「螺子の囁き」に蒸機が出たので『COMICリュウ』3月号雑感

で、多忙なので感想はスルーせざるを得ないかと思っておりましたが、表題のように速水螺旋人先生の連載イラストコラム「螺子の囁き」が、1月号に引き続き鉄道ネタが出たので取り上げておきます。
で、前回記事を書いた2010年1月号の「螺子の囁き」は、アメリカの流線型蒸気機関車を取り上げていましたが、今回はヨーロッパ編といったところです。
主役はドイツの流線形蒸機・05型。ナチスが威信をかけて1935年製造させ、蒸気機関車として初めて時速200キロの壁を破った車輌です。空力性能を追求して足元まですっぽりカバーした流線形が特徴。・・・なんだけど、やっぱ「いもむし」のように見えてしまいます(笑)。速水先生も書かれていることですが、ドイツ人が技術的に理詰めで作ったものより、アメリカ人がコマーシャリズムばりばりで作ったものの方が一見してキャッチーではあります。もっとも、蒸気機関車のマニア筋に言わせれば、当時のドイツ国鉄の蒸機設計は保守的で、英米のものほど面白みはないといいます。これはいつぞや巡洋戦艦「金剛」の講演会でもお話をされていた、髙木宏之さんのご意見の受け売りですが。髙木さんは口癖のように仰ってました、「ドイツの蒸機はイモ蒸機」と。
「イモ」繋がりというわけでもないですが、「いもむし」といえば、いつぞや紹介した本にあるようにこの時代は流線形時代なんていいまして、05のように時速200キロの高速性能のために流線形が必要、というほどの高速でなくても、矢鱈と流線形が流行ったもので、日本の名鉄にも「いもむし」の愛称を奉られた電車がありました。比較的近年まで活躍していたのでご存じの方も多いと思いますが。で、電車の場合は窓があるので、「いもむし」的鈍重さを和らげて軽快さを生み出すことが出来るのですが、蒸気機関車のボイラーを覆った場合は・・・スマートにしようとすればする程、のっぺりしてしまう面はあります。
イモイモ繰り返すのも何なのでこの辺で止めておきますが、蒸気機関車の流線形というのは畢竟キッチュなところに魅力があるのだろうと思います。そこら辺が速水先生の興を誘ったのかも知れません。流線形蒸機は直後の第2次大戦で手が回らず、ほとんど流線形のカバーを剥がされてしまうのですが、蒸機マニアの中には(小生もそうですが)、外されたあとの、いかにも蒸機らしいフォルムの方が「美しい」と思う人も少なくないのです。
電車にしても日本の場合、流線形で有名な「流電」モハ52系という国電が戦前にありましたが、使いにくいというので増備車輌は前面に貫通扉をつけて普通の電車らしい顔になりました。多少は流線形の名残で洗練されたところがあり、電車マニアは「半流線形」を略して「半流形」などと愛称をつけていましたが、実のところマニアからは流電より半流の方が人気があったかも知れません。
余談ですが、世間が「韓流」ブームに沸いていた時、小生の知人のさる鉄道マニアの方は、「なんで今頃“半流”がブームなんだろう?」と本気で思ったそうです(笑)
閑話休題、キッチュとなればソ連に流線形蒸機があればさぞかし味わい深いものになると思いますので、もしそんなのがあったのなら、速水先生には是非今後「螺子の囁き」に登場させていただきたいと思います。
その他のマンガについても思いつくまま簡単に(と書いて簡単に済んだ試しがあまりありませんが)。
まずナヲコ「なずなのねいろ」ですが、最近はページ数が少なめながらも毎月きちんと載っていて嬉しい限りです。今号は特に話がちゃんと動いているということもさりながら、なずなの笑顔がほんとにもうかわいくて素晴らしい。このような時、他のメディアではない、マンガだからこそ表現できるような何かがそこにあるのだと感じるのです。
ナヲコ先生は先週発売の百合季刊誌『つぼみ vol.5』でも作品を掲載されていて嬉しい限りです。そっちも近日中に感想を・・・あ、『つぼみ』の前回のも書いてないや(半年前・・・)。
今号の附録は石黒正数「ネムルバカ」の小冊子(単行本未収録の)で、次の号では「ネムルバカ」の新作が載るようです。もちろん楽しみなのですが、「響子と父さん」が終わった次の号でこんな附録つけて、更に続いてってことは、「ネムルバカ」ほど「響子と父さん」は人気がなかったのでしょうか。・・・分かる気はしますが。
神楽坂淳/伊藤伸平「大正野球娘。」は最近とみに面白く、アニメ版オリジナルキャラクターだった新聞部の尾張記子も登場する賑やかさ。しかし、13話の短期決戦で突っ切る必要があったアニメ版と違い、じっくり続くマンガ版は、多くのキャラクターの個性をいろいろ生かして話を展開させられるので(屡々脱線もしましたが・・・)、回を重ねる毎に面白くなっている感があります。最近は宗谷さんの策略家ぶりが。それと同時に、T型フォードのシャーシ改造の円太郎バスなんかも出てくるのも楽し(T型フォードベースの車については当ブログ過去記事に写真あり)。
見ル野栄司「敏腕!インコさん」、ついに単行本になってびっくり。正確には、1月発売の今号に載っていた話までを纏めて2月に発売になっています。漫画家から受け取った原稿なくして自分で描き直すわ、頁の順序間違えて印刷するわ、上下間違えて印刷するわ、ダミー原作者になって印税バックマージンもくろむわ、と碌でもないコネ入社の編集者・インコさんとそれに振り回される漫画家・岬サスケの話ですが、どこがどう面白いのか分からないのに、どうにも印象が頭から離れず、気がついたら行きつけの書店で平積みになっていたのを買っていました。続きがあるかは単行本売り上げ次第、らしいです。岬サスケが連載打ち切られて大ピンチ、てなところで終わっていますので、是非続きが読みたいような、いやこれは終わるべき所なのか、判断が付きません。
ところでこのマンガ、雑誌掲載時のタイトルは「敏腕! インコさん」ですが、単行本のタイトルは『敏腕編集! インコさん』です。どういうこっちゃねん、担当編集!
・・・やっぱこの調子で書いていくと、いくら紙幅があっても足りなさそうなので、素敵な将軍様に萌え萌えなあさりよしとお「アステロイド・マイナーズ」や、最終回までついに正体不明の幼女隊長が気になる西川魯介「ヴンダーカンマ-」などなど、語りたいマンガの多くを涙を呑んで割愛して、しかし新連載の4コマ・松山ソウコ「さきがけ(ハートマーク)松下村塾」だけは触れておかねばなりますまい。松山ソウコ氏は本作がデビューの模様。
で、表題の通り、昨今話題の「歴女」ってんですか、そんなノリの4コマのようです。明治維新の中心にもかかわらず、ドラマや小説での扱いが、坂本龍馬だの新撰組だのに比べて低いとお考えの松山氏、「長州はまとめて 血涙ロマンなんです!!!」「死人の数 若死にの多さは勝ち組とは思えぬハイレベル! これすなわち血涙ロマンたる所以であります!!」だそうです。てなわけで、何故か女装の吉田松陰と、クールボーイの久坂玄瑞が、熱血少年の高杉晋作をもてあそんでいるのが現在のところです。
しかし長州の死者が多いのは事実にしても、明治まで残った人材は結構おります。死亡率高過ぎは、文字通り人材が死に絶えた水戸藩の方がもっとすごい気がします。具体的数字を出せと言われても困りますが、小生以前調べ物をしていて『国史大辞典』をめくっていたら、幕末水戸藩のなんとかという人の略伝が載っていて、藩内の内ゲバで粛清された結果、明治2年に逆さ磔で処刑されたと書いてあった記憶があります。衝撃のあまり肝心の名前を失念しましたが、それにしても戦国時代じゃないんだから。
小生以前にも書いた覚えがありますが、こういうマンガのネタにするなら、幕末を少し過ぎて明治に入っているものの、絶対にお勧めなのが高場乱(たかばおさむ)の興志塾、またの名を人参畑塾です。なにせ塾長の高場先生は、男装の女性のお医者さんで漢学者。この塾に入ってきたのは何故か札付きの乱暴者ばかりで、その筆頭が日本右翼の源流・頭山満。昨今のヘタレなネトウヨどもに、正しい日本の右翼像、大アジア主義の真髄を伝えましょう。腐敗した帝政や軍閥支配、欧米列強の侵略に対抗して、国民革命をみんなで支援。支那にゃ四億の民が待つ、アメリカ帝国主義は日中人民共通の敵、ってなところで。
しかし、小生が頭山の思想で絶対に共鳴できないのは、河豚を嫌うところです(ほんとだよ。『頭山満翁正伝未定稿』に書いてある)。玄洋社の名の起こりでもあるはずの玄界灘は河豚が旨いのに・・・日本料理の局地の一つである河豚を食わないなんて。そのくせ外来のカレーライスを大食いしていたそうで、ちなみにカレーの味の決め手は材料を炒めるバターの品質だとインドの志士・ボースが言ってました(ほんとだよ。子母澤寛『味覚極楽』に書いてある)。
・・・だんだん話が逸れてきましたが、やはり「歴女」的なのはどうも発想がいまいち突き抜けていないことがほとんどで、歴史を題材に取ったものとしては、「大正野球娘。」以外にも安彦良和「麗島夢譚」だとか、吉川良太郎 / 黒釜ナオ「解剖医ハンター」だとか、大塚英志 / ひらりん「三つ目の夢二」だとか、濃いめのものが目白押しの『リュウ』誌上でどのような展開を見せるか、注目かも知れません。
他の作品の影響を、良い意味で受ければと思いますが、どうでしょうね。

