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筆不精者の雑彙

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京王資料館の一般公開などを見る

 既に一週間近く前のことですが、先月の取手に引き続き、鉄道関係の展示の見学に出掛けました。今週は憑かれた大学隠棲氏のお誘いで、府中の京王資料館を訪ねました。この資料館は、その名の通り京王電鉄の資料館ですが、本来は部内の研修用施設で一般には公開していないそうで、年に一度、地元のお祭りに合わせて一般公開しているのだそうです。



 で、小生、京王がこのような資料館を持っていて、昔の資料も集めているらしいということは以前から聞いておりました。あんまり細かく書くといろいろ差し障りがあるのですが、ある方がこの一般公開を縁にこの資料館の資料を使うことが出来、それで研究などされたということを聞き及んでおり、ならば小生も機会があれば使ってみたいと思ったということがあります。小生は現在、戦前の電鉄会社の最大の副業であった電力供給業(バスでも不動産でも百貨店でもないんですよ)について研究しており、戦前の京王は多摩地域の電力業をだいたい一手に握っていて、最盛期には電車より収益が多かったくらいでしたから、そのうちきちんと取り組まねばと考えております。取りあえず今回は偵察ということで。
 なお、例によって見学からレポートのアップまで時間がかかっており、同行された憑かれた大学隠棲氏のブログには既にレポが上がっております。関連するリンクも充実しておりますので、是非ご参照下さい。

 ・障害報告@webry「ここは酷い露西亜式糞ダイヤですね」

 さて、資料館公開は午前10時から午後3時までと限られておりますので、早く出立・・・すべき筈でしたが、体調が例によって思わしくなく、漸く腰を上げて現地に着いたころは、13時近くになっておりました。細かい場所をちゃんと調べずに来てしまったのですが、平山城址公園から乗ったバスには、見るからに“同好の士”が何人も乗り合わせておりましたので、迷うことなく到着できました(笑)
 この附近では桜の開花に合わせた祭りをしているらしく、また資料館は京王の研修センター内に設けられているのですが、その周辺にも桜が咲いていました。
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研修センターの桜と研修用参考機材?の踏切

 会場で憑かれた大学隠棲氏と合流し、資料館を見て回ります。戦前から戦後まで、電車だけでなくバス関係も、いろいろと資料が展示されています。切符や沿線案内の類、運転免許(電車の)や辞令、戦前の入社案内や試験問題、台車やパンタグラフの実物など、多種多様で電車・バスの趣味者ならば楽しめること請け合いです。どんな感じだったか、数枚写真を掲げておきます。
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電車やバスの輪軸など

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井の頭線で使われていた運行指令用の表示装置
ちゃんと今でも電源が入っている

 展示物を一つ紹介しておくと、こんな辞令がありました。
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年号に訂正のある辞令
(この写真はクリックすると拡大表示します)

 一見、全部筆で書いたように見えますが、「等ニ進級」とか「大正 年 月 日」と社名は実は印刷だったので、改元直後に昇級した人の辞令はこのように訂正されています。

 さて、展示自体は結構面白いのですが、残念ながら小生が探している、戦前の兼業電力事業に関するものはほとんどありませんでした。大正時代の料金表と、京王の電力供給区域を示した地図くらいですね。しかも地図は、営業報告書の附録のコピーと思われます(見た記憶がある)。営業報告書とは、株式会社が株主に対し経営状況を報告するもので、バランスシートや損益対照表、もろもろの許認可の状況、株主名簿などから構成されている、会社経営の基本資料です。で、基本的には報告事項や数字が無味乾燥に並んでいるばかりの営業報告書が、鉄道会社の場合だいたい昭和初期頃からと思うのですが、路線図をおまけに付けるようになり、中には二色刷や三色刷で、鉄道やバスの路線だとか沿線の住宅地や観光地なども載せた詳しいものを付けるようになる傾向があります。その理由は分かりませんが、株式投資が次第に大衆化してきたことの現れなのかも知れません。
 閑話休題、この資料館は二階建てのようですが、公開は1階だけで、2階に上る階段には「関係者以外立入禁止」と表示されています。階段の上り口から2階を見上げると、スチールの棚に書類を収めたと思しきケースが並べられているのが伺え、あれが見たいんだがなあと思いましたが、勝手に入るわけにはいきませんから、関係者の方にお話を聞く機会を探すことにします。

 とりあえず一旦外に出て、展示されている車輌を見ることにします。
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3両並べられた保存車輌

