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筆不精者の雑彙

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鍋焼うどんの探求(30) 蕎麦切 森の@本郷 至高のきしめん

 今回でこの企画も丁度切りが良く30回になります。というわけで、これで今シーズンの鍋焼探求シリーズをひとまず打ち止めにしたいと思いますが、昨シーズンも締めは名のあるお店(本むら庵)を選んだので、今シーズンもそんな最終回に相応しいお店を選ぼうと考えました。そして少々調査した結果、このシリーズの一番の「狩場」である本郷界隈に、なかなかなお店を見つけました。
 かくて、今回も昨シーズン最終回と同じ同道者を誘い、本郷の蕎麦切 森の「鍋焼」(2550円)を張り込んでみました。お値段は今までで最高で、昨シーズン末の本むら庵をもしのぎますが、果たしてその内容は。
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 お店はビルの1階で大きな通りに面したところにあります。間口が狭く、確か2人用と4人用の卓が二つづつくらいでしたでしょうか、ごく小じんまりとしたお店です。内装はごくあっさりと、明るめです。
 さて、お品書きを眺めますと、ざる(もりはない)・かけでも750円からとなかなかのお値段です。その他にも多くのメニューがあり、また時期限定のものは附箋で貼り付けられています。いちいち挙げるのも煩瑣なので、メニューの写真を以下に掲げておきます。これは今年4月下旬のものです。
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 この写真はクリックすると拡大表示します。さすがに鍋焼が最高値のようで、それに次ぐのがこの時は銀宝の天ざる2400円でした。
 種類の豊富さが伺えようかと思いますが、おつまみ関係についてはこれとは別に黒板にいろいろなものが記されています。というわけで、小生は禁酒中でしたが、同道者は呑む人だったこともあり、折角だからと幾つかおつまみを頼んでみました。
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 これは左手がおからとかものそぼろを合わせたもので、右が生姜のおひたしだったかと思います。どちらもすこぶる美味。特におからの方が、そぼろと様々な具とが合わさって、滋味豊かになっております。おからもやりようで化けるものですね。
 ついでもう一品。
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 これは筍の焼き物です。長岡京産の筍ということでしたが、なるほど北大路魯山人だとかの物の本に筍の名産地は京都洛西の樫原や向日町だと書いてありますので、樫原→向日町→長岡京と阪急京都線でいえば二駅づつ南西へ向かうことになりますが、長岡京でも相当のものが採れるのでしょう。もっとも聞いた話では、京都産の優良品には数に限りがあるため、京都の料亭では筍の品不足が起こるとなるべくこれに近い品を求めて、和歌山の加太の品を取り寄せるのだとかいうそうですが、これは和歌山人から聞いたのでお国自慢かも知れません。まあ、関西の黒土で育ったものの方が、関東の赤土より旨いのでしょう。で、筍を焼いて食うというのは、筍が好きそうな中華料理でも古くから愛されてきたと、青木正児『華国風味』の「焼筍」に記されていたのを読んだ覚えもあり、ものは試しと注文した次第です。
 そして、これも実に結構な品でした。写真にも見えるように、山葵醤油が付いてきましたが、同時に塩も添えられてお好みでどうぞ、とのことでした。どちらも試してみましたが、やはり筍がいいならば、塩の方が筍の甘みをよりよく引き出してくれるようです。玉蜀黍を思わせる甘みをより上品にした感じで、しかも歯ごたえも香りも優れた一品でした。

 他にも頼んだような覚えがありますが、メモがないのでこの辺にして、次にやはり蕎麦屋さんなんですから蕎麦についても(同道者が注文したので)ちょっと触れておきましょう。
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 これは同道者が食べていた天ざるの一部です。というのも、天ぷらを揚げながら順次持ってきてくれるので、常に揚げたてが戴けるという仕組みになっています。今皿の上に載っているのは、えび天の頭の部分を別に挙げたもので、これは塩で戴くとおつまみに最適です。えびの質がよいからこそでしょう。
 そばもちょっと貰いましたが、麺の良さもさることながら、そばつゆの味がより印象に残っています。そばつゆは関東風と関西風とが選べるとのことで、この時は関東風だったと思いますが、だしの鰹節が程よく香る実に上品なもので、蕎麦湯で割るとこれもまた乙でした。蕎麦というと麺が真っ先に云々されますが、つゆの味もそれに劣らず大事だと思います。

