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筆不精者の雑彙

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「たばこのむな」 鉄道の表示今昔

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山手線・京浜東北線の高架橋に今も残る「たばこのむな」の表示
(神田~秋葉原間)

 春めいてきたと思ったら嵐になったりまた急に冷えたり、いまひとつぴりっとしない気候の今日この頃ですが、皆様如何お過ごしでしょうか。
 小生は、気候と歩調を合わせているわけでもないですが、前よりは活動的になったような気もするものの、それはあくまで午後になってからの話で、別段夜更かしもしなくても午前中は何もする気力がなく、また大学や図書館に出かけられた際も、電車で座るとたちまち寝てしまう、そんなぼんやりとした日々を送っています。そんなわけで、用事が片付いていないわけではないのですが、これも今ひとつ思ったようには捗らないような状態ではありますが、全く停頓していた年初よりはマシになっていると前向きに捉えようとは思います。

 そんな次第なので、ブログの方も手をつけたままの記事が残っていて心苦しいのですが、なかなかまとまって更新できる心身の余裕がありません。ですので、ちょこっと写真を張ってお茶を濁しておきます。



 というわけで、上に掲げたのは、東北縦貫線の工事が着実に進行中の、神田~秋葉原間の高架橋に残っている、時代を感じさせる表示「たばこのむな」です。
 この高架橋(正式名称は「第1柳橋町高架橋」というそうです)の区間の営業開始は1925年だったと思いますが、多分その時代そのまま、あるいはもうちょっと後かも知れませんが、まあ結構昔であることは間違いなかろうと思います。「たばこをのむ」という言い方は、今ではあまりしなくなりましたね。どころか煙草を吸う文化自体がすっかり衰退してしまいました。まあ小生も、吸ったこともないし吸おうとも思わなかった人間ではありますが、別にその文化が撲滅されるべきだとも思ってはいません。

 ところで、写真を張っただけでは芸がないので、鉄道の煙草規制表示に関する思い出話を、ちょっと昔の雑誌から一つ引用しておきます。
 日本の鉄道では一般に、禁煙車ができたのは戦後だいぶ経ってからで、JR化されてから禁煙車や駅での禁煙が次第に増え、近年はほぼ全面的に禁煙になっているかと思いますが、これは長距離列車の話で、大都市圏の通勤電車は登場当時から禁煙でした。まあロングシートの電車では、灰皿を設置する場所もないですし、ラッシュの電車では物理的に危険です。というわけで昔からたばこのむな的表示があったのですが、それについての話です。
 昭和10年7月1日から船橋―千葉間の電化が完成し、御茶ノ水―千葉間を48分で結ぶ直通運転が開始された。(中略)
 そのころ煙草を吸い始めたので覚えているが、省電の中に「たばこ御遠慮下さい KINDLY REFRAIN FROM SMOKING」と書いた額がかかげてあったもの。しかし、これではなまぬるく、苦情が多かったので、ときの内田鉄道大臣の “ツルの一声” により「禁煙 NO SMOKING」と命令調に改められた。不要になった「たばこ御遠慮下さい」の制札をゆずり受け、室内にかかげていたが、空襲で焼けてしまったのは残念である。

伊藤東作「御茶ノ水駅界隈の今昔」pp.145-146(『鉄道ジャーナル』1978年7月号・通巻137号)
 この「内田鉄道大臣」とは、岡田啓介内閣発足の1934年7月から、1936年の2・26事件で崩壊するまで鉄道大臣を務めた内田信也のことですね。
 それにしても、「御遠慮下さい」では遠慮しない人が結構いた、というのが昔の人も結構ルーズだったことを偲ばせちょっと面白くもありますが、となれば上に挙げた高架橋の「命令調」な文面も、内田信也以降のものなのでしょうか? そして「なまぬるい」として「お願い」から「命令」へと変化するのも、次第に戦時色を濃くし社会の統制が進行してゆく、そんな時代を反映してのものなのでしょうか? というのはまあ、うがちすぎだとは我ながら思います。
「たばこのむな」 鉄道の表示今昔_f0030574_1335613.jpg
「たばこのむな」掲示の上を走り抜けるステンレスの電車

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by bokukoui | 2012-04-07 23:59 | 鉄道(歴史方面) | Comments(0)