レポ・月刊『創』プレゼンツ「マンガの性表現規制問題徹底討論」
繰り言はこの辺にして、久々に見学したイベントのレポを。この3月から急激に盛り上がった、東京都青少年健全育成条例の改正問題(当ブログでも何度か紹介しました)について、一応6月の都議会で当初の案は否決されたものの、9月の都議会で再度議案となることは確実なので、月刊誌『創』を発行している創出版の企画としてこの問題を考えるイベントが新宿のロフトプラスワンで催されることとなりました。
「非実在青少年」とは?
「マンガの性表現規制問題徹底討論!」
石原都知事が言明している通り、秋以降の都議会で再び青少年条例改定をめぐる攻防戦が火を吹くのは明らかです。この際、この間問題になった論点を整理するとともに、議会の裏側でどういう攻防が行われ、次の都議会にどういう案が出されるのか、それに対して今どんなことができるのか、そういうことを議論したいと思います。
ロフトプラスワンは壇上のみならず客席を含めて議論を行う場です。当日は客席にもマンガ関係者が訪れる予定なので、出演者の話を一方的に聞くだけでなく、次の都議会へ向けて具体的にどんなことをしていけばよいかなど、会場からも発言を受け、この問題について議論をしたいと思います。会場からの発言大歓迎です。
【出演】山本直樹(マンガ家)、藤本由香里(明治大学准教授)、永山薫(評論家)、長岡義幸(インディペンデント記者)、谷雅志(日本雑誌協会編集倫理委員会副委員長)、西沢けいた(民主党都議)、兼光ダニエル真(翻訳家)、大野修一(『COMICリュウ』編集長)、揖斐憲(『サイゾー』編集長)、他。(註:『サイゾー』編集長は欠席)
司会・篠田博之(月刊『創』編集長)
イベントのタイトルが創出版のサイトとロフトのスケジュールとで微妙に違っていたりするのですが(苦笑)、一応両方取り入れて纏めてみました。創出版はこの問題について、『創』誌で何度も取り上げるなど熱心に取り組んでいるようで、特設のブログもあります。
さて、ようよう回復基調の小生、当初行くつもりはあまりなかったのですが、『月刊COMICリュウ』の大野編集長が来ると知って急遽見学を決意。『リュウ』愛読者としては一度編集長閣下のご尊顔を拝したく、というかこの問題に関する同誌編集者の謎のコメントの真意を解明したく、何とか所用に区切りをつけ、歌舞伎町の客引きをかいくぐって、ロフトプラスワンに赴きました。
で、行ってみれば開演の19時半頃で会場は八分くらいの入り、70人くらいだったでしょうか。多少の空席が見えるくらいです。
以下にイベントの内容をなるべく簡単にレポしておきます。イベントの模様はネットで中継されていたそうですし、また今時は流行のツイッターで会場からリアルタイムでレポしていた人もいるでしょうから、このようなまとめの価値は以前程ではないでしょうが、何だか最近ツィッターの過去の記事を見ようとすると見られないことが結構あったりするので、まあ多少の意味はあろうかと。もっともその分、削った内容も多いことはご諒承下さい。
なお、イベントの動画は以下で見られるようです。
・月刊「創」プレゼンツ「マンガの性表現規制問題徹底討論」(前半)
・月刊「創」プレゼンツ「マンガの性表現規制問題徹底討論」(後半)
それぞれ2時間づつ、合計4時間ありますので、時間的余裕と根気のある方はどうぞ。お忙しい方は以下の小生のまとめをご参照下さい。
まず第一部「この半年間、何が起きていたのか――都議会をめぐる動き徹底検証」です。パネラーは谷・西沢・山本・永山・藤本・兼光・長岡の諸氏、司会は篠田氏。
話は2008年12月頃の条例案のための答申に遡り、各パネラーが経緯を振り返るところから始まります。もっともこの辺りの経緯は、これまでの本問題に関するイベントや書籍で紹介されたことと重なることが多いので、それに譲って大幅に端折っておきます。
今年3月からの条例案反対運動について、3月15日都庁で開かれた記者会見と集会に多くの人が集まり、一挙に運動の転機となったことが指摘されました。会見側に里中満智子・永井豪・ちばてつや・竹宮惠子と有名な作家の方が揃っていたことが大きかったわけですが、そこで壇上の山本直樹氏、「自分も呼ばれてもいないのに初めて集会に行った」との由。とり・みき氏も来てたそうです。
で、この集会は条例案の行方を事実上決める3月18日の総務委員会前になんとか間に合わせようと開かれたのですが、その前後の都議会の政治的な動きについて西沢都議より説明がありました。
