『COMICリュウ』9月号雑感・伊藤伸平先生、中原淳一をパクる?
そんな小生の身辺状況はどうでもいいのですが、何か書く気力も落ちているので、今日のところは小ネタを一つ。
ここ半年以上中絶していたこのコーナーですが、止めていた理由は一つにはナヲコ先生の「なずなのねいろ」がしばしば休載していたことで、全般的な気力の減退もありますが、最大の理由は面倒だったの一言に尽き、雑誌自体は毎月読んでおりました。『月刊COMICリュウ』はマイナーもいいところの雑誌ですが、最近は連載作品の一つでライトノベル(神楽坂淳著)からコミカライズされている「大正野球娘。」がアニメ化されていまして、そんなわけで今月発売号の本誌の表紙も「大正野球娘。」が飾っています。
で、小生も専門からして大正時代を扱った本作を結構注視しておりますが、今月号の表紙を見ていてふとあることに気がつきました。本誌の表紙は公式サイトから見られますが、クリックしていただくのも手間なので、肝心な部分を以下にアップしておきます。
「大正野球娘。」キャラクター(左:鈴川小梅、中:小笠原晶子、右:川島乃枝)
ここでは、お嬢こと小笠原晶子の衣装に注目しておいて下さい。
で、以下に示しますのは、大正時代から昭和初期にかけての女学生の文化や風俗をグラフィカルにまとめた弥生美術館・内田静枝編『女學生手帖 大正・昭和 乙女らいふ』(河出書房新社)に掲載されている、中原淳一が雑誌『少女の友』に描いた洋服のファッションガイドです。
(『女學生手帖 大正・昭和 乙女らいふ』p.29より引用)
中原が亡くなってからまだ四半世紀くらいしか経っていませんので、著作権法上問題が厳密にはあるかも知れませんが、批評上必要な範囲の引用ということでご諒解の程。
で、これはきっと、コミック版を描かれている伊藤伸平先生が、ネタ本に『女學生手帖』を使ったんだろうなあ、と思った次第。
もちろんパクリを云々なんてつもりは小生には全然ありませんで、むしろ「大正」「女学生」というのでネタ本を探せば、最初に突き当たるのは間違いなく本書なので、大正時代に野球をする話の筈なのに何故か扉絵でソ連戦車T-34/85が疾走している(しかも見開き)ような、原作蹂躙上等な本コミカライズといえど伊藤先生はちゃんと調べるところは調べておられるのだと納得した次第です。もっとも今月号の本誌連載でも、何故か戦闘ヘリアパッチが乱舞して終わってましたけど・・・。
ただ、『女学生手帖』の記事によると、中原淳一が「女学生服装帖」を雑誌『少女の友』に連載していたのは1937年から1940年にかけてのことだそうで、ここに挙げた衣装は1937年8月号の附録なのだそうです。つまり昭和12年ですね。一方「大正野球娘。」の年代設定は大正14年=1925年・・・さすがお嬢、流行を十年以上も先取りしてる!?
「大正野球娘。」関係はまだ色々ありますが、それはまたの機会にして、ちょこっと今月号を始め最近の『リュウ』について書いておきます。
ここ半年あまりの『リュウ』における最大の収穫は、何といっても吉川良太郎 / 黒釜ナオ「解剖医ハンター」です。近代医学前夜の18世紀英国を舞台とした作品で、やはりこの時代はもっと扱われて然るべき面白さがあると思います。設定を抜きにしても、絵と話とがうまく波長が合っている感じ。連載希望。単行本化更に希望。
速水螺旋人「螺子の囁き」は毎回楽しみ。特にこの半年で一番衝撃的だったのは、無火機関車が登場したこと。機関車と産業機械のあいのこみたいなものですが、よくまあこんなのをと感心。
最近の「鉄道ブーム」的風潮で、鉄道を題材にしたマンガが幾つも出ているようで、小生も幾つか集めましたが(そして最近一つ記事を書きましたが)、そういうのを読むにつけ、何度でも言いますが、『速水螺旋人の馬車馬大作戦』所収「頭上の装甲列車」は鉄道マンガ(厳密にはマンガじゃないけど)の極北というべき傑作だなあと痛感しています。
ナヲコ「なずなのねいろ」、秋には単行本2巻が出るそうで一安心。最近はリカコさんの活躍ぶりが目立ちますが、そんなこんなでみんなが動き出した分、全体のお話の進み具合はやはりゆっくりです。なかなか三味線部が始動しないのは、何かを「始める」ことに至る心の動きが現在のところはテーマになっているためであって、いつまで経ってもまともに野球をしない同誌の某野球マンガと理由は異なってるだろうと思います。
他にも、『ルー=ガルー』の連載終わったけど樋口先生は再登場しないのかな(是非希望)とか、『エマノン』ちゃんと載ってるなあとか、下らないと思っていた見ル野栄司『敏腕!インコさん』が何ヶ月も読んでいると面白く感じられるようになって困ったなあとか、いろいろなくもないですが、取り敢えず今日のところはここまでで。
アニメ版は期待していたのに1話の途中で断念しました。
あと、最新ファッションとしては、「地下足袋」に草鞋履きです。
最近話題の「エアカー」はまさにこれですね。
ttp://wiredvision.jp/archives/200309/2003093001.html
どうもうまく行きそうな気がしない・・・
わはは! まさにそうなりそうですね。乃枝さんがほとんど主人公みたいになってるし(笑)しかし、正攻法で勝ち目がないんだから、驚異のテクノロジーで一発逆転を図るのは正しいかも知れません。
アニメは・・・1話といえば「東京節」を是非主題歌にして欲しいですね。
>無名さま
T-34/85なのは、その一話の中では必然性がありました。でもその一話が、ストーリー全体で必要かというと・・・単行本未収録も宜なるかな。
マンガ版で出てきた人力車夫は、地下足袋だったような?
>坂東α 氏
リンク先の「エアカー」、どうにも怪しげな雰囲気がありますね。
圧搾空気をボンベに詰めて動かす車輌は、百年ぐらい前は蒸気機関車に代わる市内交通機関として期待されたこともあったようですが、当然のことながら電車の登場によりどこかへ消えてなくなりました。