「どうする!? どうなる? 都条例 非実在青少年とケータイ規制を考える」
で、会場の豊島公会堂の前で無事に氏と出会い、用件を伝え、ついでに都条例問題を受けて緊急発刊された『マンガ論争2.5』を一部購入し、しかしそれで帰るのも何なので、話を聞いてきました。この会場では3年前の5月に「同人誌と表現を考えるシンポジウム」が開かれ、当ブログでもレポをアップしました。今回はその当時と比べてもネット関係のメディアが進歩し、動画のネット中継もなされたそうので、レポは今更と思わなくもないですが、3時間のイベントの動画をひたすら見るのも大変といえば大変でしょうし、当ブログの普段の傾向とは逆に、箇条書きによる要点のみの紹介にとどめておきます。
今回のイベント「どうする!? どうなる? 都条例 非実在青少年とケータイ規制を考える」の公式サイト的なものはないようですので、代表の一人である山口貴士弁護士のブログから、イベントの概要を抜粋紹介しておきます。
『どうする!? どうなる? 都条例 非実在青少年とケータイ規制を考える』
主催:「東京都青少年健全育成条例改正を考える会」
代表者:藤本由香里(明治大学准教授)・山口貴士(弁護士・リンク総合法律事務所)
協賛:全国同人誌即売会連絡会
協力:コンテンツ文化研究会
先に継続審議となった東京都の青少年健全育成条例改正案ですが、現在関係各所での利害調整が行われており、6月中の成立、10月施行の可能性も考えられ、全く予断を許しません。この集会の翌日(5月18日)の東京都議会総務委員会において一定の方向性が明らかになると考えられます。本緊急シンポジウムは、法律の専門家や出版、同人、携帯電話などの各業界団体、子供を持つ親などの幅広い皆様から、都条例改正案についての実証的な発表を行っていただき、今後の冷静な議論への礎となることを目的とします。
そのため、今回は単なるシンポジウム形式ではなく、パネラーの方々に加えて、業界関係者を含め、 次々といろんなひとがリレーして発言していく形式を取りたいと思います。作家・マンガ家さんなどの現場の方からのご発言もいただく予定です。
18時頃には既に会場の前にかなりの列が出来ており、そのためか開場がやや遅れましたが、人出が多いことは結構です。NHKの取材陣が来ており、また他のマスコミも来ていたようです。
会場の入口で何枚かのビラを貰いました。条例案に反対する声明のビラの他、「日本ペンネット」という団体立ち上げのお知らせがありました。これは、トンデモ電波「右翼」平和神軍のことを調査したサイトの運営者が告訴され、最高裁まで争ったものの敗訴した事件を契機に、「一般市民(特に社会的問題に関する情報を扱う人々)の自由を萎縮させないこと」を目的とするそうで、来る22日に旗揚げイベントをするそうです。
またこの問題を取り上げた書籍が2冊出るそうで、そのビラも貰いました。一冊はサイゾーが来月初めに出す『非実在青少年<規制反対>読本』で、もう一冊は今月31日に徳間書店が出す『非実在青少年読本』です。徳間のだいぶ内容も決まっていて、表紙の画像も公式サイトに出ております。登場するのもなかなかすごい顔触れですね。
『非実在青少年読本』は『月刊COMICリュウ』編集部の編集になるもののようで、『リュウ』愛読者である小生としては大変関心を惹かれます。『リュウ』編集部は、思えば『レモンピープル』連載の『ゼオライマー』の単行本を出し、『ホットミルク』や『ポプリクラブ』に掲載されたナヲコ先生の作品を単行本『からだのきもち』としてマーク無しで堂々刊行しているだけに、このような企画を立てるのも大いに納得がいきます。そういえば小生も、『からだのきもち』を買い込んでまずやったのは収録作品の初出誌(過半は持っている)と見比べることで(笑)、「なるほど黄色の楕円マークの有無はこのような差をもたらすのか(このような差しかないのか)」と感慨に耽りました。このような作品こそ、形式的な性的描写取り締まりの愚かさを、もっともよく示してくれるといえましょう。何でしたら比較対照した評論記事を書いても良いのですが、時間がない以上に、エキサイトブログでは公開差し止め措置を食らいそうなので(小生は前科がある)、やめておきます。
もっとも先月発売の同誌には全くそんな話は載っておらず、それどころか先月発売の『リュウ』では、読者投稿欄に附せられた編集子の記事に、編集子の表現規制問題への理解度を疑わせしめる記述がありました。しかし、雑誌全体のスタンスと、名前を出している大野編集長を信じて、徳間の『非実在青少年読本』は購入したいと思います。