 さて、そろそろ肝腎な鍋焼うどんの具について、検討してみましょう。

 ・えび天(煮てない、頭は別)
 ・卵(生に近い)
 ・昆布入りかまぼこ×2
 ・鴨団子×3
 ・椎茸
 ・さやいんげん×3
 ・三つ葉
 ・長ネギ(けっこういっぱい)
 ・薬味のネギ(別添)

 具の種類事態はそれほど多くはありません。しかし、個別の品は大変吟味されています。
 まずえび天ですが、大きさは小ぶりです。しかし昔からえび天は一口で食える大きさくらいのが一番旨いと言ったもので、よほどえびが吟味されているのか、素晴らしい一品でした。森ののえび天は、えもいわれぬ甘みがえびから出てくるのです。揚げ方にも相当の仕掛けがあるのでしょう。鍋焼でもえびの頭が別に揚げて添えられるのは、天ざると同じです。
 卵は入れるか入れないかが選べるので、入れて貰いました。練り物は、これも他で見た覚えのあまりないものですが、かまぼこの中に昆布を巻きこんだものでした。鴨団子も旨かったですね。

 だしは関西風というのか、ほとんど醤油の色を感じさせない、透き通ったものです。しかし味わってみれば全く「薄い」ということはない、だしの力強さを感じます。あくまでも上品、しかししっかりと主張してきます。吸い口に柚子が添えられているのですが、柚子の風味はむしろ弱めで、だしの風味をむしろ強く感じました。具に卵なしが選べるというのも、もしかするとだしをより純粋な状態で味わいたい、というお客がいるからなのかも知れません。
 そして、この鍋焼でもっとも感銘を受けたのは、麺です。写真でお分かり戴けるでしょうか、この鍋焼の麺はうどんではなくきしめんです。このきしめんがなんともう素晴らしい一品で。啜ればつるつると心地よく、それ自体が快感なほどで、そのままつるつると喉の奥に流れ込んでしまいそうになりますが、そこを踏みとどまって噛みしめると、今度はもちもちとした歯ごたえがたまりません。つるりと味わってしまうのがもったいなかったと痛感できます。今まで食べてきたきしめんと称するものは何だったのだろうと考えさせられるほどの逸品でした。今でも口の中にそののどごしと歯ごたえを思い出すことが出来ます。
 メニューを見れば、このきしめんと蕎麦とを合い盛りにした品もあり、お店としても蕎麦だけではないぞと自信を持っている品であることが伺えます。ただしこのきしめんは冬季限定の品だそうで、5月以降は冷麦に変わるそうです。だからその季節は「鍋焼」もないそうです。その冷麦もいつか試してみたいところです。
 考えてみれば、蕎麦にこだわりというのはよくある話で、うどんやラーメンでもありますが、きしめんや冷麦、そうめんではそれほど聞かない気がします。きしめんはローカルなものだから、としても、冷麦やそうめんは家庭でよく食べられている割に、こだわって提供するお店を聞いたことが、少なくとも小生はありません。昔から乾麺の商品として流通していたからでしょうか。歴史としてはラーメンはもとより、うどん・蕎麦より古くからあるのですが(そうめんは古代、冷麦は中世、うどん・蕎麦は近世)。しかしやりようでは新たな展開はまだあるのだと思われます。

 とまあ、大変感心したひとときでした。蕎麦以上にきしめんが素晴らしく、また全体にだしが優れているため、料理の味もしっかりしているのでしょう。とはいえお値段の方もしっかりで、もちろんそれだけのことはあるのですが、何かめでたいことがあった時とかにここで一杯やって麺をたぐるのが妥当な使い道でしょうか。
 そんなわけで、シーズン締めに相応しい名店でした。ご関心のある方は是非どうぞ。

 最後に、お店の場所を掲げておきます。

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by bokukoui | 2011-06-17 23:59 | [特設]鍋焼うどん探求 | Comments(0)