鉄道記念日記念鉄道関係雑彙(備忘)

今年は10月14日の鉄道の日が折りよく祝日となり、全国的にこの三連休には鉄道関係のイベントが行われていたようです。しかし小生はあいにく、非常勤講師業を新たに始めて身辺多忙なところに加え、月曜日はハッピーマンデーのカレンダーどおりに休むと日数が減るから、ということで休日でも講義をするという大学の方針により、まったくそれらのイベントに出かけることはできませんでした。せめてはネット上ででも、少しは鉄道関係らしいことをメモしておこうと思います。
といっても、今夏から最近にかけてはスペインでの高速列車の事故、JR北海道の相次ぐ問題、リニア新幹線の駅決定や北陸新幹線の運行形態決定など、鉄道関係の重要問題がいくつもありましたが、あまりそこまで踏み込んだ話題を扱う余力もないので、小ネタ集というところで。
・小田急線の列車に雷が直撃した瞬間をとらえた映像(登戸) (Youtube)
今夏、相当に話題になった(と思われる)鉄道関係動画。天候が過激に暑かったり豪雨だったりということの多かった今夏、雷も結構あって、小生も帰宅したら電気機器が不穏な状況だった、という経験をしました。雷で電車が停まること自体は昔からしょっちゅうあったことですが、その瞬間が動画に収められたというのは珍しいことではないかと思います。電車よりも架線に落ちたようにも見え、また避雷器が火花を吹き上げているようです。雷対策は無論、年々強化されてきているとは思いますが、こういった資料が増えてさらに進めば、ネット社会も結構なものだと思います。
・【停電】京王線のイスが万能だったことが判明!!(togetter)
これも雷関係で、落雷で停電→運行不能に陥った京王線で、停まってしまった電車から乗客を避難させる際に、ロングシートを線路に降りる階段代わりに使ったというもの。訓練でやった似たようなことを、雑誌か何かで見たような覚えはありますが、実際に行われているのは初めて見ました。非常時の訓練なんて役立たずで終わるのが何よりですが、このような柔軟な対応も準備されているというのは結構なことです。
・幻の新幹線計画(弾丸列車構想)を追って(いそしず の ライナーノート)
これは小久保せまきさんのツイートで知ったもので、戦前の新幹線計画(俗に弾丸列車と呼ばれた)の遺構を阪神間から姫路にかけて調査したシリーズ記事です。記事の数が多いので、とりあえず最初の「西宮市に残る日本最古の「ねじりまんぽ」と謎の貨物線ー近代化への痕跡ー【序章】」にリンクを張りましたが、その先へも順番にリンクを辿って読んで行くことができます。
戦前に構想された新幹線計画は東京~下関間を結ぶもので、東京~大阪間ではかなり工事が進められましたが、戦争で計画は中断します。戦後、東海道新幹線を建設する際には、日本坂トンネルや新丹那トンネルなど弾丸列車の遺産が活用されますが、準備のあまり進んでいなかった大阪以西の用地は元の地主に返還され、山陽新幹線は戦前の構想と異なったルートで建設されました。
そんな未完に終わった、今ではルート案も良く分からない弾丸列車の大阪以西について、現地の丹念な調査と文献資料とのつき合わせ、地図の仔細な検討と技術的な推論によって、その姿を明らかにした力作です。さまざまな手法で集めたデータを集成して結論を導く過程には、感嘆のほかありません。地図の使い方には特に感銘を受けました。何らかの形で公刊されれば・・・と願ってやみませんし、それだけの価値ある研究と思います。
・表定速度(JR編) / (私鉄編) / (地下鉄その他編) / (新幹線特急編) / (直通編)
鉄道の速度記録、というと、どうしても高速鉄道のようなその時代最速のものに注目が集まりがちで、各駅停車のたぐいは見過ごされがちです。ですが、特に電車化の効果や電車の性能向上というのは、日常多くの人が使う普通電車にむしろ強く現れるもので、社会に与える影響も地味ながら重要であろうと思います。路面電車の地下化による代替は分かりやすい例ですが、細かい積み重ねが通勤通学圏を着実に拡大して行ったのです。
・遠足として120キロ歩く(デイリーポータルZ)
東京から日光まで、約120キロを歩いて文字通りの遠足に行こうとしたけれど、・・・というネタ。毎度のデイリーポータルながらも、「公共交通機関こそが正義なのである。」という力強い結論に打たれ、ここに載せた次第。
