第三海堡のコンクリート

 2月6日に買い、その時は「いつになったらこの本まで順番が巡ってくることやら」などと書いた『コンクリートの文明誌』を読了しました。「積ん読」本を床に平積みにしており、買った本を上に積んでいくため、後から買った本を先に読んでしまった次第。ああ、一番下の『機密日露戦史』に日の光が当たるのはいつのことやら・・・
 それはともかく、憑かれた大学隠棲氏お勧めのこの本はなかなか面白い本でした。コンクリートの歴史を通じて、コンクリートの研究者である著者のシヴィル・エンジニアへの思いが伝わってきます。扱われている題材が、新幹線の高架橋にコンクリート船、ナチのアウトバーンやフランスのマジノ線と、鉄道・軍事趣味者にとってはそれだけでも充分楽しめます。まあ、トピックがばらばらでやや纏まりがない、「文明誌」というにはちょっと厚みが少ないという嫌いもありますが(この本はどうも普通より厚い紙を使っているようで、見た目の厚さよりは「薄い」本のように思われます)。
 カバーは昭和30年ごろに作られた砂利コンクリートの切断面だそうで、なかなか美しいデザインです。というわけで記念写真を撮ってみました。
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 本の左手にある円筒形のコンクリートは、東京湾に作られた要塞・第三海堡のコンクリートです。背景はCGで再現された第三海堡のイラストを載せた、斯界の権威・原剛先生監修の『日本の要塞』です。
 第三海堡についてはこちらの国土交通省のサイトなどを参照していただければ分かりやすいかと思いますが、明治時代に起工され、約30年かけて大正10(1921)年に完成した、東京湾の開口部に作られた要塞です。なぜ30年もかかったかといえば、海を埋め立てて人工島を作ったためで、そこにコンクリートで砲座や弾薬庫を設けたのです。
 ところが完成直後、関東大震災で人工島が沈下、用をなさなくなってしまいます。かくて第三海堡は要塞としては廃止され、戦後もそのまま放っておかれましたが、東京湾の船舶交通量が増え、また船舶が大型化してきたため、航路上の障害物として問題視されるようになってきました。そこで近年撤去作業が進められており、その際に陸揚げされたコンクリート設備の一部を見学することができます。小生もゼミ合宿の折、指導教官(戦史研創設者)に引率されて見学に行きました。
 実に立派にできていたコンクリートの建造物で、恐るべきことに継ぎ目が殆どなく、昼夜兼行でコンクリートを打ち込み続けたようです。敵艦の砲弾を喰らった際の損害を小さくするためか丸みを帯びた形状をしているものがあるのですが、木を曲げて枠を作ってコンクリートを流し込み、曲面を持った構造物を作っていたことが木枠の跡から分かります。実に丁寧に作られていたわけであり、実際人工島建設時に使われたケーソンはまだまだ使えるということで、どこぞに再利用したとか。

 さて、現在進められている撤去作業は、海に沈んだこれらコンクリートの建造物をクレーン船で吊り上げて回収し、人工島を浚渫するというものです。クレーンで吊るためには、コンクリートの塊に引っ掛けるための金具を取り付ける必要がありますが、その時コンクリートに穴を開け、ボルト(だったかな?)を差し込んで金具を取り付けます。写真の円筒形のコンクリートは、その際に穴を開けてできた削りカスなのです。
 見学時、この削りカスがいくつも転がっているのを引率教官が見つけ貰いうけていたので、小生も一つ記念に頂いてきました。いい土産になったと喜んで帰宅したところ、小生の親は産業廃棄物を拾ってくる馬鹿者と言わんばかりの様子でしたが、某日濃い軍艦趣味者の会合に参加した折この話をしたら、他の人に詰め寄られました――「何で俺の分も拾ってきてくれなかったんだよ?」
 この第三海堡のコンクリート、おそらく大正時代に作られたのでしょうが、断面にとりどりの色や大きさの小石が映え、なかなか綺麗なものです。地質や鉱物の専門家ならば、このコンクリートの骨材の砂利がどこで採取されたものか分かるのかもしれません。専門的なことは小生には分かりませんが、見たところ丸いものばかりなので川砂利らしく、おそらく多摩川あたりで採取されたものかな? と思っています。

 話を『コンクリートの文化誌』に戻すと、この本はシヴィル・エンジニア=土木技術者が日本では「土建屋」と批判的なニュアンスを含んだ言葉で呼称されていることを嘆き、それは土木業界自体の体質、政官財の癒着に問題があると論じています。このことを考える上では、新藤宗幸『技術官僚 その権力と病理』が非常に良い参考になると思います。官僚論は色々ありますが、技術官僚の問題について触れたものは他にあまりありません。ただ、この本の技術官僚の歴史についての記述では昔の鉄道に従事した技術官僚は余り触れられていないので、そこは発掘の余地があるかと密かに考えています(けど、全然手をつけていない)。他に大淀昇一『技術官僚の政治参画―日本の科学技術行政の幕開き』という本もありますが、この本は宮本武之輔という特定の技術官僚に傾斜している部分が多く、また技術官僚への批判的視点が弱く、技術者の参画が問題を解決するという考えのようで、「科学技術」という言葉の成り立ちなど興味深い点も勿論ありますが、総合的な視野という点で『技術官僚 その権力と病理』の方がお勧めかと思います・・・って品切れなんですね。とほほ。

 長々書いてきましたが、良い本というのは一冊読むとさらに他の本が読みたくなるような本なのでしょう、多分。
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by bokukoui | 2006-02-25 23:43 | 歴史雑談