秋葉原の「安全・安心パレード」 或いは美少女ゲームと「環境浄化」
すっかり時機を逸した話で申し訳ありませんが、昨年12月19日に秋葉原で行われた、安全・安心をアピールしたパレードの話題をお届けします。これは秋葉原通り魔事件後、防犯に地域ぐるみで取り組んでいることをアピールするものだそうで、千代田区や地元の商店会などが肝煎りのもののようです。何でも、事件以後中断している歩行者天国をどうするのか、今年春には討議に入るのだとか。
秋葉原通り魔事件にたまたま遭遇してしまった小生としましては、この街の行く末にいささかの関心を抱かずにはおれませんでしたが、幸いある方面からこのパレードに関する画像などを入手しましたので、ご紹介する次第です。紹介が遅れましたのは、ここしばらくどうしようもないだるさと眠気で思いのままにことが進まず、そんなときに限ってアルバイト何ぞで僅かな活力も吸い取られてしまっていたためです。何卒ご諒承の程。
まず、このパレードについて概要を、千代田区のウェブサイトよりご紹介。
平成21年12月19日 12月19日 秋葉原で安全・安心をテーマにパレードを実施―中央通りを中心にパレード・パトロール約300名参加―
「まちの魅力向上に向けた道路等の公共空間活用検討会(森野美徳会長)」では、12月19日(土)に、防犯活動の一環として安全・安心をテーマにパレードとパトロールを実施しました。
パレードは、白バイを先頭に、日本大学吹奏楽研究会のブラスバンド、地域の関係者など約300名が参加しました。
これまで公共空間活用検討会では、まちの安全・安心に向けた防犯カメラの設置やパトロール活動などさまざまな検討を重ねてきました。特に防犯パトロールは、8月から町会・商店街・電気街を中心に、警察・行政が一体となり実施してきました。
19日のパレードとパトロールは、この取り組みを広く地区内外に発信していくために行われました。
それから、ネット上で目に付いたサイト類を以下に挙げます。敬称は略させていただきました。
・東方に迎撃の用意無し!「秋葉原で19日に安心安全パレード」
(2ちゃんねるのまとめ。このパレードに関する産経新聞の報道も引用されていて便利)
・秋葉原マップ「中央通りで『安全・安心』をアピールする防犯パレード」
(秋葉原情報のブログ。写真中心の記事)
・たかや所長は「あきば通」「久々の中央通りがパレードで披露」
(情報誌「あきば通」を発行している千代田区議・小林たかや氏のブログ)
・千代田観光協会「秋葉原で安心安全パレード」
(観光協会サイト内「まちブログ『神田・神保町・秋葉原』周辺」の記事)
・OhmyFuse 「秋葉原でパレード」
(写真の紹介のみ)
ついでに、youtube に上がっている動画もご紹介。
・事件以来初のパレード 秋葉原で安全安心アピール
(TOKYO MX テレビのニュース動画。区長のインタビューなどあり)
・秋葉原中央通りでの防犯パレードの様子(2009年12月19日)HD Ver.
(個人撮影の動画か?)