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モハ2410

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モハ2015

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5000系クハ5723

 ちょうど折良く、5000系の車内が開放されていましたので、中に入ってみます。5000系は、それまで路面電車に毛が生えたような電鉄だった京王が、本格的な鉄道に生まれ変わることを示す存在であり、またなかなか愛嬌のあるスタイルから、ファンの人気も高い車輌です。
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5000系の車内

 車内は結構広々とした感じです。シートの奥行きが狭いのでそう感じるのかも知れませんが、5000系登場当初、路面電車規格と大差ない電車からこれに乗り換えた沿線の乗客は、特に強く広さと明るさを感じたろうと思われます。

 さて、5000系は京王の歴史上の重要な車輌として、京王の施設にこのように保存されているわけですが、「5000系」「保存」と書くと、小生としてはどうしても、名車の保存の失敗例として当ブログで執拗に追っかけている東急5000系(旧)デハ5001号のことを連想せずにはおられません。本来、東急も5000系をこのように社の宝として保存するだけの充分な理由があるはずなのです。更にいえば、京王5000系は京王の歴史上重要であっても、日本の電車史上はそれほど重要ではありません。しかし東急5000系は、日本の鉄道史上エポックメーキングな車輌だったのです。この点、一見「文化」的なことに関し熱心なイメージのある東急より、京王の方が遙かに、自社の拠って立つ技術的基盤という文化に対する態度が立派であるといえます。
 なんてことを考えながら、屋外に展示されている京王5000系の様子を観察します。東急デハ5001号の観察の参考となるよう、車体の傷み具合の写真を何点か撮りました。以下に掲げます。
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 これはドアのステップ部分です。ステップに雨水が溜まって錆の原因となるのか、かなり錆が流れ出しています。

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 これは車体側面の裾にある表示周りですが、塗装がかなり派手にひび割れています。

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 これは窓枠周りです。車体の汚れもさりながら、やはり窓枠周辺は傷みやすいようです。

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 これは車体の角、運転席の床付近を外から眺めたものです。車体の裾から次第に錆が上がってきているようです。

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 これは車体側面ですが、特に他の場所と比べて傷みやすい理由も見あたらないのに、極めて大きな塗装の剥がれが生じているようです。渋谷の東急デハ5001号のように、人や物がぶつかることもなさそうなのですが・・・

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 これも上の写真と同じく、車体側面に大きな傷が出来、それを応急的に補修した箇所です。ここもやはり、何故こんな大きな傷が出来たのか、一見しただけでは理由が思いつきません。
 角度を変えてもう一枚。
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 側面の傷と補修もさりながら、窓枠周辺もご注目下さい。
 補修は行われていますが、なかなか徹底的に元通り、とはいかないようです。

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 これは車体上部です。縮小したらちょっと分かりにくくなってしまいましたが、窓枠周りに多少のひびが見えます。行先・種別表示窓がありますが、その周りはそれほど傷んでいないようです。にしても「通勤快速」とはなかなか渋い種別ですね(反対側は違った種別を表示していました)。

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 これは車内公開をしているために開けていた扉の周りです。東急デハ5001号と違って、普段の出入りが少ないであろう京王5000系の方は、ドア周りの傷がありません。

 いろいろ観察している内に、京王5000系の車内で、観覧者に説明をされている京王電鉄関係者と思しき方に遭遇しましたので、いろいろお話を伺いました。その内容は、憑かれた大学隠棲氏のブログにも記されていますが、ここでも簡単に纏めておきます(文責は小生にあり)。

・保存車輌については、3年に一度の塗り替えを行っている。なぜ3年に一度かといえば、保存車輌が3両あるので、毎年1両づつやっているから。
※そういえば緑色の旧型車に比べ5000系の方がくたびれているような気がしましたが、白いので汚れが目立つ他に、たまたま前回の補修から一番時間が経っていたのかもしれません。

・車輌の保存は経費がかかる。この3両にしても、数千万の維持費がかかる。(引退間近の6000系を保存しないのかとの憑かれた大学隠棲氏の問いに答えて)今のところ何も予定はない。場所の問題もある。費用も、例えば4両に増えたら塗り直しは4年に一度にするのかとか、いろいろ問題がある。

・文書の資料については、一般公開はしていないが、研究で使うのなら本社の広報部に問い合わせてほしい。

・保存している資料については、何十万点もあるが、目録をつくってパソコンに入力してある。
※企業の「資料保存」とは往々にして「とりあえず捨てないで置いてある」(それだけでも有り難いことなのですが)ということがあるのですが、整理をきちんと済ませている京王の姿勢は賞賛すべきものです。出来れば冊子で良いから目録を公開してくれれば言うこと無しなのですが。

