神岡鉄道と北陸の私鉄巡り その1
少し前の話ですが、北陸地方の私鉄を駆け足で回ってきました。これは近く廃止になる第3セクターの神岡鉄道に乗りに行こうという話がたんび氏から持ちかけられ、これまで北陸地方に縁がなかった小生としては、ついでに北陸各地の私鉄にも乗っておきたいと話を広げた次第です。北陸では路面電車関連で新たな動きも見られるので、電鉄ファンとしては一度は行ってみたかったのです。
かくて某日、小生はたんび氏ともども高速バスで富山入りしました。バイト先から高速バス乗り場まで直行しましたが、いきなり小田急が人身事故でさあ大変。乗れた電車が快速急行だったので動き出したら速かったのが不幸中の幸いですが・・・何とか高速バスに間に合って出発。しかしどうも高速バスは眠れませんな。
眠れませんでしたがバスは順調に走り、予定より早く富山到着。お蔭で高山本線の始発に乗ることができました(乗れなかった場合はバスで神岡入りの予定でした)。朝のローカル線らしく、高校生を大勢載せて列車は動き出します。すれ違う列車も高校生で一杯。でも制服はありがちなブレザーばかり。つまらん。
昨日は豪雨だったようですが、今日は幸いにも好天でした。しかし豪雨の爪あとは随所に見られ、保線員が線路を巡回していたり、ダムがものすごい勢いで放流していたり、収穫間近の稲が無残に倒れていたりします。車中から撮った写真を一枚。(画像はクリックすると拡大します)
列車はやがて猪谷駅へ。ここからが本命の神岡鉄道です。
単行の、少しくたびれたディーゼルカーの乗客は、やはり同好の士が相当部分を占めていたように思われます。
神岡鉄道は建設時期が新しいため、トンネル区間が多いのが特徴です。路線は神岡へ川沿いに遡っており、車中からの渓谷美はなかなかなのですが、すぐにトンネルに入ってしまいます。特にこの日は昨日の豪雨のため、川の流れの激しさは相当なものでしたが、あまりゆっくりも見ていられません。まあ川見物のために鉄道を引いたわけではないし、殊にこの鉄道は貨物中心でしたし。実際、貨物輸送がなくなって、このたびの廃線という事態に至ったと聞きます。車中から一枚。(画像はクリックすると拡大します)
途中、貨物用に分岐していた線路の後を確認したり(脱線ポイントが目を惹きました)、踏切が第3種だったりするのを観察しているうちに、やがて終点の奥飛騨温泉口に到着。まだわりと真新しい駅舎があり、またその駅前にはバス停もあって先へと行けるようになっていますが、乗り換えそうな人は見当たりませんでした。バス路線図を見れば、神岡鉄道にわざわざ乗らずともバスで富山や高山に出られるようで、これでは廃線もやむをえないのかもしれません。
駅前広場には貨物を引いていた機関車が一台置かれていましたが、広場の先には道路を隔てて如何にも廃線跡のような砂利敷の空き地が伸びていました。見に行ってみると、鉄道の敷地の境界を現す標柱があったので、やはり見立ては正しかったようです。
それと関連するのかどうなのか、奥飛騨温泉口駅構内に、コンクリート枕木が大量に積んでありました。神岡鉄道の本線は、木の枕木だったのですが・・・謎です。
折り返しの時間はそう長くありませんでしたので、以上のことをあわただしく見て取ってから切符を買い、戻りの列車に乗り込みます。トンネルの合間の渓谷風景を鑑賞し、窓を開けて雨上がりの湿気を含んだ高原の空気を堪能しているうちに、列車は猪谷へと戻ってきました。
富山行きの列車が出るまで、待合室で時間を潰します。現在高山本線は、2年前の豪雨により猪谷~角川が運休中で、復旧(ほとんど作り直し状態なのでしょう)にはもう一年程度かかるとか。その代行バスの掲示などを見て暇潰しとしていましたが、ふと待合室の一隅に興味深いものを発見しました。
それは駅で時折見られる、寄贈された(遺棄された?)書物を集めて作った文庫でした。(写真はクリックすると相当大きめに拡大します)
上段に2冊の講談社X文庫ティーンズハートが見出せますが、そのうち向かって左は折原みと『2100年の人魚姫』という本です。1989年に出た本というから結構昔ですね。
小生小学生の砌、確か4年か5年か、その頃だったと思いますが、クラスの女子の中にこの手の小説を学校に持ってきてみんなで読んでいる集団がありました。当時から本をそれなりに読んでいた小生、好奇心を持って一冊それを読んでみました。それがこの『2100年の人魚姫』という本でした。
何しろ生意気な小学生でしたし、当時は北杜夫の著作にはまってせっせと読んでいた時期でしたから、折原みとの文章を1章と続けて読むことができず、「こんな低俗な文章の本を読むとは何と程度の低い連中か」と彼女らをバカにしていた記憶があります。そのような態度こそが「程度の低い」ものであるということを悟るのに、小生はその後短からぬ時間を要しました。まあ今でもラノベは読みませんが・・・。
というわけで、小学生時代の思い出の書物にこんなところで再会し、思いがけないめぐり合わせにひと時感慨に耽ったのでした。
つづく。