもとにしたノンフィクション・ノベルです。」とあるので、つまり小説ですから、経営史的に新たな観点がないなどという感想はそもそも見当外れと思います。では小説として、読み物として面白いかというと、正直それも・・・というのが正直な感想です。
 本書は五島慶太を中心にしつつも、その息子の五島昇、そして五島のライバルであった堤康次郎にも記述を割き、五島と堤(堤の子息・康明などもちょっと出てくる)の比較や関係についての叙述が軸となる・・・のかといえばそうでもないようです。つまり本書の小説的問題は、五島慶太の何が面白かったのかが読者にいまいち伝わってこないところにあると思います。
 おそらく、面白さの芯が読み手に伝わってこないのは、本書の構成上の欠陥にその原因があろうかと思います。普通、伝記というのは時系列に沿ってその人の人生を追っていくものですが、本書は時系列が前後に錯綜し、おまけにそこに堤の話が挿入され、ごたごたなのです。多くのエピソードが挿入されていて、それ自体は興味深いのも多いのですが、いったいどういう文脈でそのようなエピソードをその場所に入れているのか、よく分からない場合が多いように思われます。
 章立ては一応単元別? というのか、鉄道経営や映画や晩年の北海道開発や、トピックごとに纏めてあるような感じですが、それもあまりはっきりとはせず、読んでいて時間が前後し、どうもすっきりしません。一例を挙げれば、本書中盤で東映の歴史が追われ、それ自体はいいのですが、途中で何の断りもなく五島慶太没後の五島昇の経営の話になっていて、え? どこで五島慶太死んだの? と読んでいて戸惑いました。
 また、本書には写真・地図などが一枚もなく、東急本体のみならず箱根山戦争や伊豆や北海道の開発で多くの地名が出てくるのに、少々不親切です。地図を載せれば五島や堤の野望もよりいっそう分かるでしょう(確か猪瀬直樹『土地の神話』に、晩年の五島が伊豆の地図を自室に張って、それを睨みながら戦略を立てていたという逸話があったと思います)。といって、その地名が大体頭に浮かぶマニア筋には、新味が乏しいと思われてしまうでしょう。

 というわけで、いまいち狙いのはっきりしないのが残念な本だったなあ、というのが一読した率直な感想です。
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by bokukoui | 2008-09-26 22:50 | 鉄道(歴史方面)