そもそも本条例案に対しては都議会の民主党内でも賛否両論あり、また否決できるとも考えず、通ることを前提に附帯決議で縛りをかけるなどの落としどころを探るべき、という都議もいた状況でした。実際これまでの青少年健全育成条例の改正時には、民主党は消極的賛成でした(自公の方が数が多いので反対しても無駄、という事情もありましたが)。
それがひっくり返ったのには若手の都議の動きがあり、集会前の13・14の週末に集まって協議し、月曜の集会で流れが変わったとの由。他の議員は「週末で一転した」という印象だったそうです。概して都の民主党内では、若手はこの条例案を問題視する一方、多くのベテラン議員は築地移転問題と絡んだ予算案にかかりきりで関心が無く、また数名は強い賛成派もいたそうです。中には都側の説明を鵜呑みにして、問題のある漫画が氾濫していると発言した人もいたそうで。
このように賛否両論に無関心とバラバラだったのですが、15日の集会以降議員に数多くのメールが殺到して無関心ではいられなくなりました。メールはほとんど反対だったそうです。そして総務委員会のある18日の朝になって総務部会を開き、賛否両論あったものの、十分に検討する時間はなく結論は出せないから継続審議、ということにまとまったのだそうです。
その後6月の都議会に向かって、プロジェクトチームを作って視察や意見聴取、議論を積み重ね、反対で党内を固めて臨むこととなりました。そして本条例案は否決に至りました。
西沢都議の話は大要以上のようなものでした。西沢都議は、当初こそ匿名罵倒メールも来たものの、寄せられたほとんどのメールや手紙は名を名乗って自分の言葉で書かれており、また継続審議決定以降も途切れずに送られてきたこと、その数は築地市場などの問題と比べても「天と地ほど」の差があり、新しい形の陳情ではないか、と指摘されていました。
そこから壇上の議論は90年代の「有害コミック」問題との比較に移りましたが(発言していない山本氏に話を振る意図もあったのだと思いますが)、ちょっと話が拡散して分かりにくかったので、司会者の篠田氏が今回の反対運動は「直接民主制に近いのではないか」などと指摘されていたことを一応のまとめとして詳細は省略させていただきます。
一つだけ余談ですが、長岡氏が都の櫻井青少年課課長に取材に行った時の話がありまして、「有害コミック」問題の際に指定を受けた山本直樹氏の『BLUE』を櫻井課長は読んでいたそうです。そこで今なら同書を有害図書指定するかと尋ねたら、しないと思うと答えた由。しかし、一度指定されたものは撤回されずに指定が残り続ける訳で、その問題を長岡氏は指摘しておられました。
第一部の最後は今後の展開について。
まず西沢都議より、都に条例案について今日問い合わせたが検討中とのこと、おそらく再提出はしてくる。同じ案を出してくることはないだろうが、どうなるかは分からない、様子をうかがっているところ。とのことでした。これに対し永山氏より、今回はネット規制と漫画の規制が一緒になっていたが、分離して条例案とする可能性はどうかとの質問があり、西沢都議はその可能性を認め、パブリックコメントを参考に民主党で対案を検討するのも一案と答えました。
また雑誌協会の谷氏によると、雑協は主に今回の条例案について手続きのおかしさを問題とし、各党派に申し入れを行っているそうです。もっとも自民党に申し入れに行った際は、話が並行線で険悪な雰囲気だったそうですが、自民党でも若手には「これはおかしい」と思っている人はいるそうです。
とりあえずこんなところで、予定の20時50分を大幅に過ぎていましたので第一部は終了。話題が多岐に亘るのでなかなか纏めにくい感じでした。
第二部の「何が問題であり、今後どうすべきか――マンガ表現をめぐる規制をめぐって」(このタイトルはちょっと・・・)は、予定を30分程繰り下げて21時半頃から始まりました。壇上のパネラーは、谷氏が降壇した代わりに『COMICリュウ』の大野編集長が登場します。当初クレジットされていた『サイゾー』編集長は欠席でした。
全く余談ですが、大野編集長の容貌が「とりから往復書簡」でとり・みき氏が描いていた姿そのまんまで感動しました(笑)
まず大野編集長が自己紹介し、この東京都青少年健全育成条例の改正問題について同編集部で作成した『非実在青少年読本』(前に当ブログでも紹介しました)を出した意図について語ります。藤本氏の発言をネット上で見て本を作りたいと思ったが、ロビー活動のつもりではない、同書の「刊行にあたって」で述べたように手塚への思いがあり、またたまたま山本直人氏(元ファミ通編集長)と出会って手伝ってもらえることになったという出会いもあって実現したとのことでした。
