笹田昌宏『あの電車を救え! 親友・岸 由一郎とともに』紹介
アマゾンによれば発売日は明日23日だそうで、そのためか現在のところ出版元のJTBパブリッシングのサイトにはまだ案内がありません(奥付では8月1日発行となっています)。しかし近日中には店頭に並ぶものと思います。小生はちょっとしたご縁がありまして、発売前に本書を一冊戴き、その帰途に読み切ってしまいました。それだけ引き込まれる内容で、ご関心のある方には是非お手元に置いていただきたい一冊と思い、ご紹介する次第です。
本書の著者の笹田昌宏さんは、岸さんの長年のご友人で、『全国トロッコ列車』を岸さんと共著で、本書と同じ版元から出されています。
本書では、岸さんの関わったさまざまな鉄道の保存活動、具体的には都電や京福電鉄、蒲原鉄道、新潟交通などのエピソードを中心に、交通博物館や鉄道博物館のことも触れられています。日本の各地の保存活動に、いわばそのハブ的役割を果たしていた岸さんの存在の大きさが、改めて痛感されます。
鉄道の歴史に興味のある方に是非読んでいただきたいのはもちろんですが、扱われている保存活動の対象が全て鉄道であるとはいえ、単にその世界にとどまらない価値があると思います。それは、歴史と現在の人間とをどうつなぐかという大きく普遍的な課題に対し、ものを残すという活動を通じて、一つの偉大な活動の先例を示していると小生は思います。
あとはこの先例そのものを、歴史的な事項にしてしまわないのが、肝要なことです。
個人的に知っている方々やエピソードなども出て来るので、あんまり客観的な感想をうまく記すことが出来ませんが、多分小生のそのような感情を抜きにしてもなお、鉄道や近代史や博物館に興味を持たれる方にとっては、手許に置く価値のあろう一冊と思います。
ご指摘の通り、岸さんの活動はコミュニティ、人々の繋がりを作り出す力がありました。その最大の特徴は、本書の中でも「ものがあれば何とかなる」という言葉があったかと思いますが、中心に「もの」があったということです。歴史を背負ったものを中核に据えることで、空疎な思想やお題目ではない、血の通ったコミュニティの再生が可能だったのだと、小生はそう考えています。