私はなぜ巨大ロボットを蔑視し電車を愛するようになったか
今日はその急遽入った地理の授業のために塾に行っていたわけですが、そこで授業時間の間の休憩時間に某講師と生徒がなにやら会話をしていました。講師曰く、
「ガンダムは大人が鑑賞するだけのことのある素晴らしいアニメだ、世界観が濃く、背景設定が深い」とか何とか生徒に向かって教示しています。生徒もそれなりに感心して聞いているようです。その講師は、見た目は頗る現代的な「イケメン」青年なので、小生はほほうとそれなりに面白く思いつつも、また同時に『嫌オタク流』の「人生に必要なことを全部『ガンダム』で学ぶバカ」という一節を思い出してみたり。
更科 前に会社勤めをしていた時に、呑みの席で、いい歳をした同僚が新人をつかまえて説教を始めたんですよ。「おまえは一年戦争を知っているのか!」って。で、何を言ってるんだと思ったら『ガンダム』の話なんですよ。「おまえは『ガンダム』の一年戦争を知らないだろう、おまえはどうせ『スーパーロボット大戦』でしかガンダムを知らないだろう」みたいな説教を一時間ぐらいネチネチと。
高橋 そんなこと、どうだっていいじゃん!
中原 一時間もよくネタが続くなあ。
更科 『ガンダム』だったら何時間でも話せるんです。高度経済成長期の日本の会社で、上司が太平洋戦争の思い出話で若手社員をやりこめていたのと一緒ですよ。『ガンダム』がオタクにとっての太平洋戦争みたいなことになっているんです。
(同書pp.170-171)
更科 オタクに軍オタが多いのは、『ガンダム』のせいですよ。オタクには『ガンダム』が刷り込まれている。『ガンダム』は第二次世界大戦の対立構造、連合軍対ナチスを下敷きにした作品だからやっぱり一番ウケが良くて、その後、ベトナム戦争をモチーフにした『ボトムズ』という作品もあるんだけど、それだとマニア人気止まりなんですね。(中略)全く個人的な話で恐縮ですが、小生幼稚園年少の砌、入院して手術を受けたことがありました。その頃から『鉄道』図鑑を愛読していた小生に対し、入院・手術という大事への励ましというのか、父が玩具を買ってくれました。それが「トレインロボ」というタカラの合体変形ロボットもので(こちら参照)、当時それなりに流行っていたようです。
高橋 でも、それならベトナム戦争とか第二次世界大戦のドキュメンタリーを観た方が絶対面白いんじゃないんですか。
更科 面白いですよ。戦争映画の方がずっと面白い。
(同書p.173)
ところで入院当時の小生の病室は大部屋で、その科の特質上入院患者には老人が多かったのですが、小生の隣もそうでした。そのご老人が、小生にNゲージの貨車を2輌くれたのです。病室で小生はそれを使って遊んでいたものでした。KATO(関水金属)のスニ40とコキ5500であったかと思います。
さて退院後、貨車だけでは遊べないと小生は親に線路と機関車をねだりました。ここで親が「鉄道模型かファミコンか、どっちかだけ買うよ」と言ったそうで、その時に鉄道模型を選択したのが我が人生の重要な分岐点だったような気もします(笑)。何せ今に至るまで、ゲームボーイ一台といえども、コンシューマーのゲーム機を何一つ所有したことがないので。
で、買ってもらった模型の機関車がEF65PF、つまりトレインロボのそれと同じのでしたので、当時幼稚園年少の小生は両者をとくと見比べ(トレインロボも縮尺はNゲージに合わせている)、子供向けの手に持って遊ぶことが前提のトレインロボと、鉄道模型とでは製品の精度が著しく異なっている、ということを認識しました。当たり前ですが。
ある程度大人なら、玩具の性格の違いを踏まえて、精度が違うからどうこうというのではない、それぞれにそれぞれの楽しさがある、と思えるのですが、幼稚園児にそんな理屈は通用しません。それまでにどうもロボットアニメ系の素養よりも小学館の学習図鑑的素養の方がはるかに多かったと思しき幼稚園児の小生は、ここで一つのテーゼを打ち立ててしまったのです。
鉄道模型=リアル、現実に忠実=高度
トレインロボ=玩具的、架空=低レベル
∴(鉄道模型のような)現実>(トレインロボのような)架空
この偏見は、中高以降の多くの友人との出会いや知見の積み重ねで大いに修正はされてきているのですが、しかし幼稚園児の信念だけに「三つ子の魂百まで」なので、どこか今でも小生の心の中にそれが巣食っているようなところがあることは、否定できないと言わざるを得ません。
