『鉄道史人物事典』が発行されました

鉄道史学会編『鉄道史人物事典』
表題の通り、日本の鉄道の歴史上重要な役割を果たした人物について、その略伝をまとめた事典です。リンク先の日本経済評論社のサイトから引用すると、
創立20周年を記念して鉄道史学会が総力を挙げ編纂。国鉄のみならず私鉄や地方鉄道に関わった人物など580名を近年の研究動向も踏まえながら採録する。という一冊です。
この説明にもある通り、編纂に当たったのは鉄道史学会で、そもそも同学会の20周年記念事業として始められた事業でしたが、諸事情あって完成には時間がかかり、発売が学会結成30周年になってしまったという、なかなかに難産な一冊であります。その辺の経緯については、本事典作業の中心を担われた鈴木勇一郎さんが、「『鉄道史人物事典』の編集と刊行」と題して一筆ものされています。
鈴木さんも書かれている通り、このような日本鉄道史関係の人物事典としては、1972年(日本の鉄道開業百周年)に『鉄道先人録』という本が出ています。これはこれでなかなか重宝する本で、小生も持っていて使っていますが、国鉄関係中心で人物の取捨選択にやや?なところもあるほか、「先人を顕彰する」傾向が強いので評価が紋切り型に褒めるものになりやすいなど、多少の問題もあります。もっとも、可能な限りの人物の肖像写真を集めて掲載していたところはなかなか大したものですが。
というわけで、この『鉄道史人物事典』は、国鉄のみならず私鉄や地方で貢献した人々もなるべく載せるようにし、新たな研究で判明した事実を取り込むのはもちろん、出典となる資料も明示してより深めたい人の手がかりにもなるように編まれました。 この種の出版物としてはやむを得ないことですが、少々お値段は張るものの、全部で600人に近い人物を載せている情報量に鑑みて、ご関心のある向きは一つ宜しくお願い申し上げます。・・・まあ、このような本は個人で買うよりは図書館などに収められて活用されるようなものではあるでしょうが。ですのでもし今後どなたか、日本の鉄道史上の人物について調べたいと思われましたら、ネットで検索するよりも、まず本書を見るようにして下さい。
もちろん、事典という性格から、一つ一つの項目には分量的な限りがありますし、関係する資料も網羅的に掲載されているわけでもありません。ですが、現時点で通説的にその人物がどのように把握されているのか、という基準を明確にしたことには、研究史上大きな意義があろうかと思います。
事典ですから通読するようなものでもないでしょうが、ページを繰っていると例えば、地方の鉄道建設をした名望家のような、こんな人もいたんだという発見もあり、そのような楽しみはやはり、コンピュータのデータベースとは違った紙の事典ならではのものですね。
さて、個人的なことで恐縮ですが、小生も縁あって本事典の項目を何人か執筆しております(なので一冊貰いました)。本事典編纂の企画が持ち上がった頃は、小生は学部生で学会にも入っていませんでしたから、そんな若輩に話が回ってこようはずもなかったのですが、既に述べたように本事典の編纂に時間がかかり、またなかなか執筆者が決まらない項目も残されていたようで、小生にもお鉢が回ってきた次第です。微力ながら、限られた紙数になるべく必要なことを盛り込むよう努力したつもりですが、かえってくだくだしくなったようにも思え、今にして後悔の念がないではありません。
とはいえ、鉄道史の学術書に関して多大な実績のある、日本経済評論社から出た本の執筆者の中に、自分の名前が載っているのは、やはり正直嬉しいものです。なお本書は全部で60名の執筆者がおり、中には原田勝正先生のように、本書の発行を見ることなく亡くなられた大御所の方もおられます。「墨公委の書いた事典なんか信用できるか」と思われる向きもあるでしょうが、その辺はちゃんと校正・編集の手も入っておりますので、ご安心下さい。
ちなみに、この事典の項目執筆の際に見つけたことで、事典に盛り込むには細かすぎる話の中には、当ブログでネタに使ったものもあったりします。なので小生が書いた項目がどれか分かる方もおられるでしょうが、その辺はそっとしておいていただければ幸いです(笑)。
ともあれ、この事典が広く活用されることを、強く祈念しております。鉄道史にご関心のある方は、どこかで見かけた際、お手にとっていただければ幸いです。

こうして私の現金資産は減っていきます・・・
>「墨公委の書いた事典なんか信用できるか」と思われる向きもあるでしょうが、その辺はちゃんと校正・編集の手も入っておりますので
書籍というジャンルがなかなか滅びないのは、他者の校閲を経ているという一定の信頼性があるのが一因なのでしょう。
では、リアル鬼ごっこは?と聞かれると返答に窮しますが。

