サントリー学芸賞の鉄道本略論 第1章 原武史氏講演録摘要(上)
本題の原武史『「民都」大阪対「帝都」東京 思想としての関西私鉄』についての議論をする上で参考になるであろう、原武史氏の講演の際に小生が取ったメモをアップします。この講演は、2004年10月9日(確か日曜)に国立公文書館で行われたもので、当時公文書館が行っていた鉄道関連文書の文書展示会の一環としての企画でした。その日は折悪しく台風が東京を襲い、天候は荒れていましたが、結構な人数の聴衆が来場していました。
小生はこの講演を聞きながらメモを取っておりましたが、以下のこのメモを一般の読者が呼んでも分かるように言葉を補って掲載します。といっても2年も前のものですので、メモがあっても記憶は定かではありません。そのことはご承知下さい。
講演前に公文書館の職員が原氏の紹介をしましたが、何故かその際には『鉄道ひとつばなし』の著者であるとしか説明せず、サントリー学芸賞を受賞した『「民都」大阪対「帝都」東京』の名前は出ませんでした。
紹介された原氏、さすがにまず『「民都」大阪対「帝都」東京』の説明をしてから講演を始めました。講演は全部で四部構成だったようです。
<原武史氏講演要録>
1.
・自分にとって鉄道は研究対象であり、また趣味の対象でもある。しかし自分は鉄道マニアではない。
・高校の時は鉄研で、その頃は北海道の乗りつぶしなどをしていた。しかしその頃がピークで、その後乗りつぶし趣味からは撤退して、今でもJR全線乗ったわけではない。(強調)
・したがって自分は鉄道マニアではないから、鉄道趣味誌を読んでも外国語みたいで分からない。(この時「北モセ」がどうこうという話をしていたと思う)自分がマニアでないため著作には京都大学の某名誉教授などからツッコミが入っている。
・日本には鉄道マニアが多いが、これは日本に根を張っていたフェティシズム文化の影響。江戸時代の参勤交代の場合、藩主は肉体を現さず、駕籠というモノの形で表される=モノが聖性を帯びる、という特徴があり、これは儒教に裏打ちされた朝鮮の政治文化と対照的である。朝鮮の人には、日本人はモノを媒介として人が交わるように見えていた。(この辺ややメモの意味不鮮明)
・女性を取り込む鉄道の努力について。阪急の場合、宝塚という文化事業に限られた。もし小林一三が輸送事業に女性を採用していれば、他の事業で阪急が私鉄のモデルとなったように、他の私鉄もそれに倣って、鉄道のイメージがより女性的なものになったかもしれない。
・国鉄の場合、つばめガール・はとガールが国鉄発足直後登場するも、客車特急の廃止でこれも廃止されてしまった。
・鉄道マニアには女装趣味者が多い(服装倒錯者の人の談話によるとか)。JTBの日下部みどり子氏など。
・日本の鉄道マニアは所有欲がない(自動車マニアとの違い)。これはイギリスの鉄道マニアとも違っている。日本の鉄道マニアは男性性に乏しいのではないか。
2.
・日本を単一文化と見るのは安易ではないか。
・政治と鉄道の関係。鉄道は東京を中心に一元化するもの。天皇が鉄道の開業に臨み、乗車している。自著『大正天皇』の地図は宮脇俊三『時刻表2万キロ』の影響を受けている。
・お上の言うことにバカ正直に従う関東に対し、裏をかく関西。阪神が軌道として申請したことがその表れ。(注:阪神は国鉄と並行する電鉄路線を建設するに当たり、鉄道として申請すると当局の許可が得にくいので、路面電車や馬車鉄道のような道路に線路を敷く軌道として申請し、実際の路線の大部分は専用の軌道敷にして一部だけを路面にした。道路=軌道を扱う内務省の古市公威の判断により、阪神は軌道として認可される)
・関西は最初から反官的傾向が明らかであった。国家のためでなく、地域の民衆のためという発想、民衆のための生活文化。
・自立した「王国」を作る阪急。国鉄と乗換駅を増やすことがサーヴィスだという関東とは異なる。
・日光への輸送について。『鉄道ひとつばなし』では成田エクスプレスを日光まで延ばすことを提案したが、あくまでも日光輸送に関し東武に押されているJRが対抗するための努力について述べたものだった。しかし両者が手を握って、JRと東武が直通してJRの新宿~東武日光を運行するという「驚天動地」の結果に。「官」と「民」が簡単に手を握る風土が関東にはある。
・パスネットは私鉄のみのため、直通乗り入れしている地下鉄から乗ると不便なことがある。これも官におもねる関東的傾向。一方関西は、私鉄と旧国鉄とが画然と区別されている。
・仙台では街に近いところに新幹線の駅があり、仙石線は地下にあって、階段が多い。改札は自動改札。一方広島では、新幹線は駅裏にあって駅の構造自体は昔と同じ。自動改札ではなく、改札を出ると階段なしで広島電鉄の路面電車に乗れる。同じJRの駅でも、東と西とで異なる。
以上がおおむね講演の前半部分です。
充分長いので、色々突っ込みたいのをぐっとこらえて、後半は明日に回します。
ここまで読んだ段階で・・・えぇと、もう何が何やら。
>充分長いので、色々突っ込みたいのをぐっとこらえて、後半は明日に回します。
明日のつっこみに期待いたします。
ところで、関西の鉄道の(に限りませんが)エスカレーターではゆっくりの人は右側に立ち、急ぎの人は左を歩いて進みます。
関東ではゆっくりの人は左側に立ちます。
ところが仙台駅では、仙石線、仙台市営南北線といった地元に密着した路線のエスカレーターでは関西と同じ右側に立ちます。
ですから3階構造の仙台駅で、在来線のある2階から新幹線のある3階へのエスカレーターでは右に立つ人、左に立つ人、てんでにバラバラになりがちです。
原氏の問題点は、技術や経営の側面にあまり関心を払わないこと、地図を使うけれど読み方があまり分かっていなさそうなところ、そこら辺ではないかと思います。ですので、経営にお詳しい檸檬児さまからご覧になってもおかしい点は多々見つかると思います。ツッコミはまた稿を改めて行いますので、しばしお待ちいただければありがたく存じます。
ところで仙台のエスカレーター作法が関西流、というのは面白いですね。仙台にエスカレーターを最初に設置した技術者や経営者が関西系だったのか、或いは日本では最初右立ち・左空けが作法だったのが首都圏では後から左立ち・右空けに変って(海外の影響とか?)他の地方に旧慣が残ったのか、理由を調べてみたいですね。