・【閲覧注意】山手線 秋葉原駅で人身事故 粉々のフロントガラスに何かが写っていると話題
鉄道事故関係。「閲覧注意」といっても、上の写真は前面ガラスがひび割れているだけで、それほど「注意」な画像ではありません。そのガラスに人らしき姿が写っている、といいますが、駅広告の映りこみというのはちょっと観察すれば分かります。むしろ下の話の方が、半月の間に田舎と上京先とで事故に出会う、という運の悪いことおびただしい話です。まあそれも2ちゃんねるとあらば釣りかもしれませんが、別段反響コメントが釣れて楽しい、というようなネタでもないように思われます。
小生自身の経験では十数年前のこと、用事で所沢に行ったところ、初めて行ったもので集合場所と東西の出口を間違えて出てしまい、反対側に行くため踏切を渡ろうとしました。その時ちょうど電車が踏切を通りかかったのですが、西武の新101系電車の助士側(車内から見て右側)の前面ガラスが大きく破れ、あまつさえ、その破口の周囲に鮮血がべったりついているというのを目撃してしまいました。その後に聞いた噂では、「跨線橋から老婆が飛び降りて激突した」とのことでしたが、裏づけは取っていません。
なお、踏切事故に関しては最近、世間の耳目を集めた事故がありましたが、それについては近日中に別稿を起こしたいと思います。
・図々しい撮り鉄(Hagex-day. info)
Hagex 先生のところからもうひとつ。今年は鉄道会社が沿線に植えた桜の木が切られ、それが所謂「撮り鉄」の仕業かどうかで騒動になるという事件もあり、「撮る鉄」という言葉もあまりよろしくない理由で定着した感があります。小生はあまりまっとうな「鉄道写真」を撮らないもので、「撮り鉄」の考えることは良く分かりませんが、そういって切って捨てるのではなく、鉄道趣味自体が趣味者と関係なく動いているシステムを眺めて楽しむものであり、現に動かしている人々や利用している人々、それに沿線の人々にも要らぬ影響を及ぼさないようにする、ということは心がけるべきと思います。
・乗客ら40人電車押す ホームと車両に挟まれた女性救出(msn産経ニュース)
殺伐としたトピック続きなので、ひとつくらいはよさげな話を。ちょっと前の話ですが、電車とホームの間に転落した人を、乗客が協力して車体を傾け救出したというもの。昔のように重い車体で、かつバネ(記事には「エアサスペンション」とありますが、鉄道では「空気バネ」という方が普通だと思います)も硬かったならば、もっと大変だったのかななどとも思いますが、まずは大事に至らず幸いでした。鉄道員と乗客の殺伐としたトラブルもまま報じられる中、ここでは協力もその場でできたようですし。
ただ、やはり駆け込み乗車・降車の際にこういった事故は起こりやすいですし、それが死亡事故に至ることも珍しくありません。ホームを車両増結に合わせ無理やり延伸したりした結果、カーブにかかるなどして隙間が開いている駅も数多くあります。やはり、ホームドアをなるべく普及させていくしかないですね。
最近、記事の更新が思うに任せないのは、先に放出本の話を書いたように、家のほうで大整理を余儀なくされているという事情もあります。で、本記事冒頭の写真は、その際、十数年ぶり?に押入れから発掘された鉄道模型です。走るのか試験走行してみたらみな無事でほっとしました。冒頭のはKATOの京急600形で、古い製品なので白帯の塗り分けが現在の実車と異なっています。

今後はもうちょっと日の目を見せる、余裕はなさそうですが・・・。
さて、14日時点では以上で記述を終わるつもりだったのですが、その後トップ画像以外のトピックを張る精神的な余裕がなく、だらだら日を送っているうちに出会った話題を、いくつか添えておこうと思います。
・特集ワイド:認知症事故と損害賠償 介護現場に衝撃の判決(毎日新聞)
認知症で常に家族の介護を受けていた老人が、家族が目を離した隙に自宅から徘徊、駅に迷い込んで電車にはねられ死んでしまった、という事故が名古屋でありました。ところがその遺族に対し、JR東海が老人に責任能力があったとして損害賠償を請求し、裁判に訴えます。裁判所の判断は、老人の責任能力は認めなかったものの、遺族の監督責任を指摘して賠償を命じた、というものです。
