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筆不精者の雑彙

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続・歴史修正主義と植民地の鉄道建設 インド篇



 先日インドで大規模な鉄道事故があったそうで、300人に近い死者が出たとのことです(もっと増えるかも)。米中に次ぐ鉄道大国のインドは、人口増や経済発展に鉄道インフラの整備が追い付いていないようで、大事故の報道を聞いた覚えは今回にとどまりません。犠牲者の冥福を祈るとともに、インドの鉄道の改良が望まれるところですが、人口密度の高いところで高密度な運転をする技術は日本の鉄道の得意とするところなので、技術協力ができれば……いやでもインドは貨物も多いから、イギリスから移植されたという点で日印の鉄道は同じ起源を持つとはいえ、今は相違点の方が多そうではあります。

 その事故と直接関係あるわけではないのですが、事故の直後にたまたまネット上でインドの鉄道に関するトンデモなツイートを見つけてしまい、うんざりさせられました。
 それは以下のようなツイートです。
 いったいどこから、こんな屁理屈が捻り出されたのやら。

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# by bokukoui | 2023-06-06 13:34 | 歴史雑談 | Comments(0)

日本学術会議法の「改悪」反対署名のお知らせ

 
 長らくブログを更新していませんでしたが、重要なお知らせがありますので、こちらを更新しておきます。

 かねてから続いている、日本学術会議の会員任命拒否問題と、一方的に不適切な措置をしておきながらその理由を説明せず、逆ギレしたかのように学術会議をいじくりまわして、政財界が介入しようとしている制度の「改悪」問題ですが、ひとまず今国会では見送りされました。
 しかし、政府による「改悪」が諦められたわけではありません。目先の金になる研究ばかり優遇する、政治が介入して軍事研究ばかりをやらせることが、過去の反省に学ばない、結果的には経済成長にも安全保障にも貢献しない愚策であることは確かだと思うのですが、権威主義的傾向を強める日本の政治は権威から自立した存在を嫌悪しています。根本的には政権を変えるしかないのですが、権威主義的な国へ雪崩落ちていくのをひとまず食い止めるためにも、日本学術会議問題については反対の声をあげ続けていくことが必要です。

 というわけで、新たな日本学術会議法「改悪」反対署名が立ち上がりましたので、一人でも多くの方のご協力をお願いします。
 前回と同じく、日本大学の古川隆久先生が呼びかけられた運動です。
 古川先生の声明文の一節を引用します。

「学術会議は、これまでの人類の叡智をふまえた学問的な立場から社会や政府に助言をする組織です。その学術会議までも政府に服従すれば、社会にとって貴重な(時には耳が痛い)「セカンドオピニオン」を発し得る重要な仕組みがなくなってしまいます」

 まったくその通りなのですが、耳に痛いことは聞きたくない、というご都合主義が、近年日本に瀰漫したように思われてなりません。理想を掲げることを偉そうだとけなし、正論を冷笑し、権力にすり寄ることを現実主義とはき違えてはいないでしょうか。問題を指摘する声を抑圧して、問題までなかった気になってはいないでしょうか。
 問題を指摘する声を押しつぶしても、問題がなくなるわけではありません。そうやって地道な課題解決から逃げてきた結果が、停滞かつ閉塞する日本を作ってきたのではないか、そんなふうに思われてなりません。いわば考えることから逃げ、それを精神的合理化であるかのように正当化しているのです。「タイパ」だの「コスパ」だの最優先に考えるのなら、理想を掲げて営々と努力するよりも、答えの出ない問いを考え続けるよりも、目前の現実にとにかく適応した方が合理的かもしれません。でもそれは、大局的には不合理なのです。考えることから逃げる姿勢が、学術への敵愾心を生んでいるのです。
 しかし、苦言を忌んで反省しない姿勢は、この国の政治では一層あらわになっています。原発事故がなかったかのように原発推進を図り、過去の歴史を忘れて軍拡に走り、新型コロナ対策への反省もなく規制をなくし、数え上がればきりがありません。それに反発するどころか、忖度して反省の声を押しつぶす連中の多さには危機感を感じますし、そういった連中が学問の世界にすら見られるのは、自殺行為としか思えません。人文社会系研究の核心を突いた、この学術会議問題の記者会見で東京大学の鈴木淳先生が述べられた言葉を、締めくくりに代えて引用しておきます。

「人文社会系の学問とは100%現状を肯定しているということはないと思う。どこかやはり問題を感じるところがある。それが今の政権に対してどうかとかそういうことはもちろん人によってさまざまだが、ないところにも問題を探すようなのが人文社会の本質というか、あるいは問題がなさすぎるのがおかしいと言ってみるくらいまで、人の心とか社会のあり方に対して敏感に感じ取る、課題を探す学問」