↑ソ連の流線型と言うと、こんなのがあったらしいですね
これは・・・アメリカのに似た感じですね。資本主義と社会主義の違いより、大陸の風土の方が影響したのでしょうか。よく見ると軸配置が普通は貨物用のミカド(バークシャー?)のようで、ますます面白いですね。

http://periskop.livejournal.com/418757.html
↑、のようでした。
http://www.train-photo.ru/details.php?image_id=24373
↑、は後から見つけた別の流線型です。
先の機関車の軸配置はバークシャーでしたね。流線形とは縁のなさそうな形式ですが、ソ連の地勢では旅客機にも使われたのでしょうか。
今回ご紹介いただいたのは・・・そう! これです、こういうソ連的プロレタリア芸術的キッチュさが全開のこそ見たかったのです。これを速水氏に絵にして貰えば完璧ですね(笑)

しかし、家老級が磔刑とは・・・。
東急ではなく、流石水戸クオリティーでしょう。
ふぐですが、当時のまともな神経の人は嫌うでしょう。
寧ろ、伊藤博文が変わり者かと。
ありがとうございます。お陰で疑問が氷解しました。
明治以降茨城がパッとしないのもそれが一因でしょうか。
河豚に対しては地域や身分によって反応が違うのでしょう。武士は食うべきではないとしても、九州人は命をかけて食ってたようです(笑)