むろん、事態に仔細はあるのでしょうが、本件におけるJR東海の判断については強い疑問を感じます。というのも、老人が事故死した経緯が明確でなく、場合によってはむしろJR東海の責任すら考えられるからです。老人は、事故死した共和駅の隣の大府駅の改札をすり抜けて電車に乗り、共和駅で降りてさらに線路へ降りたものとみられているそうで(これは被告側の主張ですが、JRの反論は記されていません)、だとすればそもそも、徘徊している「ボケ老人」に突破される「改札」とは何ぞや、という疑問が湧いてきます。
大府駅は東海道線の名古屋郊外で、武豊線の分岐駅でもあり、それなりの規模の駅(一日平均1万2千人以上が乗車)ですが、リンク先の記事によると通常、駅員は一人しか配置していないようです。自動改札で無札入場を完全にせき止められればそれでもいいでしょうが、それができていなかったとなると、責任はむしろJR自体にあるとも考えられるでしょう。冷酷な話ですが、ごくたまに事故が起こって数百万円の損害があっても、各駅に何千万円もかけて駅員を置いたり改札を厳重にしたり、さらにはホームドアをつけるよりは安上がり、という判断はあるかも知れません。しかしそれなら、損害は甘受すべきでしょう。列車に対する悪質ないたずらに対し、一罰百戒として強硬な対処をする、というのも実例はありますが、本件がそれに該当するとも思われません。
以上の諸点から、小生はJR東海の姿勢に強い疑問を持ちますが、さらに言えばもしかすると、この様な判例は長期的に、鉄道会社にも不利益をもたらしかねないと考えるからこその疑問でもあるのです。この老人の介護について、家族の具体的な諸相までは記事では読み取れませんが、これまでそれなりにやっていて、大きな問題もなかったのが、わずかな過失から事故に至ったのだとすれば、介護をする家族は「完璧」でなければならない、というあまりに重い責任を負わされることになります。
これがこの新聞記事の指摘する問題ですが、このような「完璧にやっていれば事故は起こらなかった」という理屈はしばしば、鉄道をはじめとするインフラなどでの事故についても降りかかってきます。この理屈は、直接的な関係者の過失を糾弾するばかりで、事故の背景を探り原因を究明、その再発を防ぐ方向には向かわない(下手をすれば妨害さえする)という問題をはらんでいることは、このような事故についての研究が等しく指摘しているところです。つまり、JR東海にとってこれは、自爆行為につながる可能性さえあるのではないでしょうか。
そしてその背景として、わずかな人間の失敗――誰しもやってしまう可能性のあるような――さえ許さないという風潮が最近とみに顕在化しているのではないか、ネットの「炎上」騒動に見られるように、となると話が拡散しすぎて床屋政談になるので、この辺でやめておきますけれど、人は失敗するもの、事故は起こるさ、ということは念頭に置いておいても悪いことではないと思います。
・世界上位100駅の乗降人員ランキングをまとめてみた(哲学ニュース)
坂東α氏のツイートで知ったまとめサイト記事。データは全部ネットで集まるもののようで、おそらくは海外分に相当の漏れがあるのではないかと思われますが、それにしてもよく調べたもんだと感心させられます。ただ、坂東α氏も指摘(これとこれ)するように、日本の乗降人員のデータは乗換客の分だけ多く計上されていることになるはずで、その駅の周りに出かけた人はもとより、駅を通過した総人員としても多すぎて見えるのではないかと思います。まあ、最近はICカードが普及して、ビッグデータの活用云々という話題も出ていますし、今後はより正確な数値が分かるようになるでしょう。それでもなお、上位はやはり日本の駅が多いでしょうが・・・駅の乗降人員の統計がけっこうあるということ自体、日本の鉄道利用者の多さを示しているといえるかも知れません。
・非常識では(平松邦夫の思いつくまま)
前大阪市長による、現大阪市政が掲げる市営地下鉄の民営化・値下げの問題点の検討。民営化・値下げがいわば「絶対的な善」のように語られてしまう危うさを指摘しています。民営化を正当化するのは経営の合理化ですが、一方で経営的に無茶な値下げを推し進めようとしているその矛盾。
そもそも、赤字が解消して値下げもできる、なんてうまい話があるという方が疑ってかかるべきで、それを「悪いやつら」を排除すればできるのだ、と煽る現・大阪市長一派のやり口は毎度のこととはいえ、こうやって片端から焼き討ちをかけて回っていては、あとには焼け野原しか残らないでしょう。なぜ、そんな煽りが支持を受けてしまうのか、その辺はもっと突っ込んで考えなければなりませんが・・・。