 この言葉の出典は以下の記事です。
※本記事は2023年4月21日のツイートをもとに作成しました。

# by bokukoui | 2023-04-23 12:50 | [特設]日本学術会議会員任命拒否問題 | Comments(1)

鉄道150年記念・鉄道史のおすすめ本紹介15点+α

 今日は1872年に日本で初めての鉄道が新橋~横浜間に開業してから(厳密には品川~横浜間で仮営業してましたが)、ちょうど150年の佳節にあたります。有為転変を経ながらも、日本社会で鉄道が一定以上のプレゼンスを保ちながらここまで発展してきたことは、一ファンとしてまことに喜ばしく思います。現在は新型コロナウイルス禍によって鉄道事業も大きな打撃を受け、また近年の温暖化に伴う天候の激変によるものか、被災による運休や廃止も目立ち、現に復興が問題となっている路線もあります。今後の鉄道事業の様相は予断を許さず、国鉄の分割民営化のような大きな変化が起こる可能性(いや必要性というべきか)もあるでしょう。しかし、鉄道を一貫して基幹的な交通機関としてきた日本では、今後もその社会の構造自体がすぐに大きく変わるわけではないでしょうから、まず当分は鉄道は重要な交通機関であり続けると思っています。

 という口上はひとまず措いて、鉄道史を専門としている私としては、この機会に鉄道の歴史についての面白い本をいくつかご紹介して、記念日の賑やかしにできればと思います。まあ過去に取り上げた本の再紹介になる場合も結構ありそうですが……。
 取り上げる本については、なるべく一般の読者の方を想定して、鉄道に関心のある方が読んで面白そうなものを取り上げたいと思います。ですので学術書としては古典であっても、例えば中西健一『日本私有鉄道史研究(増補版)』ミネルヴァ書房(1963初版、2009年再々版)などは、除外することとします。


 鉄道の本はたくさん出ており、それなりに読んでいるつもりの私でも到底網羅できているわけではありません。あくまで一ファン、私鉄の歴史に傾いた者の思い付き(割と愛読して記憶にある本)ですが、何かしら手引きになりましたら幸いです。


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# by bokukoui | 2022-10-14 08:45 | 鉄道(歴史方面) | Comments(0)

足立正生監督作品『REVOLUTION+1』上映&トークイベントを安倍国葬の日時に観る

 今日は、法的根拠がなく国会の承認も得ていないのに多額の国税を使って故・安倍晋三元首相の「国葬儀」なるものが強行された日でした。さまざまな世論調査によっても、国民の過半、三分の二くらいは反対しているにもかかわらず、「一度言い出したことは全ツッパ」という安倍政治の弊風がいまだ拭えていないことがあからさまになりました。
 安倍元首相殺害事件についてはいろいろ述べたいこともありますが、それはまたの機会にしまして、そんな国葬の日のまさに国葬の時間帯に、いろいろ有難い縁から、話題となっている映画の特別上映を観て、制作陣のトークも聞けるという好機に恵まれましたので、取り急ぎ感想をまとめておきたいと思います。

 その映画とイベントとは、こちらです。
 
 ネットでは一部話題になっていたり、メディアでも報じられましたので、ご存じの方も少なくないと思いますが、足立正生監督が安倍晋三殺害事件を題材に、犯人である山上徹也容疑者を主人公に据えた映画、『REVOLUTION+1』です。



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# by bokukoui | 2022-09-27 23:59 | 出来事 | Comments(0)

東急百周年・社史「東急100年史」余滴

 東京急行電鉄が改称した株式会社東急は、1922年9月2日を創立と位置付けており、2022年は百周年の記念すべき節目に当たります。
 会社の誕生日をいつとするかはいろいろ考え方があり、鉄道会社なら創立の会を開いた日か、登記日か、あるいは開業して汽車や電車が走り始めた日か、会社によっても違うようです。また東急もそうですが、複数の会社が合同してできた企業の場合、どの会社を源流とするかはいろいろな場合があり、また合同した日を誕生日とすることもあります。
 で、東急では、登記上の源流である目黒蒲田電鉄の創立の日を誕生日としています。同社のさらに源流は、田園調布を手がけたことで名高い田園都市会社(田園都市の子会社として目蒲は創立された)ですが、その後目蒲が田園都市を合併したので、登記上の源流は目蒲になります。目蒲がのちに兄弟会社である東京横浜電鉄と合併した時は、目蒲が存続会社となりつつも社名を東横電鉄と改称しています。その東横が、小田急と京浜を合併して東京急行電鉄になったので、書類上は確かに目蒲創立の日が東急の誕生日といえますね。
 もっとも、被合併会社では、玉川電気鉄道が明治末年に開業していて歴史が一番古く、東横電鉄も免許を得たもともとの武蔵電気鉄道は目蒲より古い経緯があるのですが、これは傍流と位置付けているようです。まあ近鉄も、主流と言える大阪電気軌道より、南大阪線をつくった大阪鉄道のもととなった河陽鉄道の方が創業は古かったりしますが、同社の百年史は大阪電気軌道基準で数えているようです。

