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筆不精者の雑彙

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天ぷら革命いまだ成らず~神保町「天ぷら革命 ふじ好」の終焉(後篇)

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前身の「いもや」そのままであろう「天ぷら革命 ふじ好」の店内の様子
(2012年10月撮影)

 本記事は「天ぷら革命いまだ成らず~神保町「天ぷら革命 ふじ好」の終焉(前篇)」の続きです。ブログの仕様で、リンクや画像を多用したところ一つの記事の長さの上限に達してしまったので、分割せざるを得ませんでした。



 で、先の記事の末尾で触れたように、2ちゃんねるを嫌っていた藤本氏ですが、ブログで店の宣伝をしているように、ネットの力は認めているようです(だからこそ2ちゃんねるが許せないのでしょう)。なので、藤本氏は元マクドナルドの人脈を生かしてなのか、オープンした店のネット上での宣伝には相当熱心でした。かくてネットメディアで取り上げられた「ふじ好」を、以下に記録しておきます。なお、これらは分かる範囲で発表順に並べたつもりです。

未来常識の創造!こんな天ぷら見たことない!!!(ビジョナリー飲食企業100 経営者通信web)※魚拓
世界第1号!天ぷら革命『ふじ好』に注目!こんな天ぷら見たことない!という、未だかつてないスタイルと味で勝負する新しい天ぷら屋が神保町に登場!(フードスタジアム)※魚拓
ネタ、量、価格すべてが革命的な天ぷらの世界1号店!(グルメぴあ ニューオープン・レビュー)※魚拓
揚げ物の業態革命、着実に進行中(繁盛店の扉web)※魚拓
マクドナルド社長の懐刀が起業“肉天ぷら”で世界進出を狙う!(日経レストラン)※魚拓
上半期アクセスランキング2位の「天ぷら革命 ふじ好」(ふじごのみ)が6月27日、宇宙2号店となる「天ぷら革命 ふじ好 新宿御苑前店」をオープン! (フードスタジアム)※魚拓
「こんな天ぷら屋、見たことない! 」--奇想天外メニューで話題の「ふじ好」(1)(マイナビニュース)※魚拓
同上(2)魚拓

 こうしてみると結構紹介されているもので、藤本氏の宣伝への努力は相当のものがあったのでしょう。ただそれも、新宿御苑店が開店したしばらくあとの2011年9月ごろまでで終わっているようで、その辺で息切れしてしまっているようです。
 率直なところ、これらの記事の「提灯持ち」ぶりは現在から読むと微妙な感情を呼び起こしてしまいますが、しかし言葉の装飾を剥ぎ取って起こっている事象を読み取れば、なかなかの資料になります。「フードスタジアム」の二度にわたる記事を読み比べると、開店当初は1500円の定食を中心に据え、丼ものの存在については一言も触れられていません。それが開店半年あまりの二度目の記事になると、「ランチの丼」がメインであると書かれています。方針が迷走していたことは確かでしょう(2ちゃんねるの方は微に入り細を穿って迷走ぶりをレポートしています)。
 2ちゃんねるの「ふじ好」最新スレッドでも指摘されていますが、当初の「ふじ好」は「博多天ぷら」という、一品づつ揚げて提供していく定食スタイルを東京でも導入しようとしたようです。それにはカウンター形式の「いもや」の居抜きは渡りに船だったでしょう。ところが前身の「天ぷら いもや」の定食が600円だったところに1500円だったのが響いたのか、これがうまくいかなかったようです。そこで、ふじ好は丼もの中心にシフトし、また「バウムクーヘンの天ぷら」を投入してみたようですが、そうなるとカウンターのみの店では女性客がくつろぐようなスタイルには向かず、結局丼の安売り路線になってしまって、さらにそこへ神田天丼家が引っ越してきて・・・。
 お店のコンセプトが迷走していては、成功が望めないのもむべなるかなです。