・ロンドンの甃 鉄道発祥国の苦悩(MSN産経ニュース)
イギリスで「在英日本大使館主催の「日英鉄道協力セミナー」が開かれた」という話。この記事では「鉄道先進国の英国は、わずか1世紀半で後発の日本に逆転された」と書いてますが、「わずか」というには結構時間がかかったようにも思われます(英国の鉄道発祥と日本への伝来のタイムラグは半世紀なので、どう評価するか難しいところですが)。さらに考えてみれば、蒸気機関車の技術では日本はまったくイギリスに追いつくレベルに達せなかったというのが、近年では通説となっていると思いますが、一方で電車については英国もかなり早くから資本・技術の両面でアメリカへの依存傾向があったとの指摘もあり、その辺考え出すと面白いもので、単に「苦悩する英国」と「追い越した日本」でまとめるにはもったいない話です。
それはともかく、この記事を見た際、小生は以前、新幹線に深くかかわった鉄道技術者・齋藤雅男氏が以前、さる学会の席で仰ったことばを想起せずにはいられませんでした。
・この前電車でめっちゃ可愛い鉄道マニアに会った(twitter)
重苦しい話題が多くなってしまったので、最後ぐらいは爽やかに。元のツイートはこちら。
・・・でも、この年齢だから可愛いけど、その後何年経ってもこのまま、という人がままいる、発達障害と鉄道趣味の関連性というのは研究に値する課題と思っているのですが、どうやって研究したらいいのか皆目見当がつきません。
他にも、ブルートレイン全廃決定、社長が心労で?倒れて入院しているらしいJR北海道の状況など、注目するべき話柄は鉄道関係だけでも少なくないのですが、思いついたことすべてに言及しようとしてもとても手の回らない状況なので、自分の扱える話題を扱える程度に、なるべく他の人がやっていなさそうなことを中心に、今後ともやっていければと思います。

人間が起こすであろう僅かな失敗(言い換えれば損失または無駄)を許容することなく徹底的に排除したもののみが勝者たりうる、という雰囲気があるように思えます。
また、設備投資の数千万と事故発生時の数百万の損害のいずれも拒否している点ですが、原因の一部が乗客の意識にあるのかも知れません。安全対策の費用は巡り巡って乗客の運賃で負担することになります。事故の損害も振替輸送はともかく、遅れの時間は乗客持ちです。となれば、今回のような介護家族への責任許容は乗客の「正確で安全な鉄道に安く乗る権利」を僅かながらも損なうことになります。それに対する反発の可能性はあるでしょう。
まとめサイト「痛いニュース」等でもこの判決が痛いニュース扱いされないところを見ると、ネット民という極地的な部分ではありますが、この判決を当然視している原因の一端ではないかと思われます。

ネット民に限らず、一般でもこの判決は不当であるという論がほとんど見られないので、ネット上の特殊事情とも断言は難しいですね。
税金の使い道ですが、昔は「俺の為に税金を使え」でしたが、今は「俺の為"だけ"に税金を使え」に変質しているように感じます。その延長にこの件があるようにも思われますが。
大阪市営地下鉄の民営化では、橋下氏の発想云々もさることながら、公=「超」非効率、民=効率的という幻想が一般市民に根強いからではないでしょうか?値下げと赤字解消の相反する二兎を追うことが可能なほど公には無駄が多いんだ、という思いが橋下氏の提案を魅力的と感じさせているように思えます。
直接的に自分の「利益」にならないことでも、広い目で見ればよいこと、というのは多いのですが、複雑かつ多様化した現下の世界で、その「広い目」を得ることが難しくなっているのか、得ることに疲れてしまっているのか、小生も考えを巡らせています。
で、これは邪推かと思って記事には書きづらかったのですが、JR東海という会社もまたそういった、お言葉を借りれば「乾いた雑巾を絞る」傾向のある会社なのではないか、という気がどうもします。
まあ、こんなネタにされていることもありますし・・・?
http://kitimonogatari.com/archives/35755248.html
今回の判決に関しては、メディアが問題視して記事にした、という点だけが前向きに考えられる材料でしょうか。