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筆不精者の雑彙

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被爆電車とPSE法

 先月既に公になっている話ですが、広島の路面電車である広島電鉄で未だ活躍する「被爆電車」こと650形4両のうち、2両が引退するそうです。こちらの記事こちらの記事をご参照ください。
 小生は、広島の路面電車は数度訪問し、一度は車庫も見学、全線乗ったものですが、650形に乗ったか記憶は定かではありません。ただ、8月に訪れた時、この電車が「慰霊」などと大書した幕を車体の横に下げて走っていたのは鮮明に記憶しています(垂れ幕を特別につけていましたが、通常に営業運転していました)。広島では超低床電車が続々投入されていますし、第一製造六十余年を経た以上、昭和初期頃の鋼製車は戦後の電車より無駄に頑丈なので長持ちするものですが、さすがに引退もやむを得ないことではあります。モノがモノですので、何らかの保存措置が取られる公算は低くないだろうと楽観しておりますが・・・

 さて、保存とは言っても、電車なんですから出来れば動く状態で保存して欲しいと思います(被爆電車はまだ2両残ってはいるわけですが、いつかはその2両も引退せざるを得なくなることもあるでしょう)。それも明治村みたいなのではなく、本来走っていた場所で(この場合なら広島で)走らせることが出来れば大変望ましいことでしょう。
 で、こういう場合、歴史的価値として保存し日常の営業には供さないわけですから、保安装置の基準であるとか車籍の取り扱いであるとか、法的な規制は通常の営業に供する電車と同じである必要は無いのではないかと考えます。法制面はあまり詳しくないのですが、営業線上を運賃を取って走るには車籍が必要な筈で、そのために保安面等で法的な基準を満たさなければなりません。それはそれで必要なことですが、歴史的価値ある保存車輌にまで一律に適応する必要は必ずしもないと思われるのです。

 欧米、特に英国では、鉄道趣味者が廃線になった鉄道などを買い取り、自主的に運営する保存鉄道がまま見られます。実は調べていないのですが(苦笑)、これらの鉄道に課せられる法的規制が一般の営業に供する鉄道と全く同じであるとは考えにくいのです。
 日本で同様な活動をしている団体はあまりありませんが、東大鉄研のOBが尾小屋鉄道という廃線になった軽便鉄道の車輌と終着駅附近の線路を買い取って、時々運転会をしているという例があります。聞いた話では、尾小屋鉄道を買い取る時、別な軽便鉄道の出物(?)として、下津井電鉄という路線も候補に上がったそうです。ところがこの路線は社名の通り電化路線でしたので、電気が絡むと安全云々で法規制がややこしいから止めた方がいい、という意見が出て沙汰止みになったとか。なんでもその意見を主張したのは、東大工学部で電車の研究をしておられた本邦きっての専門家だったということで、そのような人が言うからには相当に困難なのでしょう。
※追記:正確には「法規制云々より設備の維持メンテナンスや感電のリスクがあまりにも大きすぎるというのが理由」だそうです。この箇所を訂正し、削除します。本文全体の論旨は修正しておりません。

 話を近代遺産全般に広げると収拾がつかなくなるので止めておきますが、要するに日本ではこういったモノの保存活動に対する理解が乏しく、それを支援するような枠組みは無に等しいのではないかということです。古代の遺物と違って(もしかしてアッピア街道は現役?)、近代の遺産は現役で、もしくはそれに近い状態で保存することが可能であり、その方が保存の価値も一層高まると思うのですが。
 鉄道車輌の静態保存の場合でも、置いてある土地の固定資産税に優遇措置を与えるとか(もちろん、保存物件を一般に公開しなければ優遇は受けられないようにすべきですが)、支援策は色々考えられると思います。
 日本は世界一たくさんの船を作り、世界一速く正確な鉄道を作り、世界一大きな自動車会社を窮地に追いやるほど(あの会社は自業自得か・・・)自動車を作っているのですが、それらの歴史的保存に関しては大して注意を払ってこなかったように思われます。しかし「ものづくり」が日本の強みだというのなら(ホリエモン逮捕のせいかそんな言説を最近良く見かけるような気がします)、その「もの」に相応の敬意を払って然るべきでしょう。

 で、やっと表題である現在話題のPSE法と話が繋がってくるのですが、もう随分ここまで長文を書いて疲れてしまいましたので、簡単に一言。
 ゲームのようなコンテンツ産業が日本の将来を支えるというのなら、過去のゲーム機が容易に稼動する状況を作る方が合理的のはずなのに、それを妨害するような法制度を作るとは解せないと思っていました。しかし、これまで日本の発展に貢献してきた産業の過去の遺物に対する扱いを考えれば、所詮そんなもんだという結論になってしまいます。
 今回PSE法に関して世論がある程度盛り上がり、経済産業省もいくらかは反応せざるを得なくなったことが、今後近代文化遺産全般の活用に繋がる第一歩となれば、大変意義深いことなのですが・・・。PSE法反対も、これくらいのでかい話に結びつけることで、より盛り上がれば何よりであると思います。ビンテージ云々にとどめてしまうにはもったいない話です。いかがでしょうか(元)室長。(←最後の箇所は私信)
Commented at 2006-03-27 14:23 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by bokukoui at 2006-03-28 01:07
ご指摘ありがとうございます。又聞きで不正確なところがありました。修正しておきます。
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by bokukoui | 2006-03-26 23:56 | 鉄道(時事関係) | Comments(2)