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筆不精者の雑彙

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「やつら」と「わたしたち」

 高校生の時分だったか、国語で長田弘の「『敵』という名の怪獣」という話を読まされました。その頃は余りその意味が良く分かりませんでしたが、今はいくらか判るような気がします。

 で、奈良県でこんな条例が可決された由。
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/statement/060310.html
 この記事では「案」ですが、通っちまったそうです。
 そのことをニュースで聞いて、冒頭に書いたようなことを思いました。

 当ブログ読者の方に多いであろういわゆる「オタク」方面の方と密接に関連する条項を挙げるならば、18歳未満の者が「正当な理由がなく、有害図書類(奈良県青少年の健全育成に関する条例第21条第1項の規定により指定された図書類又は同条第2項の規定に該当する図書類をいう。以下同じ。)及び有害がん具刃物類(同条例第22条第1項の規定により指定されたがん具刃物類をいう。以下同じ。)を所持する行為」が「不良行為」に含まれている模様です(ネット上で見つけたのは2月20日時点の案なので、可決されたものとは異なっているかもしれません)。「正当な理由」って何なんでしょうね。
 そして、この条例の第4条には(同上)、「県民(少年を除く。)は、不良行為少年を発見したときは、当該少年にその行為を止めさせるため必要な注意、助言又は指導を行うとともに、必要に応じ、保護者、学校(学校教育法第1条に規定するものをいう。以下同じ。)の管理者又は職員(以下「学校関係者」という。)、警察職員その他少年の保護に関する職務を行う者に通報するよう努めるものとする。」のだそうでございます。
 松文館事件を想起せずにはおられません。あの事件は、息子がエロマンガを持っていることに気が付いた親が、何をトチ狂ったか、平沢勝栄に通報して漫画家と出版社を逮捕させた事件でした。そんなこと家庭内で解決しろと思わずにはいられませんが、条例の文面からすれば、奈良県ではこのような行動が推奨されることになるのでしょうか。

 さて、数日前に書いた記事のコメント欄でのたんび氏のご指摘と本件の問題構造は通底するような面があるのではないかと思われます。それは、世の中の様々な問題は、清く正しく暮らしている自分とは関係ない「やつら」が外部から襲ってくるために起こってくるのであり、自分は正統性をもって「やつら」を批難することが可能で、かつ「やつら」を排除すれば問題は解決すると考えてしまいがちな心理状況が少なからず存在する、ということです。
 考えてみれば、「オタク」もその心理状況下で「やつら」として排除される存在の有力候補ですね。最近いろいろと話題になったお蔭で、あまりそのような目に合わなくて済む(そのような振舞いをする輩がいた場合、少なくともネット社会では逆に徹底的に攻撃される)ようになって慶賀の至りですが、その一方で「オタク」の持っていた「何か」が失われたような気がしなくもありません。そこまでして掴むほどの地位だったのか、どうか。

 まあとにかく、陰謀論とかにはまらないようにしよう、というのが本稿の趣旨な訳ですが、言うは易く行なうは難し。自分にとって嫌いな「やつら」(嫌韓厨の心理とかはこれかな?)、何をやってるんだか分からんような「やつら」(宗教関連とかが例でしょうか)、何かキモいことやってるような感じの「やつら」(同性愛者差別とかこれですね。やおいも入るのか?)に対してもそう言えるかどうか、「DQN」「珍走団」「学会員」とかを代入して思考実験することにします。仲良くする必要はさらさらありませんが、別段いちいち宣戦布告する必要も必ずしもないだろうし、そういう攻撃的な行動は、最後は自分の首を絞めるはずだからです。
Commented by t-Fiction at 2006-03-25 04:27
エロを覆い隠す必要性などまったくないのにも関わらず、国や自治体もよくまああの手この手と・・・。
Commented by たんび(bonniefish) at 2006-03-25 23:56 x
この問題は同じく集団による個人排斥であるいじめと比べてみても面白いでしょう。
仮想敵を作りそこに全てのストレスを押し付けて安寧を貪ろうとするのはもう幼稚園くらいから集団内で必然的に発生してしまう現象です。ただ多くの場合「逆らうと明日は我が身」という保身行動から参加する人間も多いですし、「いじめ」は悪しき現象だという社会的イメージも定着しています。つまりこの局面では「被害の自らへの折り返し」を想像できている。
ところがご指摘の嫌韓厨を筆頭とした某巨大掲示板、事故の加害者叩き、犯罪報道における異常性の強調などを見るに、「善良な一市民たる自分」とは異なる「異常者/敵」というカテゴリーを所与の如くに想定して攻撃するに躊躇しない。犯罪者やその身内には何を言って/やっても許されると思っている点には常々恐ろしさを覚えます。言われてる方がどう思うかとか、自分が排斥される可能性とか考えないんですかね?本人は潔白を気取っても親戚や会社なんて形で巻き込まれる可能性は十分ありえるのに。
Commented by たんび(bonniefish) at 2006-03-25 23:56 x
長文で申し訳ない。
内心に好き嫌いの感情があるのは当然ですし、「人類みな兄弟」と考えろなどという気は毛頭ありませんが、少なくとも表立って「敵」を作ることに躊躇わない言動を続けていけば、最終的には味方が誰も残らないという事態に陥るのが論理的帰結だと思うのですが。共存共栄で結構じゃないですか。自分が嫌っている相手にだって自立的に生きる権利はあるわけですし。
話が逸れますが、この「善良な一市民」、それでも完全無欠だとまでは自己認識していないのかな、と思うこともあります。それは一部犯罪報道において「普通性・善良性」が強調されることに鑑みてなのですが。まあ結局、何かへまをした人を自分達から差別化した上で貶めるという心理的な動きは同じなのですけど。
Commented by spade16 at 2006-03-26 12:43 x
機会があったら「帰ってきたウルトラマン」より「怪獣使いと少年」を一度見て見ることをお勧めする。
と答えておくのが私の立場かな?
Commented by bokukoui at 2006-03-27 01:51
>t-Fiction様
当局の「余計なお世話」は、特にこの場合、エロに限ったことじゃないですね。しかもそれを受容してしまうようなメンタリティが存在することが問題をよりこじらせているように思われます。

>たんび氏
力の籠った書き込みありがとうございます。これに真っ向から受けとめてさらに論議を深めるのが礼儀とは思いますが、今その余裕がないので申し訳ないですが一点だけ簡単に。
ご指摘の中で最も重要ではないかと感じたのは、「少なくとも表立って「敵」を作ることに躊躇わない言動を続けていけば、最終的には味方が誰も残らないという事態に陥るのが論理的帰結だと思うのですが。共存共栄で結構じゃないですか。」というところです。どうも予防戦争を吹っかけることを(ある程度)当然と見做すような精神が存在しているのではないか、そんな気がしています。別段アメリカのネオコンばかりを例に引き出さずとも、身近にその例は見出せるように思います。

>スペード16氏
優れた作品はこのような狭隘な精神を打破する力を持つ、そう思います。ことに特撮界隈は、性格上そういった面に踏み込んだ作品が少なくないのでしょうか。もちろんゴミの山の上に宝石が見出されるものですが。
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by bokukoui | 2006-03-24 23:57 | 時事漫言 | Comments(5)