折々の小ネタ 及びアサミ・マート『木造迷宮』2巻略感

で、個別の感想は過去の記事でも触れていたりしますが、この巻では裏表紙にダンナさんの従姉妹のサエコさん、ダンナさんの小説の愛読者である文学少女・セッコちゃんが大きく描かれていて、肝心のダンナさんは霞んでしまっています(笑)。女性のサブキャラクターの重みが増えたわけですが、「萌え」漫画にありがちなハーレム的ドタバタ展開にならず、絵柄と相俟ってしっとりとした雰囲気が保たれているのは安心です。
ところで、これだけ「木造迷宮」「アサミ・マート」で検索する人が増えたようなのは、本作が第12回文化庁メディア芸術祭の審査委員会推薦作品に選ばれたことも一つの理由なのかも知れません。帯にも書いてあったし。正直、小生はこの賞がどのような性質のものでどの程度権威があるのかよく分かりませんが、一緒に推薦された作品や審査員の顔ぶれからすると、相当のもののようです。『犬夜叉』や『美味しんぼ』や『のだめ』や『もやしもん』などと並んでいるとは。
で、この賞では以前、メイド漫画の極北である森薫『エマ』を受賞させており、審査員のどなたかの(文化庁の?)趣味ではないかとも一瞬思わされますが、そして『木造迷宮』2巻の帯にはでかでかと
と謳っていたりしますが、しかしやや考えるに、フリルやレースに象徴されるごてごて感たっぷりなヴィクトリア朝的雰囲気を堪能することに重きを置いた『エマ』と、割烹着のけなげな女中さんと木造の一軒家でちゃぶ台を囲む『木造迷宮』とでは、かなり重点が違っているよなあ、と考え直しました。『エマ』の中で、ウィリアムとエマの恋愛自体は実は結構ぞんざいな扱いだったんじゃないかという気は今でもしていますが、『木造迷宮』の力点はやはりヤイさんとダンナさんとの関係にあるようなので。
むしろ『エマ』と『木造迷宮』の共通点は、「家事に極めて堪能な女性が主人公」という所にあって、そういう女性像に憧れる、という読者の読みが共通していることはありそうです。男性の場合はそんな女性に尽くして欲しい、女性の場合はそんな優れた技能者になりたい、というところで。女性の場合はもしかすると、更に「そして"王子さま"に尽くしたい」という感情が続く場合もありそうです。そこまでジェンダー規範を内面化しなくたっていいのに、とつい思ってしまうのは、文学部で教育を受けた(うえちづ先生にはちゃんと単位貰いました)故の癖なのか、はたまた「日本を破壊するジェンダーフリーの陰謀」とやらに洗脳されているのか。
もっとも、「割烹着」「ご奉仕」と来ると、日本近代史専攻の小生はやはり国防婦人会を連想せずにはおられません。タスキをしたヤイさんが日の丸の小旗を振っている姿が心眼で見えてしまいます。もう今では、そう連想する人も少ないのかな? でも、今でも戦時中を舞台にしたドラマや映画を作ると、出征するシーンでは必ずといっていいほど、国防婦人会が日の丸の小旗を打ち振る絵が出てくるように思われます。
それだけ強烈にイメージとして刷り込まれていると思うのですが、審査員の先生方は連想しなかったのかな。まあ最年長のちばてつや先生でも、物心ついた頃には、国防婦人会は大日本婦人会に統合されていたでしょうけど(もっとも、国婦と大日本婦人会や愛国婦人会との区別は、当時の人の間でも結構曖昧だったようです)。

清水美知子
女中という存在を通じて見た、日本近代の生活史についての学術書です。帯の文句を引用すると、「〈下婢〉〈下女〉から〈女中〉、そして〈お手伝いさん〉へ ― 〈女中〉をめぐる言説の分析を通してイメージの変遷とその背景を考察する。〈女中〉というプリズムから近・現代日本の家庭生活、とくに主婦を中心とした家庭文化を浮き彫りにする。」というわけで、やはり「女中萌え」などと語る前に本書は読まねばなりますまい。
・・・と偉そうなことを書いてからハタとあることに気がついて愕然となったのですが、小生自身5年近く前に本書を購入して以来、積んだままで読んでいないのでした。著者の方が女中についての論文を発表されているということは前から知っていましたので、一冊にまとまったと聞いて早速買ったはずなのですが、何故だろう?
当時やっていたこととあんまり関係がないから後回しにしたのかな? 家庭生活というのは、それも女中を雇える中産階級のそれは、今の研究にはまんざら縁がない題材でもないので、近日中にちゃんと読まないと。
ところで、以前『木造迷宮』1巻の感想を書いた時、目次のページに載っている、ダンナさんとヤイさんが暮らす家の間取り図が、どう考えてもあり得ない構造になっている、ということを指摘しましたが、本巻でも全く同じ間取り図が目次のページに載っておりました。この点が全く改められていないのははなはだ遺憾であり、『COMICリュウ』編集部に投書してやろうかと思いましたが、単に抗議するだけでは芸がないので、これならありそうという間取り図を自分で引いてみようと以前から考えていました。ですが、時間がないので、そんな暢気な企画は残念ながら当分先送りです(←こういう企画は、まあ実現しませんね・苦笑)。
で、自分で図面を引くのは棚上げにしても、『木造迷宮』の二人が暮らす木造家屋は、おそらく作品の雰囲気からして戦前(昭和初期)から戦後間もなくの間に建てられたのではないかと思われます。ので、ちょうどその時代の、かなり売れたらしい一般向けの家の建て方マニュアル本というのを先年古本屋で入手しましたので、一つそれをご紹介したいのですが、もういい加減話がとっちらかってるし、記事自体が「略感」の長さでなくなっているので、ここらで切って次回に回します。
※追記:家の建て方マニュアル本(戦前版)の紹介記事はこちらへどうぞ。
※更に追記:『木造迷宮』4巻と別館の感想を書きました→こちら

コメントありがとうございます。ご本人からとは嬉しい限りです。
今度書籍部で見ておきます。
>無名さま
リンク先にありますが、藤井忠俊『国防婦人会 ―日の丸とカッポウ着―』(岩波新書)ですね。大変面白い本ですが、絶版になっていて探すのに苦労した覚えが。