 行ってみた際の印象では、店の内装について、コンセプトの迷走を強く感じました。というのも、藤本氏は当初「ふじ好」を2年で10店舗展開させる計画を語っており、2013年度からは新卒採用の構想だったようで、チェーン展開を強く意識しておられたのは明らかです。そうであるならば、当然コーポレート・アイデンティティーにはもっと力を注いでしかるべきではなかったかと思うのです。黄色の“m”のロゴだけでハンバーガーを思い浮かべるように、CIはチェーン店にとってきわめて大事なことです。にもかかわらず、「ふじ好」神保町店の内装は「いもや」の居抜きのままでした。これが個人経営店であれば、なつかし昭和的な簡素さも、余計なコストをかけない真摯さと好意的に取ってもらえますが、チェーン店の創業としては疑問です。
 2号店はその点、それなりに内外装に凝っていたようですが、2ちゃんねる住民からは中華料理屋みたいと酷評され「ふじパオ」という新たなあだ名まで付けられてしまいました。まあ2ちゃん住民は、すでに「ふじ好」に敵意を抱いていましたから、その評価は何割引かすべきにしても、最初からデザインはちゃんとやるべきではなかったのかとの疑問はぬぐえません。2号店の資金は1号店の稼ぎで得たものとは考えにくいので、尚更です。藤本氏の述べる経営構想自体、チェーン展開して意味があることと思われますので、まずはチェーンのお店らしい「形から入る」ことも重要だったのではないかと思います。小奇麗な看板や外装、入りやすいしつらえ、明るい店内、そういった形があってこそチェーン店なのです。
 残念ながら、「ふじ好」神保町店は、そのいずれも満たしていませんでした。形からでは、ほんとに企業的なチェーンにする気があるのか疑わざるを得ませんでした。

 天ぷら関係の類似のチェーンとすれば、なんといっても、「ふじ好」の斜め向かいにもある「てんや」を挙げなければなりません。小生はふと思ったのですが、ハンバーガーや立ち食いそば、牛丼や海鮮丼のチェーンは複数あるのに、天丼屋のそれは「てんや」以外思いつきません。ぐぐって調べてみましたが、全国展開しているチェーンはテンコーポレーションのみのようです。そういえば「天丼あきば」という店を北千住で見かけたなあと思って検索したら、なんと今は新橋と溝の口にしかないようです。このチェーン(2店だけど)は、カツ丼チェーンの「かつや」の系列のようで、事業の発展として揚げ物+丼と似ている天丼に進出するのは分かります。ただ、「かつや」は百店舗以上展開しているのに、この様子を見ているとあまり拡張できずに苦戦しているようで、カツ丼で成功しても天丼は話が違うようです。
 そこで考えてみると、唯一の天丼チェーンを成功させているテンコーポレーションこそ、実は「天丼革命」を実現してるんじゃないかという気もします(これも「ふじ好」スレのどこかで指摘がありましたが、今見つけ出せていません)。同社の秘訣は「コンベア式フライヤーを採用し、油温管理および揚げ作業経験などの有無にかかわらず均質かつ迅速な供食と、人件費低減を成し得ている」ことにあるそうですが、それを開発するには相当の資金と技術力が必要だったでしょう。
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実は本家「天丼革命」?かもしれない「てんや」の天丼

 で、上掲ウィキペディアや会社のサイトなどを見てみるに、テンコーポレーションは丸紅のグループ企業として発足し、当初から資本金1億円で事業を始めているようです。なるほど、有力企業のバックのもと、大規模な資本を最初から投入することで、成功したわけですね。・・・成功譚としてはつまんないけど、資本主義経済においてはまったくの正攻法です。対するに、藤本氏の会社・株式会社TFJの資本金は555万円。・・・資本金額、もしかしてネタで決めたんじゃないですよね? 555万円では、「2年で10店舗」という目標にはちと少ない気もします。
 小生はいささか経営史をかじっていますが、そこで思うに、経営者のもっとも重大であろう仕事とは「資金調達」ではないでしょうか。もちろん、料理人=経営者=資本家の、要するに自営業であればそれほど重大ではないですが、大規模なチェーン展開を考えるならば、トップの任務はまずその展開に必要な資本の調達でしょう。藤本氏は、ソフトバンクの孫正義氏が後継者を育てるとしてやっている「ソフトバンクアカデミア」に社外から応募して、300倍の倍率を乗り越えて見事一期生に選ばれた魚拓)そうで、それはすごいことだと思いますが、そこで孫社長に何億か貸してはもらえなかったんでしょうか・・・。

 追記:「てんや」創業者とマクドナルドの関係についてはこちらの記事を参照→
 と、ここまで藤本氏の経営手腕について批判的な見解を述べてきましたが、一方で氏を高く評価する声もあるわけで、まあ先にあげた飲食店宣伝系のネット記事は提灯持ちとしても、他にも氏に関する以下のようなネット記事を、小生は見つけました。以下に、いくつかに分けて紹介していきます。