技術的背景を欠いた「巨大ロボット」に魅力を感じたことが小生は一度もないのです。もっといえば、どうも巨大ロボットを鑑賞する能力自体が欠如しているようです。見分けつかないんだもん。
ところでここで斎藤環氏(氏を「タマ兄」と呼ぶことを提唱したいのですが賛同者が集まらず残念)の『戦闘美少女の精神分析』をひもとくに、氏の「おたく」の定義の第一項に「虚構コンテクストに親和性が高い人(p.30)」とか書いてあります。
小生はしたがって、根本的にオタクではありえないということになります。まあ、自明のことですね・・・石を投げないでください。
※コメント返信は次回以降の記事をご参照ください。
それにしてもオタクに軍オタが多いって言説が未だに実感出来ません。どう見てもアニ研よりプロイセン人の方が軍オタ率高いですよ。一体「非オタ」の言う軍オタって誰なんでしょうか。平和ボケしたのか。
小火器、軍用ナイフ、軍装などが好きだというのを軍オタに入れて悪いとは思いませんが、逆に鉄道連隊が好きな私は鉄オタになるんでしょうか。私には軍オタという表現の底に、軍事や戦争がどこか遠い世界の自分達に関係無いものである、という感覚を見て取れるように思います。それゆえ「軍事臭」のするものは全部「あっち側」に入れてしまうという感覚を。
それは時として、チャンポンの中にタコの足が入っていたからこれはタコ料理である、というような大雑把さで。
再度コメントをいただければ幸甚です。
にしても、確かにドイツ第二帝国の軍オタ率はかなり酷かったようですね。みんな第三帝国に目を奪われて、第二帝国の逝きぶりに関心が乏しいとすれば残念なことです。
>私には軍オタという表現の底に、軍事や戦争がどこか遠い世界の自分達に関係無いものである、という感覚を見て取れるように思います。
これは重要なご指摘と思います。これはこれで一論立てるに値しますね。貴殿のブログでご議論いただければ嬉しく存じます。
でもその前に『スカイガールズ』について更なる情報が欲しいです(笑)
クレマンソーが生きていればきっと言うでしょう、「何が最悪の糞アニメか決めることはとても難しい。これこそ最悪の糞アニメだと思っても、必ずそれを超える糞アニメが現れる」
私もこの業界には帝国海軍から入った口ですから、アニヲタで言えばガンダムから入った人という感じですか。
理屈なんて分からなくても飛行機は飛びますし、そういう意味では理屈不明でも巨大ロボットは動くんでしょう。巨大ロボットが動くってのはどういう状況なのかという考察が欠けているのが問題なのでしょうが、そこが気になるかは人それぞれ。
それに一般人は弩級戦艦の区別だってつきませんよ。
スカイガールズは機を見てもう一度鑑賞してみたいと思います。買いはしません。
クレマンソーは卓見でした。「アニメ制作はコナミに任せるにはあまりにも重大だ」とも言って欲しいところです。
タマ兄は…何度も価値観を打ち砕かれて来た傷追い人でないと屈託なく発音するのは難しいと思います。
斎藤環を「タマ兄」ですかい(滝汗)
「嫌オタク流」は、現在ヲタのメインストリームではない人たちが「俺達こそが正当なヲタだ!」「俺達の邪魔をするな」と主張して数百ページにわたり自涜行為しているだけの愚書ですな。私はガンダムなんか全く見ていないし興味もないので、ガンダム世代などと呼ばれるのは心外なんですがね。このエントリの1年戦争とやらも何のことか実は理解していないし。
私もロボットより鉄道を愛するのですが、メインストリームじゃないですよね。多分。
だが、実はそのテーゼは下手な考証や設定大好きなロボットアニメファンより良い線をついている。
鉄道模型=リアル、現実に忠実=高度
トレインロボ=玩具的、架空=低レベル
「低レベル」を「超現実的」、とでも置き換えてみて欲しい。
ロボットアニメの魅力とは、感情移入しやすい、または憧れる理想的なキャラクター達と、「巨大ロボット」という荒唐無稽さの絶妙なバランスの上に不安定に揺れているものなのだから。
しかし、ガンダムファンというのは…やめておくか。人のページだし(笑)。
まあガンダムに限って言うならば、私は半分寝ている私を職場の最寄り駅まで運んでくれる鉄道の方がはるかに好きだ。
これを糧にもう少し考えてみたいと思いますので、コメントへの返信は別記事とさせていただきます。もうしばしお待ち下るようお願い申し上げます。