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筆不精者の雑彙

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メイド徒然話~スパゲティ理論本論(2)

 昨日の続き物ですが一体いつになったら終わるんだこの話。書いてる方もいい加減草臥れてきただけあって、読者の方はさだめしもっと呆れておられるのでしょう、このブログの来訪者は先週から急激に減少中です(笑)。この分で行くと今月中にゼロになります。それもまたよし。

 さて、前項で「フレンチ系もクラシック系も、もとを辿れば同じ穴の狢、コインの裏返しに過ぎないのではないか」などと書きましたが(造語の意味は前項参照)、その理由を以下に述べます。

 小生が読売新聞ブログやワンダーパーラーの経営理念などから感じた違和感、或いは『エマ』を持ち上げる一部の声に感じた違和感は、自分たちの趣味をいわば高尚なものと思い、いわゆる「メイド」喫茶を批判する論調でした(もちろん、ブームに乗った安易な「メイド」喫茶が多いことは事実ですが、ブームに乗ったいい加減な〔短期的利益のみ最大化する〕経営の存在自体はあらゆる業種に見られることであります)。一例として、小生が「クラシック系」の命名を思いついたミクシーの「クラシックメイド好き集まれ!」コミュニティの意見に、しばしばこのような論調を目にすることができます。
 同コミュニティでのこのような「メイド」喫茶批判に対し、ちゃんと「ヴィクトリア朝のメイド」と「メイド喫茶」は別物と割り切って楽しめばいいではないか、とまことに穏当で紳士的にとりなす方もおられるのですが、それがかの「制服学部メイドさん学科」の人だったり(でも誰もそのことを指摘していない)、「電脳メイドしづ子20GB」の中の人だったりするのが、やはりなすべき人はなすべきことをしているのだなという感慨を小生に齎すのでした。

 ともあれ、これらの至極穏健でまっとうな議論でも、「メイド」喫茶とクラシックな「メイド」趣味は区別されることが前提になっているようで、もちろんそれは当然のことなのですが、一歩引いてみると案外両者は同じ起点から生じたのではないかと小生は思うのです。
 上掲コミュニティなどから読み取れるように、クラシック系の「メイド」趣味の方々は、主従関係であるとか信頼関係であるとか、そういったものを称揚する方が多いように思われます。しかし、19世紀の後半にもなりますと、中産階級や労働者階級の地位が向上する中でそのような主従関係は次第に崩壊してゆくわけで(それ以前にそもそもそんなものが存在したのかどうかということ自体検討せらるるべきですが)、そんな時代にどう対応してゆくのか、そこでいくつかの方法が考えられます。
 一つは「主従関係のあるべき姿」を想像してそれに傾倒する、というものです。こういった思いで描かれた作品の世界観に憧れる系譜が、現在の「メイド」趣味におけるクラシック系に繋がることは自明でしょう。実際の主従関係はそのような美しいものでなく、雇う側も雇われる側も精神的に面倒なことが多くあったということ、上流階級の場合そのようなゴタゴタは執事や女中頭が労務管理を行うことで避けられたにしても、その場合主人一家と使用人との直接的交流は殆どないのですから、やはりクラシック派の方々が憧れる麗しい主従関係は一般論としてはユートピアの産物と言わねばならないでしょう。
 もう一つは、崩壊していく主従関係をパロディ化することで、現実と異なる夢の世界に遊ぶというものです。フレンチ系はこちらに属すると考えられます。というのも、「フレンチメイド」という言葉の発祥は、バーレスクという諷刺喜劇(古典をパロディにしたりする)にあるそうで、1880年代(ヴィクトリア時代末期であることに注意)に確立されたバーレスクの衣裳というのは、露出度の高いえっちなものであったといいます。流石に当時は全部脱いじゃうと捕まるので、ミニマルな衣裳であったようです。しかし、バーレスクは1930年代になるとただのストリップに堕してしまったとか。
 が、一方で1930年代になると、ラバーやらレザーやらの加工技術の進歩を受けて現代的なボンデージ衣裳が登場し、SM文化が開花するに至ります。鞭打ち趣味はそれ以前から(諸説あるようですがヴィクトリア時代に行われていたのは確実)売春宿などで行われており、これらが融合してご主人様(女王様)―奴隷(メイド)のプレイスタイルが形成されてきたのでしょうね。

 まとめると、一見異なっているように見えるクラシック系「メイド」趣味もフレンチ系「メイド」趣味も、その源流を辿れば、19世紀の変化する社会に揉まれた人心が安らぎを求めて創り出した幻想世界にあったという点で共通ではないか、ということです。
 猛烈に乱暴な比喩を使えば、森薫『エマ』2巻に人攫いに攫われた少女時代のエマが、人攫いから逃走するエピソードがあります。脱走に成功したら使用人になって、失敗したらフレンチメイドになっただけだ、ということかもしれません。