※追記:『非実在青少年読本』を購読しました。感想などはこちらのリンク先をご参照下さい。
話を戻して、以下イベントの内容を略記します。正確な内容は、きっとネットのどこかにあるであろう動画をご参照下さい。また諸事多忙なので、いちいち関連するリンクを張りませんが、関心のある方は適宜ご自分で検索して下さい。メモを大体まんま起こしただけなので、意味が判じにくいところがあるかも知れませんが、他の方のレポや関連資料などを探して適宜補完して下さい。
◎藤本由香里氏の開会の辞
・6月にこの条例は再度審議されることは確実であり、それに対する「正しい情報」の共有が目的。報道の内容も錯綜しているのが現状。
・従来の表現規制は、ある表現を問題視する市民の声があって、条例などへ至った。ところが今回はいきなり条文が登場している。賛成・反対ではなく、この条文で良いのか、というところに注目するのがポイント。
・都がこの条例案について、質問回答集を出しているが、その内容が条文と食い違っているのが問題。
◎山口貴士氏(弁護士)が条文の問題点を解説
・都の質問回答集は「誤解」(カギ括弧付き)を解こうとして出したものだが、奇妙なところもあり、またそもそも現担当者の見解に過ぎず法的拘束力はなく、担当者が変われば変わる程度のもの。条文こそが大事。
・質問回答集で、「表現の自由の侵害では / 表現を萎縮させるのでは」という問いに対し、子供への販売を止めさせるだけのような旨を回答している。これは嘘ではないが重要なことを隠している。都の真の狙いは、都がバックアップした市民団体による表現狩りを可能にすることだと思われる。
・子供に売らないだけというが、条文からすれば18禁マークを付ける対象が格段に拡大することは明らか。規制に強制力はないが、それが表現の自由を守ったことにはならない。表現者・出版社・書店などを萎縮させる。
・条例案第7条1項2号では、18歳以下に見える(「表現されていると認識されるもの」)キャラクターを「みだりに性的対象として肯定的に描写することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの」を規制するという、曖昧で広く何でも規制可能なものとなっている(しかもこの内容は9条にも繰り返されている)。
・上掲条文の問題点では、「みだりに」とは必然性はないというくらいの意味なので、フィクションは全て該当してしまう。
・「健全な判断能力の形成を阻害」というのは曖昧で恣意的な運用が可能となる。
・そもそも「青少年」は18歳未満すべてを含んでいる。年齢毎に対応は異なるべき筈で、だいたい14歳以上の性交は法的に認められており、16歳以上の女子は結婚が可能である。
・条例案第18条の6の2第2項では、青少年を性的な対象として描いたものを「まん延」させないようにし、青少年がそのようなものを見ないようにする責務を都に課している。「まん延」という用語は、他の法律では狂犬病法や検疫法で使っている。それが都のイメージ。都は青少年に見せないことが目的と説明するが、それは嘘と考える。なぜなら「まん延」を防止すべき対象には実写の児童ポルノという、誰が見てもいけないものも含んでいるから。(非実在と実在の区別がない)
・山口氏の考えでは、都は18歳以下の性的表現をじわじわと無くしていくことが目的。例えばこれを口実に、同人誌即売会に都の施設を貸さないなど。規制推進派もこれを口実に表現狩りが出来る。
・青少年健全育成条例は、未熟な青少年の育成のために、表現の受容に制約を加えるもの。18歳以上の人があるカテゴリの表現を受容することを否定するものではない筈。青少年に問題ある表現を見せないなら、第8条第2号で足りる。都の質問回答集は都合の良いことしか書いていない。
・以上の内容は、サイゾーが出す本に載る予定。
◎予定の順番を変更して、西沢けいた都議(民主党、中野区選出)よりパブリックコメントについて説明
・条例制定の前提として東京都青少年問題協議会が答申を出したが、昨年その答申を出す前にパブリックコメント(以下PC)を募集した。2週間で1581件が集まり、これはかなり多い。
・条例の審議をするので、都の担当者に1581件の賛否の内訳を問うた(担当者が示したのは、数枚に纏められたものだけだった)。すると「数で表せるものではない」といわれた。おや?
