「都条例 非実在青少年とケータイ規制を考える」レポの続き
(承前)
休憩が終わり、20時頃から再開。
◎PTAに関して
・マンガ家の環乃夕華氏:小学生のお子さんがおり、新宿区でPTAの活動をしている。
・条例案には東京都小学校PTA協議会が賛成しているが、自分の学校ではこのことに関し何も聞かず、周囲のPTAの人にも聞いたが、誰も条例案の存在自体知らなかった。PTA協議会に問い合わせてみたが返事はなし。
・この東京都PTA協議会という団体は、23区では足立・荒川・世田谷・文京・目黒の5区しか入っておらず、あとは檜原村(小学校が1校しかない)と伊豆の島嶼部の町村がいくつか、小規模な町単位では若干加入例もあるが、これで「わたしたちPTA」として代表できるのか。
・作家の川端裕人氏:世田谷でPTAに関わり、『PTA再活用術』という著書もある。
・東京都小学校PTA(都小P)のようなPTA連合体は、保護者代表たりえない。今回の条例については、世田谷は都小Pに入っているにも関わらず、周囲のPTAの人や役員に聞いても誰も知らない。保護者と関係のないところで決まっている。
・PTAの意思決定について。世田谷の場合、小学校が64校(2万世帯に児童3万)あるので全校の役員が集まれるのは年2回のみ。あとは8ブロックに分け、各ブロック内持ち回りで常任理事校を決め、そこが中心となる。このような団体が集まって都小Pとなる。東京のように一部地域のPTAしか加入していない都道府県は珍しく、普通は道府県の大体のPTAを傘下にしている。
・都小Pの理事は、各地区のPTAからの推薦によるが、なる頃には子供は卒業してしまっている。理事を何年かやると内部推薦で副会長になる人が出、さらに数年副会長を務めた中からこれまた内部推薦で会長を選ぶ。このようにヒエラルキーをなしているシステムで、末端の声は上まで届かない。
・今回の条例について都小Pの理事が各区のPTAに相談したという話はなく、「こんなことやります」みたいに書いた紙が回された程度。
・ただし、今頃は年2回のPTA総会の季節なので、その場で形式的に賛成が議決されているかも知れない。
・社団法人全国高等学校PTA連合会顧問(前会長)髙橋正夫氏よりメッセージ、藤本氏が代読:携帯電話やネットなどのツールが悪いのではなく、人の問題。親を飛び越えて行政が介入することには反対。リテラシー教育が重要と考え、実践してきた。規制に賛成しているのが親の全てではない。但しこれは、会ではなく自分の意見である。
・このメッセージについて川端氏が補足。高橋氏の意見は規制反対派にとっては有り難いが、高橋氏も断っているとおり、これが親の意見の総意でもない。そう取るのは都小Pの規制賛成と同じこと。PTAは親の代表として扱われてしまう、そんな危険がある。
◎海外事情に関し、翻訳家の兼光ダニエル真氏より
・都条例の議事録で、外圧のことがしばしば出ている。この条例と直接関係ないのに、問題になった陵辱ゲーム『レイプレイ』の話まで出ていた。
・外圧のようなことが起こるのは、日本に対する無知があるから。大きく4つの問題があり、(1)日本の犯罪率の際だった低さ、(2)性嗜好と実際の性行動が違っていること、(3)アニメやマンガの裾野が広く、美少女ものがその中で重要な位置を占めている多様性があること、(4)女性作家が多く参加していること。
・(2)については、これは誤解や偏見を招かないよう注意しておきたいが、ゲイの人達の活動の影響があるかも知れない。欧米では、ゲイの人達は権利獲得運動を強く行ったが、ゲイの性のあり方と同時に、ゲイポルノも認めて欲しいと訴えた。それが性嗜好=性行動の印象を与えている可能性がある。
・(3)については、海外の日本のアニメやマンガの受容が特定の人気作品に偏る傾向があり、全体像をなかなか把握してもらえない。
・外圧だから、ではなく、その形が日本の事情にそぐうように考えるべき。
・日本のマンガやアニメを楽しんでいる海外の人も大勢おり、一部の人がこうだから、と思わないで欲しい。
◎田島泰彦氏(上智大学教授・文学部新聞学科)
・昨年の自公政権の時、児童ポルノ法改正の議論で法務委員会に行き問題を指摘したが、この場とは全く違う雰囲気だった。メディアの取材はアグネス・チャン氏や前田雅英氏に集まり、自分の所には来ない。民主党の勉強会にもアグネス氏が来ていた。
・ペーパーには「マスコミの報道は適正か?」となっているが、このお題はこの場に来て初めて知った(笑)。ここでは、自分の意見はあるがそれとは別に、議論すべき大きな問題を示したい。
・都条例や児童ポルノ法のような問題は、90年代末にはじまり、2000年の9.11を経てきた時代の潮流の中にあり、その流れで表現の規制が進められてきた。