 やっとこの議論も先が見えてきました。しかしまだ肝心の「スパゲティ」の意味を説明しておりませんね。もう一日だけ、お付き合いください。
Commented by パイプ吸い at 2006-06-06 21:35 x
もとを辿れば...という話で,僕はてっきり『殻の中の小鳥』の話かと思いました.
メイド=調教はもちろんですが,そもそもファンにウケたのはメイド達の悲運と,彼女達との恋路でした.舞台は華やかなりし大英帝国ですし,小鳥のコスプレもそれなりにされたそうです.
さすがにメイド喫茶のもととなりそうな要素はなかったと思いますが....まぁ,当時のメイド者の中に割り合いと制服道の人々がいたという点を捉えれば,素地があったとは言えます.
Commented by 酒井 at 2006-06-06 23:02 x
面白いのでぜひ最後まで書いてください。
Commented by 労働収容所 at 2006-06-07 01:03 x
ほお。主従の麗しき交流に対する憧憬なるものがmixi付近では語られているのですか。それはそれは両方の意味で初耳です。

まだ話が完結していないようなのでどうでも良い話を。
吾らがニーチェ同志は「売春宿に行くなら鞭を忘れるな!」という素晴らしい教えを説かれたそうです。

そして売春宿→梅毒→発狂というスタイルと、売春宿→ヤク漬→戦闘神経症という2つのスタイルを妄想しました。
前者をクラシック・ニーチェ・スタイルと名付け、これを後者の「ニーチェ喫茶」と区別されねばならないという派閥抗争を妄想しました。そして前者は後者を必ず「まず戦闘神経症ありきだ、所詮慰めに過ぎない」と非難するのです。

ここまで言って気付きましたが、後者はニーチェと関係ないですね。
Commented by 小手鞠萌 at 2006-06-07 20:38 x
なすべき事なんぞ全くしていない私が来ましたよ(笑)。
メイドカフェの前身って『カフェ・ド・コスパ』で、更にその前身がエロゲの『ピアキャロ』な訳ですし、女給からホステスに変わったカフェ→キャバクラという飲食店の歴史がある訳ですし。飲食店とエロは切り離せない様ですね。
まあそれ以前に、メイドさんっぽいウェイトレスの制服が多い事がそもそもの始まりな気がします。『見た目ありき』だったものを、主従関係を主としたいわゆる『メイド』と絡めたのがメイドカフェなのでは。
『制服好き』よりの自分としては、メイドカフェの『ごっこ遊び』の部分は、余分なものと感じてしまうんですけれどもね。
Commented by bokukoui at 2006-06-08 00:42
>パイプ吸い様
『殻の中の小鳥』、懐かしいですね。小生はノベライズしか知りませんが(笑)
世紀が変わった頃まではコスプレでもしばしば見かけましたね。「メイド」趣味の原点としてもっとも著名な作品であることは確かでしょうけれど、その頃はフレンチ/クラシック系の区別なんてまだ結構曖昧で、一人の人が両方嗜むのがむしろ普通だったように思います。

>酒井さん
酒井さんのご声援をいただけて、ここんとこ訪問者数激減で凹んでいた精神が一気に奮い立ちました。何とか完結させたので、またご感想をいただければ身に余る光栄です。
Commented by bokukoui at 2006-06-08 00:42
>ラーゲリ緒方氏
『精神の売春としての政治』なぞ買っては見たもののまだ読んでいません。
そして、ニーチェといえば↓が真っ先に思い浮かんでしまいます。

http://www7.big.or.jp/~katsurao/fp/f-ntp.htm

「ニーチェ喫茶」、是非開業を。ツァラトゥストラはかく萌えり。
ところで、ニーチェとヤク中はあんまり関係なさそうですが、ニーチェを進歩する人って素でラリってるような気が時々します。鴎外先生も『妄想』の中で
「しかしこれも自分を養ってくれる食餌ではなくて、自分を酔わせる酒であった」
と評しているくらいですから。
Commented by bokukoui at 2006-06-08 00:43
訂正。
「ニーチェを進歩する人」
      ↓
「ニーチェを信奉する人」
Commented by bokukoui at 2006-06-08 00:43
>小手鞠萌様
いえいえ御謙遜なさらずとも(笑)。
見た目から入った方面(クラシック系)と、主従関係が好きな方面(フレンチ系)とが融合したのが、現在の「メイド」喫茶なのかなと思います。どちらも「メイド」に端を発しつつ、世界を一周する間に一見違って見えるようになったのでしょう。しかし根が一緒だから融合しちゃうわけで。
ともあれ、「制服好き」から入った人間には、「メイド」ブームの陰で進んでいる、ウェイトレス制服の変更/消滅が問題なのですが、そういうことに関するネット上・同人の活動が相対的に衰退したこと、これは「メイド」ブームの弊害といえるかもしれません。
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by bokukoui | 2006-06-05 23:59 | 制服・メイド | Comments(8)