篠田氏の、今回の条例案に関係してマンガの現場では何か起こっているかという問に対しては、徳間はマンガの業界では小規模で「コミック十社会」にも入っておらず、一般の動向は分からない、『リュウ』は特にエロをしようと思って作っているわけではない、との答えでした。(もっとも今月発売号の附録は「リュウH」だそうで、前にもこんなこともあったしなあ・・・)
ここで永山氏が、今年4月大阪でBL(ボーイズラブ)雑誌が有害図書指定を受けた件について、『Chara Selection』という徳間のBL誌も有害図書指定に含まれていたことから、徳間の対応を大野編集長に聞きます。大野編集長によると、編集部の人が大阪まで指定の理由を聞きに行ったところ、大阪の担当者に「聞きに来たのは初めてです」と言われたそうですが、とまれ、指定理由は個別の性器描写などではなく、絡みなど全体を通じてのものだったそうです。
そして永山氏、大阪の問題を調査している昼間たかし氏にマイクを回します。先ず昼間氏は、有害指定を行ったことにより一部書店からBL誌が撤去されるという事態、つまり萎縮効果の発生を大阪府が認めたことを報告。また、昼間氏は大阪で取材した感触から、大阪当局はBL誌に対して成年コミック(所謂18禁)にして黄色い楕円マークをつけて欲しいと考えているらしい、BLや『チャンピオンREDいちご』のような存在(今までの成年コミックの枠から外れているということか)がある限り、有害指定は行うようだといったことを指摘しました。
ここから話は堺市の図書館が匿名の苦情電話のためにBL本を撤去したり、それに対して批判が起こってまた戻したりした件に流れていきましたが、これも既報のあるところと思いますので略します。
一区切りついて、大野編集長が新たな話題を提起します。大野編集長が東浩紀氏と話した際に言われたことだそうですが、女性にはポルノフォビア(ポルノへの嫌悪・恐怖感)がある中で、女性の藤本氏が立ち上がって運動したことが今回の規制反対運動では大きかった、と指摘しました。藤本氏もそのことを認め、女性支持者の多い生活者ネットへ陳情に行く時は女性だけで行こうと計画した(実際には日がなくてそうならなかったが)ことを明かし、今回は女性が動いてくれたことが多かったと指摘しました。
ここで議論がちょっと脇道に入って整理しきれなかったのですが、90年代の有害コミック規制反対運動との比較論になり、篠田・長岡氏と藤本氏の間でやりとりが交わされました。いささかすれ違っていた印象があります。
そこで西沢都議が、女性の参加によって説得力が増すことを指摘、今回の反対運動でも「エロ議員」のレッテル張りが怖い中で、松下玲子議員が強く反対してくれたことは心強かった、と述べました。
「子供を守らないのか」という規制推進派の突き上げにはどう対応したのか、との問いには、西沢都議はこの条例案では子供を守ることにならない、と説明したと回答しました。推進派とどのような議論になったのかという問いには、このような場合は議論というより、推進派が話を聞いて、検討します、と帰るという形だったとのこと。西沢都議は、これはあくまで印象で怒られるかも知れないが、と慎重な留保を幾つもつけた上で、推進派が陳情に来る場合は、感情的にわーっと一気に言ってくる印象であったとの旨を述べました。
女性の行動の話が出たのをしおに、篠田氏がフロアのゲストにマイクを回します。話をされたのは、「ポンコツ家族の取り扱いマニュアル」というブログを書かれている福来氏(最近は「ポンコツ★表現規制問題堂」というブログも運営されています)です。もともとDVなどを取り上げ、母親の閲覧の多いブログを運営されていた方ですが、最近は表現規制問題も積極的に取り上げています。
福来氏に寄せられる、表現規制問題についての母親からの声は、やはりマンガ好きの方からのが多いそうですが、このような問題を知らなかった、というものが多いそうです。
藤本氏は、福来氏のブログの中での、母親達が「子供を守る」というフレーズに賛成してしまうのは、子育ての負担が一人にかかってしまっていて子供に何かあったら自分の責任だと思っているから、という指摘に強い印象を受けたと発言(註:こちらの記事のことと思われます)。福来氏も、子育てが一人きりであることがなかなか分かっていない、表現規制問題を扱ったブログ記事に関して感想のメールをくれる人(大半は規制反対派)も、母親の孤独を知らず驚いた、という内容が多かったと述べました。
さて、これ以降質疑応答の時間になるのですが、長くなってひとつの記事に入らなさそうですし、更新の間も開いてしまっていますので、いったんここで切って後半に続くこととします。
続きはこちら→「続レポ・『マンガの性表現規制問題徹底討論』および雑感」