・この規制は、軍事情報を公開しないといった分かりやすい形ではなく、多くは市民社会が「ごもっとも」と思うような形で進められてきた。例:個人情報保護法、人権擁護法案。青少年健全育成条例も。美しいもの、綺麗なものに騙されてしまう。内実で何が進んでいるのか見極めなければ。
・今回の都条例は、一番進めやすいやり方。「子供を守る」として、個人の内心に踏み込んでいく。ネットも同様にできる。このようにやりやすいところから進めるというのは、戦前でもエログロ規制から思想統制が進められていったのに通じる。
・メディアにも問題がある。誤解を恐れずに言えば思考停止。この問題に関しては表現の自由という発想はない。児童ポルノ法などは他人事と思っている。「有害情報」=とんでもない、という発想から始まり、有害とは何ぞや、という議論にはならない。有害即ち違法というわけではないのに、コンプライアンス、遵法精神を発揮してしまう。メディアは本来権力の監視が任務で、表現の自由はそのためにある。なぜそんなメディアになったかはまたの機会に。
・ここにあるのは遮断の思想。「清潔」な社会の中で「良い」ものを純粋培養するという発想。これで子供や社会はいいのか、つきつめて考える必要がある。
◎ここで遅れてきた鈴木勝博都議がひとこと
・伊藤都議ともども総務委員会に属している。明日の総務委員会での慎重な審議を望む声が多く寄せられている。明日は参考人招致を行い、宮台氏などを呼ぶ。
・これだけ多くの人がこの場に集まった、その思いを受け止めて、都議会会派の民主党はがんばる。
◎出版労連の前田氏より
・条例案については、異議申し立てが出来ないことが問題。
・また、子供の意見を聞くべきで、子供が自分に関わることに意見を言う権利は国連の子どもの権利条約にある。
・この問題について、5月25日に中央大学で集会を行う。
※追記:この集会に参加しました。レポは以下を参照→「出版労連主催『表現の自由への規制を許すな! 東京都青少年条例の改悪に反対』見学記」
◎河合幹雄氏(桐蔭横浜大学教授・法学部)
・国家公務員の上部向けの研修で法社会学を講義しており、そういった人々との交流がありつつこの場へ来ている、特異な立ち位置。
・個人的意見としては、親が子供に「マンガなんか読んでないで勉強しろ」と叱るのを行政と警察でやったら、親子の会話はどうなるのかと思う。
・この条例案はまったく雑なものだが、雑なものが何故出てきたのか。それは「警察の陰謀」なのか。しかし警察の幹部で、「この条例がないと治安が守れない」などと考えている人は一人もいない。
・であるが条例案に警察の色は感じられる。警察は何を狙っているのか。それは政権交代もあって国政の状況が不安定なので(政権交代以前からその傾向はある)、法案を出してもどう実施までにどう変わるか分からない。そこで都を中心に地方から攻めていく方針にした。警察の本筋は、暴力団をいかにソフトランディング的に消滅させるかで、福岡の条例などがその例。
・警察が動く時は「市民」の声に動かされているのが普通。しかし今回はPTAや市民団体の目立った動きはない。アンケートの結果を警察が気にしているのではないか。
・そこで、条例案を出せば必ず勝てると思ったのでこんな雑な案になった。すると、反対が大きくなって大変なことに(今日のこの集会のように)。これは世論調査の勘違い。マスコミも勘違いしているだろう。
・アンケートの基本は、正しい情報を得て、良く考えること。今回の条例にはどちらもなかった。これを上手に説明することが大事。自分も陳情しているが、まだ効果は表れていない。
◎宮台真司氏(首都大学東京教授)
※宮台氏はプロジェクターにレジュメを掲出して講演されましたが、その内容を画像と文章で紹介して下さっている有り難いサイトが発見できましたので、そちらをご参照下さい。
→『どうする!?どうなる?都条例ーー非実在青少年とケータイ規制を考える』
基本的にそちらをご覧いただければ、内容はクリアーですぐご理解いただけると思います(手抜きと言わないで)。自分のメモの内容が、そのレジュメの更に抜粋でしかないことが明らかになったので。
がんばって一文に圧縮すると、
・子供の性的被害が圧倒的に減少しているにもかかわらず、目的が不明確なまま、構成要件も不明確で恣意的な運用の恐れがある規制を、代替手段を検討することなく導入しようとするのは行政の怠慢であり、同時に社会の関わりを無視して行政が介入することは、反市民社会的である。
でしょうか。
◎マンガ家の皆さんのコメント
・竹宮恵子氏:これまで反対運動の集会などに参加したが、5月6日の抗議集会が(? この辺あやふや、3月のことだったか?)、都から竹宮が一般の人に誤解を広めていると思われたらしい。これらについて、自分は都から説明を受けたことは事実だが、都に「賛成した」訳ではない。その誤解を解いておきたい。