・そこで、議会で説明するので資料が欲しいと担当者に申し入れたところ拒否。食い下がると情報公開請求(これは一般人もできる)をしてくれとのこと。そこで2月末に請求したが、出てきたのは4月末。都議会は3月で、とっくに終わっている。
・公開されたPCをざっと見たところ、賛成はわずか16件、1%少々。その後人出を集めて精査し、判断に迷うものを賛成派に分類して甘めに見ても、賛成は40件程度。多くの人が懸念を持っている。
・公開されたPCには多くの墨塗りがあり、これには不服申し立ても検討。今後もPCを精査して審議に臨みたい。
◎以下、議員さんたちからコメント
・谷岡参院議員(民主党):文教委員会でこれらに関して、輸出産業でもあるアニメやマンガを規制するべきではない(?ちょっと記憶曖昧)との質問をしたところ、手紙やメールなどでこれまでになく多くの反響をいただいたが、すべてが「ありがとう」だった。自分は大学の学長などもやっているが、教育者として「都合の良い」子供を作ることは教育の目的ではないと考える。自分の好きなものを追いかける自由のある日本にしたいと。皆さんに言いたいのは、政治に無関心ではあることはできても無関係であることはできない。選挙に行くべし。
・吉田康一郎都議(民主党、中野区選出):この問題について、メールやFAXがたくさん来て、プリントアウトしたらファイル何冊分にもなった。その中にこの条例を進めて欲しいという声は一つもなかった。新聞で、ネット右翼によるコピペ攻勢があったと報じられたが、自分が見た範囲ではそんなことは全くなく、皆署名付きで、年齢性別も多様であった。
・松下玲子都議(民主党、武蔵野市選出):寄せられた声については吉田氏と同じ。この問題では、青少年育成と言いながら青少年の声が届かない。また、この条例は青少年が自分で判断する材料すら奪うということにもなる。この条例を問題視する声は広まっているが、更に広めて欲しい。
・栗下善行都議(民主党、千代田区選出):多くの意見が寄せられた点については吉田氏に同じ。メールが殺到した。とは、都や知事にも多くのメールが行っている筈だが、知事が「非現実青少年」と言い間違えるくらいで、よく知らないまま。5月30日18時半から、内幸町ホールでこの問題に関する集会の予定。この問題のPTの民主党都議、宮台氏はじめ学識者を集めてパネルディスカッションを行う。
◎日本書籍出版協会・出版の自由と責任に関する委員会の西谷隆行氏
・多くの読者から激励や情報提供をいただいていることに感謝。
・業界は自主規制を行っており、これ以上の規制は必要ない。
・青少年健全育成条例は、東京では1964年に定められており、それ以降「都とも協力して」自主規制を行っている。現在、不健全図書の指定は激減している。
・不健全図書は、区分陳列されていないものを都が購入して候補を絞り込み、出版社・書店・取次などの団体も委員として参加して諮問を行い、指定する。8年前は月10点くらいあったが、今は2~3点。
・以前から帯紙措置(※これをされた雑誌は大概廃刊になるが)や成年向けマーク(黄色い楕円、コンビニではは売らない、区分陳列するもの)、赤いマーク(コンビニ不売、区分陳列しないものにつける)、青いシール(グレーゾーンのものに附ける、月2200万冊で手作業のためコストを要する)など行っており、過激なものが増加・氾濫しているという事実はない。このことは答申中でも認められており、現行の条例で対応可能。
・都の質問回答集に不満。「販売規制であって表現規制ではない」というが、販売規制を通じて表現を萎縮させる。また都のものであって全国的なものではないというが、出版社は東京に集中しており、全国的な影響がある。これらは詭弁。
◎同人誌業界の取組について全国同人誌即売会連絡会の中村公彦氏
・即売会は対面販売が基本で、買い手が18歳以上かどうか確認しながら売っている。サークル同士でも状況は見えるので、監視とはあまり言いたくないが、野放しになっているのではない。注意したり、主催者に届けたり。
・今回の条例の件については即売会関係者も積極的に行動しており、また参加者の関心も高い。先日のコミックシティではこの問題の解説書が2000部完売し、またアンケートを採ったところ2万サークルのうち70%から回答があった。
・議員にも即売会を視察してもらい、「ちゃんとやってますね」と評価された。
◎「非実在青少年」より問題かも知れない携帯電話の規制について岸原・吉岡両氏より
・EMA(モバイル・コンテンツ審査運用監視機構)岸原孝昌氏より、この問題は憲法の表現の自由に関わり、都条例案は偏った考えがある。
・EMAは青少年健全育成と青少年保護をバランスよく進めるための団体。健全育成にはいろいろ経験させた方が良いことも多く、あまりに保護ばかりでは純粋培養になってしまってそれも問題。
・フィルタリングは魔法の杖ではない。フィルタリングには価値観の多様性を損なう恐れがあり、表現の自由を守るためには消費者が多様な選択が出来るようにすべき。
・条例の問題点として、価値観の多様性を損なうこと、事業者が責任を負わされる恐れがあることの二点。有害情報については具体的な基準がない。
・同じくEMAの吉岡良平氏より、氏は主に啓発活動担当。EMAでは啓発のための活動を行っている。サイトを作り、これまで200万人もの人に見て貰った。出張講座も行っている。
・都がこのような条例を作ると、この啓発活動が都の定める指針に従わなければならなくなる。営利事業でないCSR活動に対し行政が介入することになる。これは事業者の活動をも萎縮させることに繋がる。
・条例案は保護者の責任を取り上げ、子供が自分や他人の尊厳を傷つけた場合指導できるとしているが、これは例えば子供が自殺予告や未遂をした場合、そのこと自体で苦しむ親をさらに苦しめることになりはしないか。
ここらへんで時刻は19時半となり、一旦休憩となりました。
本記事も充分長いので、ここで一旦切って後半に回します。
※後半はこちら→「『都条例 非実在青少年とケータイ規制を考える』レポの続き」
※2012.10.14. 追記:くりした善行都議のその後についてはこちらの記事をご参照下さい。