ご興味を持って下さったようで、大変嬉しく思います。
なかなかお値段の張るものですので、一度機会があれば現物をお見せできればと思います。
事典という性格からすれば、地域の図書館などに購入の要望を出していただければ、大変嬉しいです。
既存メディアを「マスゴミ」などとネットで罵る人の書いているものが、概して既存メディアより正確でも面白くもない、というのは良くあることですね。
で、山田悠介氏は今でも作家業をしておられるようですが、まあその・・・メディアの受け手もいろいろ、ということで・・・

お問い合わせの件ですが、この『鉄道史人物事典』には記事がないものの、『鉄道先人録』には二人とも項目があります(内藤は名前の表記が「彦介」になっています)。ただしそれほど詳しいものではなく、足助は没年も分かっていなかったようです。
二人とも工部省関係ということで国鉄重視の『先人録』に採録されたと思いますが、足助は東海道線の完成を待たずに官を辞したので、不明な点が多いのかもしれません。
工部省関係の人物でしたら、ご存知とは思いますが『工部省記録』という史料に記載があるものと思われます。また、東海道線建設については『新日本鉄道史』という本が詳しかったかと思います。
ちょっと検索して見たら、CiNiiに足助の名前でこのような論文が引っかかりました。
恒川清爾「明治期日本の土木事業を支えた技術者集団とその特徴 経歴と社会的地位からの分析」
http://ci.nii.ac.jp/naid/110006439651
近年は新聞記事のデータベース検索なども発達しておりますので、そういったのを当れば細かい事績が見つかることもあるのではないかと思います。
ご先祖の業績をお調べになられる一助となりましたら幸いです。

『鉄道先人録』も出会った喜び?が大きく、息子にも知らせました。論文検索なんて、全く気ずきませんでした。新聞のデータベースも同じくですが、学生に戻って、出会いの楽しみを期待します。
なにがしかお役に立てましたら幸いです。
鉄道史の研究は結構進んでいるようでいて、テクノクラートの実態にはまだ良く分からないことも多いと思います。
ご先祖の事跡が明らかになることは、広く研究上でも意義のあることと思いますので、よき出会いのありますことを祈念申し上げます。
なお、ご存知とは思いますが、中村尚文『日本鉄道業の形成』(日本経済評論社)が、内藤や足助のような初期の鉄道テクノクラートについての、もっとも重要な研究だと思います。
今手元の同書の索引を調べたら、足助と内藤のどちらについても、複数の箇所で触れているようでした。
もし見られていないのでしたら、ぜひお読みになられることをお勧めします。

図書館で貴本を拝読いたした者です。
(とはいえ、時間がありませんでしたので関係深い方の項目しか読めませんでしたが)
記念事業として着手なさってから出版されるまでの年月に、編纂にも何かとご苦労が絶えなかったであろうことが察せられます。
ところで、佐伯宗義氏の項目でどうも氏の没年に誤りがあるように思います。
念のため、参考文献として挙げられた二冊の他、関連会社の三十年史等も確認いたしましたが、実際より二年早い没年でご紹介になっておられます。
一地方人に焦点を当てていただき、喜んでいたのですが、この一点で非常に残念な気持ちになりました。
こうした場で申し上げるご無礼を、お許しいただければと存じます。
コメントありがとうございます。
事典をお手に取っていただき、嬉しく思います。佐伯は電気事業との因縁が深く、小生も注目している経営者です。
さて、ご指摘の点に関して、さっそく小生も手元の事典を調べてみましたが、「1979年没」となっていますね。しかしこれはご指摘の通り、1981(昭和56)年が正しいようです。
日付は合っているようなので、単純な誤植だろうとは思いますが、事典としての信頼性を大いに損なう事態で、大変残念でなりません。
編集の中心となった方には知己の方もおりますので、その筋に連絡して出版社・学会のサイトで告知するなど、何らかの対策をとるよう申し述べておきます。
一執筆者として、深く肝に銘じておきます。
重要なご指摘をいただきましたこと、重ね重ね御礼申し上げます。
https://tkk.alpen-route.co.jp/wp/wp-content/themes/tkk002/pdf/ir-h230729-1.pdf
富山地鉄・加越能・立山黒部貫光が連名で出している「故佐伯宗義三十年祭」のお知らせなので、佐伯の没年の間違っているはずがない。
それにしてもこの集まりでは、親族に各社役員勢揃いの上、労組にOB会も来た模様。三十年たってもこんなイベントが開かれる大物の没年を間違えては、事典の信頼性を疑われても致し方なし・・・。