とまあ、既に数多くの報告が上がっています。
ではそこで、当ブログがどんな独自の視点を付け加えられるかといいますと、ここに挙げたレポートや画像、動画が全て「外から」パレードを観察して得られたものであるのに対し、以下に紹介する画像はパレードの「中から」撮影されたものです。
本記事の先頭に挙げた写真は、パレードのため秋葉原の中央通りに交通規制を敷いたところ、沿道の人が歩行者天国と勘違いして勝手に渡ってしまっている情景です。パレードの交通規制とは、パレード関係者以外、車輌のみならず歩行者も立ち入ってはいけないもので、警備に当たっていた警察官が中央通りを渡っている人々をかなり高圧的な態度で追い払っていたそうです。ですが以下の写真は、正当な事由でパレードの中に加わった人物の撮影になるもので、その点貴重といえます。
前口上はこの辺にして、画像に入りましょう。
こんな感じで、まず区長などの挨拶があり、地域の防犯協会長などの紹介があって、列を組んでパレードとなったようです。その際、隊列の先頭に「みんなで協力、安全安心、元気なアキバ!」という巨大な横断幕が掲げられていたのは、先に挙げた千代田区のサイトの画像などからも分かります。しかし、それ以外に地元やボランティアの方々が様々な幟を掲げていたようで、その画像を以下に紹介します。
で、その他の画像なども付き合わせて幟の文言を集めると、大体こんな感じのようです。
「安全、安心パトロール」
「女性、子供を守り隊」
「光らせて、人の目、親の目、地域の目」
「万引きは「犯罪」です」
「守ろうよ わたしの好きな 街だから 少年を守る環境浄化対策実施中」
「少年の環境浄化活動キャンペーン実施中」
「お出かけは ひと声かけて カギかけて」
「空巣にご用心 お出かけはひと声かけて カギかけて」
「車上荒らしに注意!!」
「だまされないで! 振り込め詐欺注意!! 振り込む前に必ず事実を確認・相談」
なるほど、「地域の目」を打ち出した感じの文言が目に付きますね。しかし、実際の所いわゆるアキバに住んでいる住人は大して多くない、というかほとんどいないわけですから、「地域住民」というのがどこまで有効なのかは疑問無しとしません。
あくまで商業地域であることを踏まえるなら、万引き防止、車上荒らし注意は全く妥当です。スリ、置き引きなどの用心も同様でしょう。一頃の秋葉原では二輪車の窃盗団が出没していたとも聞きますので、車上荒らしのみならず車輌そのものも用心に越したことはないかも知れません。しかし、商業地域としては空巣はどうなのでしょう? 商店は夜は人がいないから、ということでしょうか。ですが、それでは振り込め詐欺は・・・?
一般的に言って、秋葉原のメイン顧客層は若い男性であろうと思われます。しかし「女性、子供を守り隊」だったら、彼らは安全・安心の対象として見てもらえていないのでしょうか? 「オタク狩り」は子供ばかり狙うわけでもない(単価を考えれば子供を狙うのは期待値が低い)と思いますが。スリや置き引きも同様でしょう。
しかし何と言っても微妙なのは「少年を守る環境浄化対策」だの「少年の環境浄化活動キャンペーン」だのですね。これが単にゴミ拾いを意味しているとは到底考えられません。然るに、アキバに来る少年の中の少なからぬ数は「萌え」なものを求めてくるでしょうし」、例え黄色い楕円マークや銀色の円形シールがなくとも、それなりに頭の固い人の眉をひそめさせそうな表現が秋葉原には多く存在しており、しかしその猥雑さがこの街に一定の活力と、他を以て代えられないものをもたらしたことは事実であろうと思われます。
まさに今、「『30歳未満はネットも恋愛も禁止』?? 愛知県条例案に質問や抗議」などというニュースが話題となっており、また小生の住む神奈川県でも青少年保護育成条例をむやみと厳重にしようという動きがありまして、カマヤン先生のブログでそのことを知った小生も反対のコメントを送りました。
このような流れの中で、秋葉原に「少年の環境浄化」などと幟を立てられることは、やはり気がかりと言わなければなりません。
かくて、その秋葉原で「少年の環境浄化」を掲げて進むパレードは、以下のような光景を現出せしめたのでした。
その傍らでビラを撒く法輪功の人々
看板の美少女ゲームですが、上が『夏に奏でる僕らの詩』、下が『孕ノ胤』というゲームなのだそうです(リンク先は18禁につき注意)。真冬発売のゲームが「夏に奏でる」とはこれ如何に。
もう一枚、同工異曲ですが。
三本の幟とソフマップの『愛佳でいくの!!』看板
この『愛佳でいくの!!』自体は18禁ではないようですが、登場するキャラクターはどうもその。
さて、上に挙げた小林たかや議員のブログでもちょっと触れられていますが、このイベントは沿道の観衆との間に距離があり、どの程度効果があったかはよく分からないところがあったようです。
