年明け以降の購入・読了~新幹線と怪しい食い物屋
昨日書いたように、書物を新たに買い込むことがためらわれるような状況のはずなのに、ついつい年が明けてからも買い込んでしまっています。その中で手早く読了してしまった本をご紹介。
まず一点目は、これは先週書いた記事に登場した本の派生版のようなものです。
齋藤雅男
本書は、世界初のため先に参考にすべきなにものもない中で、新幹線の安定化は如何にして達成されたかを、当時の国鉄の技術者である齋藤氏自身が描いたものです。
一般的な意味では充分面白い本だと思いますが、ただ齋藤氏の旧作『驀進』(これはアマゾンでは扱っていない)を読んだものからすると、基本的に本書は『驀進』の新幹線部分を多少詳細にし、『驀進』でイニシャルだった登場人物が実名になっているといった程度の違いではないかと思います。
で、もし今から齋藤氏の作品に関心を抱いて読もうとされる方がおられるのでしたら、小生は正直なところ『驀進』を勧めたいと思います。なんとなれば、新幹線について内容が絞られた『新幹線~』より、『驀進』の方が新幹線以前に齋藤氏が取り組んだ様々な仕事についても触れられており、そこまで通して読むことによって、如何なる蓄積の上に新幹線というシステムが築かれたのか、新幹線がそれまでのシステムに対するどのような反省から出来てどう違うのか、ということが良く分かるからです。
まあ普通の人はそこまで関心がないから、日刊工業新聞は齋藤氏の経験のうち新幹線部分だけ切り出して本にしたんでしょうかね・・・昨年9月に出て、今年既に2刷が出ていましたから、日刊工業新聞の判断は間違ってはいなかったということになりますが、しかし新幹線の偉大さを分かるためには、逆説的ですが「新」じゃない鉄道のことも知っておく必要があると思うのです。特にもはや「新幹線」がすっかり当たり前になってしまっている現在の人に対しては。
本書でも、新幹線は通勤電車的性格が強いということが何度か述べられているので、よくあるような満鉄の「あじあ」号と新幹線を結びつけるような鉄道史の語りの問題点が理解できるようになる・・・ほど親切なつくりではないかも。
※追記:齋藤氏に小生がお会いした際のエピソードはこちらをクリック。
もう一点はがらりと趣向を変えまして。
菅野彰・立花実枝子
『あなたの町の生きてるか死んでるかわからない店探訪します』(新書館)
本書は新書館のエッセイ・コメディ専門コミック雑誌『ウンポコ』に連載されていたものですが(他の掲載作品では久世番子『暴れん坊本屋さん』が有名か)、この雑誌は以前MaIDERiA出版局の「墨耽キ譚」の第9回で取り上げた池田乾『戦う! セバスチャン』が連載されていたことからセバスチャンファンのたんび氏が購読しており、そして本作は氏の目に留まったのでした。
なにせ鑑賞眼の厳しい氏の目に適った(氏は久世作品にはけっこう辛口でした)わけで、小生も氏の宅を訪問した折に読ませてもらっていましたが、単行本化されたものを読むとまた面白さが再発見できました。
本書の内容は、タイトルの通り「怪しい」飲食店に突入して飲み食いしてくるというもので、文章を菅野氏・挿絵と四コマ漫画を立花氏が担当していますが、取材に際しては岩田光夫はじめ周辺の関係者も巻き込まれ、その様子もまた作品の一部を構成しております。雑誌連載時のものを幾つかはたんび氏に読ませてもらっていて、その時は最初の「中華飯店(仮)」のインパクトが強すぎて段々パワーダウンしてきてしまうのかな、とも思いましたが、単行本最後の「と〇こ(仮)」で充分に締めくくってくれました。
季刊雑誌の連載作品なので、全6回(11店)で終わってしまっているのがちと残念ですが、何でもまた新たな回が雑誌に掲載されたとかで、続篇も出るのかもしれません。ノロウイルスにも負けずに続篇の出ることを期待。検索で発見した書店員の方のブログによると「凄い勢いで売れてます。残りわずか。」だそうですから、その可能性は結構あるかもしれません。関係者が取材の継続を拒否しなければ(笑)
それにしても世の中にはトンデモない店があるなあと思い、巷間批判されがちなマクドナルド的マニュアルとセンターキッチンによる均質的サーヴィスの偉大さをある意味再確認(菅野・立花コンビもスターバックスを「心のオアシス(p.116)」としているそうです)したような気分にもなりました。
こういった店をネタにしたといえば、小生管見の範囲では、故中島らも氏が取り上げ、関西のお化け番組「探偵!ナイトスクープ」で知名度を上げた(たけし・さんまの番組は二番煎じ)「ネーポン」の「アジアコーヒ」(「コーヒー」ではない)に始まるのではないかと思います。食べられる超芸術トマソン? この店は現存しないそうですが、検索すればネット上でその雄姿を拝むことが出来ます(ご自分でどうぞ)。考えてみればナイトスクープの「パラダイス」シリーズも、企画としては本書と似ているともいえます。
本書の扱っているお店はほとんど東京ばかりで、最終回の「と〇こ」だけが千葉でした。中島らも氏も関西の方がこんな変なのは多い、と書いておられたかと思いますので、先ほどの書店員さんの情報のように本書が売れているのならば、ここはひとつ新書館が新幹線代を奮発して菅野・立花両氏に関西取材を行わせ、「関西篇」を出しましょう。きっとすごいことになるはず。
・・・作者のお二人が取材後生きて東京に戻ってこれるか保証はしませんが。
※追記:本書に出てくる店についての話がこちらの記事にあります
この2冊を強引にまとめると、
「きちんとマニュアルを作ろう(でもそれが大変)」
ということでしょうか・・・。