 というわけでめでたく百歳をむかえた東急は、日本の私鉄の特徴である多角経営を早くから進めて、私鉄界でも随一のグループ企業を擁する一大コングロマリットとなっています。近年では百貨店やバス、不動産など主要兼業のみならず、祖業の電車も事業子会社化、略称の東急を社名にして、持株会社となっています。これは他の大手私鉄も近年同様の形態を採っていますが、その本社の多くが百人程度の少数精鋭?の陣容なのに対し、東急は本社だけで社員千五百人を数える大企業だそうです。それだけグループが大きいということなのですね。
 で、東急も一世紀の歴史を記念して、いろいろイベントをしています。ラッピング電車(中も百年記念展示だそうです)も走らせているそうですね。その記念事業の一環として、東急は100年史を編纂し、今時らしいと思うのですが、ネットで公開しています。社史は売って儲けるようなものではないし、ネットで無料公開して一人でも多くの人に読んでもらう方が、意味があるとも言えますね。以下のリンクからご覧ください。
 東急の百年史は、全篇を同時にではなく、古い方から順次公開されています。戦前の第1章はゴールデンウィークに公開され、現在は第4章(1970年代まで)が公開されています。全体としては相当のボリュームになりそうです。
 この社史は、近年の阪神や近鉄や京阪や西鉄のように、外部の経済史・経営史家に委託して作るのではなく、主にライターの建野友保さんが東急本社と協力して執筆されています。ほとんど一人であれだけの分量のものを書かれるとは頭が下がる思いで、さぞかし大変な作業だったろうと思います。改めて建野さんのご尽力には深く敬意を表する次第です。数年はこのお仕事にかかりきりだったのではないでしょうか。

 なんですが、前半とりわけ戦前部については、さすがに50年史準拠では現在の歴史研究からすると古い部分もあるということで、外部の専門家が助言することになりました。それでお呼びがかかったのが、青山学院大学の高嶋修一先生と、なんと私でありました。高嶋先生は鉄道史・都市史などの研究をされて、東急が開発した玉川村(現在の世田谷区)における地域の耕地整理について研究書をものされています。また都市鉄道についての快著『都市鉄道の技術社会史』は、交通図書賞を受賞しました。

  
 
 私は、五十年史では手薄だった電灯電力兼業に詳しいということで、電気事業や被合併会社の話などをそれなりの分量加筆するというお仕事をする機会に恵まれました。正直なところ、これはとても嬉しいことでした。私は電車とりわけ私鉄の電車が好きな鉄道マニアで、幼時から鉄道の知識を蓄えては喜び、挙句の果てには大学院で鉄道史(電力業史でもありますが)の博士論文を書いて学位を取りました。小さい頃は京急沿線民でしたが、小学生以降は一貫して大学院まで東急沿線に住み、東急にも相応の思い入れがあります。研究者以前に一鉄道マニアという自意識がありまして、そういう人間にとって大手私鉄を代表する、自分も沿線民の東急の百周年記念事業の一端に、小なりとはいえ名を連ねることができたというのは、まことに光栄なことと嬉しく思っています。40年もマニアやってると、時にはいいこともあるものですね。
 というわけで、上掲リンクからぜひ「東急100年史」をご覧ください。私が書いたのは第1章の一部だけですが、その続きももちろん読みごたえがあります。50年史以降の五島昇の積極的な経営について、また昇没後の経営再建に奔走するグループの苦闘など、読みどころは多いと思います。もちろん沿線民にとっては、身近な街がどうできてきたか、開発の詳細を知ることができ、「なるほどあの施設はこういう経緯でできたのか」と、自分の住む地域を深く知る楽しみがあります。また沿線以外の方にも、日本型私鉄の典型というべき東急の経営史は、一つの日本的近代モデルとして学ぶところがあると思います。

 という告知だけでは芸がないので、以下原稿に載り切らなかった、あるいは本筋と外れたりちょっと怪しいので載せなかった小ネタを列挙して、マニア諸兄のご一興に供する次第です。まあだいたいはツイッターでつぶやいたトピックですが。主なネタ本は資料調査で読んだ、沿線の郷土史の発行物です。


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# by bokukoui | 2022-09-02 12:00 | 鉄道(歴史方面) | Comments(1)