・山本直樹氏:「猥褻」なものを含まなければ表現できないこともある。表現を衰えさせる。
・うめ氏:自分のマンガで表現規制を扱ったら、現実がこうなって戸惑っている。(ここで表現規制を扱ったマンガの台詞を朗読)表現とは相手に影響を与えるもの。表現に傷つくことも経験ではないか。
・有馬啓太郎氏:作品に影響を受けて、いろんなことを妄想する。しかし実際にはやらない、犯罪者以外はやりはしない。こんなの読んだら犯罪するでしょう、と言われているようで、失礼な話。
・水戸泉 / 小林来夏氏:BLを描いているが、条例成立前から編集者に注意して欲しいと言われた。既に萎縮が始まっている。しかも注意されたのはBLの性的シーンではなく、脇役の少年が警官を射殺するシーンだった。BLは竹宮先生たちによって切り開かれた(会場笑)幅広い分野で、読者も幅広く若年層も多い。しかし読者は大半女子で、彼女たちの性的な行動にBLがどう影響するのか? BLの読者は概して性的にアクティブではない。実際にある最大のトラブルは、中学生が学校に持って行って先生に取り上げられること。「持って行かないで」という活動なら協力していい。
この時点で21時20分になっており、会場は21時半までに締めたいということで終了。質疑応答の時間は残念ながらありませんでしたが、内容は充実していたと思います。
さて、以上を踏まえて簡単に感想を。
先ず何より、800人の会場で立ち見が出るだけの人が集まったことは大成功と思います。そして、同じ会場で通底するテーマを扱ったということで3年前の「同人誌と表現を考えるシンポジウム」と比較したくなりますが、やはり議員や政策に関わる学識者の参加を得るに至ったことが最大の相違であり、それだけ社会的な認知も大きくなったことは、喜ばしいことと思います。「正しい情報を共有する」というのが今回のイベントの目的でしたが、多方面からの見解が集まり、一人当たりの時間が短いにも関わらず各論者とも論点が纏まっていて、良くできたイベントだったと思います。
質疑応答がなかったのは時間の都合上如何ともしがたいことですが、もし一つ小生が質問できるなら、山口弁護士に、氏が指摘していた「都がバックアップした市民団体による表現狩りを可能にすること」という本条例案の目的に関し、「市民団体」とは何が想定されているのか、ということを伺いたく思います。先日、秋葉原で防犯パトロールについて紹介した(→「『秋葉原協定』の内容と啓蒙浸透活動、巡回パトロールの状況」)者としては、何か自警団的なものが想定されているのかな、などと思います。どうも警察も、そういった組織の充実には、前向きな姿勢のようですし。
最後に、もうちょっと長期的なことを考えると、つまり本シンポで田島氏が指摘していた大きな流れのようなことですが、そこでは河合氏が「正確な情報をもとに良く考えること」を強調していたことが、宮台氏のいう「社会の自立」を実現する上でも、重要なことであろうと思います。さてこそ藤本氏が、開会の辞で「正しい情報」の共有を強調していたわけで。
ですが、先日当ブログで書いたことでもありますが、「正確な情報」と届けたつもりでも、受け手がどう脳内変換するかはまた別な問題でして。有り体に言いますと、この日のイベントで小生がせっせとメモを取っていた、その隣の席の方も同じようにメモを取っていたのですが、その文面がふと目に留まりまして(結構大きな字で書かれていたので)、そこには民主党を「ミンス」、マスコミを「マスゴミ」と書かれていました。・・・そりゃまあメモだから漢字を開いたり略語も使うけど、別に「み党」とかでもいいじゃないですか。みんなの党とこの文脈で間違えることもあるまいし。ましてマスコミを「マスゴミ」と書いたら、濁点二画分面倒じゃないですか。そんなことをする理由として考えられるのは、普段からそう書き慣れている、ということであり、そのようなネットスラングを常用する方の表現規制問題への対応は、上掲リンク先記事で指摘したような問題をはらむかも知れません。所謂「オタク」的コンテンツへの不思慮な耽溺が、あたかも原理主義的な教団の信徒の如く、世界を単純化した善悪で見てしまう、という。これは小生の個人的感興による気の回しすぎだろうとは自分でも思いますが、ただ、「自立した社会」の一員となるには、おそらく単純に世界を敵味方に割るような発想にとりつかれていては、困難になってしまいます。
もちろん小生は、「『正しい情報』に基づいて『合理的』行動を取れるか怪しい点では、規制賛成派も反対派も『どっちもどっち』」といって腐すつもりはありません。それもまたややこしさを嫌って単純化の弊に陥るものですし。ややこしい中をややこしいなりに、ぼちぼち見ていこうと思います。