・京王が資料を保存しているのは、三十年前くらいに当時の社長の決断で、会社の記録をきちんと残すべきとして体制をつくったため。そのため、それ以降の資料はきちんと残っているが、それ以前のものについては探して集めはしたが、残っていないものも多い。特に戦時中、「大東急」に合併された以前ものは少ない。
※社長の決断は特筆ものです。銅像など建てるに値します。しかし戦前のものが少ないのは、事情が事情ですからやむを得ませんが、やはり残念です。

 いろいろと、興味深いお話を伺うことが出来ました。
 京王の歴史に対する姿勢はまこと他社の範とするに足るものであり、またそれを研修センターとして社の人材に引き継いでいこうとしていること、時には地元のイベントに協賛して一般公開しているなど、大変こころざしの高い活動に敬意を表する次第です。
 今後ともこのような活動が継続するように祈りますが、企業の活動ということからすれば、それが広い意味で「採算が取れる」ということを、特に沿線地域から経営陣や被沿線の株主にアピールすることが必要であろうと思われます。卑近な例ですが、今回の一般公開は何も物販がありませんでしたので、見に来たマニアから公開の経費の一端を負担させることもありませんでした(電車とバスで来れば運賃収入は京王グループに入りますが)。今流行のグッズ売りさばきするとか(やり過ぎると公開の趣旨に反する恐れもありますが)、いっそ開き直って「保存車輌の維持費用にご寄付をお願いします」と、5000系の前に募金箱を置いても良いかもしれません。この公開に来ているのは親子連れが多いですが、そこで募金箱にお金を入れている人を子供が見れば、こういった活動に寄付するという行為が、将来より一般的になるかも知れません。

 充分堪能して憑かれた大学隠棲氏と会場を後にします。来たのと同じ道を戻るのもつまらないと、多摩センターへ抜けるバスに乗ることにしてバス停に行きましたが、運転間隔が空いてしばらく来ないようなので隣のバス停まで歩くことにしましたが、そうこうするうちに多摩都市モノレールの高架が見えましたので、多摩動物公園駅からモノレールで多摩センターに移動します。

 多摩センターでは、これも憑かれた大学隠棲氏おすすめの施設・パルテノン多摩の展示「開発の記録~資料に見る多摩ニュータウン~」を見学します。これも無料としてはまことに質量とも豊富な展示で、多摩センターの開発の経緯をヴィジュアルに理解することが出来ます。また、建設途上の多摩ニュータウンが直面した問題(開発によるダンプ公害、開発中の土地から舞い上がる埃の問題、公団住宅の畳にダニが湧いて大騒ぎになった、など)も取り上げられています。
 多摩ニュータウンの開発は一応終わり、今ではむしろ高齢化への対策などが課題になっているようですが、それに伴って役目を終えた、昔の住宅都市整備公団の出先機関などからの資料がここに収蔵され、整理研究されているようです。ここでも近現代の資料の散逸を防ぐ事業が行われているのは結構なことです。
 今詳述する余裕もありませんが、展示の充実のみならず、図録類もいろいろとありまして、小生は『郊外行楽地の誕生』というのを求めました。かつての郊外電鉄では、通勤通学よりも郊外への行楽客を当て込んでいた面がありまして、そういった電鉄経営との関係を伺う上でもなかなか面白い一冊でした。

 まとめると、多摩の地域史への関心は概して高く、この地域に拠点を置く企業などもそういった取り組みに係わっている(多摩信用金庫なんかも有名ですね)ことが伺えて、大変有意義な一日でした。
Commented by 無名 at 2010-04-11 12:08 x
昇格するととのぐらい待遇が変わるのかが興味があるところです。
当然、私企業なので官吏とは微妙に異なるでしょうし。
Commented by 憑かれた大学隠棲 at 2010-04-14 03:05 x
次の課題図書っすよw

ここは酷いかつて存在した遊園地ですね 障害報告@webry/ウェブリブログ
http://lm700j.at.webry.info/201002/article_23.html
Commented by bokukoui at 2010-04-14 23:39
>無名さま
軌道系の場合は、市営の電気局との類似性があるでしょうね。もっとも郊外電車の労働条件は、市営の3割~4割引きだったようですが。

>憑かれた大学隠棲氏
アップされた時に該記事を一読して、明らかに「お前買え」という文意と思いまして(笑)、既に買って読んでます。
面白い本のご紹介ありがとうございます。横浜市民としてはドリームランドの話にしみじみしました。ですが諸事に追われて感想が・・・
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by bokukoui | 2010-04-10 23:59 | 鉄道(歴史方面) | Comments(3)