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筆不精者の雑彙

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煉瓦の積み方

 創業百日記念企画、というほど大した話ではありません。

 今から一年以上前の2005年1月と記憶しておりますが、テレビ東京の「アド街っく天国」で本郷界隈が特集されたことがありました。その時ゲストによばれていたのが江川達也センセイで、『東京大学物語』作者だから、という縁だったようですが、なぜ『ラブひな』作者・赤松健氏を呼ばなかったんでしょうか。その頃『魔法先生ネギま!』のアニメがテレ東で放送中だったと思うのですが。『東京大学物語』のドラマ放送したのはテレビ朝日ですな。
 で、その江川センセイ、少しは気の利いたことでも言うのかと思ったら「東大構内には明治の雰囲気があって」云々などとのたまいます。東大は関東大震災で全焼しその後復興された建物は鉄筋コンクリートにスクラッチタイルという、大正末~昭和初期のスタイル(その後増築された建物もこの様式に倣ったものが多い)ということを無視しておられました。自著『日露戦争物語』の宣伝に強引に結び付けたかったのでしょうか。

 とはいえ、そんな東大にも、震災以前の建物がないわけではありません。あの赤門はそもそも江戸時代のものですし、その両脇に煉瓦造りの建物が現存しています。赤門向かって右手の建物は、昔史料編纂所が使っていた建物だそうですが、現在は使われていません。
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 煉瓦の建築物は近代の遺産としてもともと人気のあるもののように思われます。鉄筋コンクリートの建物でも、表面にタイルを張って煉瓦風に仕上げるということは非常に良くあることですし、その雰囲気が好まれているのでしょうね。
 しかしもちろん、煉瓦とタイルの仕上がりは一見似ているようでも違うところがあるわけで、それを良くあらわすのが赤門向かって左手の建物、今は改装されてコミュニティーセンターとやら(要するに土産物屋)になっています。その建物の側面を撮影したのがこれ。
煉瓦の積み方_f0030574_343598.jpg
 この画像はクリックすると多少拡大します。
 壁の真ん中にひびが入り、その左右で煉瓦の色が違うことがお分かりいただけるかと思います。そして、模様のパターンも違っていますね。これは左手が本来の煉瓦積みなのに対し、右手が(コミュニティーセンターにするため改造した際のことでしょうが)タイル張りに改装されているのだろうと思われます。
 で、模様のパターンの違いなのですが、これが煉瓦積みとタイル張りのもっとも大きな目立つ相違点ではないかと思います。立体的に積み上げる煉瓦と、平面的に敷き詰めるタイルの違いですね。

 煉瓦の積み方のパターンについて、こちらの全愛知赤煉瓦工業協同組合のサイトに分かりやすい説明が載っています。
 これを見ていただければお分かりの通り、東大に残っている煉瓦の建物の積み方はイギリス積みです。日本の煉瓦造りの建物の多くはイギリス積みのようで、特に鉄道関連ですと英国からの影響が大きいためか大部分はイギリス積みのようです(例外:東京駅はドイツ積みらしい。あの駅はいろいろドイツ人の影響が濃いという話も。この本とか参照)。フランス積み(フランドル積み)は見た目が最も美しいとされますが、採用例は昔の要塞(陸軍は当初フランス系だったので)などに限られるといいます。アメリカ積みは・・・開拓の影響か北海道に残存するとも聞きますが、詳細は知りませんし、実見したこともありません。全く関係ない殺人事件ものサイトを見ていたら、アメリカの事件の現場写真でアメリカ積みの壁が写っていておお、と思ったくらいですね(こちらのサイトの上から三枚目の写真。上から二枚目の写真は思いっきりグロ写真なので注意)。
 このコミュニティーセンターの壁もイギリス積みで、やはり日本で一番多いのはイギリス積みのようです。強度が大きいといわれているそうです(実はあまり変らないとも)。タイル張りに似ている長手積み・小口積みは、東京駅のような例外もありますが、敷地の塀などあまり大きくない建築物に使われることが多かったようですね。

 さて、イギリス積みは端部の処理に幾つかのバリエーションがあり、さらに違いが大きいとオランダ積みという違う種類になります(横浜の赤レンガ倉庫はオランダ積みだとか)。そのような端部処理の実例を複数同時に見ることのできる貴重な実例が、先ほど挙げた赤門向かって右手の建物なのです。
煉瓦の積み方_f0030574_3265892.jpg
 一見同じような積み方ですが、よく見ると端部の処理が異なっていることが分かります。
 下が半分に割った「ようかん」煉瓦を使っているのに対し、上は1/4を切り落とした「七五」煉瓦を使っています。理由は分かりません。東大キャンパスの建物の来歴を説明した本(なかなか面白いです。特に解剖台の話は感動ものです)を立ち読みしましたが、このことの理由は書いていません。筆者が勝手に推測するには、上の段の煉瓦色の煉瓦は需要が多いので、あらかじめ「七五」サイズの端部処理用煉瓦が販売されていたのに対し、下の段の焦茶色煉瓦は生産数が少ないので(あまり見たことがない)そのような特別版がなかった、そこで現場で割って作っていたが、その場合「ようかん」にすれば真っ二つに割ればいいから端数が出ないで済む(「七五」を現場で作ったら、長さ1/4のきれっぱしが大量にできてしまう)という経済的理由ではないかと思います。まあ、どこかで昔の煉瓦会社のカタログを発見できれば、理由はかなり明らかにできるのではないかと思います。どなたかご存じないでしょうか。

 さて。
 以上のようなことを書こうと思ったのは、先週アニメ「びんちょうタン」の最終回を見て(一体あのアニメが何を言いたかったのかやりたかったのか、最終回まで理解に苦しみ続けました)、くぬぎタンのお屋敷の門柱が煉瓦積みだったからです。そこでさらに思い出したのが一年前にやってたアニメ『エマ』ですが、あのアニメもいろいろ結構拘っていましたが、煉瓦の積み方までは思いが至っていなかったようでした。全部ひたすら長手積みという、タイルみたいなパターンでしたね。これは原作も同じようです。
 最近、筆者は絵でも漫画でもアニメでもテレビでも映画でも、煉瓦積みの建物が出てくると目地のパターンが気になって仕方なくなるという症状に悩んでおりますが、まあそれはともかくとしても、「メイドさんに似合いの洋館」で煉瓦積みの建物を描こうという漫画家さんが、目地の描き方にもこだわってくださることを期待して止みません。
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by bokukoui | 2006-04-08 23:56 | 歴史雑談 | Comments(0)