講師陣データベース 藤本孝博(株式会社ブレーン)※魚拓
フードビジネス 日本の食文化を世界へ発信 元マクドナルド東京メトロ本部長が語る未来常識の創造!(セミナーDVD市場)※魚拓

 企業の研修セミナー用教材に藤本氏が登場しています。リンク先にはサンプル動画もありますので、ご関心のある方はどうぞ。自信あふれる藤本氏の語り口調は、こういった研修には確かに向いているように思われます。ただ、「藤本JOHNNY孝博」の名乗りは、さすがにどうかと・・・。
 で、こういった研修とか講演関係で、藤本氏をしばしば取り上げていたのが、同じくマクドナルド出身で、『人生で大切なことはみんなマクドナルドで教わった』なる本を出版した、経営コンサルタントというか講演家?の、 鴨頭嘉人氏です。鴨頭氏はマクドナルド時代、藤本氏の部下だったそうで、両者がマクドナルドを離れた後も親密な交流があるもののようです。氏のブログで、藤本氏について触れているものを挙げておきましょう。

テレビ出演しますっ!!録画してねっ♪ ※アメーバにある旧ブログらしい 魚拓
人生のボス 藤本孝博さんからの応援メッセージ ※魚拓
人生のボス 藤本 JOHNNY 孝博(ふじもと ジョニー たかひろ) ※魚拓
成果を出し続ける店長が決して忘れてはいけないたった1つのこと~前偏~ ※魚拓
※後編は確認できず。「偏」は原文ママ。
 さらに、こんな動画も見つかりました。


 この動画は、「ふじ好」が新宿に出した2号店を閉店する時のもののようです。視聴すると、閉店という事業の失敗を「前進」と言いくるめる鴨頭氏の見事な講演は、大本営も欲しがるに違いない人材であることを痛感させられ、なるほど氏が講演者として人気があることも理解できます。この動画をyoutubeで見ると、関連動画で鴨頭氏の講演がいろいろ出てきますが、見事なまでの自己啓発のオンパレードですね。このような記事に感動している方もおられるようです。
 で、藤本氏もこういった自己啓発的なものが好きそうなのは本記事の前篇で書いたとおりで、実際藤本氏も「Lifetime」なるセミナーのようなことを「ふじ好」でやっていたようです(ネット上で見つかるLifetimeの案内を紹介しておきます:Vol.1 / Vol.3 / Vol.4 / Vol.5 / Vol.6 また「ふじ好」での交流会参加された方のブログ魚拓]も)。それなりに回数を重ねていたようで、藤本氏には根強いファンがおられることは確かです。
 そして、マクドナルド時代の藤本氏の功績はやはり相当のものだったようで、今年2月には『東洋経済』がマクドナルドの不振についての記事の中で、藤本氏を取材しています。

原田泳幸の懐刀は希代のマックバカ OB・藤本孝博に聞く(上)
マックバカの大御所、現役クルーに”喝” OB・藤本孝博に聞く(下)

 天下の東洋経済にしちゃチト品のないタイトルじゃない? という気もしますが、しかし読んでみると藤本氏から相当の話を引き出しています。特に、ネット上の誹謗中傷について「孫さんほど有名人ではないですが、某大手掲示板には藤本さんのスレッドもあります」と、聞きづらいこともズバリ斬り込んでいるのは面白いですね。まあ、雑誌の人が取材前に、藤本氏の名前でググってみたんでしょうが・・・。