その理由は、如上の記述からある程度お分かりいただけようかと思いますが、結局秋葉原に来ている顧客のボリュームゾーンと、「地域住民」とで、「秋葉原」に求めるイメージが異なっており、そしておそらくですが、そのような相違の存在自体を相互にあまり把握しておらず、排他的に「秋葉原」像を作り上げてしまっているからではないかと考えられます。
「地域住民」の方々の「萌え」的なものへの見方は、おそらく上に挙げた幟の写真から推測されるようなものではないかと思われます。かといって、「オタク」層内部でも秋葉原のそのような性格に接近しようという考えは乏しく、むしろ「もうアキバは聖地じゃない」とか、「リア充どもが来て駄目になった」とか、「パフォーマーうざいからホコ天いらない」とか、そんな文句をつけるような論調が多いことは、これも上に掲げた2ちゃんねるのまとめブログの内容から察せられます。
少々皮肉を言えば、このような「地域住民」と「オタク」の秋葉原観は、相互にその存在を無視しているようでいて、案外似通った所があるようにも思われます。つまり、彼らの中には「本来の良き"秋葉原"」、それは「電気街」だったり「オタクの聖地」だったり「江戸時代以来の下町」だったり、様々なのですが、それが、なにがしかの闖入者――例えば「エアガンハルヒ」「尻見せ女」であったり(彼らはその行動が全く以て弁護の余地なく馬鹿げているため、最もよい「異物」とされます)、「最近のオタク」「『メイド喫茶』のビラ配り」「リア充」であったり、「『萌え』とかいうオタク」であったり、そのようなものによって穢されているから、それを排除すべきという発想です。
"本来"秋葉原を構成すべき要件を各セクトが勝手に定義し、その定義に背くと認定したものを「秋葉原を悪くした『敵』」として認定し、問題は常に外部からやってくると考えがちなのだろう、ということです。
しかし小生思うに、秋葉原は江戸時代以来の伝統もあれば、青果市場の名残もあり、電気街の歴史もあれば、『萌え』の聖地でもあり、今では国際化していろいろな国の人がやって来ており(上の写真でも法輪功がビラ配ってましたね)、そのような重層性が絶えず重なりを増している、その渾然一体というか、普通ありそうもないようなものが何か矛盾しながらも同じ場所に存在していることが魅力ではないかと思います。そのような魅力が生まれたのも、ひとえに秋葉原が交通の要衝だったからであり、秋葉神社の分祠が駅長室にあるというのもまた宜なるかなであります。
さて、小生が「矛盾せるものの合一」などという観念にとらわれているかを自省するに、昨年末国立新美術館でやっていたハプスブルク展を見に行ったからだろうなあと思います。別にわざわざ見に行ったのではなくて、本来は政策研究大学院大学に所蔵の本を閲覧しに行ったのですが、行ってみたら政策研究(以下略)と国立新美術館って隣だったんですね。で、これも何かの縁と思って見てきました。後で図録を見たところ、解説でこのような展示物の収集に活躍した君主として16世紀の神聖ローマ皇帝・ルドルフ2世の名が挙げられており、ルドルフ2世にあこがれて自分も怪しいコレクションを充実させたのが19世紀バイエルンのルートヴィッヒ2世としていました。で、図録の解説の筆者はこの二人のことを“オタク”と書いていました(笑)。
以前当ブログで、プロイセン(ドイツ皇帝)のヴィルヘルム2世を人類史上最悪のヌルオタにしてアホ毛キャラと糾弾し、それに対比してルートヴィッヒ2世をガチオタと書いた小生としては、まさに我が意を得たり(笑)というところですが、ルートヴィッヒがあこがれていたというルドルフ2世とは、新旧両派の偏狭な排他精神が欧州の地を覆っていた宗教改革の時代、まさにこの「矛盾せる者の合一」ということを夢見て、世界の怪しいものを集め、占星術や魔術に凝っていたのでありました。あ、あと帝は生涯独身ね。でも信仰の自由を認めたルドルフ2世は結局その地位を追われ、イエズス会に染まった後継の皇帝によってドイツは阿鼻叫喚の三十年戦争に突入していくのでした。
例によって話が明後日の方向へずれておりますが、つまりは何かを排除するよりは無茶苦茶な同居状態の方が、世界平和と後世伝説となる面白さを生むのではないかと、秋葉原に限らず思うのであります。
で、理屈ばっかりというのも何ですから、一つ「矛盾せるものの合一」を秋葉原で実践する具体的政策を考えてみますと、・・・ケバブ屋の親爺にモスク建てて貰う、てのはどうでしょうか。チャドル萌え。
※追記:この後、秋葉原の「安全・安心」のために策定された「秋葉原協定」と、防犯パトロールの状況に関しては、以下の記事をご参照下さい。
→「『秋葉原協定』の内容と啓蒙浸透活動、巡回パトロールの状況」