 また、「ふじ好」開店当初に訪れた酒屋さんのブログ魚拓)や、上掲東洋経済の記事を読んでの感想のブログ魚拓)なども見つかりました。

 で、このように藤本氏を支持・評価する声も一定あるのは事実です。高い競争率を勝ち抜いて「ソフトバンクアカデミア」に選ばれたのも事実です。2ちゃんねる住民の批判にヤッカミのようなことがまったくない、なんてはずもないでしょう。しかし「ふじ好」が無残な失敗に終わったこともまた明白な事実です。これらを整合的に理解する上で、この『東洋経済』の記事が、小生が読んだ中ではもっとも手がかりになりました。
 『東洋経済』インタビューで語られる藤本氏の経歴を注意して読むと、いろいろ興味深いことが分かります。マクドナルドは入社するとまず、現場のお店に配属されるそうですが、その段階では、氏はむしろ出世の遅い方だったそうです。やっと店長になってから頭角を現し、複数店舗を統括するオペレーションコンサルタント(OC)として、大いに活躍されたようです。そして九州地区の営業部長としてさらに活躍されるのですが、その経歴はマックの中でも変わったもののようで、藤本氏自身「当時はOCからその上の役職であるOMになるには、BCというフランチャイズのコンサルタントか、ハンバーガー大学のプロフェッサー、マーケティングか人事部にいかないとOMになれないというパターンが続いていました。僕はずっとOCしかやってこなかった」と語っておられます。
 マクドナルドの業務の中心はもちろん個々のお店にあるでしょうけれど、それ以外にもメニューを考えるとか、食材を仕入れるとか、いろいろ大事な仕事はあるでしょう。トップマネジメントに関わるならば、店舗管理以外にもマーケティングや人事などいろいろな仕事を経験させる、というのは、まず妥当な方針と思えます。その点、藤本氏の経歴は確かにちょっと変わっているといえそうです。それだけ、氏がその分野に特異なまでの才をお持ちなのだろうと思います。東京の店舗管理の話などは、利用者としてもなるほど、と思わされるところがあります。あんだけ混んでても儲かってなかったのか・・・!

 なんですが、ここで藤本氏が得意な仕事が店舗管理にあるということが、「ふじ好」について2ちゃんねる住民を怒り呆れさせた理由でもあろうかと思います。
 つまり、藤本氏はお客に対応するよりも、会社内部のクルー(店員)に働きかけて彼らをうまく動かすことで、キャリアを形成して来た方なのです。なので、藤本氏の言葉や行動は、同じ集団に属して同じ目標を共有している(ように思わせられた)、鴨頭氏のような人には良く届いても、外部の顧客には必ずしも届くものではないのです。なので、外部の人間には藤本氏ががんばればがんばるほど、その発言や行動が頓珍漢なものに見えてしまうのではないかと考えます。
 言い換えれば、藤本氏の仕事はハンバーガーを売っていたのではなく、巨大な組織の内部をしっかり固める対内宣伝にあったのでしょう。でもそれは「対内」なので、対外には通じなかったのです。

 「ふじ好」が潰れた後の2ちゃんねるの「天ぷら革命 ふじ好」スレッド(通算27スレ目)では、スレ立てをした最初に「かくして神保町スレから隔離されたこのスレで、反革命名無し戦士たちの的確無比かつ容赦ない批評と、それを人間力で封殺しようとする革命派との戦いが繰り広げられた」と書いていますが、この「人間力」という奴が手がかりになります。小生はこの、曖昧模糊として何を意味するのか定義があやふやなくせに濫用され、他人を説教するときに振りかざされる言葉が大嫌いで、言論空間から駆逐したいと思っているのですが、しかし(だからこそ)ここでキーワードとして扱うのには具合が良いように思われるのです。
 2ちゃんねらーがここで「人間力」を引っ張り出したのは、藤本氏の書き込みとされている「私の人間力を味わいに来ると思えば付加価値大ですよ!!」のインパクトによるものでしょう。藤本氏のブログを調べると、意外と「人間力」という言葉は使われていないので(例えばこの記事とかぐらい)、これが氏の書き込みかは疑問の余地なしとしませんが、しかし「人間力」なるワードはこういう文脈で使われやすいものなのも確かだと思います。
 で、つまりこの藤本氏らしい?書き込みがいみじくも書いているように、藤本氏のキャリアからすれば、天ぷらなんか売るべきではなかったのです。氏が売るべきは、まさしく「人間力」だったのでしょう。しかるに氏はうっかり、「天ぷら」という実体的な財を売ってしまいました。それは外部の「てんや」「いもや」「神田天丼家」などと比較されてしまって、低く評価されてしまい、藤本氏の意気込みと異なって「ふじ好」の低調を招いたのでしょう。

 ここから、「人間力」ということばをキーワードに、締めくくりに入っていこうと思うのですが、またもやブログの一記事の上限に達してしまったので、ここでまたいったん切って、続きの記事に回します。だらだら長くてすみません。後篇に回します。


Commented at 2013-12-07 11:07 x
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by bokukoui | 2013-11-29 23:59 | 食物 | Comments(1)